やらかしの62
「一階はただの平原か。」そう言いながら俺は歩を進める。
「ふぎゃぁぁ。」
「あぎゃぁぁ。」
「のぎゃぁぁ。」一歩ごとに立ち上る悲鳴。
「本当に心を削るな。」
「ケイジ様、凄い御業ですが、どのようなスキルなのですか?」ヨイチが俺に聞く。
「いや、スキルじゃない、この刀の能力だ。」そう言って俺は腰にある刀を持つ。
「刀の能力?」
「俺に敵意を向けた、レベル25以下のもの(・・)を滅するらしい。」
「ケイジ様、対象がレベル40以下になっています。」紫炎が口を挟む。
「紫炎、本当か?」
「はい。」
「まじかぁ、上魔石がドロップするよな、そりゃ。」
「刀がケイジ様に馴染んだか、刀自体がレベルアップしたかではないかと思います。」
「本当に、ただ蹂躙してるだけだもんなぁ。」
「ご主人様に敵意を向けるなど、万死に値しますので、当然の結果ですわ。」ほほほと笑いながらヒドラが言う。
「はぁ、考えたら負けの様な気がする。」
「ご主人様、サクサク行きましょう!」
「おぅ、ヒドラは通常営業だな。」
「ほほほ、当然の流れです。」
「まぁ、ダンジョンを攻略するのは変わらないか。」俺は、そう言いながら歩を進める。
「ぐぎゃぁぁ。」
「むぎゃぁぁぁ。」
「おっふぅ!」
「こいつらは罪悪、排除対象。」俺は、自分に言い聞かせる。
そして、下層への階段の前に着く。
「フロアボスはいないのか?」俺が口にする。
「先程、滅しました。」事務的に紫炎が言う。
「お、おぅ。」
「ドロップ品は、虚無の部屋に。」
「あぁ、うん?」俺はそれに気が付く。
「これは?」俺は、それを取り出して鑑定する。
「久々の武器ドロップだな。」そう言いながら鑑定したそれは珍しいものだった。
『光陰の弓』矢を用いず、自分の魔力を光と闇の両属性で打ち出す。
打ち出す魔力量で着弾の際の威力が変わる。
弓自体に魔力ブースト機能有り、送り込んだ魔力量で最大1ギガトンの核融合レベルの熱量放出可。
「ははは、ぶっ壊れ乙。」俺は思う。
「ケイジ様、お気を確かに!」
「おぉ、ヨイチ、これはお前にやる、使いこなしてみろ。」
「はい、ケイジ様、仰せのままに。」
「二階は迷路か。」そう言いながら前に出る。
「うぎゃぁぁぁ。」
「だばばばば。」
「どえええぇぇ。」
「はは、心が痛い。」
「ヒール。」俺の身体が光に包まれる。
「ケイジ様、大丈夫ですか?」
「あぁ、ヨイチがヒールをくれたのか?」
「はい。」
「ありがとうな、でも、痛いのは、身体じゃなくて心なんだ。」
「あぁ、余計な事をしてしまいました。」ヨイチが下を向く。
「いや、嬉しかったよ。」そう言いながら、俺はヨイチの頭を撫でる。
「なぁ、勿体無いお言葉・・」ヨイチは顔を真っ赤にして更に下を向く。
「ほほほ、ご主人様、先に進みましょう。」ヒドラが俺の袖をつまんで言う。
「あぁ、そうするか。」
「そう言えば、このダンジョンは何階層あるんだろう?」悲鳴が続く回廊を歩きながら、俺が呟く。
「5階層です。」紫炎が答える。
「そうなの?」
「はい。」
「スタンビートが起きる階層じゃないよな?」
「魔素量が半端ではないのです。」
「半端じゃない?」
「因みに、上の階の魔物は既にリポップしています。」
「な?」
「やばい、急ぐぞ。」俺はそう言うと走り出した。
三階への階段はすぐに見つかった。
「ご主人様、迷路の壁を破壊して一直線に進むのはどうかと。」
「悪いなヒドラ、あまり時間が掛けられないみたいなんだ。」
「あれ? この階のフロアボスは?」
「はい、先程。」
「・・・オッケー、通常営業だな。」
「ドロップ品は何時ものように。」
「うん、確認は後にしよう、先に進む。」
「三階は森林か?」
「どれ?」俺は一歩前に出る。
「ぐはぁぁぁ。」
「ぐぼはぁ!」
「げばぁあぁ。」
「まだまだ、虐殺だな。」
「このまま、真っ直ぐ進めば4階への階段があります。」
「おう、だが木が鬱陶しいな。」
「風系の魔法で薙ぎ払うか。」
俺は、魔法をイメージする。
(木を切り倒す、斧? いや、チェーンソー!)
「ウインドチェーンソー!」風の輪がぐるぐる回転しながら木を切るイメージで魔法を放つ。
「チュイン! チュイン! チュイン!」目の前にあった木がほぼ根元から切り倒され、一直線の道が出来ていた。
「おぉ、凄い。」
「ご主人様、自分でやっておいて言いますか?」
「ははは、まさかイメージ通りに行くと思わなかったからな。」
「え? これは風系の魔法ではないのですか?」ヨイチが目を見開いて言う。
「あぁ、今、イメージして作った。」
「ほほほ、魔法を生成されるのですか、流石ご主人様です。」
「まぁ、考えるのは後だ、先に進むぞ。」
「ほほほ、ご存分に!」
「いけます!」
「頼もしい嫁さん達だ。」俺は4階の階段を目指す。
「で、フロアボスは?」
「かなり前に・・・」
「・・・よし、降りるぞ!」俺は、すべてを無視して下に降りる。
「ん? これは?」周りの雰囲気が違った。
階段を下りた先には、豪華な扉があった。
「ケイジ様、この階にダンジョンマスターがいます。」
「え? 4階だよな?」
「はい。」
「ダンジョンマスター?」
「はい。」
「5階は?」
「マスター、居住区では?」サランが指輪から出てきて言う。
「いや、居住区って、尚更この階にダンジョンマスターがいちゃ駄目だろう。」
「ケイジ様を待ち受けているようです。」
「俺を?」
「はい。」
「まぁ、行くしかないか。」
俺は無駄に豪華な扉を開けた。
「マスター。」
「ん?」
「一階はD&D?」
「・・・いや。」
「二階は。」
「二階は?」
「WI〇?」
「ははは、じゃぁ3階は何だというんだ?」
「ハ〇ドライド?」
「おっと、あれはダンジョンじゃないな。」
「え~? マスター?」
「いや、俺が悪いのか?」