やらかしの45
「ここが、エゴワカ城か。」
「そうです。」イースが言う。
「さて、アポはどうするか?」
「我にお任せください。」
「ん? ヒドラは何か伝手があるのか?」
「はい、ご主人様。」そう言って、ヒドラが門番の前に行く。
「何者だ?」門番が槍を構えて言う。
「お前は新人か?」ヒドラが言う。
「あぁ、入隊して3か月だ。」
「お前の上司を呼んで来い。」
「え?」
「早く呼んできた方が良いぞ。」
「わ、解りました。」そう言って門番が奥の部屋に入る。
暫くすると、さっきの門番が一人の男を連れて来た。
「誰だ、俺を呼び出したのは?」
「おぉ、久しいな。」
「げぇ、ラドーン様!」
「今は、こちらのご主人様より拝命したヒドラを名乗っておる。」
「は、ははぁ、この度はどの様なご用件で?」
「ご主人様が、皇王を粛正するお手伝いにな。」
「は?皇王様を粛正?」
「そうだ。」
「それは、本当ですか?」
「くどいな。」
「すみませんでした、どうぞお通り下さい。」
「ご主人様、と言う事です。」
「おぉ、ヒドラ、凄いな。」
「いぇいぇ、それほどでも。」
「と言うか、本当に皇王は嫌われてるな。」
更に進むと、大きな扉があり、その前に大勢の騎士が集まっていた。
「おや、邪魔する奴らかな?」俺は悠々とその前に歩いていく。
「皇王を粛正すると言う者はお前か?」一人の騎士が言う。
「おぉ、そのつもりだ。」
「本気か?」
「あぁ、邪魔するつもりか?」
「いや、お手伝いさせてください。」
「はぁ?」
「俺は、妹を第一皇子のアデルに手籠めにされました。」
「俺は、妻を。」
「俺の娘は、12歳の時に・・・」
「第2皇子のイデルに、母を・・」
「あんたら、良くこの城の騎士をやってるな。」
「奴らの寝首を掻くためです!」
「でも、奴らは狡猾で、夜の警備は身内で固めてなかなか近づけなかったのです!」
「しかし、魔王ラドーン様が皇王を粛正すると聞き、此処に集いました。」
「お前たち、我は此処にいるご主人様よりヒドラの名を賜った。」
「え?」
「これ以降、我をラドーンと呼んだ者はその命、終わるものと知れ!」
「はい、仰せのままに。」そこにいた騎士たちが跪いてヒドラに敬意を払う。
「ご主人様、お言葉を。」
「あ~、俺はヒドラの夫、ケイジだ。」
「おぉ、ヒドラ様の。」
「魔王の夫?」
「ご主人様は、精霊様のご加護を持ったお方、その御名はケイジ様だ。」
「ケイジ様?」
「おぉ、貴様らに復讐の機会をお与え下さる方だ。」
「おぉ。」
「ケイジ様!」
「いや、ついでだ、第二皇子のイデアとか言う奴が、俺の嫁を侮辱し、俺の逆鱗に触れた、だから粛正する。」
「おぉ、貴方に付いて行きます。」
「我にもお手伝いさせてください。」
「恨みを持つ者はついて来い。」
「ははぁ。」
「さぁ、皇王の処に案内してくれ。」
「は!どうぞこちらに。」騎士たちが我先にと案内を始める。
「相当に嫌われてるな。」
「そのようです。」ヒドラが俺の腕を取りながら言う。
「マスターの粛正を受けて、心を入れ替えれば良いのです。」サランが反対側の腕を取って言う。
「いや、死ぬんじゃないか?」
「だとしたら、それまでの人間だと言う事です。」
「サラン、厳しいな。」
「マスター以外の人間に興味はありません。」
「ご主人様、我もです。」
皇王の処に行く間にも、騎士たちの数は増えていく。
「ケイジ様、此処が皇王の部屋です。」
「おぉ、案内御苦労な。」
「いえ、光栄です。」
俺の後ろには、数百人以上の騎士達がいた。
「では、開けてくれ。」
「御意。」
騎士達が、その扉を開ける。
「何だ、お前たちは?」中にいた第一皇子アデルが叫ぶ。
