やらかしの2
「とりあえずこちらへ。」
アイリーンが奥の部屋に案内する。
「おぉ、邪魔するぜ。」カッターがそう言いながら後に続く。
「おい、相棒、こっちだ。」カッターは俺を見て言う。
「おいおい、何時の間に相棒になったんだよ。」俺は小声で呟きながらカッターたちの後を追った。
通された部屋のドアには、ギルドマスター室と書かれたプレートが貼ってあった。
中に入ると、壁一面の本棚、執務机、そして3人掛けのソファが二つ、ソファの間には立派なローテーブルが置かれていた。
「どうぞお座りください。」アイリーンがソファを勧める。
カッターが慣れた様にソファに座ったので、俺はその横に座る。
アイリーンは、窓の傍にあるカウンターでお茶の用意をしてくれているようだ。
暫くすると、アイリーンが人数分のお茶を持ってきてくれた。
「どうぞ。」
「いただきます。」俺はそう言ってカップを手に取り、香りを嗅いだ。
(紅茶っぽい匂いがするな。)そう思いながら一口啜る。
「ぐぉ、あ、甘!」めちゃくちゃ甘かった。
「おぉ、アイリーンの煎れる茶はやっぱり美味いな!」カッターはごくごく飲んでいる。
俺はそれ以上飲むのをやめて、カップをテーブルに置いた。
「で、此処に連れて来た要件は何でしょう?」
「少しお話を聞かせてください。」
「何でしょう?」
「貴方は、この先どうなさるおつもりですか?」
「まったく決めていません。」
「そうですか。精霊様の加護を持った方が、どのような行動をとるのか興味があったのですが。」
「とりあえずは、この町で暫く活動するつもりなのでよろしく頼みます。」
「解りました。何か困った事などがあれば、何時でも私の所へいらしてください。」
「えぇ?俺と一緒に、ベワカタキに来てくれるんじゃないのか?」
「悪いな、カッター。最初からあちこち行くのは好きじゃないんだ。」
「町の起こせるイベントは、全クリしたいたちなんだ。」
「全クリが何か判らんが、この町の次はベワカタキに来てくれよ。」
「約束しよう。」
「がははは、頼むぜケイジ!」そう言うと又バンバンと俺の肩を叩く。
「マジで痛いよ。」
その時ドアがノックされた。
「何ですか?」アイリーンが声をかける。
「ダンナー様から、ケイジ様に言付けを預かっております。」ドアの向こうから声がする。
「ダンナー?って誰だ?」
「此処まで護衛してきた人の名前だな。」
「あぁ。」
「お入りなさい。」アイリーンが声をかけると、受付をしていた獣人が入ってきて俺に手紙を渡す。
「なんて書いてあるんだ?」
「さあなぁ。」そう言いながら、ポケットからナイフを出して封を開ける。
「ん~。」(読めないよ。)
(今夜食事に招待する旨、書かれています。)
(おー流石、サポートさん、ありがたい。)
(いえ、どういたしまして。)
(ん?何で返事した?)
(お礼を言われましたので。)
(俺、思っただけだよ。)
(聞こえます。)
(ちょ、それ、早く言ってくれよ~。)
(今まで独り言言う必要なかったじゃないの~。)
(お好きなら、声を出しても問題ありません。)
(人を危ない奴にしようとしてるよな。)
(私が~?ははは、まさか~。)
(今後は声出さないからな。)
(分かりました。)
「今夜、食事に招待してくれるらしい。」
「ほぉ、何時からだ?」
「ななつ?カッターも一緒にと書いてあるな。」
「がはは、それはありがたい。」
「今はよっつだから、後3ときあるな。」
「じゃぁ、俺は町を散策してくるよ。カッターはどうする?」
「俺はここで待ってるよ、アイリーン、茶をもう一杯くれ。」
「はいはい、あ、ケイジ。小銭を持って言ったほうが良いですよ。」
「カウンターで、カードから引き出せますから。」
「どの位?」
「そうですね~2G位で良いと思います。屋台とかはカード使えませんから。」
「判りました、じゃ、行ってきます。」
「おう、また後でな。」お茶を啜りながらカッターが片手をあげる。
俺はドアを出ながら、左手をひらひらとさせた。
カウンターで両替した小銭を、腰のポーチに入っていた袋に入れ、又ポーチに戻してギルドから表に出た。
ギルドの横には、武器屋や道具屋、薬屋などが並んでいた。
道の反対側には、食堂や、魚や肉を売っている店、野菜らしきものを売っている店が並んでいた。
ギルドの前は、ロータリー式に道が作られており、中心には噴水があって、その周りにいくつかの屋台があった。
屋台の周りは、人で賑わっている。
「成程、色々な奴がいるな。」
「どれ、冷やかしてみようか。」俺はそう思い、すぐ前の屋台に向かう。
