やらかしの160
「何をするにゃ?」ムーニャ達が、虚無の窓から出てくる。
「え? 何処から現れた?」
「何が起こってるの?」
「安心しろ、俺の魔法だ。」
「え? 魔法?」
「彼女たちは、ベカスカとヤミノツウの孤児と卒院生だ。」
「あたしはムーニャにゃ、宜しくにゃ。」
「私はリョウ。」
「私はイロハ、君たちよりも少しお姉さんだよ。」
「こいつらに、弁当を伝授したい。」
「解ったにゃ。」
「ん!」
「解りました。」
「寮母先生!」
「は、ハイなんでしょう?」
「寮母先生も、手順を覚えて、増えた孤児たちに指導できるようにして下さい。」
「はい、判りました。」
「それと、これを寄進いたします。」そう言いながら、コンロとオーブンを3個づつ取り出す。
「これは?」
「使い方を教えてください。」孤児の一人が言う。
「あぁ、後でな。」
「うん。」
「あと、最初はライシーとバク粉を提供しますが、ゆくゆくは孤児院で手配してください、その程度に資金が入ると思うので。」俺は寮母先生に言う。
「解りました。」
「ムーニャ。」
「はいにゃ。」
「必要な物は、虚無の部屋から取り出して良いぞ。」
「はいにゃ。」
「それと、モウチクや油紙を買える所も聞いておいてくれ。」
「はいにゃ。」
「で、俺は食材を仕入れに行ってくる。」
「行ってらっしゃいにゃ。」
孤児院を出た俺は、港町を目指した。
途中、八百屋でレモンを大量に仕入れた。
実は、ヤミノツウの俺の家の庭で育てているレモンとは、微妙に味が違う事に気付いた。
味にどんな違いがあるかは、帰ってから検証しよう。
「で、港町のジヤオ・キカを訪ねると言う事だったな。」
(はい。)
「んじゃ、そいつを探そう。」
(はい。)
(ケイジ様、右に敵性反応です。)
「あ~、ミーニャと同じアレか。」
(はい。)
そこには何も入っていないのにな。
「にゃ、何もないにゃ。」
俺は、その手を掴む。
「にゃ? なんで?」
「まず、落ち着け。」
「にゃ?」
「俺を獲物にした時点でお前はアウトだ。」
「アウト?」
「あぁ、俺はベカスカのAランクだからな。」俺はベカスカのギルドカードを見せる。
「え?」
「今、お前は俺に捕縛された。」
「はぅ。」
「その意味が解るか?」
「にゃ、これ以降は自由が無くなるにゃ。」
「良く出来ました。」
「にゃ、好きにするにゃ。」
「おぉ、潔いな。」
「何でこんなことをした?」
「良い匂いがしたから。」
「ん?」
「お腹がすいていたから、良い匂いがしたから、手を入れたにゃ。」
「いつもこんな事をしているのか?」
「初めてにゃ。」
「ん?」
「初めてやって、捕まったにゃ。」
(本当のようです。)
「はぁ、初犯で未遂か。」
「にゃ?」
「ははは、お前の名前は?」
「ニャーミだにゃ。」
「そうか、ニャーミ、俺はケイジだ宜しくな。」
「え?」
俺はニャーミを途中にあった広場に連れて行った。
「此処で何をするにゃ?」
「あぁ、腹がすいているんだろう、これを喰え。」俺は、虚無の部屋からおにぎり弁当を取り出して、ニャーミに渡す。
「え?」
「食べて良いぞ。」
「本当に?」
「あぁ。」
ニャーミは泣きながら弁当を食べた。
「お前、兄弟は?」
「いないにゃ。」
「そうか。」
「歳はいくつだ?」
「多分、9歳にゃ。」
「何で、多分だ?」
「死んだ兄ちゃんがそう言っていたにゃ。」
「そうか。」
「美味しかったにゃ、この対価は何にゃ、あたしの身体が目当てなら其れでも良いにゃ。」
「港町を案内してくれ。」
「え? 其れで良いの?」
「出来ないのか?」
「いや、出来るにゃ。」
「そうか、では、カーキの店に案内してくれ。」
「カーキにゃ、解った、こっちにゃ。」
ニャーミが俺をそこに案内する。
「邪魔するぜぃ。」俺はその店に入る。
「邪魔するなら、何だニャーミか、出ていけ。」
「惜しい。」俺は悔しがる。
「と、言うか、ニャーミはここらで嫌われているのか?」
「あ~、嫌われていると言うか。」
「うん?」
「あちこちで失敗しちゃった。」
「何だそれ!」
「お仕事を貰ったんだけど・・。」
「そいつは、カーキを剥かせれば握りつぶして駄目にするし、魚を運ばせれば思いっきりぶちまけて駄目にするし、何をやらせても駄目な奴なんだ!」
「ははは。」
「笑い事じゃないにゃ。」
「おやじさん、ジヤオ・キカって人を探しているんだが、知っているかい?」
「あぁ、知っているぞ。」
「あたしのことは放置にゃ?」
「おぉ、紹介してくれ。」
「俺だ。」
「あぁ、俺はケイジだ、宜しくな。」
「何の用だ?」
「カーキを買いに来た。」
「あぁ、そこにあるぞ。」
「いろんな種類があるのか、ずいぶん多いな。」
「いや、2種類だ。」
「生で食える奴と、熱を加えて食う奴か?」俺は聞く。
