やらかしの54
ベカスカの孤児院に着いた。
「おっと、その前に道具屋に行くか。」
「すまん、紫炎。」
「御意。」
「邪魔するぜ。」俺はその店に入りながら言う。
「邪魔するなら、帰ってくれ。」店主がこっちも見ずに言う。
「おぉ、すまんな。」俺は踵を返す。
「ケイジ様、古いネタやっていらっしゃるんですか。」店主があきれ顔で言う。
「で、今日は何でしょう?」
「あぁ、食い物を売ろうと思うんだが、安くて使えそうな入れ物はないか?」
「入れ物ですか、おぉ、良いもんがありますよ!」そう言って、店主が店の奥をごそごそやって、それを持ってきた。
「これなんか如何でしょう?」
「おぉ、竹の皮か。」
「モウチクと言う植物の皮ですが、殺菌作用もあります。」
「他には?」
「これは、ヒーノって木を薄く削ったもんです、これも殺菌作用があります。」
「いいね、結ぶのは?」
「モウチクの端を細く切れば宜しいのでは。」
「いいね、いくらだ?」
「モウチクが100枚10Bで、ヒーノは100枚15Bです。」
「モウチクを、有るだけ、ヒーノはとりあえず100枚で。」
「あの、モウチクは2000枚ありますが。」
「良いよ、くれ。」
「215Bです。」
「ん、置くぞ。」
「他にご入用は?」
「あぁ、防水、って判るか?」
「水をはじくって事ですか?」
「あぁ、そうだが、それが可能な安い紙はないか?
「油紙があります?」
「あるのか?」
「えぇ、最近は質が良いものが出回っていますよ。」
「おぉ、どんなもんだ?」
「今、持ってきます。」そう言ってまた店主が、奥でごそごそする。
「これです。」店主が、茶色い半透明な紙を持ってくる。
「おぉ、でかいな。」
「切って使うものです。」見た目、1m四方ある。
「それは、1枚いくらだ?」
「1枚5Bです。」
「いくつある?」
「200枚です。」
「全部買う。」
「おぉ、本当に毎回思いますが、豪気なものですな。」
「1Gなら、カードで良いか?」
「はい。」
「んじゃ。」俺はカードを渡す。
「他に何か?」
「ちょっと、店の中を見て回って良いか?」
「どうぞ。」
そして、俺は良い物を発見した。
「おいおい、これは。」そして俺は、店主のおやじを呼び、被ったほこりを見て値引きさせるのに成功した。
「さっきの、ヒーノの板とかはないか?」
「いえ、うちでは扱っておりません。」
「この先に木工の店がありますので、そちらに行かれたら良いかと。」
「おぉ、さんきゅう、あぁ、モウチクはきっとまた買いに来るから、仕入れ頼むよ。」
「はい、判りました。」
「じゃぁ、また来るぜ。」
「おぉ、ケイジ様、オーク関係の素材をまた卸して頂けませんか?」
「あぁ、狩ったら持ってくるが、先になるぞ。」
「はい、宜しくお願いいたします。」
俺は道具屋を出る。
「ん?」俺はその匂いに気付く。
「おや、見ない屋台だな。」俺はその匂いの元の屋台に入る。
「おや、ハンサムなお兄さん、いらっしゃい。」昔の美少女が俺に声をかける。
「此処は、おぉ、梅干しか!」屋台に入って俺が言う。
「いや、違うよ。」
「え?」
「これは、バイの実を、「同じ量の塩に漬けて重しをして、汁が出たら、赤い葉を塩でもんで上にのっけて更に重しを置いて、雨が多い季節が過ぎたら、三日三晩天日干しをして、汁に戻した物だろう。」
「お客さん、名前は違うが、その通りだよ。」
「俺の故郷では、梅干しって言うんだ。」
「へぇ、他の所でもこれを作っているんだ。」
「なぁ、売れてるか?」
「いや、この町では認知度が低くてね、何人かの常連さんが買うだけさ。」
「ふ~ん、その常連はもう買いに来たのかい?」
「あぁ、さっき来てくれたよ。」
「おぉ、で、これからが本題だ。」
