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やらかしの164

「帰るか。」俺はそう呟いて、虚無の窓を潜る。


***********


「おぉ、ケイジ、先にやっているぞ!」

「ケイジ、今日は私の奥さんも来てます。」


「おぉ、バランに、ガラン、それとガランの奥さんか、お久しぶりですね。」

「んもう、私の事は名前で呼んで下さらないのですか?」ガランの奥さんが拗ねた顔で言う。


「え?」固まる俺。


「あれ?」同じように固まる奥さん。


「あはは。」苦笑いをするガラン。


「わはは、確かターニャと申したか?」


「まぁ、バラン様もお久しぶりですね。」


「あ~、お名前を初めて聞きました、ターニャ様、お久しぶりです。」俺は頭を下げる。


「え? あら?」ターニャさんが狼狽える。

「ははは、確かに、名乗っていなかったね。」ガランが言う。


「あら~。」ターニャさんが顔を真っ赤にする。


「ははは、まぁまぁ、よろしいではないですか。」俺はそう言いながら席に着く。


「ほほほ、お恥ずかしい。」


「ははは、宜しくお願い致します。」


「そう言えば、以前頂いた食器類は、我が家の家宝にいたします。」


「いや、いや、是非使ってください、食器は絵画や彫刻ではないのですから。」


「はっ、そうですね!」


「わははは、和んでいるな、お前達。」

「ははは、バラン、俺は一仕事終えて疲れているから、飲みは無しだ。」


「むぅ、つまらんな。」


「おい、俺に上天丼セットをくれ。」其処にいた店員に言う。

「はい、承り、上天丼セット1入りました。」


「上天丼セット1承り!」


「ケイジ、上天丼セットとはなんだ?」

「あ? どんぶりによそったライシーに天汁をいい塩梅に振りかけて、油で揚げた天ぷらを天汁に潜らせて乗せた物だ。」


「なんと、聞いた事が無いメニューだぞ。」


「そうか? あそこに書いてあるじゃん。」俺は壁のメニューの端っこを指さす。

「ぬを、気付かなかった、我にも其れをよこせ。」


「はい、上天丼セット一個追加で。」


「はい~、承り~。」


「あの、私にもそれを。」ターニャさんが店員に声をかける。


「はい、更に上天丼セット一個追加で。」


「はい~、承り~。」


「すまない、私にもくれ。」ガランも言う。


「はい、上天丼セット一個追加で。」


「はい~、承り~。」


「おいおい、まとめて注文してやれよ。」


「いえいえ、大丈夫ですよ!」華厳が厨房の奥で言う。


「お待ちどうさまでした!」イロハ達が天丼セットを持ってくる。


「おぉ。」

「これが?」

「天丼と言う物なのですか?」


「あれ? 天ぷらは教えましたよね。」


「あの時は、天ぷらの食べ方を教えて頂けなかったので、普通に塩や醤油をつけて食べていました。」

「あれぇ?」


「え?」


「俺、天つゆを教えませんでしたっけ?」

「いえ? 多分ないかと。」ガランの奥さんが答える。


「いや、一寸待ってください。うどんの汁を教えましたよね。」

「はい、其れなら。」


「それを少し濃くしたのが天つゆです。」

「あら~。」


「いや、でも、其れを天つゆに流用できるとは言っていなかったような。」俺が思う。


「わはは、この甘辛いタレが良いな!」空気を読まずにバランが言う。

「えぇ、ライシーに染みたタレがたまりません。」ガランもそれに答える。


「うふふ、このボッタンエビは尻尾も食べられるのですね。」ターニャさんも俺を気遣ってくれている。


「ケイジ、毎回思うんだが、付け合わせが料理によって違うんだな。」

「おぉ、流石はバランだ、それに気づくとは。」


「わはは、伊達に国王をやっていないぞ。」


「そうか、それは漬物と言う物だ。」

「漬物?」


「あぁ、主に野菜を、色々な発酵素材で漬け込んだ物だ。」


「ほぉ、我はこの胡瓜の漬物が好みだ。」

「おぉ、バランは、胡瓜の糠漬けが好きか!」


「おぉ、塩加減がたまらん。」


「ははは、良かったな。」


「ケイジ様、ダイコとナースの糠漬けは、どこで手に入るのですか?」ターニャさんが暴走気味に言う。


「ははは、お気に召しましたか?」

「はい、あの塩加減と食感、至極です。」

「ターコ、少し抑えて。」


 おぉ、ターニャさんの愛称はターコか、いつかガランをそのネタで虐めてやろう。(俺は密かにそう思った。)


