やらかしの165
「此処は何処だ?」
「俺は、死者の国にいたはずだが。」俺は周りを見渡す。
「此処は。」
「お前が死んだ、シハリクだ。」
「な?」
「久しぶりだな、バスター。」
「俺の名を呼ぶのは誰だ?」
「ふふふ、バスター、マスターを忘れたか?」
「あぁ、お前は、サラマンダー、確か名を貰ってサランと言ったか。」
「あぁ、その通りだ、バスター。」
「お前の横にいるのは誰だ?」
「おぉ、俺を忘れたのか?」
「え?」
「バスター、お前を屠ったお方だ。」
「ひぎゃぁぁぁ。」バスターが我を忘れて暴れる。
「お、お前は、我を炎で滅した。」
「おぉ、思い出してくれたか。」
「ほ、炎の精霊を炎で焼く、と、トラウマ級の行為だぞ!」
「同意します。」
「サランも奴の味方か。」
「すまない、マスター、あれは駄目だ。」
「で、早速だが、お前を捕縛する。」
「なんだと?」
「お前は死者の国にいたんだろう。」
「あぁ、そうだ。」
「死者の国の門が壊れたから、お前も逃げて来たんだろう?」
「いや、信じないだろうが、気が付いたらここにいた。」
「んじゃ、そのまま死者の国に帰れ。」
「どうやってだ?」
「ん?」
「俺がここに来た、理由が解らん。」
「マジか。」
「あぁ。」
「そうか、すまないな、バスター。」
「ん? 何がだ?」
「俺は、黄泉と言う奴から、死者の国から逃げた者の、捕縛と捕獲を請け負った。」
「あぁ。」
「お前が、自分で死者の国に帰ってくれれば捕縛で済んだんだがなぁ。」
「帰り方が解らない俺は、捕獲になると言う事か?」
「あぁ。」
「ははは、一度お前にはこっぴどく負けているからな、存分に捕獲しろ。」
「何だ、バスター。あの時にこの素直さがあれば、良い仲間になれたのにな。」
「ははは、もし生まれ変わったなら友になろう。」
「あぁ、解った。」
「ははは、何であの時俺は、お前の力を見誤ったのかな?」
「人間を、舐めていたんだろ。」
「ははは、その通りだな。」
「んじゃな、バスター。」俺は上魔石を取り出して、バスターの前に投げる。
「ははは、手間をかけるな、ケイジ。」
「問題ない。」
「封魔石!」
「おぉぉぉぉ、存在が吸われるぅぅぅ。」
そこには、バスターを吸った封魔石が存在した。
「他に、死者の存在を感じないから、今日はもう良いよな。」
「はい、マスター。」
「紫炎。」
「はい。」
「ヤミノツウの孤児院前に。」
「はい。」
俺はそこを潜った。
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「ケイジ兄ちゃん、ギュウタが子供を産んだ。」
「おぉ、チチバハローが子を産んだのか?」
「うん。」
「チチバハローの乳を自給自足できるな。」
「そうなの?」
「あぁ、有効利用できるぞ。」
「ふ~ん、後で教えて。」
「おぉ。」
*********
「今日は、特別にお前らの食いたい物を食わせてやる。」俺はヤミノツウ孤児たちに宣言する。
「まじ!」
「やったぁ!」
「でも、高級食材は無しな。」
「え~。」
「いや、食ってもいいけど、その後普通のお肉や魚がまずく感じるぞ。」
「うっ。」
「自分で、それを調達できるなら良いが、出来ないと辛いだろうなぁ。」
「う~、分かったぁ。」
「ははは、よかった、で、何が食いたい?」
「あたし、おでんが良い!」
「俺も。」
「俺は、すき焼き!」
「あたしも!」
「あたし、どっちも。」
「俺も。」
「僕も。
「ははは、解った、どっちも作っておでんは明日な。」
「え~、何で?」