「はぁ?」
「今、ここに有る分は、全部でいくらだ?」
「あぁ、この後、別の街にも売りに行くから、5樽はあるぞ。」
「あぁ、他の街にも常連がいるのか。」
「あぁ。」
「じゃぁ、その常連さんの分を避けたら、いくらになる?」
「そうだな、20Gだな。」
「カード決済は無理そうだな?」
「あぁ、悪いが出来ないな。」
「おや、お姉さん、他にもありそうだな?」
「ん? あぁ、こっちは野菜を漬けたもんだ。」
「見せてくれ。」
「おぉ、いいぜ、俺の渾身の漬物だ。」
「おいおいおい。」
「ん? どうした?」
「沢庵、野沢菜、高菜、胡瓜、生姜もあるな。」
「サラン。」
「はい、マスター。」
「ギルドで換金して来てくれ、100G分。」
「はい。」
「紫炎。」
「御意。」サランがギルドに潜る。
「漬物は、常連がいるのか?」
「いや、売れたり売れなかったりだ。」
「全部でいくらになる?」
「そうだな~、10Gかな。」
「マスター、此方に。」
「おぉ、サランご苦労さん。」
「いえ、勿体ない。」そう言ってサランが指輪に消える。
「なぁ、さっきから女の子が出たり入ったしてないか?」
「ははは、気にするな。」
「そうなのか?」
「で、此処に3000Bを置くぞ。」
「はぁ?」
「常連がいない分は、俺が買う!」
「え?」
「全部貰う。」
「おぉ、良いけど。」
「んじゃ、紫炎。」
「御意!」
「あれ? いつの間に?」
「お姉さん、定期的に仕入れるよ。」
「へ?」
「ベカスカのギルドで、ケイジに納品に来たと言ってくれれば、全部引き取る。」
「へぇ?」
「よろしく頼むな。」
「はい、よろこんで。」
「そして、木工の店か?」そう言いながら、俺はその道を歩く。
数軒先に、それらしい店があった。
「こんにちは。」
「はい、いらっしゃいませ。」
「此処は木を扱っている店かな?」
「はい、そうですよ。」
「おぉ、ヒーノの板ってあるか?」
「はい、ございます、厚さはいかほどで?」
「此の位で。」と言って、俺は親指と人差し指で厚さを表現する。
「はいはい、ございますが、どのようなものを?」
「この位で。」俺は両手の親指と人差し指で、四角を作る。
「はいはい、大丈夫です。」
「で、とりあえず、それを6枚ほど用意してもらったら、3枚はこんな風に穴をあけて欲しいんだ。」俺は、両手で三角形を作り説明する。
「それぞれの角は、丸く加工してほしい。」
「はいはい。」
「で、そのあけた穴より少し小さい板に、此の位の棒を真ん中に付けて欲しい。」
「はいはい。」
「そして、全部、つるつるになるように、磨いてほしい。」
「はいはい、承りました、加工賃込みで1Gです。」
「え?安いな、カードは?」
「もちろん大丈夫ですよ。」
「んじゃ、これで。」
「はいはい、おや、お噂のケイジ様、当店をご利用下さり、光栄です。」
「あぁ、で、どのくらいかかる?」
「はい、一刻ほど頂ければ。」
「解った、一刻だな。」
「はい。」
「紫炎、すまない、港町に戻ってくれ。」
「御意。」
「ありゃ、店が結構閉まっているな。」
俺は、目の前にあった店に入る。
「いらっしゃ、あれ、また来てくれたんですか?」
「おぉ、もう一つ欲しくてな。」
「はぁ、それは、何ですか?」
「海苔だ。」
「ノリ?」
「おぉ、海に棚を作っておくと、そこに寄生する海藻の一種だ。」
「それを、まとめて干した、黒いものだ。」
「あぁ、有りますよ。」
「え? ここに有るの?」
「はい、これですよね。」
「おぉ、これだよ。」
「これは、アサクです。」
「ふふふ、どの位買える?」
「この大きさのものが、一枚10Bで、これが500あります。」
「一枚でおにぎり3個は包める大きさだ、充分。」
