やらかしの194
「イロハ達。」
「はい、ケイジ様。」
「手伝ってやれ。」
「はい、ケイジ様、皆お願い!」
「はいにゃ!」
「「「「お~、任せて!」」」」
「ん。」
「では、7日後に領主前婚をする旨、お触れを出せ。」
「はいにゃ!」
「んじゃ、解散!」
「え?」
「もう一個、教えてくれるのでは?」
「あ~、今日は、もう良いかなって。」
「え~。」イロハが声を上げる。
「教えてください、ケイジ様。」リョウも食い下がる。
「う~む。」
「ぐふふ、延長戦で良いではありませんか?」
「ダンサがそう言うなら。」
「ぐふふ、皆さん、教えて下さるそうですよ。」
「やったぁ!」イロハが声を上げる。
「はぁ、解ったよ。」俺は、用意を始める。
「まずボールに卵黄3個を入れる。」
「にゃ、卵黄だけにゃ?」
「あぁ、白身は使わないから、別の料理に使う。」
「更にこれに砂糖を大匙5を入れて泡立てる。」俺は菜箸を4本使ってそれを泡立てる。
「次に、鍋に乳バハローの乳300ccとクリムー100ccを入れ、バニラビーンズを入れて泡が出るまで温める。」
「はい!」答えたのはリョウだ。
「で、温まったら、さっきのボールにゆっくりと、ザルを使ってこし入れながらかき混ぜる。」
「おぉ。」
「良く混ざったら、人肌ぐらいになるまで待って、冷蔵庫の氷を作るところに入れる。」
「はいにゃ。」
「そして、半刻ほど過ぎたら、一度出して、スプーンでかき混ぜて、もう一度氷を作るところに入れる。」
「にゃー、大変にゃ。」
「で、3刻ほど冷やせば、アイスクリームの出来上がりだ。」
「にゃー、そんなに待つにゃ?」
「いや、今回はクイックの魔法で一瞬だ。」
「ぐふふ。」
「さぁ、これがアイスクリームだ。」
「おぉ。」
「お義母さんとバランにひと塊ずつ献上して。」俺は二人の前に皿を置く。
「ほほほ。」
「おぉ、すまないなケイジ。」
「残りは、全員で試食な。」
「は~い。」
「量が少ないから、一人スプーン一杯づつな。」
「え~。」
「食ったやつから、今俺がやったように作ってみろ。」
「そうか、それなら、一番!」リョウがスプーンでアイスクリームを口に入れた。
「冷た、甘、美味しい!」
「うんうん、そうだろう、そうだろう。」
「ケイジ様、材料をください。」
「あぁ、俺は机の上に取り出す。」
「やったー、じゃぁ早速。」リョウがさっき俺がやった手順を思い出しながら作業を始めると、他の子供や料理人たちも思い思いに、作業をやり始めた。
そして、全員がその手順をやり終えて、全員の前にアイスクリームが置いてあった。
「う~ん、幸せにゃ。」
「これは良いね。」
「美味しいよう。」
「全員出来たようだな。」
「はいにゃ。」
「孤児院で売るのはどれが良いと思う?」
「え?」
「そんなことまで考えていたんですか?」
「売れないかな?」
「いえ、どれを売り出しても売れると思いますが。」
「何だイロハ、歯切れが悪いな。」
「数が作れないかと。」
「何故だ?」
「冷蔵庫が、そんなにありません。」
「あぁ、俺が寄付すれば良いよな。」
「ケイジ様、それでは孤児たちの・・・。」
「あぁ、解っているよ、あって当然だと思う心だろう。」
「はい。」
「大丈夫だ、孤児たちも馬鹿じゃない。」
「え?」
「今いる状況が、普通じゃない事ぐらいみんな分かっているさ。」
「そうなんですか?」
「おいおい、孤児たちを甘く見るなよ。」
「え?」
「ないのが当たり前だと、みんな思っているさ。」
「そうなのですか?」
「エスの暴走が語り継がれているからな。」
「あぁ。」イロハが納得する。
俺が、ベカスカの孤児院に入れ込んだ結果、エスが暴走して俺の援助を受けられなくなった。
それは、他の孤児院にも伝わっている。
これは、この孤児院だから出来ること。
孤児院を卒院したら、自分で何とかしないといけない事。
望むなら、俺に添い遂げる事。
孤児たちは、皆解っている。
多分。
「では、それぞれ試作品を作って、冒険者さんたちの反応を見ましょう。」
「あぁ、其れで良いぞ。」
「ケイジ様特性甘味、一個60Bです。」
「あぁ、即完売だな。」俺は思う。
この世界の甘味はほとんど無いからな。
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「さて、今日は領主前紺か。」俺は伸びをしながら言う。
