やらかしの6
馬車が町に着いた。
「あぁ、腰が痛い。」
俺は腰をさすりながら、馬車を下りる。
「がはは、ケイジ、ギルドに行くぞ。」
「あぁ、カッター。」
「主様、暫く暇を貰って良いですかにゃ。」
「あぁ、良いぞ。金は足りてるか?」
「にゃ、まだ十分あるにゃ。」
「兄弟達の面倒を見てやれよ。」
「勿論だにゃ。」
「旦那様、私もお父様達にご挨拶したいのですが。」
「あぁ、カリナもお疲れ!自由にしていいぞ。」
「ありがとうございます。暫し失礼いたします。」
少し歩くとギルドに着いた。
「今戻ったぜ。」カッターが我が物顔で入っていく。
俺もその後に続く。
「こいつらの隔離を頼む。」カッターが受付嬢に話している。
俺は別の受付嬢にカードを渡す。
「クエストの確認を頼む。」
「はい。承りました。」受付嬢が端末にカードを翳して言う。
「不明冒険者の探索,クリアです。」
「このクエストには、連れ帰るオプションが付いていました。」
「こちらもクリアです。」
こちらの報酬は440Gです。
「ダンジョン探索依頼です。」
「ダンジョンの最深部到達、コア破壊クリアです。こちらの報酬は1000Gです。」
「アルラウネ討伐、クリアです。こちらは500Gになります。」
「お確かめください。」ギルド職員がカードを返してくる。
俺はいつものように照会する。
カード所有者:ケイジ
ギルドランク:A
ギルド預金:2082G
従属者:獣人:ミーニャ(師従契約)
伴 侶:人 :カリナ・ゴウショーノ
おい、まだ結婚もしていないのに、カリナが伴侶になってるぞ。
しかし、残高が凄いな。
「ケイジ様。」受付のお姉さんが言う。
「なに?」
「指名クエストが入っております。」
「指名クエスト?」
「はい、依頼人が個人に当てて発注するクエストです。」
「ふ~ん、どんな?」
「内容は直接会ってお話ししたいそうです。」
「やばそうな匂いが。」
「え?私、匂いますか?」受付のお姉さんが袖口を嗅ぐ。
「いや、そういう意味じゃないです。その依頼が怪しいなって思って。」
「依頼主は、この町の領主様で、マッチーデ・エーラ・イーノ様です。」
「まぁ良いや、受けるよ。」
「では、明日の朝ななつに、ギルド前に迎えの馬車が来ますので、それにお乗りください。」
「あぁ、解った。」
「あと、昨日と同じ部屋に泊まりたいんだけど。」
「はい、連泊割引で700Bです。」
「では、頼むよ!」
「承りました。」
俺は昨日と同じ部屋に入る。
ベッドに腰かけると、鞄をひっくり返して、中身を出す。
ダンジョンのドロップ品だ。
更に、肩にかけていた紐に結んだ、剣や刀を床に転がす。
「鑑定はどの位出来るんだろう?」
(解、完璧に出来ます。)
「では、ダンジョンのドロップ品の鑑定を頼む。」
(分かりました。)
(魔石は140あります。)
(何それ、魔物の数だとしたら、虐殺だよね。)
(4階層の無双の結果ですね。)
(え?それ、俺の責任なの?)
(・・・・肯定します。)
(ちょ、そこは嘘でもいいから否定してよ。)
(ドロップ品の中に、暗黒王の剣があります。)
(え?それ凄い物なの?)
(アルラウネが装備していた剣です。)
(属性無視、全属性への攻撃3倍の加護があります。)
「これは、市場に流せないな。」
「でも、俺が常時持ってる訳にもいかないし、何かいい保管方法ないかな?」
(時空間魔法で、虚無の部屋を作成すれば可能です。)
「虚無の部屋?」
(全ての物を、入れた瞬間の状態で保管する部屋です。)
「え?そこは生きた物も入れるの?」
(入った状態で時間が凍結するので、出た瞬間に元に戻ります。)
「つまり、その中では?」
(生きながら保存される状態です。)
「んー、時が止まるって事?」
(肯定します。)
「んじゃ、これはそこ行き。」
(了。)
「他にめぼしい物は?」
(アルラウネの装備が一つあります。)
「おぉ、どんなの?」
(多足王の守盾です。)
「聞くからにやばそうなものだね。」
(属性攻撃無効、状態異常攻撃無効、魔法攻撃無効、物理攻撃半減の効果があります。)
「何それ、俺の装備決定!」
(了、ケージの全状態での装備を約束します。)
「サポートさん、マジ神!」
(私はケイジ様を守る只の存在です。)
「いや、最早、俺のパートナー的存在だよ。」
(了、ケイジ様のパートナー、了承しました。)
(私に、自我が目覚めました。ケイジ様、私に命名ください。)
「え?、命名?」
(はい、私に名前をください。)
「では、貴方は私を支援する、紫炎と名付けましょう。」
(お、おぉぉ、紫炎。承りました!)