「決済、ヨロ。」
「はい、喜んで!」
俺は5Gを支払った。
「あと、今開いてる店で、魚卵を扱ってる店はないか?」
「ぎょらん?」
「あぁ、魚の卵だ。」
「あぁ、お向かいの3軒先が扱っていたと思います。」
「おぉ、では、また来る。」
「はい、ありがとうございます。」
「えっと、あそこか。」
「はい、いらっしゃい!」
「おぉ、此処は魚の卵を扱っていると聞いてきた。」
「あぁ、見ていってくれ。」店主が、店に有るものを指差す。
「おぉ、これは。」俺は固まる。
「まさしく、たらこ、いくら、カズノコもある。」
「ん? あんたよそ者か?」
「あぁ、此処の人間じゃないよ。」
「あぁ、そうか。」
「なぁ、これはタラの卵だよな?」
「ん? あぁ、ターラの卵の塩漬けだ。」
「そして、これがサケの卵。」
「それは、サーケの卵の醤付けだ。」
「これは、ニシンの卵。」
「う~ん、全部微妙に違うな、それはニシの卵だ。」
俺は、店の奥の方にあった物に気付く。
「なぁ、これはサケの塩漬けか?」
「あぁ、サーケの塩漬けだ。」
「売ってくれるのか?」
「いや、これは俺の趣味で作っているもんだ。」
「なぁ、ターラの卵と、サーケの卵を全部買うから、サーケの塩漬けも売ってくれないか?」
「はぁ、ターラの卵とサーケの卵全部だと、10Gだぞ。」
「買った!」俺はカードを出す。
「カードが無理なら、すぐBを用意する。」
「はぁ、あんたも物好きだな、普通の奴はサーケの身なんか買わないぞ。」
「いや、サーケの身の塩漬けは、ライシーのお供だ。」
「な、あんた、名前は?」
「ん? あぁ、俺はケイジだ。」
「おぉ、ケイジさん、あんたは、俺の嗜好を理解してくれるんだな?」
「はぁ、何を言ってるんだ、サーケの身の塩漬けがライシーに合うのは至極当然。」
「おぉ。」
「更に、それをライシーに乗せ、熱い緑茶をかけ、山葵を少し混ぜて食す事こそ至高。」
「はぅぅ、ケイジ様、その発想は無かった、是非真似したい。」
「おぉ、いくらでも真似してくれ。それよりサーケの塩漬けは?」
「あぁ、ケイジ様、此方に。」
「おぉ、凄い量だな?」
「数年前の物まで、提供できますよ。」
「おぉ、では、一番古い奴を一匹分と、最近の奴を5匹分貰えるか?」
「はい、ケイジ様、喜んで。」
「おぉ、いくらだ?」
「いえ、そんな物頂けません。」
「いや、出来れば定期的に買いたい。」
「え?」
「それに見合った対価は支払うよ。」
「おぉ、ケイジ様。では古い物が1G、新しい物5匹が同じく1Gです。」
「一緒に決済してくれ。」
「はい、喜んで。」
「何だ、一気に敬称が、さんから様に代わった。」
「う~ん、余り関わりたくないが、野望の為にはしょうがないか。」
「んじゃ、また来るな。
「はい、ケイジ様、お待ちしております。」
「うぉ、なんか寒気が。」
「あぁ、おやじ。」
「はい、ケイジ様。」
「イカを扱っている店はあるか?」
「いか?」
「足が10本ある白いグネグネした奴だ。」
「あぁ、イーカなら、目の前の店や、その並び全部で扱ってると思いますが。」
「おぉ、サンキュウな。」俺はその店を出て辺りを見渡す。
最初に行った店が、まだやっているので、そこに行く。
「おや、目的の物は有りましたか?」
「おぉ、それで、最後が此処だ。」
「は?」
「イカはあるか?」
「え?イーカですか?」
「あぁ、それだ。」
「こちらに、売れ残りが。」
「買う!」
「は?」
「いくらだ?」
「売れ残りなので、4杯で40Bで良いですよ。」
「買った、此処に置くぞ。」俺はビットをカウンターに置く。
「はぁ、ではどうぞ。」店主が差し出した物を虚無の部屋に入れる。