「ぐふふ、ヤミノツウ庁舎前は凄い事になっていますよ。」
「いや、すべて冒険者たちに任せているから、俺は知らん。」
「ぐふふ、久しぶりの領主前婚ですから、皆盛り上がっています。」
「え?」
「ケイジ様御用達、シュークリーム、一個100Bです。」ヤミノツウの孤児が叫ぶ。
「くれ!」
「俺にも。」
「あたしは2個だ。」
「は~い、お一人様、2個までですよ。」別の孤児がおっとりと言う。
「俺にも2個だ。」
「アイスクリームは一人一つです。」さらに違う孤児ものほほんと言う。
「くれ!」
「私にも。」
「くそう、並ぶぞ。」
「おぉ。」
「プリンは、後10個です、その後は2刻後です。」
「2個くれ。」
「はあい。」
「お前、ふざけるなよ。」
「一人2個までなら良いんだよな?」
「はぁい。」
「くっ、俺も2個だ。」
「はぁい。」
「何だろう、先日開示した甘味が凄い事になっていないか?」
「ぐふふ、当然ですね。」
「ははは、んで、当事者の二人は?」
「ぐふふ、満喫しているようですよ。」
「ははは、それは良かった。」俺はそう言いながら領主前紺の会場に入る。
「おぉ、ケイジ様だ!」
「ケイジ様!」領民が熱狂する。
「ははは、凄いな!」
「ぐふふ、そうですね。」
俺は手を振りながらそこに向かう。
「普段娯楽がないと、こうも凄い事になるのか。」
「ぐふふ、その様ですね。」
「ユーゴとワトリは?」
「ぐふふ、スタンバイしています。」
「そうか。」
俺はみんなの前に出て宣言する。
「今から、領主前婚を開催する。」
「おぉぉぉぉ!」
「やったぁ。」
「新郎と新婦は俺に料理を奉納しろ。」
「はいにゃ。」
「任せて!」ムーニャやイロハ達が答える。
「よし、美味い! さぁ、皆に振舞ってやれ!」
「おおおおお!」冒険者たちが吠える。
「流石はケイジさんだ。」
「ラガーはいかがっすか? 一杯30Bっす。」ナギモが屋台で声を上げる。
「お~、くれ。」
「あたしにも。」
「はいっす、グラスはあっちにある返却所に返してほしいっす。」
「おぉ、解ったぜ。」
「から揚げどうですか? 4個で60Bです。」
「おにぎりはどれでも1個20Bです。」孤児たちが屋台の前で叫ぶ。
「おぉ、から揚げと、おにぎりは梅とおかかだ。」
「は~い、100Bです。」
「おう、これこれ、これが美味いんだよな。」
「あたしは、から揚げとおにぎりはたらこと高菜で。」
「は~い、100Bです。」
「たまんないのよねぇ、これ。」そう言いながら、から揚げを一口、口に入れるとラガーを煽る。
「ぷは~、これこれ!」
「なぁ、俺最近思うんだけど。」
「ん? なんだ?」
「ここにいる孤児を嫁に貰えば、毎日こんな料理が食えるんじゃね?」
「あぁ、それな。」
「だけど、ケイジさんの息の掛かった孤児は、卒院したときに色んな料理人からスカウトがくるって噂だぞ。」
「まじかぁ、でも孤児に好かれればワンチャンあるんじゃね?」
「何だよ、わんちゃんって?」
「え? ケイジさんが言ってた、一度は何とかなるんじゃないかって意味らしいぞ。」
「お前の面でそれは無いわ~。」
「酷いな!」
「お前、あのケイジさんに敵うか?」
「無理だな。」
「あの人以上の美貌と、財力そして極め付きは、噂の風呂。」
「だよなぁ。」
「風呂はなぁ。」
「あぁ、ケイジさんが作った、銭湯だったか?」
「あぁ、あれは良い。」
「お前も行ったのか?」
「あぁ、あれはやばい、あれに毎日入れる家が有ったら、嫁さんホイホイだよ。」
「何だよ、ほいほいって?」
「これは、ケイジさんの嫁さんのダンサさんが言ってた言葉で、何でもそれが良く採れるって意味らしい。」
「成程。」
「だけど、俺、頑張ってみるよ。」
「え?」
「玉砕覚悟で、あそこのナギモって孤児に告る!」
「はぁ? まぁ、骨は拾ってやるよ。」
「行って来る!」
「あの。」
「はい、ラガーすか?」
「いや、違う。」
「んじゃ、おにぎりっすか?」
「違う、ナギモさん、俺と付き合って下さい。」
「ごめんっす!」
「はう!」
「顔が好みじゃないっす!」
「ぐはぁ!」
「まぁまぁ、諦めろ。」
「うがぁ、今日は飲み沈んでやる。」
「ははは。」
領主前婚は夜まで続いた。