やらかしの39
「あぁ、そう言えば、オークの内臓は手に入るか?」
「え?内臓ですか?」
華厳の店で食事をしながら華厳に聞く。
「おぉ、そうだ、出来れば、新鮮な奴が良い。」
「いつも使っている肉屋に言えば可能ですが、何故でしょう?」
「いや、食べるんだ。」
「えぇ? オークの内臓をですか?」
「あぁ。」
「出来れば、バハローの肉や内臓も欲しいな。」
「け、ケイジ様?」
「ん? 何だ? 禁忌にでも触れたか?」
「いえ、そのようなことはありませんが。」
「美味いのですか?」
「さぁ。どうだろう?」
「でも、本来なら内蔵は安くて旨いものだぞ。」
「おぉ、ケイジ様がそう仰るなら。」
「ただ、バハローはダンジョンのみに生息していて、倒すと数匹に1匹がそのまま、魔石にならず残るそうです。」
「成程、だから高いのか。」
「しかも、そのダンジョンのフロアボスはミノタウルスとの事です。」
「ミノタウルス?」
「はい、私も、一度しか食したことはないのですが、意識が飛ぶほどの旨さでした。」
「おぉ、華厳がそれか、旨そうだ。」
「しかし、ミノタウルスは、レベルが100を超えるものも多く、狩れる者がいないのです。」
「あぁ、そう言う事か。 どこで狩れる?」
「は?」
「いや、バハローや、ミノタウルスはどこで狩れる?」
「このヤミノツウの北にある、マシクフにあるダンジョンです。」
「そこまでは、此処からどの位だ?」
「馬車で2日です。」
「紫炎、距離は?」
「ケイジ様の知る尺度では166㎞です。」
「え~っと、9跳躍か?」
「その程度です。」
「よし、狩ってくるわ。」
「は?」華厳が聞き返す。
「いや、だから、無いなら自分で調達してくる。」
「行きたい奴、挙手!」
「マスター、及ばずながら。」
「おぉ、サラン、よろしくな!」
「主、素材集めなら。」
「おぉ、ミーニャもか。」
「兄者、レベル100は無理だ。」
「にゃ、ムーニャは戦力外です。」
「旦那様、カリナも駄目そうです。」
「ケイジ様、私もご同行して良いですか?」
「おぉ、華厳が付いて来てくれるのは、色々な意味で心強いぞ。」
「ケイジ様、勿体ないお言葉です。」
「いや、俺は華厳を信頼しているぞ。」
「はぅ!」華厳が光り輝く。
「な、おい、華厳、大丈夫か?」
その光の中で、華厳が変質する。
水龍の上位、豪水龍種へ昇華した。
見た目は、より人間に近づいたが、以前より何故か崇高な気配が漂う。
「おぉ、これもケイジ様のお力なのですか?」
「違う。と思いたい。」
「ははは、流石はケイジ様です。種が変わり、前の種より5倍ほどすべての能力が上がっております。」
「おぉ、それは良かったな華厳。」
「御意!」
「なんだ、下克上はしないのか?」
「いえいえ、未だに瞬殺しか、未来が見えません。」
「堅実だな、華厳。」
「誉め言葉と受け取ります。」
「では、行くか。」そう言うと、ミーニャと華厳を虚無の部屋に入れる。
「んじゃ、行ってくるな。」
「主様、行ってらっしゃい。」
ムーニャの見送りを受けて、久しぶりに跳ぶ。
「わはは、やっぱり跳ぶのは気持ちいな!」
「普通の人間は恐怖するのですが。」
「え~、こんなに気持ち良いのに?」
「普通の人間は、その速度に耐えられません。」
「紫炎、何気に俺を、ディスってるか?」
「ははは、まさかぁ。」
「なんだ、その棒読み!」
「まぁ、良いや。」
そう言いながら、跳躍を8回繰り返した。
時刻はお昼を少しだけ回っていたが、マシクフの郊外に着いた、
俺は華厳とミーニャを虚無の部屋から出す。
「主、着いたにゃ?」
「おぉ、ミーニャは通常運転だな。」
「ここは?」華厳が辺りを見渡して言う。
「マシクフだ。」
「な、一瞬で?」
「いや、2刻程すぎてるぞ。」
「な、2刻ですか、たった。」
「腹が減ったな。」
「え?さっき食べたばかりにゃ。」
「あぁ、虚無の部屋は時間が止まるからミーニャ達はそう言う感じか。」
「ケイジ様、あそこに屋台が出ています。」
