やらかしの176
「君が、父上を救ってくれたのか?」アイリーンと共にエルフの男を押さえつけていた男が、俺の前に来て言う。
「あぁ。」
「素晴らしい! 俺はアイリーンの兄の『メビウス』だ、宜しく頼む。」メビウスが右手を差し出しながら言う。
「あぁ、初めましてだな、宜しくな。」俺は其の手を取って言う。
「ふふふ、兄上、ケイジ様は最高の夫です。」
「ははは、その様だな。」
(何だろう、この馬鹿ップル臭。)
兄弟揃って駄目な奴か?
そう、俺が思っていると、二人が押さえつけていた男が目を覚ます。
「う、あぁ、何という爽快な気分だ。」
「父上。」
「お父様!」メビウスとアイリーンがその男のもとに走る。
「ここは、私は、どうなったのだ?」
「ふぉ、ふぉ、ふぉ、其方は其処にいるケイジ様に救われたのじゃ。」アイリーンのお婆さんが言う。
「え?」アイリーンの父が呆ける。
「人間風情が?」
「ほぉ。」俺はその男を冷たい目で見る。
「ふぉ、ふぉ、ふぉ、今すぐ謝罪するが良い。」アイリーンのお婆さんが言う。
「え? 何を言っているんだ?」アイリーンの父という男が言う。
「そこにいるのは、只の人間だろう?」その男が言う。
その瞬間に、アイリーンの瞳の光が消えた。
「お父様、今何とおっしゃいました?」
「え? アイリーン?」
「はぁ、今のお言葉は信じられません。」メビウスも瞳の光が消える。
「え? お前達?」
「ははは、たかが人間風情に、命を救われた気持ちはどんなもんだ?」俺は、少しだけ威圧を込めて言う。」
「はぅ!」
「お父様、此処にいるケイジ様は、私が心からお慕いしているお方ですよぉ。」アイリーンが冷たく言う。
「父上、ケイジ様は貴方の御病気を完治して下さったお方です。」メビウスも冷たく言う。
「「父上(お父様)を治して下さった恩人をたかがですか?」」
「だが、人間なのだろう?」アイリーンの父が言う。
「お父様、ケイジ様は精霊様のご加護を受けたお方ですよ。」アイリーンが冷たく言う。
「何だと?」アイリーンの父が驚愕する。
「精霊様のご加護?」
「あぁ、事実だ。」俺は冷たく言う。
「まさか、人間風情が。」
「エルフの長に警告する、それ以上此処にいるケイジ様を侮辱、差別を繰り返すのなら、エルフの森に精霊様が鉄槌を下す。」紫炎が言う。
「え? どこから声が? エルフの森に鉄槌?」アイリーンの父が狼狽える。
「エトランゼや、今からでも遅くない、ケイジ様に心から詫びろ。」アイリーンのお婆さんが、アイリーンの父親を諭す。
「な!」エトランゼと呼ばれた、アイリーンの父が首を振る。
そして、俺の前に来ると、「大変申し訳ございません!」と言って、頭を下げた。
「あぁ、気にしてないよ。」俺はそっけなく言う。
「いや、でも。」エトランゼが食い下がるが、「ふぉ、ふぉ、ふぉ、ケイジ様はお心がお広いお方ですね。」そう言いながら、アイリーンのお婆さんが俺に礼をする。
「あぁ、そう言えば、貴女の名前をお聞きしていなかった。」俺は、アイリーンのお婆さんに言う。
「ふぉ、ふぉ、ふぉ、これは失礼、私は、ミリミストと申しますじゃ。」
(この世界の、十賢者のおひとりです。)
「十賢者?」
「ふぉ、ふぉ、ふぉ、御存じでしたか?」
(この世界にいる、精霊様のお認めになった方たちです。)
(へぇ。)
(因みに、ケイジ様も其のお一人です。)
「はぁ?」俺は、思わず声を上げた。
「おや、どうされました?」ミリミストが怪訝な顔をする。
「いや、俺が十賢者の一人だと・・。」
「あぁ、その通りですじゃ。」
「え? 十賢者のお一人?」エトランゼが、わなわなと震える。
「ふぉ、ふぉ、ふぉ、その通りじゃよ。」
エトランゼは、その場で奇麗に土下座した。
「おい。」
「たかが人間風情などと、私の無知により、御不快な思いをさせたことを平にお詫び申し上げます。」
(さっきと、態度が違うじゃねーか。)
「あぁ、さっきも言ったが、別に気にしてない。」
「流石は、ケイジ様です。」アイリーンが俺に抱き着いてくる。
「十賢者が祖母と義弟にいるなど、俺も鼻が高い!」メビウスが言いながら、俺の肩をたたく。
俺が、その者達の対応に戸惑っていると、屋敷の門の前にエルフたちが集まっていた。
「アイリーン様の伴侶が来ているんだって?」
「精霊様のご加護を受けたお方だそうじゃないか。」
「目出たいことだ、宴だ、宴!」
「我らがアイドルの、アイリーン嬢を娶った男を歓迎してやろうぜぇ!」