「今からは、ケイジ様の全てをサポートいたします。」
「おっと、声が聞こえるようになったね。」
「ケイジ様のお好みで変更可能です。」
「んじゃ、思念で!」
(了!)
「で、紫炎、他に何かあるか?」
「ありません。」
「んじゃ、売りに行くか。」
「お邪魔~。」約束通り、ギルドの横の武器屋に出向く。
「おぉケイジ様、お待ちしておりました。」
俺はドロップ品の刀や装備をカウンターに並べる。
「おぉ、結構良い物がありますね。」
「そうか?」
「全部で200Gで引き取ります。」
「魔石も込みで?」
「いえ、魔石はうちでは扱えないので、私の弟の店を紹介します。」
「え?おぉ、悪いな。」
「何をおっしゃいます、これほどの良品を納品いただけるなら、私、魂も売りますよ。」
「いや、怖い怖い、そう言うの良いから、店の場所を教えてくれ。」
「この店を出て、まっすぐ南に歩いて、弦の看板が出ているのがそうです。」
「サンキュ、行って見るよ。」
(南はこっちか。)
(はい、そうです。)
俺は屋台を冷かしながら南に向かった。
(この右の店です。)
「おぅ、行きすぎるところだった。ありがとな紫炎。」
(お役に立てて何よりです。)
俺は、その店に入る。
「いらっやいませ。この度はどのようなご用命で?」
「ギルド横の武器屋のおやじから紹介されて、って、同じ顔じゃん!」
「おぉ、兄が言っていたケイジ様ですね。」
「どうぞこちらに。」そう言うと奥の部屋に通される。
「で、魔石を卸していただけるという事でよろしいのでしょうか?」
「うん。そう。」そう言いながら虚無の部屋から、魔石が入った袋を取り出す。
俺は無造作にその袋を目の前の机に置く。
「拝見しても?」
「あぁ、ご自由に。」
「では、拝見いたします。」
「あぁ、お兄さんの店で出し忘れた、これも引き取ってくれませんか?」俺は守りの盾を机に置く。
「はい、守りの盾ですね。5Gで取らせていただきます。」
「じゃ、よろしく!」
「はい、ではこちらを、って、うをぉ。」袋の中を見て固まった。
「どしたの?」
「何ですかこの数。」
「少なかったかな。」
「いえ、今まで見た事無い数です。」
「それは良かった。」
「あの、少しお時間を頂いても。」
「え?あぁ。大丈夫だよ。存分に。」
「ありがとうございます。」
「おい、誰か手伝える物を呼べ。」そう言いながら店主が店の奥に消える。
(最低1、400Gになる代物です。)紫炎が答える。
「なに、それ以下でも今回はそれで受けるつもりだ。」
(何故ですか?)
