やらかしの177
「ケイジ殿、その、色々とすまなかった。」アイリーンの父、エトランゼが俺に言って来る。
「別に。」俺はそっけなく答える。
「母が、帰省中で挨拶ができなかったのが心残りです。」アイリーンが拗ねて言う。
「また来ればいいさ。」俺がそう言うと、アイリーンが嬉しそうに俺の腕に絡んでくる。
「では、ミリミストさん、お暇します。」
「ふぉ、ふぉ、ふぉ、又何時でもおいで。」
「はい。」
俺は、そう言うと、虚無の窓を潜った。
「ふむ、我らエルフ族でも使えぬ魔法か。」エトランゼが考え込む。
「ふぉ、ふぉ、ふぉ、流石は精霊様のご加護を受けたお方と言う事じゃ。」
「むぅ!」エトランゼが何かを考える。
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エルフの森での宴の次の日、俺は、ワシカとマシクフのダンジョンを数百回分周回した。
勿論、お肉の在庫が減っていたからだ。
数トン分の各種お肉を虚無の部屋に入れた俺は、満足して家へと戻った。
「ケイジ様、ナギモから救援要請が入っています。」アイリーンが虚無の窓の向こうから言って来る。
「え? ナギモから?」
「はい。」
「何だろう?」俺は怪訝に思いながら虚無の窓を潜った。
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「ケイジ様!」ナギモが抱き着いてくる。
「おぉ、何だ、どうした?」
「私達、卒院するっす。」
「あぁ、そんな歳になったのか、おめでとう。」
「卒院したら、この店で働けないっす!
「え? なんで?」
「孤児院の孤児を雇うって規定だったっす。」
「あぁ、其れな。」
「ケイジ様、新しい就職先を教えてください!」
「何だそんな事か。」
「え?」
「お前らが卒院したら、この店はどうなるんだ?」
「うっす、うちらの後輩が引き継ぐっす。」
「そうか。」
「はいっす。」
「卒院するのは誰だ?」
「はいっす、あたしとワトリ、シーヘとネーカとサクラっす。」
「サクラは問題ないな。」
「そうっすね。」
「で、お前たちはどんな職に就きたいんだ?」
「うっす、あたしは、将来店を持ちたいっす。」
「そうか、ナギモは華厳の店で修行な。」
「うっす!」
「あたしも、店を持ちたい。」
「ワトリも、華厳の店で修行!」
「はい!」
「私は、私を雇ってくれるところで就職したいです!」
「私も同じです。」
「よし、シーへとネーカは、俺のお義父さんの店で修行だな。」
「「はい!」」
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「ははは、良いよ、ケイジ君、うちの店で預かろう。」ドレースさんが言う。
「ありがとうございます、お義父さん。」
「ははは、何を言うんだ、可愛い息子のためだ。」
「と言う事だから、お前たちは、ドレース商会のヤミノツウ支店で住み込みで働け。」シーへとネーカに言う。
「ありがとうございます、ケイジ様。」
「感謝します。」
「あぁ、心して働け! だが辛かったら、俺の家に来い。」
「「はい!」」シーへとネーカが元気よく答える。
(うん、うん、大丈夫そうだな。)俺が思う。
「では、私が寮に案内しよう。」ドレースさんが席を立つ。
「え? お義父さん?」
「ははは、私の所で働く者はみんな私の子供と同じだよ。」
「あぁ、流石はお義父さんです。」俺が言う。
「ははは、ケイジ君、もっと言って!」
「残念です、お義父さん。」
「あれ~?」
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「んじゃ、ナギモとワトリはベカスカに引っ越す用意をしろ。」
「はいっす。 でも私物はほとんどないっす。」
「あたしもです、全部置いていくので、残った皆で使ってくれると良いです。」
「そうか、んじゃ、寮母先生に挨拶してから行こうか。」
「はいっす。」
「はい。」
「寮母先生、お世話になったっす。」
「お世話になりました。」
「はい、次の場所でも頑張ってください。」
「うっす!」
「はい。」
「では、これをお納めください。」俺は、100G分のBが入った袋をそこに置く。
「まぁ、何時も何時もありがとうございます。」
「いえ、この子達を育てていただいたお礼です。」
「ありがとうございます。」寮母先生が深々と頭を下げる。
「ははは、気にしないでください、お前達、行くぞ。」
「はいっす!」
「はい。」
俺たちは虚無の窓を潜った。
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「と、言う訳で、此処にいるナギモとワトリが働くことになった。」
「お任せください、ケイジ様。」華厳が良い顔で俺に言う。
「んじゃ、細かいことはムーニャやイロハ達に聞いてくれ。」
「解ったっす。」
「はい。」
「ムーニャ、イロハ、宜しくな。」
「はいにゃ!」
「解りましたぁ。」
「何か困ったことが有ったら、俺に言ってこい。」
「うっす!」
「はい。」
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ナギモたちが来てから数日が過ぎた。
「ケイジ様、餅って何ですか?」
「は?」
「ぜんざいって何なんすか?」
「あぁ、其れな。」
「其れな、じゃないっす。」
「何で、マシゴカの孤児院には教えてくれなかったんすか?」
「マシゴカで、それの材料が調達が出来るか分からなかったんだ。」
「つまり?」
「面倒くさかった?」
「酷いっす!」
「怒るなよ、俺がやっていることはボランティアだからな。」
「何すか、ボランティアって?」
「無償で、施しをする?」
「つ!」
「俺のエゴだけどな。」
「解ったっす。」
「おぉ。」
「でも教えてほしいっす。」
「良いぞ。」
「へ?」
「ナギモ、ケイジ様はすべて教えてくれるにゃ。」ムーニャが良い顔で言う。
「いや、知っていることだけだがな。」
「そうなんすか?」
「あぁ。」
「んじゃ、餅つきを教えてほしいっす。」
「良いぞ。」
「へ?」
「何でそこで呆ける?」
「いや、そんなに簡単に教えてくれないかと思っていたっす。」
「なんでだ?」
「ケイジ様だから?」
「何だそれ!
「ナギモはケイジ様を誤解してるんだにゃ。」
「ほぉ?」
「ナギモは孤児特有の誤解をしているにゃ。」
「何だそれ?」
「対価を払わないと、それが貰えない。」
「おぅ。」ムーニャの表情で俺は理解する。
「うっす、理解したっす。」
「ナギモ。」
「はいっす。」
「俺は、お前に対価を求めないぞ。」
「っ!」
「ケイジ様は、嘘をつかないにゃ。」
「そうなんすか?」
「あぁ。」
「ふぐぅ。」ナギモが固まる。
「よし、久しぶりに餅つき大会をするか!」俺が宣言する。
「やった!」その言葉にイロハが反応する。
「アズ(小豆)を煮なくっちゃ。」ニホが言う。
「ダイコを用意しないと。」テトも反応する。
「え?」ナギモが狼狽える。
「何が始まるんすか?」
「お前が望んだものだ。」
「え?」
「餅つき大会だ。」