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やらかしの44

ここ、エゴワカの城では、第一王女が、その父である皇王に上申していた。

「父上、イデルをご諫め下さい!」皇都の王女「キシリアーナ」が父である王に進言する。

「一般の者を妃にするなど、王族の恥です。」

「うむ、しかし、イデルは儂が年老いて出来た子であるから、可愛くて仕方がないのだよ。」

「それは判ります、しかし、父上! ベカスカではイデルに献上するため、誘拐を行った者が捕縛されているのですよ!」

「ふむ、その話は聞いておる。なんでも精霊様のご加護を持った者が捕えたとか?」

「父上、危機感をお持ちください!」

「何をだ?」

「その賊は、その精霊様の加護を持った男の嫁を誘拐しようとしたのですよ!」

「キシリアーナ、お前の言う事も判る。」第一皇子のアデルが口を挟んだ。

「だが、所詮、下々の事ではないか、気に病むこともない。」

「ほっほっほっ、その通りだ、キシリアーナ、我ら皇族は蛇王ナーガ様に護られておる、何も心配いらん。」エゴカワの王「タジフ」が言う。


「しかし。」キシリアーナは尚も何かを言おうとする。

「姉上も心配性だなぁ。」第二皇子イデルがそれを遮って言う。

「しかし、精霊様の加護か~、俺、それを貰ってくるよ。」イデルが立ち上がる。

「何を言っているのです? そんな事、出来るはずがありません!」キシリアーナが叫ぶ。

「大丈夫だよぉ、ナーガ様の名を出せば、きっと譲ってくれるよ~。」へらへらと笑いながらイデルが言う。

「だって、僕皇子だよ、下々の者が僕の言う事を聞くのは当然だよね。」

「な、父上!」

「よいよい、イデル、好きにするがよい!」

「ち、父上、私は何があっても知りませんから。」

「おぉ、キシリアーナは心配性だのう。」

「はっはっはっ、父上、私も18番目の妻が欲しいのですが。」

「あぁ、アデル、好きな娘を選ぶが良い、儂が何とかしてやろう。」

「つ、此処まで腐って。」キシリアーナは小声で呟き、その部屋を後にした。


*******************


 数日後、ヤミノツウの華厳の店の前に、豪華な装飾を施した馬車が止まった。


 その馬車から出てきた男は、飾ればいいだろうと言う程の宝石を全身に散りばめ、もはや悪臭としか思えない程の香水臭を漂わせていた。

 


