やらかしの199
「今回の収穫は、まあまあだったな。」
「あぁ、そうだな。」俺はそう言いながら、虚無の部屋からダンジョンで収穫したものを取り出す。
「しかし、何度見ても便利だな、それ。」
「あぁ、爺さんの眷属は全員使えるんだ。」
「へぇ~、爺さんって、あのケイジさんだよな。」
「あぁ。」
「羨ましいな。」
「いや、結構面倒くさいんだよ、これ。」
「そうなのか?」
「入れた物は、自分で管理しないと、誰かに取られることもあるんだ。」
「なんだそれ。」
「誰かが、自分で入れた物だと勘違いするんだろうな。」
「あぁ。」
「俺も、誰かが入れた物を取り出して使ったことがあるから、お相子だよ。」
「そうか。」
「でも、見えてるのに、取り出せないようにロックがかかっている物もあるからな。」
「へぇ?」
「爺さんの、許可があれば出せるらしいんだけどな。」
「どんな物が有るんだ?」
「グレートマスターボアとか、マスターコカトリスとか?」
「なんだそれ?」
「マシクフの下の階や、ヤマオの下の階で、普通に狩れるぞって爺さんが言ってた。」
「それが取り出せれば、一生遊んで暮らせるぞ。」
「許可は貰えないだろうな。」
「何で?」
「身の丈以上の物は、その身を亡ぼすんだと。」
「あ~。」
「俺は、爺さんと違って、人より少しだけステータスが高いだけだからなぁ。」
「あ~、ケイジさんが、カンストしてるって言うのは?」
「昔、見せてもらったけど、違ってた。」
「なんだ。」
「限界突破してた。」
「はぁ?」
「最初は、オール9だったらしいけど、色々飲み食いしたら上昇したって、笑ってたよ。」
「すげぇなぁ。」
「さて、そろそろギルドに「わはははははは。」そう言いかけた時に、笑い声が降ってきた。
「いや~、何度跳んでも爽快だ。」
その人は、そこに軽やかに降り立つと、数人の女性を周りに出した。
「すげぇ、綺麗な人。」仲間の男が、そこにいた女性を見て言う。
「ヒドラ婆ちゃんとダンサ婆ちゃん。」俺が思わず口にする。
「おい、失礼だぞ。」仲間の男が俺に言うが。
「ほほほ、私をばばぁ呼ばわりするのは此の口ですか?」
「ぐふふ、失礼な事を言うのは、此の口ですか?」
両側から、ほっぺを思いっきり抓られる。
「痛ひゃい、痛ひゃい、痛ひゃい!」
「ほほほ、当然の報いです。」
「ぐふふ、この程度で済んだことを幸運に思いなさい。」
「おい、どう見ても20代にしか見えない女性を、ばばぁ呼ばわりしたお前が悪い。」
「だって、この人達は爺さんの嫁さんだぞ。」
「え?」
「ん? そこのお前、良く知った魔力を感じたから下りたが、誰だ?」
「俺だよ、爺さん、イーノのひ孫のケイノだよ。」
「あぁ、カーノの二人目の子か、冒険者をやっていたんだな。」
「酷いな、覚えてくれてないのかよ。」
「無理を言うな、嫁さんが168人、その子供が数百人、孫に至っては4桁に届くんだぞ、一人一人覚えてられないよ。」
「で、爺さん、こんなところに何しに来たんだ?」
「あぁ、この地方が蟹の産地だった事を思い出してな。」
「あぁ、この辺りでしか食べられていないアレかぁ?」
「あぁ、それを食いに来た。」
「すげえ、高いぞ。」
「なに、問題ない、お前達にも奢ってやるから一緒に来い。」
「まじ、俺、食ったことないわ。」
「俺だって食ったことない、一匹2Gするって話だし。」
「あぁ、それも食うけど、今回は雌の方が目的だ。」
「雌?」
「あぁ、この辺りのイワズ蟹の雌はコセ蟹と言って、内子と外子が絶品らしい。」
「ケイジさん、俺、良い店知ってます。」
「おぉ、そうか、案内頼めるか?」
「はい。」
