やらかしの21
「此処がトギスか。」ベカスカから数km跳んで、俺は周りを見渡しながら言う。
「何もない所ですね。」サランが言う。
「まったく、こんな辺境にばかりダンジョンを作るって、どんなもんだよ。」
「いきなり高レベルになっているので、スタンビート狙いかと。」
「うわぁ、最低だなそれ。」
「とにかく、ダンジョンを滅ぼしてから、リキードを滅ぼそう。」
そう言って、ダンジョンの入り口にたどり着く。
「此処で良いんだよな。」
「御意!」
「サクサク行くぞ。」そう言いながらダンジョンに入る。
「「「「「「「みぎゃぁぁあぁっぁぁ。」」」」」」」当然のように起こる虐殺の叫び。
「凄く罪悪感を感じてるんだが。」
「マスターの個性です。」
「この階層は全滅だにゃ。」
「屑魔石はほっといて良いぞ。」
「解ったにゃ。」
「御意。」
「一個だけ上級魔石があったにゃ。」
「おぉ、ミーニャありがとな。」俺はミーニャの頭を撫でる。
「ふにゃぁ、あ、主の為、当然にゃ。」
「さて、何階層あるのかな?」
(5階層です。)
「おぉ、紫炎流石だな。」
「んじゃ、サクサク行くか。」
「御意。」
「んで、2階層だな。」
「主、パーっと行くにゃ!」
「いや、一応身構えようぜ。」
「「「「「ふぎゃあぁぁぁぁぁぁ」」」」」
「またか。」俺は目を覆う。
「主様に歯向かう者は殲滅にゃ!」ケラケラとミーニャが笑う。
「主、何個か普通の魔石があったにゃ。」
「おぉ、ミーニャ、サンキュウな。」
3階層と4階層も同じ結果で、普通の魔石が数個。
「う~ん、いきなり高レベルじゃないな。普通のダンジョンなんじゃないか?」
「いえ、マスター、リキードの魔素を感じます。」
「んじゃ、やっぱりなのか?」
「御意。」
「とにかく進むか。」
「マスター、この下に凄い者の存在がある。」
「あ、主、ミーニャにも判るにゃ、身体が竦むにゃ。」
「ふ~ん、じゃあミーニャはここで待っててくれ。」
「主、気を付けるにゃ。」
「おう。」
5階層までは、長い階段が続いていた。
階段の先には、テニスコート程の広場があり、安全地帯になっているようだ。
「んー。このダンジョンは狩場に丁度いいな。」
俺はそう思う。
「ボス次第では残しても良いかもな。」
「マスター、資源提供には最適だと思います。」
「サランもそう思うか?」
「御意。」
「さて。」
安全地帯の向こう側に、豪華な扉が見える。
「あそこがボス部屋か。」
「御意。」
「何がいるかわかるか?」
「すみません、判りません。強大な者としか・・・」
「まぁ、入ればわかるか。」
俺はそう言いながら扉を開ける。
その先には、かなり広い広場が展開していた。
「何もない場所か?」
俺がそう言うと、震える声でサランが言う。
「マスター、リキードだ。」
「は?」
「ふはははは、お初にお目にかかる。我が名はリキード。魔王36柱の第20柱を申し付けられたものだ。」
「サラン、柱は誰かが決めてるのか?」
「マスター、多分自己申告かと。」
(凄まじい中二かよ。)
「リキードに問おう。」俺が言う。
「なんだ?」
「お前に20位を与えた者は誰だ?」
「な。いや、それは。」
「重ねて問おう、キクを狙う真意を。」
「キクを狙う?」
(おや?疑問形か?)
