やらかしの187
ある日、俺はひらめいた。
「ちょっと、シバパッツカに行って来る。」
「行ってらっしゃいにゃ。」ムーニャが見送ってくれる。
俺は、ライシーを扱う店に入った。
「あぁ、ちょっと聞きたいんだが。」俺はそこにいた店の男に声を掛けた。
「はい、何でございましょう?」店の男はにこにこしながら答えてくれた。
「大豆、いや、ダーズは何処から仕入れているんだ?」
「卸屋です。」
「その卸屋を紹介してくれないか?」
「はい、構いませんが。」
「頼む。」
「はい、店を出て、左に60長行った処にある『穀物屋』と言う店です。」
「ありがとう。」俺はそう言うと、その店に向かった。
「じゃまするぜい。」いつも通りの言葉を言いながら店に入る。
「はい、いらっしゃいませ。」
「ちっ!」
「どのようなご用件でしょうか?」
「あぁ、出来たらで良いんだが、ダーズの仕入れ先を紹介してくれないか?」
「えぇ、それは構いませんが。」
「おぉ、是非に頼む。」
「はい、私共はバチのタリナにある複数の農家と契約をさせていただいております。」
「俺個人で、少しだけ買ってもいいかな?」
「はい、構いませんが。」
「ありがとう、その農家さんを教えてくれ。」
「え~っと。」
「あぁ、対価は払う。」
「それでしたら。」店の男は、農家の住所と名前を書いた紙を渡してくれた。
**********
翌日、俺は貰った住所に行った。
「ここかな?」
俺は、農家の家に入っていった。
「じゃまするぜぃ。」
「おや、おや、こんな田舎にお客さんですか?」人の良さそうなお婆さんが玄関から出て来た。
「あぁ、ちょっとお願い事があるんだが。」
「はいはい、なんでしょう?」
「ダーズの実を若いうちに採って卸してくれないか?」
「はぁ? 若いうちにですか?」
「あぁ。」
「えっと、こちらに着て下さい。」お婆さんが畑に案内してくれる。
「どのぐらいが良いんだべ?」畑に案内したお婆さんが言う。
俺は、それを見つけて言う。
「これだ。」
「え? これが良いべか?」
「あぁ。」
「これを貰って良いか?」
「構わないけど、こんなものをどうするだ?」
「あぁ、見本を見せるな。」
俺は、それを収穫して、豆を切り取り、塩揉みしてから、フライパンで蒸し煮にした。」
「今回は、水で絞めて、塩をまぶして、さぁ、食ってみろ。」俺は枝豆を老婆の前に出す。
「これを食べるのか?」
「あぁ、ラガーに合うぞ。」
「どれ?」老婆が枝豆を口に入れて固まる。
「これは?」
「旨いだろう?」
「初めて食ったが、旨いな。」
「ほれ、ラガーだ。」俺はキンキンに冷えたラガーを取り出して老婆に渡した。
「おぅ。」老婆はそれを受けとって口にする。
「ぐびぐびぐび、ぷはー。」
「どうだ?」
「初めて食べたよ!」
「どうだった?」
「旨いねぇ。」
「そうだろう、そうだろう。」
「これを、俺に売ってほしい。」
「こんな若い物を買ってくれるのかい?」
「あぁ、どのくらい売ってくれる?」
「そうだね、契約先に卸すのがあるから、月に2回かね?」
「ああ、其れで良い。」
「近所の農家も大丈夫かな?」
「おらが話を付けておく。」
「おぉ、頼んだ。」
「任せるだ。」
「とりあえず、今畑に有る奴は買ってもいいかな?」
「喜んで。」
「いくらになる?」
「そこの畑全部で5Gだね。」
「え? そんなもん?」
「若い豆を売ったことがないからね。」
「あぁ、そう言う事か、今後は値上がりしそうだな。」
「そうかもしれないねぇ。」
「紫炎。」
「はい。」その畑の枝豆がすべて消えた。
「今から種をまけば、夏までにもう一度、いや2回は収穫できそうだね。」
「おぉ、全部俺が買うからな。」
「はははは、他の農家にもそう言って良いのかい?」
「頼むよ。」
「解ったよ。」
俺は、大量の枝豆を持って虚無の窓を潜った。
**********
「ぐふふ、嬉しそうですね。」
「あぁ、ダンサ、ラガーの最強のあてを手に入れた。」
「ぐふふ。」
「枝豆だ。」
「ぐふふ、ぐふふ、それは最強。」
「とりあえず茹でる。」俺は裏庭に行って火を起こす。
「その間に下ごしらえだな。」
「あぁ、又ケイジ様が何かをやろうとしている!」イロハが目ざとく見つけて言う。
「ははは、見つかったか。」
「ケイジ様、全部教えてください!」
「ははは。」
其処にいたのは、ムーニャ、ナギモ、ワトリ、イロハ、ニホ、テト、リョウ、サクラ。
「これは、ダーズの若い豆だ。」俺はそれを取り出して言う。
「ダーズの若い豆?」サクラが聞いてくる。
「あぁ、ダーズを植えて育てれば収穫できるぞ。」
「本当?」ワトリが言う。
「俺は嘘を教えたことは無いよな?」
「うん。」
「こんなに緑の物が食べられるの?」サクラが言う。
「あぁ、そう思うよな。」
「とりあえず、枝から全部外して。」
「にゃ?」
「これを、水で良く洗って。」
「へぇ~?」
「数回洗えば良いかな?」
「にゃ!」
