やらかしの61
「さて、今日はスナに行ってくる。」俺が言う。
昨日の宴会の後、結局、そこにいた全員が華厳の店の二階で轟沈した。
「主、ミーニャは役に立ちそうにゃ?」
「いや、無理かな。」
「にゃ~。」
「ミーニャは、ベカスカの孤児の護衛を頼む。」
「にゃ、分かったにゃ。」
「メームも頼む。」
「判った兄者。」
「ムーニャはエス達と一緒にサンドウィッチとおにぎりの製造な。」
「はいにゃ。」
「とりあえず、エスとムーニャ、こっちに来い。」
「はいにゃ。」
「はい。」
「紫炎、港町のバゲ屋の前に。」
「御意。」
「邪魔するぜぇ。」俺はそう言いながらその店に入る。
「おぉ、ケイジ様、お待ちしておりました。」店主がもみ手で迎える。
「その態度は、柔らかいバゲが大量に出来たって事か?」
「流石、ケイジ様です、あの後改良を加えたら、10倍のバゲが作れました。」
「おぉ、見せてくれ。」
「はい、こちらです。」と言って通された部屋には、柔らかいバゲが100近くあった。
「おぉ、良いねぇ、これは皆買って良いんだよな?」
「はい、もちろんです。」
「いくらになる?」
「原価に儲けを合わせて、20Gでは?」
「いいだろう。」俺はカードを渡す。
「しかし、これだけの量だ、次に来るのは3日後になるぞ。」
「はい、判りました、3日後にお待ちしております。」
「あと、新作のほうはもう少し時間をくれ。」
「はい。」
「紫炎。」
「御意。」その場にあった柔らかいバゲが消える。
「さて、ヤミノツウの華厳の店へ。」
「御意。」
「さぁ、ベカスカの奴ら、帰るぞ~。」
「は~い。」
「んじゃ、エスと料理大好き三人とムーニャ、任せるぞ。」そう言いながらベカスカの孤児院につなぐ。
「任せるにゃ!」ムーニャが良い顔で俺にこたえる。
「おう、宜しくな!」
「はいにゃ、主様もスナでお仕事頑張ってにゃ!」
「おぅ。」
「さて、スナに行くか。」俺が柔軟をしながら言う。
「ご主人様、わたくしもお供いたします。」
「おぉ、ヒドラ、退屈な旅になるぞ。」
「ほほほ、旦那様との旅、退屈な訳がないでしょう。」ヒドラがにんまりと笑って言う。
「そうなると良いな。」俺はそう言いながら潜る。
その後に、ヒドラとヨイチが続く。
「「「「うぎゃあぁあぁぁ。」」」」あたりに響く叫び声。
「なんだぁ?」俺が周りを見渡すと、町を守る門の前で固まっている魔族が見える。
辺りには、屑魔石が数十個転がっていた
「け、ケイジ様。」魔族の一人が声を上げる。
「ん? あぁ、地龍か、久しいな。」
「これは、一体どうしたのです?」
「おぉ、ヨイチ様、森のダンジョンがスタンビートを起こしたようです。」
「スタンビート?」
「はい、魔物がこの辺りに増えていた原因はスタンビートのようです。」
「まさか、この辺りのダンジョンは、すべて潰したはずです。」
「いえ、ヨイチ様、森の中に新たなダンジョンが作られたようです。」
「作られた?」俺がその言葉に反応する。
「はい、ケイジ様、そのダンジョンは作られていました。」
「根拠は?」
「そのダンジョンには、蝶王モズラ様の魔素が充満しています。」
「なんと。」ヒドラが反応する。
「ヒドラ?」
「ご主人様、私の不徳の致す結果のようです。」
「あぁ、お前の部下だった奴なのか?」
「・・はい。」
「なんだ、俺の案件か。」
「え?」
