やらかしの170
「さて、皇帝に会うためにはどうすれば良い?」
『私が、渡りをつけます。』
「ほぉ、では頼むとしよう。」
『それでは、町に入りましょう。』
「あぁ。」
『おや、キシロピ将軍ではないですか。』門番の男が言う。
『あぁ、私だ。』
『おや、軍勢を率いて、遠征に行かれたのではなかったのですか?』
『あぁ、訳があってな、急遽私だけ戻ってきた。』
『それは、ご苦労様でした。』
『あぁ。』
『で、後ろの方は?』
『あぁ、私の客人だ。』
『そうですか、一応身分を証明するものを。』
『私の客人だと言っただろう。』
『いえ、規則ですので。』
「これで良いか?」俺はギルドカードを見せる。
『これは、ジャポネのギルドカードですか、おぉAランク!』
「どうだ?」
『失礼いたしました、どうぞお通り下さい。』
「ありがとう。」俺はカードをしまいながら言う。
『それでは、ご案内いたします。』キシロピが前に立って歩き始める。
「どこに連れて行こうというのだ?」
『皇帝がいらっしゃるところです。』
「ほぉ、お前はそれだけ身分が高いという事か。」
『はい。』
「謙遜はしないんだな。」
『私が戦い(いくさ)で負けたのは初めてです。』
「ほぉ。」
『ケイジ様は規格外です。』
「ははは、その通りだが、ほめても何も出ないぞ。」
『ははは、こちらです。』そう言いながらキシロピは近くの建物に向かって歩いていく。
『通るぞ!』キシロピが門の所にいた兵に声を掛けると、その兵はピシリと敬礼をする。
そして、続いて入ろうとした俺に向かい刀を向けた。
『何者だ!』その兵が言う。
キシロピが振り返り、その兵に言う。
『そのお方は、私の客人だ。』
『なぁ!』
『し、失礼いたしました!』その兵が俺に向かって最敬礼した。
俺は、片手をあげてその兵の前を通った。
『すまないな。』
「なに、職務に忠実なだけだろう。」
『恩に着る。』そう言いながら、キシロピは厩舎に向かって歩いていく。
厩舎の前で、キシロピはそこにいた兵に言伝をした。
その兵はその場で敬礼すると、そばの建物に向かって駆け出した。
暫くすると、その兵が戻ってきて敬礼をして馬車の御者台に乗り込んだ。
『どうぞお乗りください。』キシロピが俺に言う。
俺は、馬車に乗り込んだ。
キシロピも俺に続いて馬車に乗り込むと、馬車が動き出した。
「皇帝のいる所までは、どのくらいかかるんだ?」
『2刻ほどです。』
「すぐ会えるものなのか?」
『先ほど、早馬を出しましたので、対応していただけるかと。』
「ふ~ん。」
「皇帝はどのような人間なのだ?」
『ご聡明なお方でした。』
「過去形かよ。」
『他の国に侵攻するなど考えることはなく、内政に力を入れ、地方の村や町にも目を向けるお方でした。』
「それが、宰相が変わったら、皇帝も変わったと。」
『その通りです。』
「その言葉が本当なら、宰相が悪い奴だと聞こえるんだがな。」
『今だから判りますが、私もその者の能力で操られていたように思います。』
「操られた?」
『いえ、魅了されたと言ったほうが近しいかもしれません。』
「すごく言い訳に聞こえるが。」
『いえ、ケイジ様に拘束され、エリアヒールを掛けられたときに心の閊えが消えました。』
「へぇ~。」
『いえ、本当です。』
「まぁ、そう言う事にしておこうか。」
「ところで、お前は俺に対してどう思っているんだ?」
『え?』
「反抗心が残っているのか?」
『ははは、まったくありません。』
「ほぉ。」
『エリアヒールを掛けられて、以前の私に戻れたように感じます。』
「ほぉ。」
「宰相はどのような男なのだ?」
『いえ、宰相は男ではありません。』
「え?」
『齢40後半の女性です。』
「おぉ、それは、それは。」
『どうしました?』
「いや、何でもない。」
暫く馬車の揺れに身を任せた。
暫く馬車で移動していたら、御者の兵士が窓を開けて報告する。
『キシロピ将軍、前方にアニザラ将軍がいらっしゃいます。』
『アニザラ将軍だと?』キシロピが狼狽える。
「どうした?」
『いえ、問題ありません。』
暫くして、馬車が止まる。
俺とキシロピは、馬車を下りた。
アニザラは、多数の兵を引き連れて、城の前の広場に陣取っている。
「どういう事だ?」俺はキシロピに聞く。
『私が、逃げかえってきたと思われたのでしょう。』
「ふ~ん。」
『キシロピ将軍。』アニザラが声を上げる。
『何だ、アニザラ将軍。』キシロピが答える。
