やらかしの18
俺達はラバオシに降り立った。
「やばいな、本当に近かった。」
「マスター殿、この辺りは温泉が有名だ。」
「なるほど、あちこちに温泉宿らしきものが建っているな。」
「マスター、ビルカの居所は山の上だ。」
俺は、目の前に広がる山脈を見て、げんなりする。
「うへぇ、山登りか?」
「マスター、マスターなら一瞬かと。」
「おぉ、そうだった。今、自分の足で登ろうと思ってたよ。」
「んじゃ、跳ぶか!」
「御意!」
俺は、山頂に向かって跳ぶ。
バキバキバキ!木の枝を折りながら、山の中腹に降りる。
途端に、あたりにいた魔族や、魔物が逃げ出す。
「ん?レベルが低くないか?」
「マスター殿、ビルカはレベルが高い物を喰って魔王になった。」
「うわぁ、引くわ、それ。」
「自分だけが良ければいいって思う奴か?」
「マスター殿、本能に従っただけだと思う。」
「うわ、本当に話が通じそうにないな。」
「肯定する。」
「ふぅ。」俺はため息をつきながら、山頂に跳ぶ。
少し開けた場所に、木で作られた建物らしき物が有った。
「質素だな。」
「元々が虫なので、居住に思い入れはないのでしょう。」
その建物から、巨大な虫が現れた。
「うわぁ、まさかの「G」かよ!」俺は身震いする。
「ギ、ギ、ギ、メイシュニアダナスソンザイ!」
G、いやビルカはいきなり攻撃をしてきた。
「おい、意思の疎通は出来ないのか?」
「オマエタチ、メイシュノテキ!」
「おいおいおい。Gはやばい!」
俺は氷魔法を発動する。
一瞬であたり一面が凍り付く。
「焦って、絶対零度を唱えちまった、俺もまだまだだな。」
「マスター殿、私は改めて忠誠を誓う。」
「え?なんで?」
「私に、この魔法の展開は無理だ。」
「え?こんなのが?」
「マスター殿には、こんなのレベルなんだな。」
リアンは指輪から姿を現すと、「G」いや、ビルカの元に行く。
「せめて、私が引導を渡してやろう。」
そう言うと、「G」いや、ビルカの額を殴る。
音もなく、ビルカの身体が霧散する。
「あー、バランの派閥を順番に殲滅していかないと駄目かな?」
「ケイジ様なら直接バランと対峙しても大丈夫かと。」
「いや、俺もそう思う。」
「でも、その後バラン配下の魔王がケイジ様を襲うでしょう。」
「あ~前か後かって事か。」
「でも、下から行けばバランと話が出来るかな?」
「マスター殿、肯定します。」
「魔王を一か所に集めて、俺の力を見せるとかは。」
「おそらく誰も来ないでしょう。」
「はぁ、地道にやるしかないか。」
俺達はふもとの村に跳ぶ。
「まだ日も高いから、温泉に浸かるか。」
「マスター温泉とは?」
「火山による暖かい水が出る場所だ。」
「良いから、付いてこい。」俺はそう言うとふもとにある温泉宿に向かった。
「こんにちは。」
「おや、こんな時間に珍しい。」
「3人だ、いくらだ?」
「へい、900Bです。」
「カードは?」
「勿論使えます。」
「んじゃ、これで。」俺はギルドカードを渡すと、無料のタオルと手ぬぐいを持って温泉に向かった。
露天風呂は混浴らしい。
まぁ、サランもリアンも気にしないだろう。
俺は、着ている物を脱ぎ捨てると、浴場に入る。
俺は、簡単に身体を流すと、湯船につかる
「ふい~、気持ち良いな!」
「マスター、これは気持ちいいな!」
「おぉ、奉納しなくても良いんだ?」
「あぁ、これは良い物だ。」
「マスター殿、こ、これは至極だ。」
「そうか。良かったなリアン。」
「俺はふと思い立ち、腰にタオルを巻くとカウンターに向かう。」
「おいおやじ。」
「へい。」
「あれを頼む!。」
そう言いながらカードを渡す。
「へっへっへっ、旦那様も解っておりやすね、」
「何言ってるんだ、温泉の基本だろう?」
「へい、すぐお持ちします。」
「あぁ、たのむ。」
「マスター、何処に行っていたんだ?」
「温泉の楽しみを忘れていたよ。」
「へい、お待たせしました。」
カウンターにいた男が、目を瞑って現れる。
「おぉ、待ってたぞ。」
「では、お楽しみを。」男は器用に湯船のふちにそれを置いて出て行く。
「マスター、何だそれは?」
「酒だ!」
「酒?」
「良いから二人ともこっちに来い。」
