やらかしの3
「あれ、疾風のミーニャだよな。」
「おぉ、掏られても気付かないって言う。」
「いや、でも、あれ服従の首輪だよな。」
「え?何が起きたんだ?」
「ついにお縄になったのか?」
「流石、英雄は違うわ。」
「そう言えば、さっき、屋台の辺りで、公開求婚があったって話だけど。」
「これかぁ。」
周りの雑踏がうるさいが、俺は受付に行く。
「お帰りなさいませ、ケイジ様」受付の獣人のお姉さんがミーニャを見て軽蔑の視線を送る。
「ミーニャ、年貢の納め時だね。」受付のお姉さんが牙を見せながら言う。
しかし、ミーニャがなんかのポーズをしながら言う。
「あたしは、此処にいるお方に身も心も捧げたんだ。」
「え?」受付の獣人が固まる。
「なんですと?」いや、言葉が変になってるよ。
「えっと、どうすれば良いんですか?」俺は受付のお姉さんに問う。
「え、あ。すみません、ギルドカードを出してください。」
「え?はい。」と言いながらギルドカードを渡す。
受付のお姉さんがカードを端末に翳すと、お姉さんが読み上げる。
「市場に暗躍するスリの討伐クリア、600Gです。」
「クリア報酬を振り込みます。」
「では、その個体はギルド預かりでよろしいですか?」
「あー。その件なんですが。」
「はい?」
「奴隷堕ちする奴を救済するには、どうすれば良いのでしょう?」
「え?、ケイジ様は、そこのミーニャを所有したいという事ですか?」
「奴隷堕ちを回避するって意味なら肯定します。」
「はい、了解しました。今現在、ミーニャは貴方の所有物になっていますので、ミーニャの懸賞金の800Gをお支払いいただければ、貴方にミーシャの生殺与奪の権利を譲渡いたします。」
「んじゃ、決裁して。」俺はカードを渡す。
「かしこまりました。」受付のお姉さんが、端末を操作する。
「これで、ミーシャに対するあらゆる権利はケイジ様に委託されました。」受付のお姉さんが言う。
「ケイジ様、私も下僕に・・・」
「え?なんか言いました?」
「い、いえ、何も。」
俺はカードを受け取ると、カードを額に当てて「照会。」と言う。
カード所有者:ケイジ
ギルドランク:A
ギルド預金:225G
従属者:獣人:ミーニャ(師従契約)
(あれ?結構使ったと思ったのに、そんなに減ってないって事は、ミーニャのクエスト結構美味しかったのかな?)
「あ、ついでに3G程両替して下さい。」
「かしこまりました。」
「それを入れられる袋があったら、それもお願いします。」
「サービスの袋がありますので、それに入れますね。」
俺はその袋を受け取ると、ミーニャに渡す。
「え?」ミーニャが驚愕する。
「な、なんで?」
「お前がスリをやってたのは、どうせ幼い兄弟を食べさせるためだろう。」
「え?なんでそれを?」
「簡単な推理だよ。」
「まず、さっきも言ったが、お前可愛いよな。」
「にゃ、何を?」ミーニャが顔を赤くする。
「その器量があれば、食堂や酒場で給仕の仕事でもすれば稼げるはずだ。」
「更に、さっきの身体能力を生かせば、冒険者も可能だよな。」
「それが出来ないのは、本人が怠け者か・・・保証人がいなくて働けないかだよな。」
「カウンターのお姉さん、ミーニャの罪状はどんなもんですか?」
「俺の感だけど、被害は数件じゃないかな?」
「え?はい、スリ被害の報告は4件です。」
「お前は、屋台での金払いを見て、裕福そうな奴からだけスリをしてたんだろう?」
「そ、そうだにゃ。」
「しかも、少しだけ盗んで、残りは返す。」
「う、その通りだにゃ。」
「きっとこいつは、数十回以上の盗みをやってますね。」
「そ、それでは厳罰に値します!」受付のお姉さんが叫ぶ。
「証拠は?」
「え?それは・・」
「ないですよね、じゃあ、やっぱり4回だけなんですよ。」
「盗まれたことにも気が付かないお金持ちだけから盗む。」
「痛快じゃないですか。」
「しかも、自分の欲のためじゃない。」
「何でそんなことが判るのですか?」受付のお姉さんが言う。