「繋ぎのためだ。今後の取引で取り返せれば良い。」
(おぁ、流石は我が主。感服いたしました。)
そう言いながら、俺は傍にあったテーブルに座ると、ティーセットを虚無の部屋から取り出し、お茶を煎れ始める。
「主様、それは私の仕事だにゃ。」いつの間にかミーニャが傍にいた。
「うぉ!何処から湧いた?」
「人をウジみたいに言うのはひどいにゃ!」
「いや、お前、出来るのか?」
「ミーニャ。」
「え?」
「あたしはミーニャ。お前呼ばわりは嫌だにゃ。」
「あ、あぁ、すまん、ミーニャ。」
「良いにゃ。勿論できるにゃ。」
「じゃぁ、頼む。」
「お湯が無いにゃ。」
「あぁ、ちょっと待て。」俺は先程屋台で購入したケットルを虚無の部屋から取り出し、その中にお湯を生成する。
「ほい。」俺はケットルをミーニャに渡す。
「今、何をやったにゃ?」
「魔法だ!」
「そんな使い方、見た事無いにゃ。」そう言いながらミーニャが紅茶を煎れる。
「おぉ、本格的だな、誰に習った?」
「孤児院の先生だにゃ。」
「孤児院?お前の兄弟がいるのか?」
「あたしも10歳まではいたにゃ。」
「孤児院では、食事は出ないのか?」
「でるけど、ほとんど硬いパンと野菜くずの入ったスープだにゃ。」
「そうか。」
「ケイジ殿、鑑定が終わったぜ。」
「おぉ、早いな!」
「かなり上質の魔石がほとんどだった。1500Gで買い取るが、其れで良いか?」
「充分だ。カードに1000G入れて、残りはBでくれるか?」
「あぁ、大丈夫だ。」
「んじゃ、頼む。」俺はギルドカードを渡す。
「おう、少し待っててくれ。」そう言うと店主は店の奥に消える。
暫くすると店主が出てきて、俺にカードを渡しながら言う。
「確認してくれ。」
俺はカードを受け取り照会する。
カード所有者:ケイジ
ギルドランク:ギルド預金:3,286G
従属者:獣人:ミーニャ(師従契約)
伴 侶:人 :カリナ・ゴウショーノ
「あぁ、オッケーだ。」
「では、これがBの分だ。」凄く大きな袋を5個出してくる。
「おぉ、悪いな。」俺はそう言いながら、袋を虚無の部屋に入れる。
「おい、今何をやった。」いきなり消えた袋を見て店主が驚愕する。
「なに、ただの魔法だ。」
「魔法?」
「そうだ、気にすると禿げるぞ。」
「な、いや、気にしない!」
「この度の取引、感謝します。」店主が深々と頭を下げる。
「あぁ。世話になったよ。」
「また、魔石の出物がありましたら、ぜひ当店に。精いっぱい色を付けさせていただきます。」
「解った、ひいきにさせてもらうよ。」俺はそう言って店を出る。
「「「ありがとうございました~。」」」店主と店員たちが頭を下げてきた。
「さて、ミーニャ。孤児院まで案内頼む。」
「え?」
「孤児院まで案内してくれ。」
「え?わ、わかったにゃ。」ミーニャは町の外れに向かい歩き始める。
細い道を数回曲がると、そこに着いた。
そこは日本で言うと、幼稚園のような広さの土地に、2階建てのぼろぼろな家屋が立った場所だった。
「ここにゃ。」ミーニャがそう言いながら入っていく。
「あ、ミーニャ姉ちゃんだ。」
「さっきも来たのに、また来てくれたの?」
「お姉ちゃん、さっきのお昼ごはん美味しかったよ!」
「ミーニャね~ちゃん、今度は何持ってきてくれたの?」
孤児たちがミーニャに群ががる。
ふと見ると、ミーニャにそっくりな男の子と女の子がその取り巻きの外でミーニャを見ていた。
きっとその二人がミーニャの兄弟だと考えて、俺はその二人の傍に行く。
「君達、先生の所に連れて行ってくれないか?」俺は顔をその二人の高さにして言う。
その二人は俺を見ると、女の子は「貴方、ケイジお兄ちゃん?」と聞いてくる。
「え?そうだけど。」
「わぁ、お姉ちゃんの言っていた通り、かっこいい!」妹が俺の首にとりつく。
「ちぇ、仕方ない。認めてやるよ。」弟が拗ねたように言う。
「こっちだよ。」妹が俺の手を引いて言う。弟も着いてくる。
建物に入って、直ぐの部屋に連れていかれた。