サランとリアンが俺の傍に近づく。
二人とも羞恥心など感じていない。
サランは、元の世界のスタイルが良い女子高生の体つきをしている。
リアンは、女子高生向けの雑誌のモデルと似たスタイルだ。
「ぐはぁ、破壊力が凄いな。」
「ン?マスターどうした?」
「マスター殿、大丈夫か?」
「あぁ、問題ない。」
俺は平静を装って、二人にお猪口を渡す。
「これは、酒を温めたものだ、サランとリアンに奉納を。」
そう言いながら、二人のお猪口に酒を注ぐ。
俺も手酌で猪口に酒を注ぐ。
「乾杯!」俺はお猪口を上に捧げ、それを口に入れる。
サランとリアンもそれを口にする。
「ふあぁぁ。」
「なな、これは。」
「先程のラガーとは違った美味さを感じる。」
「サラン、流石だな。」
「マスター殿、これは米の酒か?」
「おぉ、リアン良く分かったな!・
「二人とも流石だな、これは米から作った酒で、温めた物をお燗と言うんだ。」
「ラガーと違い、酒の味を楽しむものだ。」
「これは良い物だ。」
「サラン、お、お前はこのような施しを今まで受けていたのか?」
「な、リアンその通りだ。」
「ずるい!」
「いや、ずるいと言われても。」
「何故、もっと早く誘ってくれなかったのだ。」
「いや、わたしがケイジ様と出会って3日目だ。」
「え?」
「ん。」
「3日目?」
「そうだ。」
「その間に魔王を2柱屠る?」
「事実だ。」
「ななな。」
「最初に言っただろう、ケイジ様は神だ!」
「おいお前ら、飲んでいるか?」
「あぁ、マスター美味い酒だ。」
「マスター殿、こんなに美味い酒は初めてだよ。」
「おぉ、んじゃ、もっと飲め。」
「はいマスター」
「頂こうマスター殿。」
「あぁ、良い温泉だな。」
「御意。」
「仰せのままに。」
温泉を堪能した俺達は、次の目的地に向かう事にした。
「サランもリアンも指輪に入っていろ。」
「はい。」
「御意。」
「サラン、次の魔王はどこにいる?」
「ラバハキアと言う処だ。」
「どこだ、そこ?」
「此処から、約200km南か。」
地図に元の世界の距離を当てはめる。
「つまり5刻か。」
「本当に日帰りできるな。」
「んじゃ、跳ぶぞ。」俺はそう言って南に跳んだ。
*******
数刻後、俺達はラバハキアまで来ていた。
「マスター次は第32位、堕王ダンサだ。」
「名前からして、関わりたくないな。」
「ダンサは、普段は怠惰な姿勢をしているが、敵に対峙したら激しく攻撃をする。」
「なんだそれ?その時が来たら本気出すって奴か?」
「そのようだ。」
「今、俺の中で蹂躙決定!」
「あぁ、ダンサ、可哀そうに。」
「リアン、酷くないか?」
「何を言う、マスター殿の中で決定事項なのだろう?」
「え?まぁ、そうだな。」
「そいつの居場所は?」
「このビルの中だ。」
「おぉ、サラン良く分かるな。」
「マスターの為に、調べておきました。」
「んじゃ、行くか。」
俺達は、階段を上がり2階のドアを開ける。
「お帰りなさいませ、ご主人様!お嬢様!」
「メイド喫茶かよ。」
「おぉ、この良さを理解して頂けるとは。」
「あ~、とりあえず席に案内しろ!」
「ご主人様、お嬢様方、どうぞ此方へ。」
「俺達は、店の奥のボックス席に案内される。」
「どうぞ。」メイドの一人が熱いおしぼりを差し出す。
「おぉ、さんきゅ。」俺はそれを受け取り、ガシガシと顔を拭く。
「ふいー、気持ち良いな。」
「あの、お嬢様方が受け取って下さらないのですが。」
「サラン、リアンに奉納を。」
「こいつらには、今の言葉を言ってやってくれ。」
「はい、判りました。」
俺は、目の前のメニューを手に取る。
「俺は、萌え萌えオムライス、メイドの愛情たっぷりコーヒーフロートを添えてな。」
「はい、御主人様。」
「この二人には、メイドの愛情が詰まった濃厚チーズピザと、ラガーを頼む。」
「はい、承りました。」
「マスター、今、目の前にいるのがダンサだ。」
「知ってる、だが今はこの店の歓待を楽しもう。」
「お待たせしました、ご主人様。萌え萌えオムライスです。」
「おぉ。」
「さぁ、御一緒にオムライスに萌えを注いで下さいませ。」
「おぉ。」
「萌え萌えキュンキュン、美味しくな~れ。」