「お兄さん、一杯どう?」屋台の中からエルフのおねーさんが手招きする。
「どれどれ、これは何だい?」
「うちの里でしか取れない、マモーレと言う実の果汁だよ。」
「へぇ、初めて見るな、一杯貰おうか。」
「はいよ、20Bだよ。」
俺は10B2枚を手渡すと、木のコップに入った果汁を飲んでみる。
「うお、冷たくて美味いな。」
「へへへ、そうだろう、自慢の品さ。」
(防御力上限が1上りました。)
「え?防御力?上がった?」
「へ~、お兄さん良く分かったね、マモーレは防御力に影響するんだよ。」
「へえ、じゃあ、もう一杯飲んだらまた上がるのかな?」
「あはは、お兄さん、そんなに都合よくいくわけないさ。」
「人によるけど、次は20杯位飲まないと。」
「20敗飲んで?」
「1上るぐらいかな?」
「地道に努力しろって事かぁ。」
「因みに、他の能力が変わる者ってあるのかい?」
「お隣の屋台の肉は、速さが上がるみたいだね。」
「へぇ、ありがと試してみるよ。」そう言って隣の屋台に向かう。
「また来ておくれ~。」エルフのおねーさんが後ろから声をかけてくる。
俺は、後ろ手で、手をひらひらさせて答える。
その屋台からは、美味そうな匂いの煙が流れてきた。
「おぉ?この匂いは。焼き鳥か?」俺は屋台の中を覗き込む。
「おぉ、良い匂いだ!」
炭火の上で、串に刺した肉を回し焼いている。
「おぉ、兄ちゃん、食ってくか?」嘴がある獣人が、羽の生えた手で、器用に串を回している。
(鶏肉だったら共食いか?)
「こ、これは何の肉だい?」
「これは、この村の裏山にいる「ランナー鶏」の肉だ。美味いぞ!」
「晩飯前だから、2本くれ。」
「はいよ、2本で20Bだ。」
俺はまた20Bを袋から出して、獣人に手渡す。
木の皿の上に、2本串が置かれた。
俺は串を横に銜えると、一気に串を引き抜く。
口の中に、香ばしいタレと、肉汁があふれる。
「美味い!」
「へへへ、兄ちゃん解ってるじゃないか。」
俺はもう一本も口にする。
(スピード上限が2上がりました。)
「美味いな~ビールが欲しくなるぜ。」
「うん?兄ちゃん、ビールって何だ?」
「俺の国の飲み物でね、麦とホップって言う果実で作る発酵飲料だよ。」
「ん?そりゃラガーの事か?」
「あぁ、エールとかラガーとか言われてるな。」
「30Bだ。」
「え?あるの?」
「じゃぁ、串ももう2本!」
俺は50Bを渡す。
さっきの店より少し大きい木のコップに、泡立った物が出される。
木皿の上には串が2本。
俺は串を同じように銜えて、串を抜いて少し噛んだ後、コップを口に着ける。
「うぉ、冷えてて美味いな!のど越しがたまらん!」
「兄ちゃん、良い飲みっぷりだな。」
「今日は、御呼ばれしてるから、又今度腰を据えてくるよ。」
「おぉ、待ってるぜ。」
俺は屋台を出ようとする。
(右後ろ、敵対反応です。)
ポーチに手を入れる気配を感じる。
俺は咄嗟にその手を掴んだ。
「痛たたた。」
その手は、俺のポーチの小銭が入った袋を掴んでいた。
屋台の兄ちゃんが、店から出てきて俺たちを見て言う。
「ミーニャ、これは現行犯だな。」
別の屋台からも、人が出てくる。
「スリは現行犯でないと罰せられないからなぁ。」
「疾風のミーニャも年貢の納め時だな。」
周りの者が口々に言う。
「くそ、放すにゃ!」ミーニャと言われた獣人が言う。
「おいおい、人の物を盗もうとして良く言えるな。」
「何の権利があって、人の手を掴んでいるんだ!」ミーニャがじたばたする。
「権利?」
俺は金色のカードを見せる。
「おぉ、A級。」
「あぁ、例の精霊の加護を受けたって言う。」
「逮捕権あるなぁ。」
ミーニャは顔が青くなっている。
「じゃ、このままギルドへ行こうか。」俺が手を引きながら言う。
「ちょ、ま、待つにゃ。」
「このまま連れていかれたら、奴隷に堕とされるにゃ。」
「ん~、自業自得?」
「この袋を返すから見逃すにゃ。」
「お前、自分がやった罪理解してるか?」
「見つからなければ、何をしても良いにゃ。」
「それ、アウト!」
「自分がやったことは、自分が見てるんだよ。」
「くぅ~。」
突然ミーニャが俺の手に噛みついた。
「痛て!」俺は痛みで手を放す。
ミーニャが身をひるがえすが、反対側の手でミーニャの尻尾を掴んだ。
「ミギャー!」
ミーニャがその場でへたり込み、真っ赤な顔で俺を睨む。
「おぉ。」
「すげえ、漢だ。」
「こんな場所で、流石英雄!」
「きゃぁ、大胆。」
「あたしもやって欲しい。」
何人かの獣人の女性から声が上がる。
(なんか周りの反応が変じゃないか?)