 そして、その男は華厳の店の扉を潜った。


「おい、ここに、精霊様の加護を受けた者がいるのだろう。」


「あの~、此処は食事処ですが。」華厳がカウンターから身を乗り出して言う。

「はっはっはっ、知っておるぞ、この店には精霊の加護を受けた男がいるのだろう。」

「いえ、ですから、此処は食事処です。」華厳が言う。


「はっはっはっ、良いのだよ、この僕に解らない事など無いのだから。」

「いえ、ですから、その臭い臭いで入ってこられたら困るんですよ。」華厳が奥から出てきて言う。

「な?」

「とりあえず、出てください!」華厳が威圧を込めて言う。

「な、いや、判った。」その男はすごすごと店の外に出る。


「え~っと、精霊様の加護を持った男は?」

「はぁ? ケイジ様ですか? そちらの孤児院にいらっしゃいます。」華厳はぞんざいに答える。

「おぉ、そうか。」



「おい、そこの者、ケイジとやらは何処にいる?」

「はぁ?何方どちらさんで?」

「我はエゴワカの第二皇子、イデルである。ケイジと言う者を此処に連れてこい。」

「いや、俺がケイジだが。」

「おぉ、お前が精霊様の加護を持つ者か、苦しゅうない、我に差し出せ?」

「はぁ? 何を?」

「精霊様のご加護をだ。」


「紫炎、こいつ馬鹿?」

「はい、ケイジ様、精霊様のご加護は個人に与えられる物、譲渡など出来るわけはありません。」

「な、何処から声が?」

「聞こえたか? と言う事らしいから帰れ。」

「な、僕は皇子だぞ。」

「はぁ、だから?」

「下々の者は、僕が欲しい物を差し出す義務がある!」

「無いよそんなもの!」

「なぁ、皇子の僕に逆らうのか?」


「マスター、こ奴を屠って良いか?」指輪から現れてサランが言う。

「なぁ、美しい! お前、俺の下女にしてやるぞ。」

「はぁ、貴様のような下衆男、願い下げだ!」サランが語気を強めて言う。

「主、何を揉めているにゃ。」孤児院の奥からミーニャが出てくる。

「な、お前、獣人の奴隷も持っているのか、許す、僕に献上しろ。」


「はぁ? 主、こいつ殺って良いかにゃ?」


「いや、駄目だ。」

「何でにゃ?」

「俺が、殺る。」



「な、僕は皇子だぞ!」

「だから、なんだ!」

「つ、お前ら、僕を守れ!」

 馬車から屈強な兵士たちが下りてくる。


 兵士たちは、嫌そうな顔をして俺に剣を向ける。


「凄く嫌そうだな。」

 兵士たちは無言で俺にアイコンタクトをしてくる。


「てい!」俺は先頭にいた兵士の胴を優しく殴る。


 その男は、まるで自分から飛んだように後ろに跳び、壁までゴロゴロと転がって動かなくなった。

「うわぁ。」

「ひぎゃぁ。」

「どわぁ。」悲鳴を上げながらそこにいた兵士が全員四散する。

「な、な、なぁ。」イデルがその光景を見て尻餅をつく。


 俺はイデルの前まで歩く。


「な、な、な、僕はエゴワカの皇子だぞ。」

「だから何だ?」

「僕を殴ると、蛇王ナーガ様が黙っていないぞ!」

「ナーガだと?」ヒドラが孤児院から出てきて言う。

「な、そこの女!ナーガ様を知っているのなら、この男に説明してくれ。」

「ご主人様、我より下位の者です。」

「だ、そうだ。」


「な、僕は皇子だ。」

「さっきも聞いた、だから何だ?」

「僕は偉いんだ、だから僕を敬え。」

 俺はイデアの頬を思いっきりはった。

「スパ~~~~ン!」

「なぁ、僕を殴ったな!」

「だからどうした。」そう言いながらもう一度はる。

「スパ~~~ン!」

「はうぅ。」

「なぁ、金をやる!」

「スパ~~~ン!」

「僕の部下に取り立てて。」

「スパ~~~ン!」

「あの、許してください。」

「スパ~~~ン!」

「あうぅ。」

「スパ~~~ン!」

「ぼくは」

「スパ~~~ン!」

「かんべんじでくだざい!」

「スパ~~~ン!」

「おでがいじばず!」

「スパ~~~ン!」

「・・・」

「スパ~~~ン!」



「僕が悪かったでず。」イデアがボロボロになって言う。

「おぉ、やっと判ったか。じゃぁ、これからが本番だ。」俺はそう言うと、平手を拳骨に変えてイデアに制裁を加える。


「あが、やめてくだざい!」

「俺の嫁に暴言を吐いた罪、きっちりと償ってもらう!」

 俺はイデアを死なない程度にぼこぼこにした。


 ふと気付くと、イデアの護衛が集まって来てる。

「お前たち、後は俺の問題だから、気にしなくていいぞ。」

「ありがとうございます。」さっき俺が殴った兵が元気よく言って、馬車に乗り帰っていく。


「無理やり連れて来られていたんだな。」

「そのようですね。」ヒドラが俺の横で言う。

「どうやら、エゴワカに行って、皇王と話し合いをしないと駄目なようだな。」

「えぇ、ご主人様、そのようです。」ヒドラが妖艶な眼差しで俺を見て言う。


「こいつを見る限り、どうしようもない奴だろうな。」

「はい、そう思います。」ヒドラが姿を作りながら言う。

「ケイジ様、この私もその者の態度は腹に据えかねました。」

「おぉ、イース、何時からそこにいた?」

「ケイジ様が、その男に制裁を加える所からです。」


「ふぅ。」俺はため息をつく。

 そして、イデアを虚無の部屋に入れて言う。

「さて、エゴワカに行くか。」

「ご主人様、我もご同行させて下さい。」

「おぉ、ヒドラ、大丈夫だよ。」

「いえ、是非!」

「ケイジ様、我も是非!」

「イースもか?」

「ふぅ、まぁ良いか。紫炎、エゴワカまではどの位だ?」

「6跳躍です。」


「なんだ、近いな。」俺はヒドラとイースを虚無の部屋に入れて跳ぶ。


「今回は、気分が悪いな。」

「お察しします!」

「紫炎って、人間臭いな。」

「・・・」


 一刻後、エゴワカの門の前に着いた。

 高い壁が国の周りを取り囲み、その中に入るには、要所にある門で受付が必要らしい。

「壁を越えても良いんだけどな。」俺が言う。

「ケイジ様が、この国に来たと言う証を残すため、必要です。」

「紫炎がそう言うなら。」


 俺は、門の前の列に並んだ。

 半刻程で俺の番になった。

「身分を証明するものは?」衛兵が言う。

 俺は、ギルドカードを渡す。

「おぉ、ベカスカのギルドカードか。」

「そう言いながら、衛兵が端末にカードを通す。」

「な、Aランク?」

「なに?」

「そんな奴がいるのか?」

 周りにいた衛兵たちがざわついた。

「もう良いか?」

「あ?あぁ、すまない、初めて見たもんで。」

「あぁ。」

「この国に入る目的はなんだ?」

「あぁ、皇王に会いに来た。」

「え?」

「ん?」

「皇王様に?」

「あぁ。」

「ちなみに聞くが、アポは?」

「皇王様から、招待状が届いたんだ。」

「おぉ、それは素晴らしい。」そう言いながら衛兵は俺にカードを返してきた。

「良き旅を。」衛兵は凄く良い笑顔を俺に向けて敬礼する。

「ありがとう。」そう言いながら俺は思う。

(招待状は、第二皇子の変わり果てた姿だがな。)