「お前、そんな店知ってるのかよ?」
「あぁ、入ったことは無いけど、この界隈で一番の店を知ってる。」
「よし、案内してくれ。」
「はい!」
「なぁ、爺さん。」
「なんだ?」
「嫁さんが、又増えてないか?」
「あぁ、増えてるな。」
「しかも、普通の人間じゃないか。」
「あぁ、どこぞの貴族や商人が押し付けていくんだ。」
「爺さん、もう、短命の獣人や人間は要らないって言ってたよな。」
「ああ。」
「断れば良いじゃないか。」
「お前に多くは語れないが、この世界には女性は好きな男と結婚できる仕組みがあるんだ。」
「なにそれ?」
「お前に結婚を申し込んだ女性を断れば解るぞ。」
「何それ? 一生わかんないよ。」
「ははは、だから、いまだに嫁さんが増えているんだ。」
「なぁ、ケイジさんて、今いくつだ?」
「知らない。」
「俺達と同じ歳のように見えるんだが。」
「あぁ、今の爺さんは3人目だ。」
「何言ってるんだ?」
「本当だよ、死ぬたびに違う身体で蘇ってるらしい。」
「なんだそれ、俺が聞いても良い事なのか?」
「大丈夫だ、俺以外には話せないから。」
「え?」
「精霊様の強制力が働いて、話した俺以外には其の事を話せなくなるらしい。」
「マジか?」
「マジだ。」
「おい、店はどっちだ?」
「すみません、こっちです。」
************
「おぉ、此処か?」
「はい。」
「邪魔するぜぃ。」ケイジさんがその店に入っていく。
噂どうりに、漫才のネタを言ってる。
「はい、いらっしゃいませ。」
「ちっ。」
しかし、そこにいた者はそのネタを知らなかったようで、ケイジさんが舌打ちした。
「とりあえず18人だ、席を用意してくれ。」ケイジさんが言う。
(あれ? ここには俺たち二人と、ケイジさん、それにお嫁さんが12人しかいない、どう言う事だ?)
「見てれば解るよ。」ケイノが言う。
「マスター、此処はどこだ?」
「マスター殿、初めての場所です。」
「くふふ、御主人、ずいぶん北の方だね。」
「ん、寒い所。」
「なぁ? サラマンダーの主体? リバイアサンの主体? それにシルフとベフィモスの主体?」
「あれも、爺さんの嫁さんだ。」
「伝説は、本当だったんだな。」
「伝説?」
「あぁ、魔王種を統合した者は、全ての種の頂点に立つって言う奴だ。」
「いや、違うと思うぞ。」
「そうなのか?」
「爺さんは、そんなの関係なく従えたらしい。」
「マジで凄いな。
************
「まず、親ガニ50杯。」
「はい!」
「お待たせしました、親ガニ50です。」
「おぉ、甲羅も大きくて、良いものだな。」そう言いながら、俺はその蟹を手に取り、剥き始める。
「最初は、外子だよな。」そう言いながら、袴を剥がす。
「ん、色が濃いから、内子も楽しみだ。」そう言いながら外子を口に入れる。
プチプチとした食感が口の中に広がる。
「ん? お前らも食えよ。」
「ぐふふ、食べ方が解りません。」
「あぁ、じゃぁ、剥き方を実演するから、見て覚えろ。」
「ぐふふ。」
「ほほほ。」
「あぁ、サランとリアンと、シーナとベフィーに奉納っと。」
「俺流だからな、本式は知らねーぞ。」
「ぐふふ、ケイジ様こそすべて。」
「あ~、まず、俺流の蟹酢だ。」
「本当に新鮮なら、必要ないものだ。」
「皿に、酢を入れたら、醤を7、8滴だ。」
「ぐふふ、ほぼ酢ですね。」
「これが、意外としみるんだ。」
「ぐふふ、成程。」
「最初は、袴を取る。」
「ぐふふ、此の前掛けですね。」
「あぁ、其処に付いている外子を最初に食べる。」俺は外子をむしって口に入れる。
(ほんのり付いている塩味がたまらん!)