(獣人の尻尾を掴むのは求愛行動となります。)
(へ?)
(求愛行動は、二人だけの時に行うのが一般的であり、衆目の面前で行われた場合は、そこにいる全員がその行為の成り行きを見届けることになります。)
(更に言えば、求愛行動は、雌から雄へするのが一般的であり、雄から雌に求愛行動をした場合には、雄は雌に、その力を示さねばなりません。)
(え?つまり?)
(ミーニャの攻撃を受け、屈服させる必要があります。)
(え?そんなつもりないって言ったら。)
(ここにいる全員が貴方を殺します。)
(ミーニャに負けたら?)
(ここにいる全員が貴方を殺します。)
(貴方は、此処にいる全員を殺せますが、その場合、貴方が奴隷堕ちします。)
(最善策は?)
(ミーニャを屈服させてください。)
「ふ、ふふふ、舐められたものだね。人間風情が、あたしに求愛行動だと!」
ミーニャが顔を真っ赤にしながら、ゆらりと立ち上がる。
(おー、怒ってる。)
(それだけではないように感じます。)
「疾風のミーニャと言われた理由を教えてやるにゃ!」
ミーニャは俺に突っ込んできた。
「うん、お前、結構可愛いな。」爪を避けながら俺が言う。
「うにゃ!」更に顔を赤くしながら三角跳びで俺に蹴りを入れてくる。
俺は、その蹴りを片手でいなし、お姫様抱っこをする。
「うは、見かけによらず軽いな。」
「にゃー。」
ミーニャはじたばたして俺の手から逃れる。
「これを受けられたら、認めてやるにゃ。」途端にミーニャの気配が薄くなる。
そして、連続の三角跳び。
しかし、俺はその動きを捉えている。
しかも、その動きは非常にスローに見える。
ミーニャの蹴りが俺の額に向かってきた。
後3cmの所で、俺は避ける。
きっとミーニャには、俺の身体をすり抜けた様に感じただろう。
尻餅をついて、唖然としているミーニャの頭を軽くなでる。
「もう止めようよ。」俺が言う
周りからは物凄い歓声が上がった。
ミーニャは下を向いていたが、真っ赤な顔のままで立ち上がると、俺の手を引いて道具屋に連れていく。
そして、店内を見て回ると、真っ赤な首輪を手に取って俺に渡す。
「あたしに付けるにゃ。」ミーニャが言う。
俺は言われた通りに、ミーニャに首輪をつける。
「こ、これで、あたしはお前の物だにゃ。」更に顔を真っ赤にしてミーニャが言う。
「おぉ~。」
「感動した!」
「いいなぁ、あたしも欲しい!」
「兄ちゃん、漢だな!」
店の前からさっきよりも大きな歓声が上がる。
「あ、あたしが服従するのは初めてだからにゃ、や、優しくしてくれにゃ。」
(何が起こってる?)
(立会人による、貴方とミーニャとの婚姻が認められました。)
(はぁ。婚姻?いや、ちょっと待って、何それ?)
(貴方の一連の行為が、終結しました。)
「なんだよ、それ。」
「なんだ、私一人じゃ不服なのかにゃ?」ミーニャが言う。
「別にお前、いや主が、何人嫁を持とうと私は構わにゃいぞ。」
「いや、そう言う事じゃなくてな。」
「あの。」店の主人が声をかけてきた。
「服従の首輪、20Gです。」
「これ使える?」俺は金色のカードを見せながら言う。
「はい、喜んで。」
俺は、カードで首輪の料金を払う。
「あの、これ。」ミーニャが小銭の入った袋を俺に差し出す。
「良いよ、持ってろ。」俺は袋をミーニャに渡す。
ミーニャは顔を更に赤くし、「うん。」と言って袋を抱きしめる。
(可愛いと思ったら負けなんだろうな。)俺は思う。
はっとして時間を気にする。
「今何時だ?」
「むっつだにゃ。」ミーニャが答える。
「やばい、ギルドに帰るぞ。」
「え?」ミーニャが躊躇する。
「お前、俺に服従するんだろ。」俺が言うとミーニャが少し頬を膨らませる。
「そうだけど、そうじゃないにゃ!」
「俺が、お前を奴隷にはさせないから大丈夫だ!」
ミーニャは何故かまた頬を赤くして頷く。
「うん。」
「じゃ、行くぞ。」
ギルドに帰ると、ギルドが騒然となった。