「実は、知り合いのばばぁ、ではなくて、知り合いの漬物職人が俺に納品してくれています。」

「おぉ、それは羨ましい。」


「よろしければ、いくつかご用立ていたしましょうか?」

「あら、よろしいの。」


「はい、勿論です。」


「では、今持っている者の明細をお渡ししますね。」

「はい。」


 沢庵、梅干し、高菜漬け、野沢菜漬け、糠漬け(キュリ、ナース、ダイコ、ニンジ、カーブ、ウーリ)、味噌漬け(糠漬けと同じ)、麹漬け(糠漬けと同じ)、醤漬け(糠漬けと同じ)、ハクサの塩漬け(白菜の漬物)、ラッキョ(ラッキョウ)、七種漬け(福神漬け)、蕪漬け(千枚漬け)、ナースのシーソ漬け(シバ漬け)、干しキュリ漬け(胡瓜のキュウチャン)、キャベの酢漬け(ザワークラフト)、キュリの酢漬け(ピクルス)


「あら、あら、あら。」ターニャさんが、嬉しそうに微笑む。


「全部下さい。」

「はい?」


「全部下さい。」

「はぁ、ガラン、良いのか?」


「え? あぁ、良いぞ。」

(今、明らかに動揺したよな。)


「一樽づつなら、3Gで良いぞ。」

「え? それだけでいいのですか?」

「あぁ、所詮野菜を加工した物だからな。」


「い~え、ケイジ様、野菜が持っている潜在能力を開花した物です!」

 ターニャさんが怖い。


「えぇ、その通りですね。」俺は、無難な事を答えた。


「時間が止まるマジックバックはお持ちですか?」俺が聞くと

「はい、大丈夫です。」ターニャさんが満面の笑みで答えた。


 俺は、全種類の漬け物を取り出すと、其れとは別に糠漬けの樽を取り出した。


「ターニャ様、この樽は糠漬け用の樽ですが、屑野菜の漬け込みまでは終わっている物です。」

「あらあら。」


「色々な野菜を漬け込んで下さい。」

「素敵な贈り物です。」


「毎日、同じ人がかき混ぜてください。」

「あら、何でです?」


「人の手にはそれぞれ菌がいます。その菌が変わると、発酵が変わって漬物が美味しくなくなります。」


「あら、あら、それでは私が毎日かき混ぜましょう。」

「ターコ、大丈夫なのか?」


「ほほほ、この程度なら!」


「そうか。」

 ガランは心配性だな。



「で、ケイジ。」

「ん、何だバラン?」


「また、厄介な奴が現れたらしいな。」


「おぉ、耳が早いな。」

「ふっ、国王をなめるなよ。」


「黄泉に、死者の国からの脱出者を何とかしろと言われた。」

「え?」バランがフリーズする。


「け、ケイジ様、黄泉とは?」ガランが顔色を悪くしながら聞いてくる。


「で、伝説に出てくる、あの黄泉ですか?」ターニャさんが震えながら聞いてくる。

「伝説かどうかは知らないが、閻魔の使いだと言っていたぞ。」


「で、仕方ないから、その依頼を受けた。」


「お前、まさか今の調子で受けていないよな?」バランが言う。

「え? 勿論、同じだ。」


「「「あぁ~。」」」3人が頭を抱えた。


「お前、なんちゅう奴と対等に話してるんだ!」

「え? 見た目中学生ぐらいの女の子だったぞ、バラン。」

「ちゅうがくせいが、何だか知らないが、それは我らとは違う存在だ。」


「へぇ~、そうなのか?」


「いや、ケイジ、お前、良く生きていたな。」バランが驚愕する。

「ん? なんでだ?」


「黄泉様にその態度を許される存在だと言う事なのですね。」ガランが俺に平伏する。


「え~、普通の女の子だったぞ。」


「ほほほ、ケイジ様が黄泉様と同じ存在だと言う事なのですね。」ターニャがその場で土下座する。


「ちょ、止めてください、バランもガランもターニャさんも、普通に接してください。」


「ははは、ケイジ、それがお前の望みなら。」


「善処しましょう。」

「ほほほ。」


 ちょ、ターニャさん、セリナ(お義母)さんと同じ反応は止めてください。


「わははは、今日の所は天丼を堪能しよう。」バランの一言でその場は収まった。


**********


 幽霊の少女を滅してから、数日が過ぎた。

 あれ以来、おかしな事は起こっていない。


―表面上は。―


俺は、歪な気を感じ取っていた。


「何だ、これは?」


「主様、どうしたにゃ?」

「ほほほ、ご主人様如何なされました?」


 嫁さん達は、気が付かないようだ。


「マスター、これは?」

「あぁ、懐かしい気配だな。」


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