「ほぉ、お前さんはそれが解るのか?」
「あぁ。」
「くくく、気に入った、サービスしてやるぞ。」
「剥いた牡蠣だけなのか?」
「いや、殻つきもあるが。」
「いや、剥くのは面倒くさいか。」
「うん、お前はカーキが剥けるのか?」
「あぁ、普通に出来るぞ。」
「ほぉ、興味深い、カーキを剥けるのなら少しオマケしてやるぞ。」
「ほぉ、言質取ったぞ、んじゃ、ここの牡蠣を貰うな。」
「あぁ。」
「道具も借りるぞ。」
「な、道具が解るのか?」
「ははは、当然だ。」
「おぉ。」
「牡蠣の殻をこう持って、ここに道具を差し込み、貝柱を剥がす。」俺はそれを実行する。
「おぉ、見事だ。」
「口が開いたら、反対側もこそげて終わりだ。」
「お前は、マシロヒ育ちなのか?」
「いや、違う。」
「くくく、負けたよ、サービスはしてやる。」
「おぉ、ありがとう。」
「で、どんだけ欲しいんだ?」
「そうだな、とりあえず、いや、牡蠣の販売単位は何だ?」
「此処の、剥きカーキは1重400Bだ。」
「それは、生食も加熱用も同じなのか?」
「あぁ。」
「いや、一寸待てよ、生食用と加熱用の違いは、育った場所の違いで、病気になりやすいだけか?」
「あぁ、そうだ。」
「試食しても良いか?」
「あぁ、良いぞ。」
(紫炎、クリーンを唱えれば加熱用も生で食えるよな。)
(はい。)
「クリーン!」俺はそれを唱えてから、生食用と加熱用を食べ比べた。
「おほ。」俺は驚愕する。
加熱用の方が、味が濃い。
「あんた今、加熱用の方も生で食ったよな。」
「あぁ。」
「おい、大丈夫なのか?」ジアオが聞いてくる。
「クリーンの魔法を唱えたから、病気にはならないぞ。」
「おぉ、そんな方法が。」
「あぁ。」
「加熱用の牡蠣の方が旨いから、そっちを100重貰う。」
「はぁ、40Gだぞ。」
「あぁ、カードが使えるならそれで、駄目ならBで払うよ。」
「あぁ、使える、決済するが、クリーンの魔法をかけたカーキを食べさせてくれないか?」
「良いぞ。」俺は、その牡蠣をジアオの前に出す。
「どれ?」その牡蠣を口に入れてジアオが固まる。
「どうした?」俺が聞く。
「これはヤバイ、常識が覆る。」
「ははは、良かったな。」
「良くないよ、生食用の牡蠣棚が潰れる。」
「それなら、黙ってりゃいいじゃん。」
「え?」
「あぁ、クリーンをかけて食う事を黙っておけば良いんじゃないか。」
「それは、良いのか。」
「俺は、誰にも言わないぞ。」
「そうさせて貰う。」
「あぁ、オマケするって言ったよな、加熱用のカーキを10重サービスしとくぜ。」
「おぉ、悪いな。」
「くくく、なに、どうと言う事も無い、せいぜい贔屓にしてくれ。」
「おぉ、ジヤオ・キカ、気に入った、これから贔屓にするぞ。」
「あぁ、宜しくな。」
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「ニャーミ。」
「はいにゃ。」
「仕事が欲しかったら、孤児院を訪ねろ。」
「にゃ?」
「それでも駄目なら、ギルドで俺を呼べ。」
「にゃ?」
「俺は、ケイジだ。」
「解ったにゃ。」
「んじゃ、今回の案内の報酬だ。」俺は500Bの入った袋をニャーミに渡す。
「え?」
「もう、人の財布を狙うなよ。」
「にゃ?」
「お前には、養う兄弟はいないだろう?」
「うん。」
「自分が生きるためならさっき言ったことを実行しろ。」
「解ったにゃ。」
「んじゃ、またな。」
「はいにゃ。」
俺は虚無の窓を潜った。
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「ははは、ケイジ、これが牡蠣フライと言う物か?」
「おぉ、バラン、そうだ。」
「ぬぅ、ソースでも美味いが、このタルタルソースは至極だな。」
「あぁ、檸檬を絞って食うのは至極だろう!」
「ははは、美味い!」
「生牡蠣はどうだ?」
「ははは、そっちも気にった。」
「おぉ、それは良かったな。」
「良くないぞ。」
「ん? なんでだ?」
「これは王城では食えん。」
「あっそう。」
「なんだ、その反応。」
「俺には関係ないな。」
「ケイジ、俺は国王だぞ。」
「だから?」
「食いたい物が食えないのは嫌だ。」
「ふーん。」
「ケイジ、我に提供しろ。」
「は?」俺は、殺気を最高にしてバランを見る。
「な? ケイジ、我は明友だよな。」
「あ?」俺は、威圧を最高レベルにした。
「ぐはぁ、ケイジ、これはたまらん!」
「ふ~ん。」
「何を提供しろと?」
「すまない、牡蠣を少しだけ。」
「ほぉ。」
「1重お願いします。」
「対価次第だな。」
「では、1重10Gでどうだ?」
「あぁ、良いだろう。」俺はほくそ笑む。
「くくく、1重で9Gの儲けか、悪くないな。」俺は更に悪い顔でほくそ笑む。




