やらかしの23
「おぉ。ヤミノツウって結構開けてるんだな。」少女に手を引かれながら俺は周りを見てそう言う。
その通りは、馬車がすれ違えるほどの道幅がある町で、その道の両端には店が並んでいた。
「おぉ、此処もラメーンやパオの店が沢山あるんだな。」
そこにある店は、ラメーンやパオを推したメニューが店頭にいくつも並んでいた。
「おぉ、なんか美味そうな店がいくつもあるな。」俺が思うが
少女は、それらの店を無視して、街角のある一軒に俺を導いた。
「此処が美味いのか?」
こくこく。少女が頷く。
「おぉ、それは楽しみだな。」
しかし、少女は俺を裏口に案内する。
「ん?こっちが正面か?」俺が言うと少女はフルフルと横に首を振る。
「ん?」俺が疑問に思うと、その店の裏口から魔族の男が顔を出し、少女に声をかける。
「おぉ、あやちゃん、腹が減ったのか?」
あやと呼ばれた少女は、首を横に振る。
「ん?え?おぉ。」その魔族は俺を見て驚愕している。
「ケ、ケイジ様。」
そこには、俺がやみのつうに店を出せと言った、水龍の顔があった。
「おぉ、水龍だったな、久しいな。」
「ケイジ様こそお変わりなく。」
「おぉ、俺の言いつけを守ったようだな。」
「ははぁ。お言いつけ通り、やみのつうで店を開店いたしました。」
「おぉ、なかなか流行ってるみたいだな。」
「いえ、ルズイの方でパオの新種が発生して、パオは苦戦しています。」
(げ?その原因は俺か?)
「此処のパオは焼きと何だ?」
「ルズイの手法をまねて、焼き、蒸し、揚げです。」
「成程。」
「水龍、お前に名を与えよう。」
「な、光栄です。」
「今から、お前は華厳と名乗れ、俺の世界の名瀑の一つだ。」
「おおおお、拝命いたしました。」
「で、お前にパオの調理法の一つを開示する。」
「ははぁ、仰せのままに。」
「海老と言う物は解るか?」
「は、海の国にそれに似たものが有ります。」
「では、パオの具に、それのみじん切りを加えよ。」
「は、仰せのままに。」
「それは海老パオと命名して、普通のパオより10B高くしろ。」
「は。」
「それとな、パオの皮は誰が作っている?」
「私です。」
「おぉ、優秀だな華厳。」
「お褒めにあずかり光栄です。」
「パオより少しだけ薄めの皮は作れるか?」
「造作もなく。」
そう言いながら、厨房に入ると華厳は皮を作る。
「おぉ、凄いな。」そう言いながらその皮を手に取り俺が言う。
「この皮を、こういう風に親指と人差し指で作った円に乗せて、パオの具を乗せて、押し込むんだ。」
俺は実際にやって見せる。
「おぉ。」華厳が驚愕する。
「それを、蒸してみろ。」
「パオとは違う物になるはずだ。」
「おぉぉ、流石です、我が主。」
「具はパオからニラを抜いて、玉ねぎを入れると良いだろう。」
「食べる時には辛子醤を使え。」
「辛子ですか?」
「そうだ、それを使う事で、客はパオとは違う物だと判断し、注文する。」
「断定ですか?」
「あぁ。」
「なんという食べ物ですか?」
「そうだな、シューマイ、いやシャオマにしよう。」
「シャオマ。」
「ラガーと合うぞ。」
「さ、早速試作してみます。」
「ところで、この娘は?」
「え?あぁ、うちの孤児院で保護した者です。」
「孤児院?」
「おや、ケイジ様が遣した者が、孤児を集めて保護しておりますが?」
「あぁ、なるほど。」
(孤児院からここに来た奴だな。)とケイジは思う。
「その娘は、流行り病の影響で、片耳の音と声を無くしています。」華厳が言う。
(あぁ、だから声が聞きづらくて、俺の跳躍に巻き込まれたのか。)
(ケイジ様なら、治療可能です。)
(な、紫炎本当か。)
(ヒールの最上位、ラ・ヒールなら可能かと。)
俺はしゃがんで、あやちゃんと顔の高さを合わせる。
「あやちゃん、俺が治してやる。」
「?」あやちゃんは首をかしげる。
「け、ケイジ様、そのような事が?」
「ラ・ヒール!」
俺自身が一瞬輝く。
「さぁ、あやちゃん、俺に名前を教えてくれ。」
「え?」
「あれ?」
「声が出る。」
「おぉ、さ、流石ケイジ様、感服しました。」華厳がひれ伏す。
「あぁ、華厳、大したことじゃないから、あと、ちゃんと手を洗えよ。」
「はは!」
「お兄ちゃん、ありがとう、あたし「あや、みかんな」っていいます。」
「おぉ、俺はケイジだ、よろしくな。」
「うん。」
「あやちゃん、俺を君の友達の所に連れて言ってくれ。」
「いいよ。」