「おぉ、邪魔するぜ。」俺は扉の中に入り言う。
「誰だ?」
「おぉ、俺は、ケイジだ。」
「あぁ、ケイジ?知らないな。」
「おいおい、お前の弟が、俺の嫁に無礼を働いたから文句を言いに来たんだ。」
「え?」
俺は、イデルを虚無の部屋から出し、アデルの前に放り投げる。
「ぐあぁ。」イデルがうめき声をあげる。
「な、貴様、我が弟をこのように、その意味が解っているのか?」
「お前の弟が、馬鹿なことをやった結果だ。」
「ほぉ、お前、我らの守護者を知って言っているのか?」
「あ?ナーガとかいう屑の事か?」
「な、ナーガ様を愚弄するのか?」
「ほほほ、そこのお前、このお方を誰と心得る?」
「え? な、ラドーン様!」
「不快な、我が名はヒドラだ!」
「え?でも、ラドーン様ですよね。」アデルが言う。
ヒドラが右手を振る。
「ひぎゃぁぁぁ。」アデルの右手が肩から消えていた。
アデルがその場でのたうち回る。
「ディオ。」俺は、ヒールの1割程度の回復魔法をアデルに唱える。
アデルの傷の出血が止まる。
「死なれたら粛正できないからな。」
「なぁ、魔王様、お心を御沈め下さい。」エゴワカの王タジフが跪く。
「おぉ、タジフ、我がご主人様のお言葉を聞け。」
「え?」
「おい、タジフと言ったか。」
「何だお前は?」
「俺は、ケイジだ。」
「ケイジ?知らないな。」
「あぁ、良いよ、それで。」
「お前の息子が、俺の嫁に暴言を吐き、俺に、嫁を差し出せと言いやがった。」
「だから何だ?下々の者が、我らが欲するものを差し出すのは常識だろう。」
「常識かぁ。」
「あぁ、当然だ。」
「駄目だな。」
「あ? 何がだ?」
「ギルティ!」
「は?」
「有罪だ。」
「私がか?」
「あぁ、お前も、そこにいるお前の息子達もな。」
「何故だ? 我ら高貴な者が下々の者から搾取するのは我々の権利だろう。」
「馬鹿か、お前!」
「な、違うというのか?」
「当たり前だ、身分のある者は国を統治し、民の生活を保障する義務がある。」
「一方的に搾取するだけの存在は、害悪以外何物でもない。」
「それが解らないのは糞だ!」
「ははは、民などは我らの肥やしではないか。」
「うん、もう良いよ。お前らは生きる価値がない。だから俺はお前達を粛正するわ。」
「な、我らに危害を加えるとナーガ様が黙っていないぞ!。」
「良いよ、ナーガって奴も潰すから。」
「ほほほ、タジフ、此のお方は我が夫なのですよ。」
「はぁ?」
「ナーガは、我の下位、その意味が解りますよね?」
「げぇ、ラドーン様の?」
「お前も我を不快にするのですね。」
「待てヒドラ。」
「はい、ご主人様。」
「こいつは、騎士どもにくれてやろう。」
「まぁ、ご主人様はお優しいのですね。」
「さぁ、皆、好きにしていいぞ!」俺は皇王とアデルそしてイデルを騎士たちの前に蹴る。
「ディオ。」イデルに申し訳程度の回復をする。
「俺を覚えてるか?」
「うぁ。」
「俺の母親を、俺の目の前で犯した事を!」そう言いながらその男がイデアの頭を蹴る。
「俺の姉を襲ったことも忘れてないよな。」その男は剣でイデアの足を刺す。
「くはぁあぁ。」イデアは悲鳴を上げる。
「おぉ、アデル、俺の妹をよくも。」
「タジフ!俺の家族を奴隷に落としやがって。」
「イデル、ゆっくり嬲ってやる。」
「おい、すぐに殺すな。」
「おぉ、判ってる、まず指から潰す。」
「おぉ、頭と、心臓は最後だ。」
「お前たち、我は皇王だぞ。」
「は?聞こえないな?」そう言いながらその男は皇王の左手の小指を潰す。
「ひぎゃぁぁ。」
「生意気に悲鳴を上げてるんじゃないよ。」
「まてまて、喉は潰すな、悲鳴が聞こえないとすっきりしない。」