『貴公が此処にいると言う事は、本当に逃げ帰ってきたと言う事か?』
『いや、私は逃げて来た訳ではない!』
『ほぉ、では、何故貴公が此処にいるのだ?』
『私は、敗北した!』
『なぁ、常勝無敗と言われた貴公がか?』
『あぁ、完膚なきまでにな。』
『信じられん。』
『ここにおられるケイジ様に、見事な敗北を喫した。』
『なぁ、敗北した相手を、連れて来たのか?』
『そうだ。』
「ははは、俺がご紹介にあずかった『ケイジ』だ、宜しくな。」
『な、信じられん!』
『キシロピ将軍は、1万の兵を率いてゾエに侵攻したと聞いている。』
『その通りだ。』キシロピが答える。
『たった一人の男に、1万の軍勢が敗北するのか?』
『事実だ!』
『信じられん!』アニザラ将軍が叫ぶ。
『私もだ!』キシロピ将軍もそれに答える。
『どうやったら、そんな事が出来るのだ?』
『アニザラ将軍、貴公は兵を何人連れてきた?』
『1万2000だ。』
『ケイジ様。』
「おいおい、俺にそれをやれってか?」
『御意!』
「はぁ、お~い、アニザラと言ったか?」
『貴様、俺にその言葉遣いをするか?』
「今から、お前ら全員に拘束の魔法をかけるからな。」
『拘束の魔法?』
「抵抗して見せろよ!」
『何を言っているのだ?』
「行くぞ! 『スタン!』」
『ふぁ!』アニザラが驚愕した顔のまま固まった。
当然、其処にいた1万2000人の兵達も固まっている。
俺は、刀を抜いてアニザラの所に歩いていく。
「このまま、首を切り落としても良いか?」俺がアニザラに聞く。
「・・・・。」
「はぁ、ヒール。」
『な、こ、これは?』
『私が、敗北した訳が分かったか?』
『う、むう。』アニザラが考え込む。
「魔法で敗北するのは不服か?」
『いや、しかし、貴公の力によって敗北したとは思えない。』
「んじゃ、首を切り落とすか?」
『待ってくれ、一度貴公と真剣勝負をさせてくれ、其れで敗北をしたら貴公に下る。』
『アニザラ将軍、それはあまりにも。』キシロピが言う。
「良いぜ、負けたら完全敗北を認めるんだな?」
『誓う。』
『ケイジ様?』
「んじゃ、此処にいる兵たち全員に確認してもらおうか。」俺はそう言ってキシロピの兵1万人をそこに出す。
『なぁ! どこから?』キシロピが驚愕する。
『なんだと?』アニザラも動揺する。
「エリアヒール!」俺が呪文を唱える。
『あぁ、気力が戻る。』
『気持ちがいい。』
『何だろう、皇帝への忠誠に疑問がわく。』
『あぁ、間違っていると思う。』
『な、これは?』アニザラが狼狽える。
「さて、お望み通り立ち会ってやるぞ。」俺は自然体で言う。
『今の気持ちは、必要無いと思っているが、いざ、尋常に勝負を!』
『おぉ、アニザラ将軍の戦いが見れるのか?』
『それは凄い。』
『わが軍では、誰も相手にならないお方の戦いが見れるのか。』
『誰だか知らないが、あいつ終わったな。』
『あぁ、アニザラ将軍に敵うはずがない!』
「ははは、凄くアウェイだな。」
『ケイジ様、あうぇいとは?』キシロピが聞いてくる。
「敵地で戦うって事かな?」
『成程。』
俺は、三歩前に出て言う。
「いつでもいいぞ、お前のタイミングで掛かってこい!」
『ははは、対峙するだけで解る、絶対に敵わないことを。』アニザラが汗を流しながら言う。
『しかし、私が率いる兵のため、参る!!!』
アニザラが地を蹴った。
「遅い!」俺はそう言いながら、アニザラを蹴り飛ばす。
『ぐはぁぁ!』アニザラは数メートル飛ばされた。
『まだまだ!』アニザラが俺に剣をふるう。
「其れじゃ駄目だ!」
俺は、アニザラの親指を刀で潰す。
『ひぎゃぁぁぁ!』剣を落としたアニザラが叫ぶ。
「ヒール。」
『ひぎゃあ、あれ?』元に戻った手を見て、落とした剣を持ち直し、再び俺に剣を向けるアニザラ。
その後、十数回アニザラにヒールをかけた。
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『申し訳ありませんでしたぁ!』アニザラがその場で奇麗に土下座する。
『私が敗北した理由が判りましたか?』キシロピが言う。
『あぁ、理解した。』
「んじゃ、皇帝への謁見を宜しくな!」俺が言う。
『あぁ、解った。』キシロピが言う。
『私も同行しよう。』アニザラもそう言って城に向かう。
俺は、キシロピ将軍とアニザラ将軍に先導され、2万2000の兵を連れて皇帝のもとに向かった。