「おぉ、ちょっと腹ごしらえをするか。」俺はその屋台に向かう。
「へい、いらっしゃいませ!」
「おぉ、此処は何の屋台だ?」
「へい、焼き魚です。」
「ほぉ、どれ?」
「こちらを選んでいただいて、それを焼いてお出しします。」
水槽の中を、魚が泳いでいる。
「魚にゃ、主、ミーニャも食べたいにゃ!」
「華厳はどうする?」
「後学の為に、食したいです。」
「んじゃ、選べ。」
「ミーニャは、そのオレンジの線が入った奴にゃ!」
「では、私は、口元にひげが有るものを。」
「おやじ、水槽はこれだけか?」
「おぉ、兄ちゃん凄いな、こっちにもあるぞ。」
「おぉ、やっぱり、ではそこの岩の苔を食ってる奴を塩焼きで。」
「あいよ。」
「其れと、あの身体に丸い模様が有る奴を刺身でくれ。」
「な、兄ちゃん、刺身が判るのか?」
「あぁ。」
「おぉ、恐れ入るよ、俺らの仲間か?」
「いや、知識として知ってるだけだよ。」
「いやぁ、地場の者以外で刺身を知ってる奴は初めてだ。」
「ケイジ様、刺身とは?」
「おぉ、華厳、魚の身を生で食うんだ。」
「なっ、それは、寄生虫が!」
「一部の川魚は大丈夫なんだ。」
「かわざかな?」
「あぁ、川にいる魚だ。」
「え?」
「海にいる魚も一部は危ないが、ほとんど生で食える。」
「但し、獲った後できちんと温度管理をした物はだがな。」
「ケイジ様、海とは?」
「おぉ、そこの兄ちゃんは内陸育ちか?」
「あ? 私か? その通りだ。」
「兄ちゃん、川は、流れた先で海に繋がるんだ。」
「おぉ、そうなのか?」
「その通りだ、そして、海の水はしょっぱい。」
「おぉ、兄ちゃんは海を知ってるのか?」
「あぁ。」
「いやぁ、まさかマシクフで海を知ってる御仁に合えるとは思わなかったよ。」
「いや、知識だけだ。」
「がはは、気に入った! 今回のお代はまけとくぜ!」
「おぉ、悪いな。」
「70Bで良いぞ!」
「おい、元値が解らんから、まかった気がしないんだが?」
「普通なら80Bだ。」
「微妙にゃ。」
「微妙ですな。」
「いや、微妙でも一応まかってるからな。」そう言いながら俺は代金を払う。
「さかな~、さかな~。」ミーニャのテンションが高い。
「お待たせしました。」俺達の前に注文したものが置かれる。
「にゃ~、美味しそうにゃ。」
「おぉ、これはなかなか。」
ミーニャの前には、多分ニジマスの塩焼きが置かれた。
華厳の前には、鯉の素揚げに餡がかかった料理が置かれた。
そして、俺の前には鮎の塩焼きと、岩魚の刺身が置かれた。
「ご注文は以上で?」
「いや、皆にライシーと燗をくれ。」
「はい、承りました~。」
「ケイジ様?」
「いや、魚に合うんだ。」
「な、判りました。」
「お待たせしました~。ライシーと燗です。」
「おぉ、来た来た。」俺はそう言うと燗をミーニャと華厳に注ぐ。」
「な、ケイジ様、勿体ない!」
「良いから、乾杯だ!」そう言って俺はお猪口を差し上げる。
「にゃ、主、乾杯にゃ!」
「な、ケイジ様、乾杯です!」
おれは盃をあおる。
(く~、沁みる。)
「ケイジ様、この燗というものは良いですね、是非店で提供したいです。」
「おぉ、良いんじゃないか、ってか、提供してなかったのか?」
「え? パオやシャオマには合わないと思って。」
「煮卵やチャーシューにはラガーも燗も合うぞ。」
「おぉ、目から鱗が落ちる気分です。」
(こっちにもそのことわざがあるんだ。)
「んで、魚はどうだ?」
「主~、美味しいにゃ、お代わりほしいにゃ。」
「ミーニャ、好きなだけ頼んでいいぞ。」
「にゃ、主、マジ神、お兄ちゃん、さっきの魚をあと3匹にゃ!」
「承りました~。」
「で、華厳、目の前の魚でライシーを食ってみろ。」
「はい。」
華厳は目の前に置かれた「割り箸」を手に取ると目の前で二つに割る。
そして、華厳は自分の前の皿に置かれた魚に箸をつける。
揚げた魚の上に透明な茶色いドロリとしたものがかけられている。