「萌え萌えキュンキュン、美味しくな~れ。」
「ご主人様、メイドの愛情が詰まったオムライスをご堪能してくださいませ。」
「マスター、屠って良いか?」
「まて、まて。こういう店なんだよ。」
「お待たせしました、濃厚チーズピザです!」
「より濃厚なメイドの愛を注がせていただきますね。」
「濃厚、萌え萌え、愛情ソース注入!」
「マスター、何も変わっていないようだが。」
「いや、気分だ、気分。」
「マスター殿、私も暴れたい!」
「まぁ、待て。とりあえず食え。」
「お嬢様方に奉納を!」
「ナイスな行為だ。」
俺はオムライスをスプーンですくって口にする。
「普通に美味いな。」
サランとリアンもピザを食べて幸せそうな顔をしている。
俺達は暫くメイドたちとの交流を楽しんだ。
飲み物が無くなった頃、ダンサが凄い闘気を纏いながら俺達の前に現れる。
「ご主人様、お嬢様、どうぞ此方へ。」
俺達は、その言葉でダンサに続いて店の奥に進む。
「あ~、やる気か?」
「私は盟主を裏切れません。」
「俺は、お前たちの盟主を潰すぞ。」
「はい、貴方様の能力の片鱗が感じられます。」
「んじゃ、俺に下らないか?」
「いや、それは。」
「お前は、お前の盟主のレベルがいくつか知っているか?」
「いえ、私には見えません。」
「俺のレベルは?」
「見えません。」
「おい、リアン、お前のレベルは?」
「え?名前を頂いたので、120になりました。」
「おぉ、良かったな。」
「お前に、リアンのレベルは見えるか?」
「いえ。見えません。」
「んで、俺はそれ以上って事は?」
「解ります。」
「悪い事は言わない。俺に下れ。」
「私への見返りは?」
「ん?ここで店を続ければ良い。」
「え?そんな事で?」
「良いんじゃね?たまに来たときはサービスしてくれ。」
「いや、う、それは。」
「どうしてもやるなら、受けるぞ。」
「俺は、力を開放する。」
邪悪なオーラが俺の周りに拡散する。
「ひぃ!」サランが指輪に入る。
「マスター殿、駄目だ!」リアンも指輪に消える。
俺はそのオーラを隠さず、ダンサに近づく。
「ああぁぁぁ。」ダンサは俺のオーラを受け床にひれ伏す。
「解りました、貴方に下ります。」
「おぉ、無用な殺生をしないで良かった。」
「お前には、特別に俺のレベルを漏らしておくよ。」
「え?」
「お前は、顔が広そうだからな。」
「え?ケイジ様。」
「俺のレベルは300以上だ。」
「な?」
「たかが人間と、侮って攻撃してきてもいいぞ!攻撃の前に、俺の力量を試したいと言った奴だけは、一回だけチャンスをやると広めてくれ。」
「後,俺に下るも,逃げるのも自由だとな。」
「ケイジ様、感服いたしました.。」ダンサが俺の足に額を当てる。
「私には、貴方様は、バラン様以上の存在だとしか分かりません。」
「しかし、この私の趣味をご理解いただける存在であると確信いたしました。」
「ほぉ。」
「私は、全力でケイジ様の嗜好をお守りいたします!」
「ちょっと待て、俺の嗜好とは?」
「くはは、解っております。16位シサムと19位リキードですね?」
「意味が解らん!」
「私的にはシサリキですが、ケイジ様はリキシサですか?」
「いや、そんな小物に興味はない。」
「なんと、バラン様とボルガ様ですか?」
「おぉぉ、バラボルもボルバラもよだれが出ます。」
「あ~。ダンサ、一応聞く。お前に性別はあるのか?」
「え?無いに等しいですが、どちらかといえば女子かと。」
「解った、お前、腐女子だな?」
「え?心地よい響きです」
「色々理解した。」
「え?」
「ダンサ、薄くよろしくな。」
「はい、ケイジ様。」
俺は、色々な思いを飲み込んで、シハリクまで跳んだ。
「バラボルは私も考えつきませんでした。」
「いや、ボルバラもバラボルも良く分からん。」
「おぉ、それを聞きたいのですか。」
「盟主バランと第5位暗黒王ボルガのカップリングですよ。」
「いや、訳分かんないから。カップリングって何だよ?」
「大丈夫ですよ~、最初は皆抵抗感があるみたいですけど、最後は目覚めますよ~。」
「いや、訳分かんないから!」
「ケイジ様なら、きっと。多分。」理解して頂けます!」
「いやいやいや、無いよ、多分。」