「みんな、酒(獲物)は持ってきたか?」
「おぉ!」
「ははは、不穏な感じがビシビシと感じるな。」
「ふふふ、私はケイジ様がいれば、何もいりません。」腕に抱き着いているアイリーンが幸せそうに言う。
俺は、アイリーンを引っ付けたまま、門の所に行く。
「「「「おおおおおお!」」」」」そこにいたエルフが声を上げる。
「本当に、お嬢が懐いている!」
「あの、鉄仮面のお嬢が、あんなにニコニコと。」
「くそぉ、俺のために笑ってほしかった。」
「馬鹿野郎、お前じゃ無理だったって事だ。」
「畜生、認めてやるぜ!」
「ちっ、仕方ないな!」
「お前達、俺のために集まってくれて、悪かったな。」俺が前に出て言う。
「お前のためじゃない、お嬢のためだ。」
「そうだ、お嬢のためだ!」
「アイリーンのためなら、それは俺のためだ!」
「何だと!」
「生意気な!」
「だから、宴の食材を提供しよう!」
「え?」
「ケイジ様、あれをやるのですか?」アイリーンが、期待の目を向けてくる。
「あぁ。」
「あぁ、嬉しい。」
「皆さん、ケイジ様が、希少なお肉で宴を開いてくださいます!」アイリーンがそこにいた者達に告げる。
「なんだと。」
「希少なお肉?」
「幸いここは、広場になっているからな、俺とアイリーンの結婚披露宴パーティーを俺主催で開いてやるよ。」
「くそう、たかが人間のくせに。」
「ミノタウルスと、マスターバハローを提供しよう!」
「なんだと!」
「おいおいおい、神か!」
「ちくしょう、認めてやるぜ!」
「調理は、どうする?」俺が聞く。
「エルフの料理をなめるなよ!」そこにいたエルフが叫ぶ。
「解った。」俺はそう言いながら机を取り出すと、その上にミノタウルスとマスターバハローの塊肉を取り出した。」
「おぉ、初めて見たぜ。」そう言いながら、数人のエルフがその肉に群がった。
「調理ができる前に、これを食ってくれ。」俺は、さらに机を出して、其処に虚無の部屋から出来上がった料理を並べていく。
オークカツ、コカトリスのから揚げ、ミノタウルスのすき焼き、ミノタウルスの焼肉、ローストミノタウルス、コカトリスの棒棒鶏、ミノタウルスのステーキ。
「何だよ、その食材の暴力!」エルフたちがそれに蹂躙される。
「あぁ、獲物も必要だな。」俺はそう言うと、さらに机を用意して酒を並べる。
ラガー、清酒、ウイスキー、ブランデー、各種乙類焼酎、ワイン、ジン、スピリッツ、梅酒、甘酒
「さぁ、どれでも好きな物をやってくれ!」俺が叫ぶ。
「「「「「「おおおおおおお!」」」」」」エルフが熱狂する。
「エルフも意外に酒が好きなんだな。」俺はそう思いながら、ウイスキーをちびちびやっていた、
「おぉ、ケイジ様、此処にいたのか。」メビウスとアイリーンがやってくる。
「あぁ、楽しんでいるか?」俺が聞くと、メビウスが、瓶を取り出した、
「?」俺が、怪訝な顔をすると、メビウスが答えてくれる。
「これは、十年に一度しか実をつけない世界樹の実で作った酒だ。」メビウスが勝ち誇った顔で言う。
「おぉ、それは凄い。」俺が答える。
「ふふふ、そうだろう、そうだろう、これは三十年ものだ。」
「おぉぉ、それは凄いな。」俺は素直に感心する。
「さぁ、飲め。」メビウスが俺に進めてくる。
断る理由はない、希少な酒だ。
俺は、手に持ったコップに受けると、ちびりと飲んでみる。
「うぉ!」アルコール度数が強いのだろう、鼻からアルコールの蒸気が抜ける。
(HPが2上がりました。)
(うぉ、又限界突破した!)
「ははは、強かったですか?」
「いや、旨い!」
「それは良かった。」メビウスがにっこりとほほ笑む。
「では、御返杯だ。」俺は、最高級のブランデーを取り出して言う。
「おぉ、これはこれは。」メビウスはにこにこしながらそれをグラスに受ける。
そして、その酒に口をつけて言う。
「これは、素晴らしい。」
「解りますか。」
「人の英知を感じます。」メビウスがうっとりとして言う。
「ケイジ様、私にも下さい。」
「あぁ、アイリーン、勿論だ。」そう言いながら、アイリーンのグラスにも、ブランデーを注ぐ。
「ふわぁ!」それを口にした、アイリーンも呆ける。
「この世界での、コニャックだ、俺も心を奪われたよ。」
「ははは、ケイジ様、お肉を堪能しています!」
「わはは、人間でもこれ程の物が提供できるのですね。」
「流石は、精霊様のご加護を受けたお方だ。」
宴会は深夜まで続いた。