やらかしの52
「うぅ、お腹がきついにゃ。」
「ムーニャも、もう無理ですにゃ。」
「お前達、学習しろよ。」
「孤児院に入る前は、何時食べられるか判らなかったにゃ。」
「だから、食べられる時に、お腹一杯食べる習慣があるにゃ!」
「あ~、野良猫を飼ったら、出した餌を全部食べちゃうってあれか。」
「主、馬鹿にされてる気がするにゃ。」
「いや、そんなことないぞ。」
「そう言えば、サランは平気なのか?」
「マスター、そもそも私達には食物摂取は必要ない。」
「ん?」
「食物からエネルギーを取る場合、その全てがエネルギーになるから、限界はない。」
「ん~。つまり食事は必要ないと聞こえるが?」
「や、違うぞ、必要ないが、必要だ!」
「ちょっと、何言ってるか判らないんだが。」
「あ~、エネルギーとしては不要だが、マスターの愛を感じる行為として必要だ。」
「益々判らない。」
「マスターに奉納して貰ったものは、その味を感じられる。」
「ほぉ。」
「今まで幾年月、マスターに出会うまでは、味と言う概念が無かった。」
「ほぉ、そうなのか?」
「だから、マスターと出会って、初めて食物摂取の楽しさを知った。」
「ふ~ん。」
「いや、マスター、頼むから見捨てないでほしい!」
「主様、ムーニャはもう平気にゃ。」青い顔をしたムーニャが立ち上がる。
「いや、ムーニャ、きつそうだぞ。」
「主様への愛で、克服するにゃ!」
「いや、無理だから。」
「にゃ、平気にゃ。」
「いや、ムーニャ、満腹な状態で、メニューを考えるのやめとけ。」
「にゃ?」
「俺の経験から、満腹状態で、今晩のメニューを考えるのは地獄だったぞ。」
「でも行くにゃ。」
「主、ミーニャは無理にゃ。」
「ムーニャもリタイア「行くにゃ!」
「あぁ、分かったよ、お勘定頼む。」
「はい、承り~。」
「え~4人様、お会計、え?」
「ん? どうした?」
「え、と、4名様で2Gです。」
「おぉ、意外に安かったな、カード使えるか?」
「はい、大丈夫です。」
「んじゃ、これで決済して。」俺はギルドカードを渡す。
「はい、え?」
「おや、使えないか?」
「いえ、使えますが。」
「が?」
「貴方がケイジ様ですか?」
「え? あぁ、俺がケイジだ。」
「うわぁぁ、親方~。」そう叫びながら、レジにいた男が、俺のカードを持って、店の奥に走っていく。
「マスター、滅する対象か?」
「まぁ、待て。」
「はい。」
暫くすると、レジにいた男は、年配の男を連れて戻ってきた。
「し、失礼いたしました。カードをお返しいたします。」レジの男は俺にカードを渡す。
「決済は終わったのか?」俺は男に聞く。
「いえ、今回はサービスさせて頂きます。」
「あ?」俺は、途端に不機嫌になる。
「見返りは?」
「あぁ、ケイジ様、失礼いたしました。私、この店のオーナーのミト・ギラバイと申します。」年配の男が言う。
「おぉ、俺はケイジだ、宜しくな。」
「はい、もちろんです。」
「で、それと、支払が只になる因果関係を教えてくれ。」
「あぁ、失礼いたしました。」
「おぉ。」
「ケイジ様が、ヤミノツウで蔓延していた疫病を撲滅したと聞きました。」
「あぁ、事実だ。」
「私の、父母と妹が、お世話になりました。」
「あぁ、誰かは判らないが、それと支払いは別だろう?」
「何をおっしゃいます、貴方は疫病を治癒しても、対価を受け取らなかった。」
「いや、普通だろう?」
「いえいえ、その行為は最早、聖人様と同じ行為でございます。」
「いや、違うよ、出来る事をしただけだ。」
「おぉ、流石でございます。」
「いや、だから違うって。」
「いえ、私はケイジ様に恩義を感じております、それ故、今回のお食事代を私に肩代わりさせて下さい。」
「はぁ、今回だけだな?」
「ケイジ様の御心のままに。」
「今後の肩代わりは、一切拒否するからな。」
「御心のままに。」
「分かった、今回はゴチになる、ありがとうな。」
「おぉ、勿体ないお言葉。」
「じゃぁ、これで失礼する。」
「ありがとうございました。」店中の従業員が声を出す。
「ふぅ。」店を出て俺はため息をつく。