(これは、知っている、餡というものだ、大元の料理に別の味を足すもの。)華厳はそう思いながら目の前の魚に箸を入れる。
意外に軽く身が剥がれる。
(これは、餡に絡めて身を食すのですな。)
(どれ?)華厳は口に入れる。
「うをぉ。」
(シャク、ジュワァ~。)口の中で旨さが弾けた。
「な、こ、これは。」
「美味いだろう。」ケイジ様が言うがその通りだ。
私は我を忘れて、魚とライシーを口に入れた。
目の前の魚の半身が無くなった頃、我を取り戻した。
「至高の味でした。」
「ほぉ。」ケイジが笑いながら言う。
「んじゃ、これも食ってみろ。」ケイジは岩魚の刺身を華厳の前に出した。
「これが刺身ですか?」
「おぉ、旨いぞ! 山葵醤に付けて喰え。」
「はい。」
華厳は恐る恐る口に入れる。
「ふわぁ。」口の中に魚が持つ油と旨味が広がる。
「そこでライシーだ。」
「はい。」ケイジ様に言われる通り、ライシーを口に入れる。
「な、な、な、この調和、至極です。」
「もう一回、今度は刺身と燗だ。」
「はい。」言われるままに刺身を口に入れ、燗を飲む。
「くわぁぁ。」口の中の旨さで意識が飛ぶ。
「にゃ、主、ミーニャも良い?」
「おぉ、良いぞ。」
「にゃ、いただきます。」と言って刺身を口にしたミーニャが固まる。
「ふにゃぁ~、こ、これはダメにゃ、自我が崩壊するにゃ!」
「つまり、旨いって事か?」
「ミーニャは、これの為なら命を差し出せるにゃ。」
「安いな。」
「其れほど美味しいにゃ。」
「んじゃ、好きなだけ食っていいぞ。」
「にゃ~、主、大好きにゃぁ。」
「おやじ、持ち帰りでそれぞれ10人前用意してくれ。」
「おぉ、それは良いが皿がないぞ。」
「あぁ、これに盛ってくれ。」そう言いながら虚無の部屋から大皿を数枚取り出す。
「今どこから出した?」
「あぁ、俺の魔法だ気にするな。」
「あ、あぁ。全部で7000Bだが、6500にまけとくぜ。」
「おぉ、サンキュウな。」そう言って俺はカウンターにBの入った袋を置く。
「処で、サランは要らないのか?」
「な、忘れ去られているかと思ったのです。」
「悪い悪い、何が食いたい?」
「全部。」
「おぉ、おやじ、全種類一人前追加な。」
「へい。」
「ニジマスと岩魚の刺身も後三人前追加にゃ。」
「へい。」
「ミーニャ、腹は平気か?」
「美味い物の前では無敵にゃ。」
「お待ちどう。」
「おぉ、サランに奉納を。」
「あぁ、マスター嬉しい。」
「ほれ、燗だ。」
「あぁ、マスター。」
「ふふ、美味しい。」
「ここに其々10人前置くぞ。」
「あぁ、サンキューな。」俺は置かれた皿を虚無の部屋に入れる。
「刺身は早めに食ってくれよ。」
「あぁ、大丈夫だ、時間は止まってる。」
「な、最高級のマジックバックを持ってるのか?」
「あぁ、其れで良いや。」
「兄ちゃん、よっぽど腕のいい冒険者なんだな。」
「いやぁ、違うよ、俺は只のケイジだ。」
「ケイジ?」
「あぁ、ケイジだ。」
「おぉ、聞いてるぜ、ベカスカに現れた精霊様の加護を持った奴。」
「え? あ、あぁ、それ俺だ。」
「おぉ、これは光栄だ、精霊様の加護持ちを接待したとは、うちの店にも箔が付くぜ。」
「ははは、こそばゆいぜ。」
「最後の分はサービスするぜ、その代わりサインをくれ。」
「サイン?」
「あぁ、このカウンターにこのナイフで名前を刻んでくれ。」
「あぁ、良いけど。」
「これで良いか?」
「おぉ、兄ちゃん、いや、ケイジ様、ありがとうな。」
「いや、どういたしまして。」
「これで、ケイジ様が来た店として広められるよ。」
「ははは、存分に使ってくれ。」
「あぁ、これで売り上げも倍増するってもんだ。」
「はは、あ~、聞いていいか?」
「なんだ?」
「ミノタウルスがいるダンジョンはここから近いのか?」
「な、あんた、あそこに行くのか?」
「あぁ、そのつもりだ。」
「かぁ~、精霊様の加護を貰った人は流石だなぁ。」
「いや、どうなんだ?」