「おぉ、そうだな、んじゃ、これで我慢するか。」そう言いながら男はタジフの腕の肉を削ぐ。
「あぁぁぁ。」
「地獄絵図だな。」俺はぽつりとつぶやく。
「何事です?」キシリアーナがその部屋に入ってきた。
「なぁ?」そこの状況を見てキシリアーナは顔面蒼白になる。
「おぉ、皇族がもう一人いた。」
「お前も、粛正を受けるべきだ!」
「あぁ、ついに、この時が来たのですね。」キシリアーナがその場で跪く。
「良い度胸だ。」騎士の一人がキシリアーナに近づく。
「ケイジ様、その方は対象外です。」紫炎の声が響く。
俺は、キシリアーナの前に跳んだ。
「な、邪魔しないでくれ!」
「この人は違うよ。」
「な、皇族だぞ!」
「あぁ、でも、この人は真っ当だ。」
「でも。」
「俺の言う事が信じられないか?」
「いや、ケイジさんがそう言うなら。」
「おぉ、ありがとうな。」
その間も、タジフ、アデル、イデアに長い拷問と呼べる粛正が続けられる。
俺は何回か、皇王達にヒールをかけ、数百人の思いを遂げさせた。
キシリアーナは気丈にも、それを見届けた。
そして、すべてが終わる。
そこにいる誰もが、狂気に満ちた顔をしていた。
「ラヒール!」俺が唱える。
そこにいた全員の心が浄化される。
「皆、聞いてくれ。」俺が言う。
「悪政を布いていた、皇王は君たちが粛正した。」
「あ、俺達が?」
「あぁ。」
「たしかに。」
「君たちは間違っていない。そこにある物はそれだけの罪を犯した。」
「そして、これからのことを話そう。」
「ここにいる皇女さまは、真っ当なお心を持っておられる。」
「え?」
「今後のエゴワカの治世はこの人に任せる。」
「・・・」
「異論のある物は、今申し出てくれ。」
「皇王の子供だぞ。」
「いや、俺が保証する。」
「え?ケイジ様が?」
「あぁ。」
「そ、其れなら。」
「あぁ、俺は良いぞ。」
「俺もだ。」
「私も異存はない。」
「で、宰相として、此処にいる魔王イースを置いておく。」
「え? 我を?」
「おぉ、キシリアーナをサポートしてやってくれ。」
「おぉ、魔王様が。」
「其れなら、お任せできる。」
「あの。」キシリアーナが俺の前に出る。
「ケイジ様がこの地を治めて下されば。」
「いやぁ、面倒なことは御免だ。」
「ご主人様は、もっと大きな事をお考えです、たかが地方の領主など。」
「いや、面倒なことが嫌なだけだよ、ヒドラ。」
「では、イース、任せましたよ。」ヒドラが場を閉める。
「ははぁ。」イースが首を垂れる。
「あぁ、税率を下げてくれ。できれば10%以下が良いな。」イースに俺が言う。
「はい、心得ました、先の皇王達の蓄えもすべて還元いたしましょう。」
「キシリアーナさん、住みやすい国にして下さい、期待しています。」
「はい、ケイジ様の御心のままに。」
「あぁ、誰か、皇王と皇子二人が崩御したと、町中に知らせてくれ。」
「はい。」
「崩御理由は、そうだな、贅を尽くして珍味を求めたあげく、毒魚を食べて死んだ。で良いか?」
「今後、皇女が教訓を生かし、実直に行政を行うと付け加えてな。」
「ははは、おい、皆で手分けして広めるぞ。」
「おぉ。」
「よし。」
「まかせておけ。」
「おぉ、皆良い顔しているな。」
「ご主人様の仰る通りです。」
「マスターの御心のままに。」
「結局、俺が粛正したのはイデアだけだったな。」
「ご主人様、騎士たちのうっぷんが晴れて良かったではないですか。」
「平民達には被害がなかったんだろうか?」
「きっと、騎士たちの身内から手を付けていったんでしょう、マスター。」
「皇女さんが正してくれることを期待してるよ。」
「はい、マスター。」
「えぇ、ご主人様。」