「それはな、土産を持って、ナーガ様に仕えるためだ。」
「おぉぅ、謀反か?」
「ムホン?それが何かは知らんが、バラン様に仕えても、俺の待遇が変わらんのだ。」
「ほぉ。」
「ナーガ様なら、俺の力量を理解してくれると言われた。」
「誰にだ?」
「タービ様だ。」
「タービ?」
(ナーガ派閥、11位の者です。)
「何だよ、魔王派閥の順位争いか?くだらない。」
「何故、ナーガに仕えるのにキクが必要なのだ?」
「ナーガ様は、酒が大好物と聞く。」
「ほぉ。」
「酒の中には蒸留を繰り返すと、より美味い酒になる物が有ると聞いた。」
「いや、アルコール度数が上がるだけだな。」
「俺は、その酒を持ってナーガ様に鞍替えする。」
「リキードだったか?」
「おぉ。」
「お前、酒を飲んだことは?」
「ない。」
「ふぅ。」
俺はため息をつくと、其処に虚無の部屋から机と椅子を取り出した。
「な、何だそれは?」
「とりあえず、今は攻撃しないからその椅子に座れ。」
「何でお前の言う事を聞く必要がある?」リキードが問う。
「リキード。」俺が言う
「はい。」反射的にリキードが答える。
「俺のレベルが見えるか?」
「み、見えません。」
「解ったら座れ。」
「・・・御意。」
俺はテーブルに、市場で買った酒を並べる。
蒸留酒からビールまで数十本が並ぶ。
「リキード、酒の種類はいくつ知ってる?」
「な、解りません。」
「このテーブルに並んだものは、その一握りの物だ。」
「な。」
「ナーガの好みは何だ?」
「判らない。」
「酒にはいくつもの種類がある。」
「え?」
「お前が求めた蒸留酒は、そのうちの一つに過ぎない。」
「ナーガの好みを知らずに酒を集めても、ナーガの好みでなければ無駄だな。」
「な、そうか。」リキードが理解した時、扉が開き声が響く。
「ぎゃはは、扉の前にいた獣人は確保したぜぇ。」
そいつはミーニャを拘束して、其処に入って来た。
「マスターあれは26位ワムラです。」
「リキード、お前の指示か?」
「いや、違う。」
「主、ごめんだにゃ。防ぎきれなかったにゃ。」
「リキード様、こいつ貰って良いか?」
「リキード、あいつはお前の部下か?」
「え?いや、部下ではない。」
「そうか、では屠って良いか?」
「え?あぁ、俺は構わん。」
俺はワムラに向かって言う。
「おい、今すぐミーニャを開放すれば、許す。」
「はぁ?」ワムラは俺の言葉を聞いて笑いだす。
「ぎゃははは、許す?」
「たかが人間が?」
「許す?」
「ぎゃははは。」
「では、この獣人を引き裂いて答えてやろう。」
(紫炎、ミーニャを虚無の部屋に。)
(御意。)
「ぎゃはは、あれ?」
「な、獣人はどこに行った?」
「おい、お前。」
「な、き、貴様が何かしたのか?」
「答える義務はないが、答えてやろう。」
「つ。」
「その通りだ。」
「な。」
「お前は、俺の逆鱗に触れた。」
「ぎゃははは、それがどうした。たかが人間がどうだと言うんだ。」
「そうか。では、たかが人間の力を知れ。」
「ぎゃはははは、人間風情が、ぎゃぶっ!」
ワムラが地面に叩き付けられる。
「っぶう、な、何だ、何が起きている?」
「お前の周りの重力を10倍にした。」
「ぶぶう、なにを。」
「今から5秒ごとに、荷重を増やしてやるよ。」
「ぐばはぁ。」
「どこまで耐えられるかな?」
「12倍・・・13倍・・・14倍。意外に耐えるな。」
「ぎゅばにゃぼにゃ。これしき・・」
「おぉ、じゃぁ一気に行こうか。」
「うぎゃ、やめ。」
「30倍。」
「むにゅうう。」
「辛そうだな。」
「にゃ、にゃんにょこげじき。」
「おー、流石魔王だ。」
「35倍。」
「にゃ、ぎゃ、ぐにゃ。」
「40倍。」
「・・・」
「静かになったな。」
俺はワムラをそのままにして、リキードに向かう。
「さて、リキードよ。」
「な、何でしょう?」
「何故、ダンジョンをむやみやたらに作った?」
「キクを落とすためです。」
「キクを落としたとして、お前は蒸留装置を使えるのか?」
「いえ、部下にやらそうかと。」
「蒸留装置があれば、美味い酒が造れると思ったのか?」
「タービ様がそう言った。」