「華厳、ちょっと行ってくるから、試作よろしくな。」
「はは。」
「こっちだよ。」あやちゃんは俺の手を引いて店の裏口から出て行く。
目と鼻の先に、其処はあった。
「ここだよ。」と言って、一軒の家に入っていく。
そこは、俺が知る昔の農家の家だった。
かなり広い庭には、畑があり色々な作物が植えられている。
その畑では、多分孤児たちなのだろう、子供たちが作業をしていた。
家は、まるで昔の日本家屋のように縁側があり、その奥には20畳ほどの板の間が広がっている。
「おぉ、ケイジ様。」
そう言って一人の男が近づいてくる。
「お久しぶりです。」そう言った男は、孤児院を襲撃した男だった。
「約束は守ったようだな。」
「はい。猛省しています。」
「結構な事だ。」
「は。」
「孤児を保護していると聞いたが。」
「はい、やみのうつは第4位空王ラドーンと第7位時空魔人シンの領地争いの影響で民間人に大きな被害が出ていまして。」
「ぶっこんで来るな。」
「え?」
「魔王討伐が必要って事だろう。」
「そうですね。」
「軽く言ってくれるな。」
「いや、そ、そんな事は。」
「しかし、ラドーンは配下がいるのだろう?何故派閥のないシンと拮抗しているのだ?」
「私も詳しく知らないのですが、シンには魔王の部下はいないのですが、それに匹敵する魔族の配下が数百人いると噂されています。」
「あ~、数は力だってか。」
「よく知りませんが。」
「とりあえず、覚えておくよ。」
「はい。」
「んで、此処に来たのは、子供たちの中に怪我や病気、此処に居るあやちゃんのように何かの後遺症になっている子はいるか?」
「え?」
「あや、お兄ちゃんに治してもらったの。」
「え?あやちゃん、声が。」
「耳も聞こえるんだよ。」
「な、それなら此方へ。」
そう言いながら、その男は家の中に入っていく。
板の間の更に奥に同じような広さの部屋があり、そこには20人程の子供が粗末な布団に寝かせられていた。
「ここの子供達は、流行り病に侵されています。」
(紫炎、個別に治療が必要か?)
(いえ、此処でラ・ヒールを発動すれば全員に恩恵が注がれます。)
「ラ・ヒール。」先程と同じように俺の身体が発光する。
その途端に、部屋のあちこちで声が上がる。
「あれ、痛くない。」
「あぁ、動ける。」
「手が、手が元通りになってる。」
「足があるよ。」
「け、ケイジ様。」そう言いながら男が俺の足に額を付ける。
「いや、そう言うの良いから、他には?」
「あ、こ、こっちです。」
隣の部屋にも同じような子供たちがいた。
「ラ・ヒール。」
「あれ?苦しくなくなった。」
「あたし、動けるよ。」
「身体が軽い。」
「呼吸が楽。」
「皆、聞いて。」あやちゃんが叫ぶ。
「此処に居る、ケイジお兄ちゃんが治してくれたんだよ。」
「え?」
「だれ?」
「ケイジお兄ちゃん?」
「え?あや、喋ってる?」
「あたしの声も、取り戻してくれたんだよ。」
「「「「「え?」」」」」
「「「「「「「「「「「?」」」」」」」」」」」
途端に沸き起こる、悲鳴にも似た喝采。
「お兄ちゃんありがとう!」
「兄貴、ありがとう!」
「ありがとう!」
「あぁ。」その怒号の中、俺は手をあげて答える。
「これだけか?」
「はい、これで全部です。」
「そうか。」
「皆。」俺がそう言うと途端に全員が黙る。
「これからは、俺がお前たちの親だ。」
そこにいる全員が固まった。
「何かあったら、ここの・・・」
「お前、名は何という?」
「え?」突然振られた男が固まる。
「お前の名は?」
「あ、はい、私はモブです。」
「此処に居るモブに言え。」
「そうすれば、俺にその声が届くようにしておこう。」
「とりあえず、今問題点はあるか?」俺が聞くがどよめくだけで誰も答えない。
すると、隣にいたあやが俺の袖を引っ張る。
「ん?あやちゃん、何だ?」
「お風呂。」
「お風呂?」
「お風呂が狭いの。」
「え?」
「うん、そうだよね。」
「そう。」
「狭い。」何人かの子供が口々に言う。
「何処だ?」
「こっち。」俺の問いに、あやちゃんが手を引く。
裏口から表に出ると
「な、何だこりゃ?」
そこにはドラム缶があった。
「五右衛門風呂かよ。」
「いやぁ、そこまで手が回らなくて。」モブが頭を掻く。
「ふむ、広さは充分にあるな。」俺は周りを見て言う。
「おい、此処の土地は所有してるのか?」
「いえ、借地です。」