「こんにちは~。」ミーニャの妹に手を引かれながら、俺はその部屋に入る。
「え?あ、貴方は?」壮年の女性たちが俺を見て困惑する。
「俺は、ミーニャを嫁に貰ったケイジと言います。以後お見知りおきを。」俺は頭を下げる。
「あぁ、ミーニャに白昼堂々と婚約を申し込んだ殿方ですね!」
「きゃぁ、男前です。」
「ミーニャにはもったいない、私を貰って頂きたいものです。」
「ミーニャ許すまじ。」
そこにいた4人の女性が、各々口にする。
「この度は、この孤児院に寄進をしたく、まかり越しました。」俺はそう言いながら虚無の部屋から袋を5個取り出し、目の前のテーブルに置いた。
俺はにっこりと微笑みながウインクする。
「どうぞお収め下さい。」俺はにこにこしながら言う。
「額が半端じゃないです。」
「私の気持ちですから。」
「あの、どう見ても500Gあるのですが。」
「え?足りませんか?」
「必要な額を教えてください。私が用意いたします。」
「いえ、お納め頂いた額は、今の院を運営するのに十分な額です!」
「それならよかった。」
「でも、何で?」
「私の妻と、その兄弟が世話になっている場所です。」
「其処えの寄進、何の支障が?」
「いえ、ありがとうございます。慎んで頂きます。」
「お役に立ててうれしい限りです。」
そう言って、部屋を出ようとすると、ミーニャの妹が俺の手を引く。
「ん、何だい?」
「あたし、ムーニャ。」
「え?あぁ、よろしく、ムーニャ。」
「あたしもケイジ様のお嫁さんにして。」
「え?いや、それは。」
「ミーニャお姉ちゃんより尽くすから。」
「いや。あの。」
「お願いケイジ様!」
「ちっ、俺からも頼むよ。ムーニャは料理がうまいぜ。」弟が言う。
「ミーニャよりかわいいだろ。」
おい、俺はロり属性ないんだけど。
「おい、弟!。」
「お前は何て言うんだ?」
「な、お前、そっちの趣味があるのか?」
「え?、いや、無い!断じてない!」
「お、俺は、メームだ。俺で良ければ・・すべてを捧げる。」
「いや、要らないから!」
「何だと、俺では不服か?」
「いや、そうじゃない、お前の妹を止めろ。」
「なに?俺の妹では満足できないか?」
「何でそうなるんだ。」
「ケイジ様、あたしのこと嫌いですか?」
「ケイジ、俺もお前にすべてを捧げるぞ!」
その喧騒の中にミーニャがやってくる。
「おい、ミーニャ。おまえの兄弟たちの暴走を止めろ!」
「え?どうしたにゃ?」
「ミーニャお姉さま、私もケイジ様のお嫁さんになりたいです。」
「俺も、ケイジにすべてをを捧げるぞ!」
「あ、あんた達。」ミーニャが下を向いて言う。
「よく言ったにゃ!」
「おい、ミーニャ!何言ってる!」
「皆ケイジの元で尽くすにゃ!」
「嬉しいです!」
「おぉ、俺も尽くすぜ!」
「お前ら!」
「ケイジなら皆まとめて面倒見てくれるにゃ!」
「いや、あのなぁ。」
「なんにゃ。」
「メーム。お前は俺の弟だ!」
「え?」
「夜伽はいらん!」
「え?うむ、解った。」何で残念そうなんだよお前!
「ムーニャ。」
「はいにゃ!」
「お前も成人するまでミーニャの変わりは不要だ!」
「にゃ?成人したら受け入れてくれるにゃ?」
「うわ、それは言葉の綾と言うか。」
「主、妹も本気だにゃ。あたしは嬉しいにゃ!」
「成人するまで!それまで保留だ!」
「はいにゃ!」
「とりあえず、お前の兄弟は、今後俺の身の回りを世話するよう申し付ける。」
「にゃ?あたしはいらないのかにゃ?」
「ミーニャは俺を警護しろ!」
「にゃ!嬉しいにゃ、解ったにゃ!主様。」
「なんか色々と疲れたが、マッチーデ・エーラ・イーノとの会談が控えている。
厄介なことを言われなければ良いなぁ。
「にゃ、ケイジ、しょたも行けるにゃ!」
「ない!」
「お、俺はケイジにこの身を捧げるぞ。」
「ケイジ様ムーニャは身も心も捧げます!」
「にゃ?ロりはデフォにゃ。」
「違うから!」
「お前ら、俺を堕とそうとしてるよな!」
「くふふ、なにがですかぁ。」
「フフフ、主の仰せのままに!」
「いや、誰だよお前!」