「成程、此のプチプチが良いですね。」ダンサが言う。
「外子を食べ終わったら、片方の足を全部持って、甲羅から外す。」
「おぉ。」
「で、食べられない処を外す。」
「それは?」
「エラとちんちんだ。」
「はぁ?」
「まぁ、見てろ。」俺はそう言うと、甲羅から剥がした身を持って、エラの所を指で掴んで捨てる。
「食べても害はないが、不味いからな。」
「それと、内側にある此処がちんちんだ。」そう言いながら、外した蟹の内側にある2か所の突起を示す。
「俺は、これを食べて、全身にじんましんがでた。」
「ぐふふ。」
「俺だけかもしれないが、食べない事を推奨する。」
「後は、こうやって食べる。」
そう言いながら、俺は、エラとちんちんを外した身にかぶりつく。
「ちまちまと身をほじくっても良いんだがな、かぶりついた方が美味い。」
「成程。」
「その後は、足の身をちまちま食っても良いが、俺は太い足だけを食べる。」
「ぐふふ。」
「そして、内子を、舐るように。」俺は内子を口に入れる。
「あぁ、至極だ。」
「ほほほ、では真似していただきましょう。」
「ぐふふ、これはこれは。」
「初めての味です。」
「好きなだけ頼んで良いぞ。」
「ほほほ、解りました。」
「ぐふふ、これ程とは。」
「なぁ、俺戻れないような気がする。」
「いや、我慢しろ。」
「あぁ、親ガニは堪能したからイワズ蟹のコースを頼む。」
「はい、喜んで。」
「なぁ、俺、これを食べたら戻れないような気がするんだが。」
「諦めよう。」
「イワズ蟹のコース料理、お待たせしました。」
「ぐふふ、楽しみです。」
「ほほほ、楽しみましょう。」
「ははは、まず甲羅を取って、味噌を堪能したら、其処に熱燗を注いで甲羅酒だ。」
「ほほほ、これはこれは。」
「ぐふふ、蟹の旨味が酒に染みて。」
「マスター、早く奉納してくれ。」
「私にも、マスター殿。」
「あぁ、サラン、リアン、シーナ、ベフィーに奉納を。」
「ありがとうマスター。」
「嬉しいマスター殿。」
「ご主人、嬉しい。」
「これは至福。」
「ははは、美味いなぁ。」
「なぁ。」俺は店の人間に声を掛ける。
「はい、何でしょう?」
「『ずぼ』はあるか?」
「おや。」
「ないか?」
「ははは、お客さん、地元の方ですか?」
「いや、違うぞ。」
「そうなんですか、地元の方以外でそれを知っている人はいないんですが。」
「たまたま知ったんだ。」
「ありますよ、幾つご用意しましょうか?」
「とりあえず人数分な。」
「はい、承り。」
「ぐふふ、ご主人様、ずぼとは?」
「あぁ、脱皮したてのイワズガニの事だ、身を割って吸うとずぼっと実が抜けるからずぼって言うらしい。」
「ぐふふ、それはそれは。」
「お待ちどうさま、ずぼです。」
「おぉ、どれ。」俺はそのカニの足を折って身を吸う。
「ずぼっ!」蟹の身が口いっぱいに広がる。
「わはは、美味いなぁ。」
「マスター。」
「あぁ、サラン、リアン、シーナ、ベフィーに奉納を。」
「ずぼっ!」サランが身を吸い出す。
「マスター、美味しい。」
「ずぼっ!」リアンも同じように身を吸い出す。
「マスター殿、これは至福。」
「ぐふふ、これは美味しいですね。」
「この身からでる汁が美味いんだよな。」
「ぐふふ、これは地元の人間しか知らないのでは?」
「俺は、子供のころここに住んでいたからな、(多分だが元の世界のその辺りだろう。)」
「ぐふふ、そうなのですか?」
「あぁ、ワスア山の蒟蒻おでんや、豆腐の田楽はソールフードだな。」
「マスター、食べたい。」
「御主人、それは絶対食べたい。」
「おや?」
「ぐふふ、最早決定事項ですね。」
「あれぇ?」
「ぐふふ、食べさせてくださいね。」
「あぁ。」
「この世界にもあるのかな?」
これで、200話で終わる予定が伸びた。