「さて、皇王の城に行く前に腹ごしらえをするか。」そう言ってヒドラとイースを虚無の部屋から出す。

「おぉ、本当に一瞬なのですね。」イースが目を輝かせながら言う。

「実際には、一刻過ぎているけどな。」

「ご主人様の御力おちからは、我らの常識を超えております。」ヒドラが傅いて言う。

「おい、目立つからそう言う事するな。」

「も、申し訳ありませんご主人様。」


「まぁ、何か食うか。」俺が言う。


「さて、腹ごしらえも良いが、此処は何が美味いんだろう?」

「そこのお姉さん、腹がへってるんだけど、お薦めある?」

「おや、他所の方かい? この時期なら芋が良いよ。」

「芋?」

「あぁ、芋が美味いよ。」

「何言ってるんだ、この季節なら鰻だろう!」横の男が言う。

「あぁ、何言ってるの、この季節なら芋でしょう!」

「いや、この季節だからこそ鰻だ!」


「あ~、解った、芋と鰻だな、両方食ってみるよ。」


「おぉ、兄ちゃん、話が分かるな、鰻を食ったら精力びんびんだぜ!」


「ははは、おぉ、屋台の看板に芋と出ているな。」


「ここは何が食えるんだ?」

「おぉ、芋の天ぷらだ。」

「一人前いくらだ?」

「3000Bだ。」

「はぁ?」

「悪いな、兄ちゃん。この都市は税率が80%なんだ。」

「何だそれ?」

「1年前に今の皇王が着任してから、そうなったんだ。」

「おいおい、リコールしても良いんじゃないか?」

「先代の皇王が俺達の権利を保証してくれたから、誰も疑問に思わないんだ。」

「つまり、おやじさんはおかしいと思ってる?」

「あぁ、城の衛兵たちも蜂起の理由を探している。」


「よ~し、俺が皇王を沈めてくるから、その時はサービスしてくれ。」

「な、兄ちゃん大きな声でそんなこと言うと拘束されるぞ!」


「ご主人様を拘束?」

「マスターを拘束?」

「おわぁ、何処から涌いた?」おやじがサランを見て言う。

「私を蛆扱いするか?」

「まぁ、待てサラン、おやじさん、驚かせて悪かったな、4人分くれ。」

「あ、あぁ。わかった。」

「カードは使えないよな?」

「いや、支払が高額だから簡易端末がある。」

「これ使えるか?」俺はギルドカードを渡す。

「おぉ、ベカスカのカードか、大丈夫だ!」

「んじゃ、決済頼む。」

「おぉ、ありがとうな、って、Aランク?」

「あぁ、そうらしい。」

「マスターは、その程度のランクでは到底ありえない。」

「おや、気が合いますね、ご主人様がその程度のランクの訳はありませんわ。」


「いや、ギルドのランクは、こなした仕事によって決まるんだから。」

「俺は、そこまでこなしてないよ。」

「何をおっしゃいます、ご主人様、聞いておりますよ。」

「ん?何をだ?」

「私を含む、魔王9人を配下に置き、3人を屠ったと。」

「ななな、魔王?」屋台のおやじが腰を抜かす。

「あら、大丈夫ですよ、私はここにいるケイジ様に身も心も捧げましたので、貴方たちに危害は加えませんわ。」ヒドラが凄くいい笑顔で言う。

「我もだ。」イースも胸を張って言う。

「な、魔王が二人?」

「マスターはお優しいからな。」

「な、まま、まさか、サラマンダーの生体様ですか?」サランを見て何かを気付いたように屋台のおやじが言う。

「ん? あぁ、そうだ。」

「あ、あの、お代はサービスします。」そう言いながら屋台のおやじが俺にカードを返してくる。

「いや、ちゃんと決済してくれ。」俺は、カードを戻す。


「いや、でも。」

「俺は、そういうのは嫌なんだ。」

「・・・では、ありがたく。」そう言いながらおやじさんが端末を操作する。


「んじゃ、いただくか。」

「ヒドラ、イース奉納はいるか?」

「いえ、いりません。」

「私もです。」

「んじゃ、サランに奉納を。」

「マスター、ありがとう。」

「どれ。」俺は芋の天ぷらを口にする。

 サクッ!ホクホク!そして口に広がる素朴な甘さ。


「おぉ、懐かしい味だな!」

「ご主人様、美味しいです。」

「ケイジ様、これはなかなか!」

「マスター、熱燗が欲しくなる。」


「おぉ、皇王を潰したらもう一回来ような、サラン。」

「はい、マスター。」


「鰻は、皇王を屠った後にするか。」

「御意。」

「とりあえず、皇王の処に行こう。」

「はい、制裁のお時間ですね。」ヒドラがニコニコして言う。

「及ばずながら、私もお力をお貸しいたします。」イースも楽しそうだ。


「皇王、詰んだな。」俺は思う。



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