「あたし知ってる、おでんは作った次の日のほうが味が染みてて美味しいって。」
「あぁ、その通りだ。」
「へぇ~。」
「よし、具材を買いに行くか。」
俺は数人の孤児達を連れて、虚無の窓を潜り、いつもの港町に行った。
「さて、新作ができているかな?」俺はその店に入る。
「邪魔するぜぃ。」
「邪魔するなら、帰、なんだ、ケイジさんですか。」
「ちっ!」
「新作は出来ているか?」
「はい、頑張りました。」
「ほぉ。」
「こちらです。」
「ふむ。」
「これは、根菜で魚肉のすり身を挟んだものか?」
「はい。」
レンコのはさみ揚げ、タマネのひき肉挟み、トマツの野菜包み。
「おぉ、旨そうだ。」
「へへへ、頑張りました。」
「それ以外のやつもいつも通りあるな。」
「へい。」
「全部買う、いくらだ。」
「次のお題をいただければ、ただで。」
「悪いな、俺も空だ。」
「そんな。」
「ははは、そのうち考えるよ。」
「では、今回は2Gです。」
「解った、決済ヨロ。」
「はい、受けたまわりました。」そう言いながら、親父さんが端末を操作する。
「へい、決済完了しました。」親父がカードを俺に返してくる。
「では、ここにある物は貰っていくぞ。」
「はい、ご存分に。」
「次は、八百屋だ。」俺は、その場所に行く。
「邪魔するぜい。」
「はい、いらっしゃい。」八百屋のおばばが言う。
「ちっ。」
「あら、毎度どうも。」おばばは俺の顔を覚えていたようだ。
「ダイコはあるか?」
「はい、そちらに。」
「お前たち、良いダイコの見分け方わかるか?」
「根の穴がまっすぐな奴。」
「おぉ、そうだ、他には?」
「茎がへにゃってしてないの。」
「うん、そうだ、他には?」
「持った時にふにゃっとしてなくて重いの。」
「よく知っているな。」俺はその孤児の頭をなでる。
「へへへ。」
「他には?」
「え~、まだあるの?」
「あぁ。」
「わかんない。」
「教えて。」孤児たちが口々に言う。
「茎を折って、筋がない奴が良い。」
「なんで?」
「茎に筋があるやつは、ダイコの身にも筋があるんだ。」
「へ~。」
「お兄さん、それ本当かい?」おばばが食いついた。
「おや、八百屋なのに知らないのか?」
「初めて聞いたよ。」
「では、お前たち、茎の所を折って、筋があるやつを見つけろ。」
「「「「は~い。」」」」
「折ったやつは全部買うからな。」
「へへへ、毎度。」
(本当は買わなくてもいいんだがな。)
「あった~。」
「どれ?」
「これ。」
「おぉ、これだ。」俺は孤児からダイコを受け取る。
「みんな、見てみろ。」俺は孤児たちにそれを見せる。
「え~、これ?」
「茎の中に太い筋があるだろう。」
「あ~、これか。」
「うん、わかった。」
「茎を折ってもダイコに影響はないから、外見が良い奴の茎を折って確かめるんだ。」
「「「「「「解った~。」」」」」」
「あと、春菊、じゃない食用菊と、えのきだけじゃない、幽霊茸もくれ。」
「はいよ。」
「んじゃ、決済ヨロ。」俺はおばばにカードを渡す。
「へへへ、毎度。」おばばはカードを機械に入れて決済する。
「さて、あとは白滝、じゃないヒモニャクと、豆腐、じゃない、煮固豆を買わないとな。」
「ケイジ兄ちゃん、あそこにある店で売っているよ。」
「おぉ、よくわかったな。」
「へへへ、ヤミノツウでそれを扱っている店で仕事を貰っているんだ。」
「おいおい、それならお前が働いている店で買おう。」
「あっ。そうか。」
「よし、お前ら、ヤミノツウに戻るぞ。」俺はそう言いながら虚無の窓を開く。
「「「「「は~い。」」」」」孤児たちは、慣れたようにそこを潜った。