「彼女の身なりを見れば、想像が出来ます。」
「彼女が身に付けている服には、丁寧な継ぎはぎが何か所もあります。」
「自分の事は、後回しにしているって事ですね。」
「でも、彼女からは嫌な臭いがしない。」
「健康に、清潔に気を付けているのでしょう。」
「それなのに、スリと言う悪事に手を染める必要があった。」
「もし、親が病気と言うなら、少なくとも保証人はクリアできますね。」
「それが出来ないという事は、彼女には親がおらず、幼い兄弟がいると考えつきます。」
見るとミーニャが下を向いて泣いている。
俺はミーニャをそっと抱きしめると、「ごめんな。」と謝罪する。
「ううん、良いんだにゃ。その通りなんだにゃ。」
「これからは、俺がお前の保証人になってやるからな。」
「うぅ、主、ありがと・・・」ミーニャは俺の胸に顔を埋めて泣いた。
俺は、ミーニャの頭を優しくなでてやった。
ふと周りを見ると、皆目を赤くしている。
中には号泣している奴もいるよ。
(いや、こんな話、こういう世界ならその辺に転がってるだろう。)俺がそう思っていると、
「ミーニャ、つらく当たってごめんね、あたし気付かなかったよ。」
受付のお姉さんがぼろぼろと涙を流しながらミーニャの手を取っている。
「お、俺、ミーニャに寄付するぞ。」そう言いながら男がポーチから1G金貨を取り出す。
俺はそれを見て言う。
「お気持ちは嬉しいですが、ミーニャは今後、俺が守りますから!」
その男は、俺の言葉を聞くと
「お、おぉ、そうだったな、英雄が保護したんだな、あはは、俺の寄付なんか無粋って事だな!」
「お気持ちだけありがたく。」俺はそう言うとその男に拳を突き出す。
「おぅ!英雄の気概見せてもらったぜ!」その男が俺の拳に拳を合わせる。
(実は、サポートさんが全部教えてくれていた。)
(ありがとう、サポートさん。)
(どういたしまして。)
「ミーニャ、とりあえずその金で食い物や日用品を買って、お前の兄弟に食わせてやれ!」
「うん、主?」
「今から明日の朝まで、自由行動を許す!」
「ケ、」
「あ?」
「ケイジ、あたしは身も心もあんたに捧げるにゃ。」
「解ったから、行ってこい。」
「分った、ケイジ、愛してるにゃ。」そう言うとミーニャはその場から姿を消した。
「え~、良いなぁ。」受付のお姉さんが呟くが無視することにした。
俺は、カッター達がいる部屋に向かった。
「お待たせ。」
「がはは、ケイジ!聞いたぜぇ。疾風のミーニャを妻にしたって?」
「け、ケイジ様、この数時間で凄腕ですね。」
「いや、なんか色々違いますけど、面倒くさいので、其れで良いです。」
「ケイジ様、エルフの妻には興味ありませんか?」
「興味はありますが、今回の件は色々誤解の賜物なのでノーコメントです。」
「あら、それは今後に期待して良いと?」
「すみません、展開についていけてないです、」
「がはは、ケイジ、そろそろ行こうぜ。」
「了解だ。」
俺とカッターはギルドを出て高級住宅街を目指す。
ギルドを出て少し歩くと、高級住宅地に出る。
ダンナーさんの邸宅はその奥にあるみたいだ。
「俺、普通の服ですけど。」
「何言ってるんだ、冒険者はそれが正装だ。」
「え?其れで良いの?」
「当たり前だろう、それが冒険者だ、招待する方もそれを解って招待してるんだ。」
「へーそう言う者なのか。」
しばらく歩くと、ダンナーさんの邸宅に着いた。
「何これ?城?」
そこは邸宅と言うには、あまりにも立派な砦が立っていた。
「愛してるにゃ!」
「いや、そう言うの良いから。」
「照れなくても良いにゃ。」
「アイリーンさんのお誘い、気になるなぁ。」
「にゃ、今からあいつ敵だにゃ。」
「受付のお姉さんもありかな。」
「ちょ、犬獣人に浮気するのは許さないニャ!」
「あれぇ、妻は何人いても良いって言ってなかったっけ?」
「言ったけど、嫌にゃ。」
「ふふふ、ミーニャは可愛いなぁ。」
「にゃ、にゃ、にゃにを言ってるにゃ!」
(ふふふ、暫くはこれでネタになりますね。)