「善行をした覚えがないのに、そう言われるのはなんか違うよな。」
「主様の人徳にゃ。」
「はぁ、納得いかないが、納得しないと駄目なんだろうなぁ。」
「さて、めぼしい店は?」俺は辺りを見渡した。
先ほど魚を買った店は、すでに閉まっていて、誰もいない。
俺は横に目をやった。
少し先に、空いている店があることに気付く。
「おぉ、あそこはやってるな、何の店だろう?」そう言いながら、俺はその店に向かった。
「こんにちは~。」俺は店の中に入る。
「いらっしゃいませ。」
「おぉ、此処は干物の店か?」
「はい、あと、此方に海藻もあります。」
その棚の上には、色々な魚の干物が並んでいた。
「おぉ、鰺や鯖は定番として、ムシガレイ、カワハギ、キンメか。」
「あんちゃん、少し発音が違うが、他所から来たのか?」
「あぁ、そうだ、此の棚のやつ全部買った。」
「は? おい、結構な金額になるぞ。」
「良いよ、いくらだ?」
「あぁ、全部で1G800Bだ。」
「カード使えるか?」
「え? おぉ、大丈夫だ。」
「んじゃ、これで決済・・」
「どうしたあんちゃん?」
「そこにあるのは、乾燥した昆布か?」
「え? あぁ、コーブだ。」
「ムーニャ、判るか?」
「うっぷ、話に聞いたことがあるにゃ。」
「それもくれ。」
「え?どれくらい?」
「ある分、全部。」
「はぁ? 結構あるぞ。」
「どのくらいだ?」
「2Gだ。」
「買った!」
「はぁ。」
「あと、そこにある小さなイワシを干した物。」
「煮ボイワですか?」
「あぁ、それはいくらだ?」
「一握り、10Bです。」
「んじゃ、1G分。」
「え?」
「あれ、そんなにないか?」
「いえ、ありますが、お支払い大丈夫ですか?」
「おぉ、大丈夫だ。」
「あぁ、他にめぼしい物は、ないか?」
「これは、どうでしょうか?」
「な!」
「ふふふ、一部のお方には好評なのですが」
「くさやか。」
「な、御存じなのですか?」
「おぉ、知ってる。」
「これは、ズーイの名産、クサレと言います。」
「全部、買う。」
「おぉ、流石。」
「他には?」
「あとは、そこにある海藻ですかね。」
「おぉ、モズクに芽蕪もあるな。」
「モーズーと若芽蕪ですか?」
「あぁ、それも全部くれ。」
「あの。」
「なんだ?」
「全部で、6G920Bになりますが。」
「おぉ、カードが使えるなら、それで決済頼むよ。」俺はギルドカードを渡す。
「はい、承り、げぇ、Aランク!」店員が驚愕する。
「なんか、個人情報が駄々洩れだな。」
「失礼いたしました、決済完了いたしました。」
「おぉ、サンキュウ。」
「いえ、沢山のお買い上げ、ありがとうございました。」
「おぉ、又来るからよろしくな。」
「はい、お待ちしております。」
「さて、次の店に行くか。」
「あ、主様。」
「ん、ムーニャ、やっぱりきついだろ?」
「はい、申し訳ありません。」
「良いよ。」そう言ってムーニャを虚無の部屋に入れる。
「さて、他に良い店があるかな?」
結局、それ以外は美味そうな魚を焼く屋台しか無かった。
屋台で全部を買い占めたのは当然だな。
「さて帰るか、紫炎、華厳の店に。」
「はい。」
俺は、そこに潜った。
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「お帰りなさいませ、ケイジ様。」華厳の出迎えを受ける。
俺は、虚無の部屋から、ミーニャとムーニャを、畳の部屋にころがす。
「うぅ、お腹が朽ちいです。」
「主様、ムーニャも満腹です。」
「ふぅ、しばらくすれば立ち直るだろう。」
「は!」
「おや、そこにいるのはケイジ君ではないか?」
誰かが、聞きなれた声で、俺に問いかける。
俺は、その声の主を見る。
そこにいたのは、ドレース夫妻と、二人の姉妹だった。
「おや、誰かと思えば、ドレース様ではないですか。」
「おぉ、覚えていてくれたか、ケイジ君。」
「はっはっはっ、勿論ですよ。」
「おぉ、嬉しいよケイジ君。」
「で、やんごとなきお方が、このような店に何の御用で?」
「ケイジ様、酷いですね。」華厳が拗ねたように言うが無視だ。