「ヒドラは関係ない、俺の案件だ。」
「いえ、しかし。」
「俺の嫁の案件は、俺の案件だ。」俺は当然のように言う。
「な。」ヒドラが顔を赤くする。
「で、モズラってどんな奴だ?」
「はい、モズラは蝶の魔族、ビルカに近いものです。」ヒドラが言う。
「ビルカ?」俺が問う。
「はい。」ヒドラが答える。
「ビルカってGだよな?」
「モズラは蝶々です。」
「蝶々?」
「はい、体長30m程の。」
「え~っと、傍に双子の小人が歌ってる?」
「いえ、そのようなものはいません。」
「どこかの島の守り神的な者とか?」
「違います。」
「ヒドラ、お前の部下だったんだよな?」
「はい、その通りです。」
「全長30mの奴は、どうやってそこにいたんだ?」
「人の姿になれましたので。」
「あぁ、そういう事か。」
「で、そいつがダンジョンを作る理由は?」
「申し訳ありません、解りません。」ヒドラは首を垂れる。
「だよなぁ。」
「直接会って聞くしかないかぁ。」俺はそう言うとその辺りにあった屑魔石を虚無の部屋に入れて、森に向かう。
「ケイジ様、お供します。」ヨイチが俺に続く。
「ほほほ、私もご主人様に従いましょう。」ヒドラも付いてくる。
「うぎゃぁ。」
「はぎゃぁ。」
「げぼぉ。」
「ひでぶ!」
森に近づくにつれ、その辺りで魔物の悲鳴が上がる。
「ケイジ様、ドロップ品は全て虚無の部屋に入れています。」紫炎が事務的に言う。
「あぁ、宜しくな、紫炎。」
「御意。」
しばらく歩いて、森の入り口に着いた。
「森の中に、おびただしい数の魔物の存在を感じるな。」
「はい。」
「紫炎、一掃するには?」
「ケイジ様が、威圧を発動すれば一瞬です。」
「え? そうなの?」
「はい。」
「んじゃ。」俺はそう言って、森に威圧をかける。
「「「「「「「ひぎゃぁぁぁっぁぁ」」」」」」」
森にあった、すべての存在が消えた。
「葛魔石235個、魔石27個、上魔石4個虚無の部屋に。」紫炎が言う。
「おぉ。」若干引き気味に俺が言う。
「行くぞ。」俺は気を取り直して前に進む。
「うぎゃぁ。」
「はぎゃぁ。」
「げぼぉ。」
安定して聞こえる、魔物の悲鳴。
「考えちゃ駄目だ、考えちゃ駄目だ、考えちゃ駄目だ!」俺は、そう呟きながら森を進む。
「屑魔石23個、魔石6個虚無の部屋に。」事務的に紫炎が拾った魔石の数を報告する。
そして、ダンジョンの入り口に辿り着いた。
「ここか。」俺は、そのダンジョンの入り口を見て言う。
「いかにもって言う雰囲気の、ダンジョンの入り口だな。」
そこにあったのは、縦横3m程の穴の周りを煉瓦の様な物で固めた入り口だった。
「あはは、らしいな。」俺が笑う。
「竜王のダンジョン風?」
「ご主人様、竜王とは?」
「ははは、気にしなくていい、俺の昔の記憶だ。」
「はい。」
俺はそこに入る。
入り口を入ると、下に続く階段。
階段を下りた先には、扉。
扉を守る者はいない。
「どんな、ヌルゲーだ!」俺はそう言いながら扉を開ける。
「うぎゃぁ。」
「はぎゃぁ。」
「げぼぉ。」
「はぁ、俺のHPが削れていくよ。」
「な、ケイジ様、どのような罠が?」
「あぁ、ヨイチ、心配しなくていいよ。」
「いや、しかし。」
「何もしないで、蹂躙する定めかな?」
「さだめ?」
「ふふふ、ヒドラも心配しなくて良いよ。」そう言いながら俺は前に進む。
一歩踏み出す毎に、悲鳴は続いた。