やらかしの38
そして翌朝、ダンナーさんに事の顛末を告げる。
「と言う事で、何処に行けば良いでしょう?」
「それは、マッチーデ・エーラ・イーノ様の屋敷で良いんじゃないかな?」
「ほぉ。」
「マッチーデ・エーラ・イーノ様はこの町の領主様だからな、衛兵もいるだろう。」
「成程。」
「紫炎、繋いでくれ。」
「はい。」
「な、マッチーデ・エーラ・イーノ様の家が見えるのだが。」
「お義父さん、私の能力です。」
「ははは、流石ケイジ君だ。」
「ちょっと行ってきます。」そう言って俺はそこへ潜る。
「あ~。賊を捕まえたんですが、どうすればいいですか?」
「おわぁ、どこから現れた?」
「え~、さっきから此処にいましたけど。」
「な、おぉ、貴方はケイジ殿ですね。」
「おぉ、俺のことを知ってるんだ?」
「以前、マッチーデ・エーラ・イーノ様の指名クエストを受けられた時に、お顔を拝見しました。」
「おぉ、それは良かった、マッチーデ・エーラ・イーノ様に取り次いでくれないか?」
「賊の討伐なら此処で済みますが?」
「おぉ、それなら話が早いな。」
「では、此方へ。」衛兵が待機所に向かう。
俺はその後に続いた。
「牢屋はあるのか?」
「はい、地下に。」
「じゃ、そこで賊を出すよ。」
「はい、助かります。」
「こちらです。」衛兵が入り口を開けて言う。
「んじゃ、出すぞ。」そう言いながら俺はセッコーイとその仲間を虚無の部屋から取り出す。
「な、セッコーイ! お前は指名手配されているな。」
「手足が曲がってるのは気にするな。」
「気にしてくれぇ。」セッコーイが叫ぶが無視だ。
「まったく気にしません。」衛兵はそう言いながら入り口を閉め、鍵をかけた。
「それと、攫われてた姉妹も保護しているが、此処で出した方が良いか?」
「おぉ、それは、依頼主の処で開放されるのが良いと思います。」
「あれ?これはギルドの依頼になってるんだ?」
「はい。」
「あー、ギルドに行かないと駄目か。」
「いえ、賊討伐はここで精算できます。」
「え?」
「ここにも、ギルド関係の清算ができる端末がありますので。」
「でも、ここのシステムは簡易的なので、金額の清算のみです。」
「んじゃ、清算よろしく。」俺はギルドカードを渡す。
「はい、承りました。」
「賊の確保、100Gです。」衛兵は端末を操作すると俺にカードを渡してくる。
「おぉ、サンキュ!」俺はそれを受け取る。
「じゃ、後はよろしくな。」
「この度は、ご苦労様でした。」衛兵は俺に向かって敬礼をした。
「紫炎、カリナの家に。」
「はい。」
いつものように俺はそれを潜った。
「ただいま。」
「おぉ、ケイジ君、早かったな。」
「お義父さん、誘拐された姉妹の家はどこですか?」
「あぁ、そこの窓から見える、赤い屋根の家だ。」
「あれですか?」
「織物問屋のドレースさんの家だ。」
「では、ちょっと行ってきます。」
「ん?」
「姉妹を送ってきます。」
「おぉ、凄いなケイジ君。」
「ここかな。」
物凄く立派な門の両脇には、門番の男が立っていた。
「ドレースさんの家はここで良いのかな?」
「何者だ?」
「俺はケイジ、ゴウショーノ家のカリナの夫だ。」
「おぉ、ゴウショーノさんのお身内でしたか、して、どのようなご用件で?」
「お嬢さん達をお連れした。」
「は? あなた以外、誰もいないではないですか。」
「あぁ、ほい。」俺は虚無の部屋から二人を出す。
「あれ? ここ何処?」
「お姉ちゃん、お家だ。」
「おぉ、どこから?」
「んじゃ、届けたぞ。」俺は帰ろうとする。
「ちょ、ちょっとお待ちください、このままお返ししたら旦那様に叱られてしまいます。」そう言って門番が俺の前に出る。
「おい、旦那様に連絡を。」
「はい。」そう言って、門番の一人が門の中に入っていった。
「お兄ちゃん。」妹の方が俺の袖をつかむ。
「ん?」
「助けてくれてありがとう。」
「どーいたしまして。」
「ほら、お姉ちゃんもお礼言わないと駄目だよ。」
「あ、ありがとう。」
「おぉ、お前たち、無事でよかった。」
「あ、お父さん。」
「怪我はないか? どこか痛いところはないか?」
「うん、大丈夫。このお兄ちゃんが助けてくれたの。」
「おぉ、君が、礼を言う、ありがとう。」
「いえいえ、大したことじゃ。」
「是非、家に寄って行ってくれたまえ。」
「いや、そんな。」
「頼む、礼もしたい、どうか。」
「じゃぁ、少しだけ。」
「おぉ、ありがたい、では、此方へ。」
俺は、家の中に招かれる。
玄関先には、母親らしき女性と、この家の執事やメイドが並んでいた。