「では、地主か、管理している者の所に連れていけ。」
「はい、仰せのままに。」
「あやちゃん、聞き届けた。」そう言いながらあやちゃんの頭を撫でる。
「うん。」あやちゃんはにっこり微笑んだ。
俺達は商業ギルドに来た。
「ケイジ様こちらです。」モブがそう言いながら、商業ギルドのカウンターに案内する。
「これはこれは、ようこそいらっしゃいませ。私、土地家屋担当のジアゲーと申します。」
「おぉ、俺はケイジだ、よろしくな。」
「はい、で、この度はどのようなご用件で?」
「こいつが孤児院を開いている土地を買い付けたい。」
「おや、そちらの方は、この間家屋付きの土地を借りたお方ですね?」
「少しお待ちください。」そう言いながらカウンターの男が離席した。
「お待たせしました。そちらの土地は借地権が設定されていますが、金額によって譲渡が可能です。」
「いくらだ?」
「10,000Gです。」
「んじゃ、決済してくれ。」俺はカードを出す。
「へ?」
「ん?」
カウンターの男と俺は見つめ合う。
「し、失礼いたしました。」そう言いながら男はカードを機械に入れる。
「け、決済完了いたしました。あの土地は貴方に所有権が移りました。」
「あと、増築を頼みたい。」
「はい、どのような?」
「今ある家屋の裏に浴場の施設を。」
「浴場ですか?」
「あぁ、男女別で十数人が一緒に入れる広さのな。」
「え~と、結構値が張りますが。」
「構わないぞ。」
「3000Gですが。」
「今すぐ取り掛かってくれ。完成は何時ごろだ?」
「21日ほど下さい。」
「解った、作業する者は何人いる?」
「15人程かと。」
「では、そいつらに100G程ボーナスを払って、任せると伝えてくれ。」
「おぉ、職人も気合が入るでしょう。」
俺達は華厳の店に帰る。
そこでは孤児たちが、俺が華厳に伝えたシャオマを頬張っていた。
「ケイジ兄ちゃん、これ美味い!」
「あたし、パオよりこっちが好き。」
「辛子醤がシャオマに合う!」
「ケイジ様、これは売れますよ。」
「当然だ。」
「は、失礼いたしました。」
「どれ、俺にも食わせてくれ。」そう言うと、あちゃんが俺にシャオマを箸でつまんで差し出してきた。
「お兄ちゃん、どうぞ。」
「おぉ。」俺はそれを口にする。
「美味いな。」
「えへへ、嬉しい。」あやは頬を染める。
「おっと、忘れてた。」そう言いながら、虚無の部屋から嫁さんズを出す。
「主様ここがやみのつうですか?」
「主、、あれ?ここ何処?」
「旦那様。ここは?」
「兄者、この者達は?」
「あー、此処はやみのつうで、此処に居る者達は俺の配下と、孤児たちだ。」
「ケイジ兄さま、この人達は?」あやちゃんが俺の袖を引いて言う。
「あ~。訳あって、俺の嫁になった者と、俺の義兄弟だ。」
「はぁ、ケイジ兄さまは懐が広いのですね。」
「でも流石、私のケイジ兄さまです。」そう言いながらあやちゃんが俺の首に飛び付く。
「な?」
あやちゃんは、そのまま俺に口付してにっこりと微笑んだ。
「お姉さま方、あたし「あや」と言います。」
「ケイジ兄さまのお嫁様の末席に加えて下さい。」
「はい、一緒に主様にお仕えしましょう。」
「主の嫁は何人でもオッケーにゃ。」
「旦那様のご寵愛を一緒に受けましょうね。」
「兄者の嫁は何人でも大丈夫だ。」
「ちょっと待て、あやちゃん、歳は?」
「え~、女性に歳を聞くとか、ありえないんですけど。」
「いや、大事な事だから。」
「あたし12歳だよ。」
「いやいや、成人は16歳だろう、駄目じゃん。」
(ケイジ様、人族の場合、保護者が承諾すれば12歳から婚姻可能です。)
(いや、保護者いないよね。)
(保護者がいない場合、12歳から本人の意志で婚姻が可能です。)
(それ、断ったら?)
(その方に婚姻不適合者の烙印が付き、一生婚姻できなくなります。)
(詰んでるじゃん!)
(ケイジ様が、目の前の娘に地獄を味合わせる覚悟があるなら、容易な事です。)
(それをやったら、俺は鬼畜と呼ばれるんだな。)
(肯定します。)
(理不尽だ~。)
「はぁ、あやちゃん、いやあや。」
「はい、兄さま。」
「皆と仲良くしてくれ。」
「はい。」あやはすごく良い笑顔で微笑んだ。
なんか、済し崩しに嫁さんが増えて行くんだが。
おぉ、作者も信じられないってよ。
ちょ、何だそりゃ。
良い意味で、キャラが暴走してるんだな。
いや、良い笑顔で言われても。
大丈夫、何とかなるさ!
何だその丸投げ!