「あれ?」一瞬で消えたそれを、店主が驚愕するが、俺はそれを無視して言う。
「また来る。」そう言って、虚無の部屋を潜った。
「はい、お待ちしています。」一瞬で消えた俺を見ながら、店主が条件反射で答える。
そこには、誰もいなかった。
俺は木工所の前にいた。
「おぉ、お待ちしておりました。」
「出来たか?」
「はい、これでどうでしょうか?」
「おぉ、良さそうだ。」そう言いながら、出された物を色々試してみる。
「うん、もしかすると、追加で注文するかもな。」
「はい、お待ちしております。」
「おぉ、サンキュウな。」
「おっと、これ良いな。」俺は、その店の一角を見て言う。
「これはいくらだ?」
「1個1Gです。」
「おぉ、5個貰う。決済してくれ。」
「はい。」
「あぁ、ライシーを扱っている店を知ってるか?」
「ライシー?」
「あぁ、白い粒粒の食い物だ。」
「あぁ、食べるなら、この先の町、ヤミノツウの水龍と言う店がありますよ。」
「あぁ、そうじゃなくて、その元になる、コメを扱っている店だ。」
「申し訳ありません、存じ上げません。」
「あぁ、華厳に直接聞けば良かったか。」
「じゃぁな。」
「ありがとうございました。」
「さて、まず華厳の店か。」
「紫炎。」
「御意。」
「おい、華厳!」
「どわぁぁ、け、ケイジ様、いつもながら心臓に悪い登場です。」
「ライシーは何処から仕入れてる?」
「へ?」
「うん?」
「ケイジ様、ライシーは私と、その配下が裏で作っています。」
「何だと?」
「いえ、意外と簡単だったので、やってみたら、出来ました。」
「ふぅ。」
「え?ケイジ様?」
「まず聞こう。」
「はい!」
「普通に作れるか?」
「え?」
「ベカスカの孤児たちにも出来るか?」
「はい、私が直接指導すれば、可能です。」
「よ~し、言質取ったぞ!」
「あぁ、ライシーを少し譲ってくれないか?」
「えぇ、どうぞ、お好きなだけ。」
「脱穀してあるのか?」
「脱穀とは?」
「皮を剥いてあるのか?」
「いえ、炊く直前に、風の魔法で処理します。」
「ほぉ、で、何処にある?」
「そちらの倉庫の、低温保存室に。」
「どれどれ?」
「おぉ、俵じゃないか。」
「それが、にー、しー、ろー、20俵?」
「どうぞお好きなだけ。」
「じゃぁ、一俵貰う、1Gで良いか?」
「いえ、もらえ、あぁ、ケイジ様への月の支払いの一部に。」
「年貢米かよ。」
「これを炊けるものは?」
「ムーニャさんなら、お教えしましたので。」
「あぁ、ムーニャを借りて良いか?」
「いえ、ムーニャさんは、ケイジ様の奥様なので、ご自由に。」
「んじゃ、ムーニャ。」奥の部屋で寝ているムーニャに声をかける。
「はいにゃ。」
「腹はもう平気か?」
「それは、昨日の話にゃ。」
「おや、何で寝ていたんだ?」
「休憩時間だったにゃ。」
「あぁ、成程。」
「で、何にゃ?」
「ちょっと一緒に来てくれないか?」
「主様がお望みなら。」
「よし、一緒に来い。」
「はいにゃ。」
「あぁ、華厳。」
「はい、何でしょう、ケイジ様。」
「港町で、味噌の専門店を見つけた。」
「おぉ。」
「此処に全種類を置いておくから、ラメーンに使えそうな物を選んでくれ。」
「御意。」
「一つに絞る必要はないし、いくつかを混ぜるのもありだと思うぞ。」
そう言いながら、味噌を全種類カウンターに出す。
「味噌を、焼くのも良いかもなぁ」
「ふふふ、ケイジ様、私への挑戦ですね。」
「ははは、華厳の伸びしろを見たいだけだよ。」
「ふふふ、ケイジ様、此の華厳、ご期待に沿えるよう、精進いたします。」」
「紫炎、今度こそ、ベカスカの孤児院に。」
「御意。」
俺はそこを潜る
今回は、間延びしそうな内容なので、今日と明日の連続更新で。