「あっ、お母さんだ。」そう言って姉妹たちは駆け出した。
「あぁ、よく無事で。」母親はしゃがんで二人を抱きしめた。
「あぁ、お前、こちらの方が娘たちを助けて下さったお人だ。」
「まぁ、本当にありがとうございます。」
「いえ、いえ、大したことじゃ。」
「さぁ、入ってくれ。」そう言って俺を家の中へと案内する。
(まぁ、この家もでかい屋敷だな。)そう思いながら応接室らしきところに通された。
「まぁ、座ってくれたまえ。」ソファを進められたので俺はそれに座る。
反対側にこの家の主人が座る。
「私は、ドレースと言う、この度は我が娘たちを救っていただき、感謝する。」そう言うとドレースは深々と礼をする。
「まぁ、俺の嫁も狙われたからな、ついでだよ。」
「おぉ、それは。そう言えば、まだお名前もお伺いしていなかった。」
「あぁ、俺はケイジだ。ゴウショーノ家のカリナの夫だ、よろしく。」
「おぉ、ゴーショウノさんの、まさか同じ賊が?」
「あぁ、昨日侵入してきたからな。」
「では、賊たちは?」
「牢屋の中だ。」
「おぉ、ではケイジ殿が?」
「あぁ。」
「失礼いたします。」ドアからメイドがワゴンを押して入ってきた。
そして、紅茶を煎れて俺の前に置く。
「ありがとう。」俺はメイドに礼を言うとカップを持つ。
「おぉ、良い茶葉ですな。」俺は香りを楽しんで言う。
「ははは、お分かりになりますか? 私の趣味でして。」
「良いご趣味です。」
「旦那様、ご用意出来ました。」執事がドレースの横に来て袋を手渡す。
「おぉ、ご苦労。」
「ケイジ殿、こんな形でしか礼ができないが受け取ってくれたまえ。」ドレースはその袋を俺の前に置く。
「これは?」
「私からの気持ちだ。」
「拝見しても?」
「もう君の物だ、ご自由に。」
その中には宝石が入っていた。
「ギルドマネーが用意できなかったので、申し訳ないがそれで勘弁してほしい。」
「いや、受け取れないですよ。」
「感謝の気持ちだから、どうか受け取ってくれたまえ。」
「ん~、あ、ギルドにも依頼しているのではないですか? 俺はそれだけで十分ですよ。」
「あぁ、そちらも受け取ってください。ケイジ殿が娘たちを連れてきてくれた事、ギルドに連絡しておきます。」
「はぁ、判りました、頂いておきます。」
「おぉ、是非そうしてください。」
「では、そろそろ。」
「え? お食事を食べて言ってください。」
「いえ、カリナが、嫁が待っていますので。」
「そうですか。」
「では、これで。」
「はい。」
「玄関に行くと、着替えた姉妹と、母親が待っていた。」
「お兄ちゃん。」妹が俺に抱き着いてくる。
「おぉ、元気でな。」
「うん。ありがとうね。」
「ケイジ様、この度は本当にありがとうございました。」母親が深々と頭を下げる。
「ケイジ殿、今一度礼を言わせてくれ、本当にありがとう。」
「いやいや、大したことはしてないですから。」
「では、失礼します。」にっこりとほほ笑んで玄関を出る。
「門まで送るよ。」
「いえいえ、必要ありません。」
(紫炎、カリナの家に。)
(はい。)
「おぉ、これは?」
「俺の魔法です。」
ふと、思い出す。(そういえば、あれが残っていたな。)俺は妹の前に行くと、虚無の部屋からシャオマが乗った皿を取り出す。
「ヤミノツウで俺が作ったものだ、辛子醤で食べてくれ。」
「え? え? 今どこから出したの?」
「ふふふ、魔法だ。」
「それでは。」そう言って俺は潜る。
「ふぇ~、消えちゃった。」
「お、お、お、ゴウショーノさんは凄い婿を・・・」
「ケイジ様凄い。」
「おぉ、そういえば先ほど貰ったものは何だ?」
「ヤミノツウでお兄ちゃんが作ったって。」
「すごく良い匂いです。」
「お皿に水龍って書いてある。お店の名前かな?」
「ねぇ、これ凄く熱いよ。」
「な、ケイジ殿はマジックバックも持っているのか?」
「ねぇ、とにかく熱いうちに食べてみましょう。」
「おぉ、では食堂に。」
「な、これは。」
「なんという肉汁でしょう。」
「お、美味しい。」
「お父様、私、ケイジ様のお嫁様になりたい。」
「お姉ちゃんずるい、私もなりたい。」
「いや、ケイジ殿にはゴウショーノさんの娘さんが嫁になっているようだが。」
「私は気にしない。」
「お姉ちゃん、ずるい。私も気にしないもん。」
「では、その時が来たらゴウショーノさんにお願いに参りましょうかね。」
「お前たち、お父さんは悲しいよ。」
ドレース一家が、華厳の店の常連になったのは別の話だ。
この回はスルーだな。