「で、塩を振って混ぜる。」
「何でにゃ?」
「いや、意味はない、塩味が染みるかなって処だ。」
「成程にゃ。」
「オカルトだぞ。」
「一応メモっとくにゃ。」
「そうか。」
「フライパンに広げて、水を入れって。」
「にゃ!」
「180瞬(3分)蒸らせば完成だ。」
俺は其の通りに、枝豆を蒸らす。
「煮を止めるために水でさらし。」
「んにゃ?」
「粗熱を取ったら、もう一度塩をかけてまんべんなく回す。」俺は其の通りに実行する。
「枝豆の完成だ!」
「わはははは、ケイジ、我に献上しろ!」バランが疑似虚無の窓を潜ってきて言う。
「バラン、お前地獄耳だな。」
「わははは、お前が何か変な事をし始めたら、我に報告が来るように華厳と契約をしておる。」
「はぁ?」
「申し訳ありません、ケイジ様、バラン様がなし崩しに契約をされまして。」
「バラン。」
「わはははは、別に断っても大した問題は無いぞ。」
「本当か?」
「ちょっと、味覚が消えるだけだ。」
「ほぉ、バラン。」俺はにっこりと笑いながら、バランに迫る。
「いや、ケイジ、違うんだ。」バランが狼狽えながら言う。
「料理人の味覚を消す行為のどこが正当な理由だ?」俺は更にニッコリとしながら、低い声で言う。
「ひぃ!」バランが悲鳴を上げる。
「ケイジ様、穏便に!」華厳が後ろで言う。
「いや、冗談なのだ!」バランが涙目で言う。
「冗談?」俺は少しだけ威圧を込めて言う。
「そもそも我は、他人に呪いなど掛けられないし。」
「ほぉ。」
「ケイジの息の掛かった者にその様な事をすれば、わが身が亡ぶことを理解している。」
「へぇ、そうなのか?」俺はにっこりとほほ笑みながら言う。
「もももも、勿論だ!」
「だとさ、華厳。」
「なんと!」
「え? 許せない? 許せないよなぁ、じゃぁ、華厳に代わって、俺がバランに呪いを掛けてやるよ。」
「なぁ、ケイジ!」
「くっ、くっ、くっ、何を食っても味がしない呪いなんかどうだ?」
「ちょ、ケイジ頼む!」バランが狼狽える。
「それとも、酒を飲んだら、どぶの味がする呪いが良いか?」
「なぁ、マジで嫌な呪いなんだけど!」バランが俺の肩を掴んで言う。
「いやだなぁ、バラン、死ぬことは無いから良いだろう。」
「良いわけあるかぁ!」バランが叫ぶ。
「はぁ、バラン、これに懲りたら、悪質な冗談はやめろ。」
「ぐっ、すまない。」バランがその場で膝をついた。
「華厳殿、悪かった、悪ふざけが過ぎた。」
「いえいえ、問題ありません。」華厳はかんらかんらと笑う。
「男前だな、華厳。」俺が言う。
「なぁ、恐れ多い。」華厳が恐縮する。
**********
「さぁ、気を取り直して、ラガーがのめる奴は、ジョッキをラガーで満たして持ってこい。」
「おぉ。」大人たちがジョッキを片手に集まってくる。
「お子様たちは、おやつの時間だ!」俺が大声で宣言する。
「「「「わ~い!」」」」子供たちも集まってくる。
「おぉ、ラガーが進む!」
「これは良いですね。」
「ダーズの若い豆がこれ程とは。」店の従業員が枝豆を食って感想を言い合っている。
「ケイジ。」
「何だバラン?」
「定期的にこれを売ってくれないか?」
「夏の間しか提供できないぞ。」
「其れで良い。」
「で、どの位欲しいんだ?」
「さやの状態で、ボール5個ほどを。」
「ふむ。」
「毎日。」
「却下だな。」
「そんなぁ。」
「毎日食うもんじゃないだろう。」
「ぬぅ、では7日に一度なら?」
「まぁ、良いだろう、で、対価は?」
「5Gでどうだ?」
「よし、交渉成立だな!」俺は、そう言ってバランのジョッキにラガーを注ぐ。
「わはは、ケイジも飲め!」バランが俺のジョッキにラガーを注ぐ。
「「乾杯!」」俺とバランはジョッキを合わせた。
「あの。」冒険者らしき男が俺に言う。
「なんだ?」
「それは、いくらで提供してくれるんですか?」その男が言う。
「ん?」周りに複数の冒険者が集まっていた。
「あぁ、この店でラガージョッキ一杯と枝豆がこの小皿に1杯で100Bだ。」俺が言う。
「え? ケイジ様?」華厳が俺を見る。
「食材は、俺が提供してやるよ、だから売れ!」俺が言う。
「はい、ケイジ様!」
「ナギモ、ワトリ、イロハ、ニホ、テト、ムーニャ、リョウ、サクラ、枝豆を蒸せ!」
「はいにゃ!」
「「「「「は~い。」」」」」
ヤミノツウから、あっという間に、枝豆の情報が広がった。
しかし、それを手に入れるのは、非常に困難だった。
俺が、買い占めているからだ。
だが、乾物屋で売っている、ダースを植えれば収穫できるという情報は、ヤミノツウの孤児たちが秘匿した。
ヤミノツウの孤児たちは、畑の隅っこで枝豆を栽培し始めた。
「ふふふ、此処の孤児たちは、独立したら独り立ちできそうだ。」俺は孤児たちを見てニマニマする。
「ほほほ、それもこれも、ケイジ様のお力です。」ヒドラが口元を扇子で隠しながら言う。
「いや、孤児たちの力だよ。」俺は孤児たちを見て言う。