「ふぅ。」
おれは、机の上の吟醸酒を手に取り、栓を開けるとコップに注ぐ。
「奉納が必要か?」
「奉納?いや必要ない。」
「では、飲んでみろ。」
俺はリキードの前にコップを置く。
リキードは、そのコップを手に取ると恐る恐る口を付ける。
「ごくり。」
一口飲んだリキードが目を見張る。
「こ、これは。」
「蒸留していない酒だ。」
俺は更に麦酒を手に取り、王冠を開ける。
そして、程よい温度まで急速に冷やし、コップに注ぐ。
程よく泡立ったコップをリキードの前に置く。
「これは、一気に飲め。」
「え?あぁ、判った。」そう言ってリキードがコップを煽る。
「ぷはー。美味い。」
「それも蒸留していない酒だ。」
「な。」
俺は、更にブランデーを開ける。
小さめのグラスに、生成した氷を入れて注ぎ、リキードの前に置く。
「これは強いからな、舐めるように飲め。」
「あ、あぁ。」そう言うとリキードは少し口に含み驚愕する。
「これも美味い。」
「最後に飲んだものが、蒸留酒を寝かせたものだ。」
「つ?」
「さて、どれがうまかった?」
「最初に飲んだものが好みだ。」
「お前がやろうとしたことは無駄だと判ったか?」
「理解した。浅はかであることを理解した。」
「では、選べ。」
「は?」
「今後、俺に忠誠を尽くすか、この場で滅ぶか。」
「どっちでもいいぞ。」
「俺的には、滅びかな。面倒くさいから。」
「おま、貴方は、私が及ばない存在だと理解できる。」
「ちっ、判っちまうのか。」
「今理解した、貴方に下ろう。」
「あ~、それは残念だ。」
「な。」
「で、お前は俺に忠誠の証として何を差し出す?」
「我の魂を封印した宝石を。」
「ほぉ。」
「この宝石を砕けば、我が命も終わる。」
「ふふ、お前の忠臣受け取ろう。」
「では、今後も程よいダンジョンを作り続けろ。」
「は?」
「何だ?」
「いや、其れで良いのか?」
「あ?滅ぼしてほしいのか?」
「いや、そうではないが、其処のワムラは手に掛けたのに、俺は良いのか?」
「あぁ、そいつは俺の家族に手を出したからな。」
「おま、いや、貴方の名前は何という?」
「俺か?俺はケイジだ。」
リキードは俺の靴に額を押し当てる。
「うお、何だ?」
「ケイジ様、このリキード、貴方に忠誠を尽くす。」
「あ?そう。」
「いや、俺の生ある限り貴方に忠誠を誓う。」
「一応聞こうか。なんでだ?」
「貴方の能力は、私をはるかに凌駕している。貴方がその気なら私は一瞬で消滅することを理解した。」
「おぉ、リキード、凄いな。」
「お褒めにあずかり光栄です。ですから、このリキード、ケイジ様にお仕えさせてください。」
「解った。ではここを中心として、お前の居城までと同じ長さの範囲にある全てのダンジョンを管理しろ。」
「御意。」
「3階層まではレベル10程度の6人で攻略できるように。」
「は。」
「4階層以降は、人が行けないようにな。」
「仰せのままに。」
「リキード。」
「は。」
「一応、本気で俺を殴ってみるか?」
「え?」
「いいから、やってみろ。」
「それは。」
「治してやるから、やってみろ。」
「私ごときでは?」
「心を納得させるためだから、来い。」
「・・・解りました、御免!」
正拳突きの構えから、俺に突き出されたリキードの拳は、肘まで四散する。
「ふぎゃぁぁ。」
「ヒール!」
「あぁぁ、あれ?」一瞬で治った手を見てリキードは俺に向けてひれ伏す。
「ケイジ様。お見事です。」
「ではな、精進しろよ。」
「はは。仰せのままに。」
「あー、それからな、ルエカミ、サイガン、イザナに話が出来るなら、無駄な事はするなと伝えてくれ。」
「な、21位、27位、30位もご存じか。」
「ケイジ様、31位のダンサと35位のアクアは?」
「もう俺に下ってる。」
「な、判りました。」そう言ってリキードは俺に深々と頭を下げる。
「ではな。」
「は。」
俺は虚無の部屋を渡ってベカスカに戻った。
「あれぇ?リキード死ななかったよ。」
「マスターはお優しいですから。」
「なんか、嫌な伏線のような気がするが。」
「気のせいですにゃ。」
「そ、そうか・・・な?」