「ははは、ケイジ君も罪なお方だ。」
「いえ、身に覚えが無いのですが。」
「君が、我が娘に渡したシャオマの味に魅了されてしまったのだよ。」
「はぁ?」
「辛子醤との相性、溢れる肉汁、至福だった。」
「それは、良かった。」
「君が残した皿から、此処を特定して来てみれば、更に知らない料理の数々。」
「はぁ。」
「週に一度は此処の料理を食べないと、心が収まらないのだよ。」
「はぁ、いや、それ俺の責任ですか?」
「何を言う、私の財を持ってしても普通に食べられない物を知らしめたのだ、その責は重いぞ。」
「知りません。」
「な。」
「単に、ドレース様が無知なだけです。」
「はぅ。」
「私の知る味を得る対価には、それなりの価値があると思うのですがいかがですか?」
「お父様、ケイジ様の仰る通りです。」そう言うのは先日助けた妹。
「えぇ、その通りです。」そして姉。
「あなた、ケイジ様に失礼ではないですか。」奥さんも俺の味方ですか、ドレースさん、四面楚歌ですね。
「まぁまぁ、お詫びを兼ねて、新しい味をご提供いたします。」俺は口元を上げて言う。
「マスター、悪い顔だ。」
「サランは少し黙ろうか。」
「御意。」
「華厳、悪いが、卵と酢と菜種油と塩を用意してくれ。」
そう言いながら、表に出て魔導コンロを用意する。
「ケイジ様、此方に。」華厳が俺に材料を渡す。
「おぉ、サンキュウな。」
「ケイジ君、何が始まるんだ?」ドレースさんが言う。
「更なる高みに。」俺はそう言って作業を始めた。
まず、用意した容器に卵黄を入れ、酢と塩を入れてかき混ぜる。
そこに菜種油を入れながらさらにかき混ぜる。
「良い具合に混ざってきたな。」そこには、マヨネーズが出来ていた。
「んで、魔導コンロ起動!」俺は魔導コンロに魔石を入れて言う。
「良い具合にあったまってきたな。」
俺は、くさやを虚無の部屋から取り出し、網に乗せる。
途端に広がる、排泄物の匂い。
「な、ケイジ君、何を焼いている!」
「ん? マシオオ特産のくさやと言う干物です。」
「な、これが食べ物だと言うのか?」
「慣れれば美味しいですが。」
「ドレースさんは信じますか?」
「つ、しかし、ケイジ君がそう言うのだ、信じよう。」
「焼けました、さっき作ったマヨネーズに赤辛子を振り掛けますので、味をご堪能下さい。」
俺は身をむしって、ドレース一家に差し出す。
「ケイジ様、私にもいただけますか?」華厳が言う。
「おぉ、もちろんだ。」同じように、マヨネーズとむしった身を華厳の前に出す。
「いただきます。」華厳は一瞬躊躇したが、マヨネーズを付けた身を口に入れる。
「はぅぅ。」硬直する華厳。
「ラガーか? ライシーか?」俺は華厳に言う。
「どちらでも、いえ、ライシーを。」
「だってさ。」俺は厨房にいる者に言う。
「はいぃ。」そう言いながら、その男はライシーを持ってくる。
「くはぁ。」華厳がその茶碗を受け取り、ライシーを頬張る。
「たまらん!」華厳はくさやとライシーを貪る。
それを見ていたドレースさんも、くさやの身を指でつまみ、マヨネーズに付けて口に入れる。
「ほぉぉぉ。」ドレースさんが吠える。
「ケイジ君、燗を。」
「聞こえたかぁ、さっさとお持ちしろ。」
「はいぃ。」厨房の中がざわつくが、流石、華厳の部下だ、数分で用意される。
「どうぞ、ドレースさん。」俺は徳利を差し出す。
「おぉ。」そう言って俺の酌を受けると、ドレースさんは盃を煽る。
「ぷはー、これは良い。」
「おぉ、それは良かった。」
「ケイジ様、お父様だけずるいです。」妹が言う。
「おぉ、御免な、おい、ライシー3個、急ぎだ。」
「はぃぃ。」言葉とは裏腹に、手際よく3個の茶碗が俺の目の前に置かれる。
「さぁ、どうぞ、身は俺がむしりますので、あぁ、小骨に気を付けてください。」茶碗を、ドレースさんの一家に手渡すと、俺はくさやをむしり、皿に置いて良く。
ドレース一家は、くさやの干物を堪能したようだ。
蛇足だが、その後で、華厳が腹を抱えて唸っていたのはどうでも良いか。
なぜダブっていたのか? こっそりと修正。。。