「あぁ、この道を一刻進むと町外れになるが、そこから更に一刻進んだ所にあるよ。」
「管理はされてるのか?」
「まさか、あんな高ダンジョンは、低レベルの者は行かないよ。」
「それじゃ、スタンビートがおきないか?」
「ははは、ケイジ様のような高レベルの冒険者が適度に入っているから、大丈夫さ。」
「そうか。」
「おやじ、世話になったな。」そう言うと満腹で幸せそうな顔をしたミーニャと華厳を虚無の部屋に入れる。
そして、ダンジョンに向かって飛んだ。
「ふえ? おぉぉ、精霊様の加護持ちは本当にすごい。」
「ここがそうみたいだな。」ダンジョンの前で俺が言う。
ちょうどダンジョンから出てきた冒険者がいたので、情報を聞く。
「こんにちは。」
「え? あぁ、こんにちは。」
「何階層?」
「あぁ、2階層だよ。」
「首尾は?」
「運良く、バハローが残ったよ。」
「おぉ、それは良かった。」
「あぁ、これで2月は暮らせる。」
「おぉ、羨ましい。」
「ははは、これから潜るのかい? 幸運を祈るよ。」
「おぉ、ありがとうな。」そう言うと、ミーニャと華厳を虚無の部屋から出す。
「なぁ?今どこから?」
「ははは、魔法だ。」
「主、お腹が苦しいにゃ。」
「ケイジ様、申し訳ありません、私も腹が。」
(はぁ。)ため息をつくと、俺は二人を虚無の部屋に入れる。
(役に立たない奴らだ。)
そう思いながら、俺はダンジョンに入る。
少し長めの階段を降りると、一階層の扉があった。
「また虐殺かな?」
そう思いながら、その扉を開ける。
「「「「「ひぎゃぁぁぁぁ」」」」」
「はぁ。」俺はため息をつきながらそこに入る。
「マスター、この階層は制覇しました、バハローはいません。」
「お宝はあるか?」
「いえ、屑魔石だけです、採取しますか?」
「要らない。」
「次の階層に行こう。」
さらに長い階段を降りる。
「ここも蹂躙じゃぁないよな。」そう言いながら扉を開ける。
「「「「「「「あぎゃぁぁぁあぁっぁ」」」」」」
「はぁ、またか。」
「マスター、バハローの死体が一個あります。」
「死体って言うな。」
「それは虚無の部屋に。」
「はい。」
「ほかは?」
「幾つか、通常の魔石があります。」
「それも虚無の部屋に。」
「はい。」
「マスター、奥にフロアボスがいます。」
「なに?」
「ミノタウロスです。」
「おぉ、それは僥倖。」
「周りにほかの魔物は?」
「いません。」
「おぉ、では狩るか。」俺は口元がにやけるのを感じながら、腰の刀を抜いた。
ミノタウルスはその先に続く扉を守っているようだ。
ミノタウルスが俺に気付く。
「俺の言葉が分かるか?」一応声をかけた。
「ぶもぉぉぉ。」
「あぁ、良かった、話が通じたら食べるの躊躇するからなぁ。」
「ぶひひひぃ!」
「おっと。」ミノタウルスの斧の一撃を交わしながら、手に持った刀をミノタウルスに叩き付ける。
俺の数度にわたる斬激でミノタウルスは血達磨になった。
「ぶもぉぉ。」
「まだ、意識があるのか。」そう言いながら俺はミノタウルスの首を落とす。
「ケイジ様、舌は希少部位です。」
「な、そうなのか。」紫炎の言葉に反応して、俺はミノタウルスの舌を切り取る。
その途端にミノタウルスの首は消えて魔石になる。
「おぉ、危なかったな。」そう言いながらミノタウルスの舌を虚無の部屋に入れる。
「肉はどこが食えるんだ?」
「ケイジ様、下半身が食べられる部位です。」
「おぉ、舌と下半身だけか。」
「はい。」
「グロいけど、胴体を輪切りにするよ。」
「御意。」
「そのまま虚無の部屋に入れてくれ。」
「御意。」
「んじゃ、行くぞ。」
そう言ってミノタウルスの胴体を切断する。
上半身はそのまま魔石になった。
「ミノタウルス旨いな、魔石が2個もとれるのか。」
俺は、暫くこのダンジョンで狩りをしようと思った。
「サラン以外は何の為に着いてきたんだろう?」
「マスター、尺稼ぎの為では?」
「なんだよ、尺って。」
「大人の事情ですか?」
「要らないよ、そんなもん。」