やらかしの159
「え? ケイジ様?」
「精霊様の御加護を賜った?」
「はい、それは俺ですね。」
「此処にどのようなご用件で?」
「あぁ、ほんの気まぐれだ。」
「はい?」
「此処に孤児は何人いる?」
「16人です。」
「見た所、領主からの寄付も潤沢ではなさそうだな。」
「はい、ご寄付は頂いていますが、十分では。」
「そうですか。」
「?」
「とりあえず、孤児たちを集めてください。」
「はい、解りました。」
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「さっきのおじさんだ。」
「こ、心に刺さるな。」
「これ、ケイジお兄さんとお呼びしなさい。」
「え~?」
「食い物を持って来たぞ。」
「ケイジ兄ちゃん、何を」
「ケイジ兄、全員分あるの?」
「ははは、手のひら返しが凄いな。」そう言いながら、さっきの屋台の串焼きが乗った皿を取り出す。
「串焼きだ!」
「食べても良いの?」
「あぁ、一人2本な。」
「やった!」
「俺これ!」
「ははは、こっちにパンも出すから、挟んで食え。」俺はパンが入った籠を取り出す。
「寮母さん、器は有りますか?」
「は、はい、こちらに。」と言って案内されたところには、ふちが欠けたどんぶりがあった。
俺はそれを机に置いて、クリエイトの呪文を唱える。。
「え?」寮母さんが驚愕する。
「全部新しいものになったはずです。」
「え?」
そこには、同じ数の新品の器があった。
俺は、孤児たちの所に戻り言う。
「さぁ、オーク汁が欲しい奴は集まれ。」俺が言うと。
「オーク汁ってなに?」
「凄く高いお肉だよね。」
「それが食べられるの?」
「さぁ、食いたい奴は器を持って並べ。」俺はにっこりと笑いながら言う。
「食べたい!」
「俺も!」
「あぁ、割り込む奴にはやらないぞ、いっぱいあるからちゃんと並べ。」
「「「は~い。」」」おぉ、急に素直になった。
「寮母さんたちもどうぞ。」
「え? よろしいのですか?」
「勿論です。」
「あぁ、嬉しい。」
「お代わりもいっぱいあるからな。」
「「「は~い。」」」
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「美味しかった~。」
「お腹いっぱい。」
「あぁ、ケイジ様、施しに感謝いたします。」
「いえ、たいしたことは。」
「なんと奥ゆかしい。」
「さて、お前達に聞く。」俺は孤児たちに聞く。
「な~に?」
「なんだろう?」
「ベカスカやヤミノツウの孤児たちは、冒険者に弁当を売って孤児院に売り上げを上納している。」
「え?」
「弁当?」
「これだ。」俺は、おにぎり弁当とサンドウィッチ弁当をそこに取り出す。
「え?」
「今どこから?」
「これを、私達と同じ孤児が作っているの?」
「あぁ。」
「あたし達にもできるの?」
「やる気があればな。」
「あたしやりたい。」
「うちも。」
「あたいもやる。」
「俺もやる。」
「やりたい。」
「よし、なら俺が教えてやろう。」
「マジで?」
「あぁ、任せろ、だがその前に、冒険者ギルドに俺を連れて行ってくれ。」
「あたしが案内する。」
「いや、俺が行く。」
「あぁ、喧嘩するな、二人に案内を頼む。」
「わかったぁ。」
「任せろ。」
「ははは、頼むな。」
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「邪魔するぜぃ。」俺は冒険者ギルドのドアを空けながら言う。
「冒険者ギルドにようこそ、この度はどのようなご用件にゃ?」受付の獣人のお姉さんがにこやかに言う。
「ギルマスを呼んでくれ。」
「え?」
「あぁ、ギルマスを呼んでくれ。」俺はギルドカードを見せながら言う。
「にゃ? お待ちくださいにゃ!」
獣人のお姉さんが奥に駆けていく。
その後、ギルマスが現れた.
「俺に何の用だ。」
「あぁ、ここで、弁当を売らせてほしい。」
「弁当?」
「あぁ。」
「それはどのような?」
「あぁ、皆、集まってくれ。」
「何だ?」
「弁当とか言っていたが。」
「それは何だ?」
「あぁ、これだよ。」俺はおにぎり弁当と、サンドウイッチ弁当を数個取り出す。
「なんだこれ?」
「あぁ、おにぎり弁当と、サンドウィッチ弁当だ。」
「朝からダンジョンに潜って、昼飯にするのに良いぞ。」
「う~ん、良く判らん。」
「食べても良いぞ。」
「え? 良いのか?」
「あぁ、試食だ。」
「俺にもくれ。」
「あたいにも。」
「あぁ、十分あるから喧嘩するな。」俺は弁当を補充した。
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「さて、これを弁当として売り出したらお前達は買うかな?」
「え?」
「これを?」
「いくらで?」
「おにぎりもサンドウィッチも100Bだ。」
「おにぎり?」
「アサクで巻いたライシーだ。」
「あぁ。」
「んじゃ、ブッダで挟んだ方が?」
「サンドウィッチだ。」
「いや、その値段で提供してくれるのか?」
「あぁ。」
「買うぞ。」
「あたいも。」
「これはありがたいな。」
「そうか、そうか。」俺はほくそ笑む。
「で、ギルマス。」
「何だ?」
「場所を借りたい。」
「あぁ、酒場の端っこなら構わんぞ。」
「孤児院で生産して、ここに朝から数回持ち込むからな。」
「おぉ、良いぞ。」
「で、場所代だが、売り上げの1割で良いか?」
「あ? 孤児院で作るんだろう、んじゃ要らないよ。」
「いや、そう言う訳にも行かないだろう。」
「いやいや、こいつらの弁当を作ってくれるんだろう、だから要らない。」
「あんた、良い奴だな。」
「へへへ、俺も元孤児だったからな。」
「気に入った、俺は、ケイジって言う、あんた名前は?」
「俺はルヘ・カアープだ。」
「そうか、ルへ、其れとここにいる全員にラガーを奢るぞ。」
「やったぁ。」
「マジか。」
「わはは、ケイジさん太っ腹だな。」
「決済してくれ。」俺は受付の猫獣人のお姉さんにカードを渡す。
「ラガー、48杯、1G440B決済しました。」
「気分が良いから、俺特製のつまみも出してやる。」俺はそう言うと、ランナー鶏の唐揚げと、オークのもつ煮を机に取り出す。
「これは?」
「唐揚げともつ煮だ。」
「おぉ、どこかの領主前婚と国王前婚で振舞われたと言う。」
「あっ、どこかで聞いたと思ったら、あんた、やらかしのケイジさんかぁ。」冒険者の一人が叫ぶ。
「いや、確かにケイジだが、やらかしては無いと思うぞ。」
「いやいや、国王と宰相を呼び捨てにして、全ての魔王を従えて。」
「あぁ、そうだな。」
「それどころか、ベカスカ周辺のダンジョンを管理して。」
「うん、間違っていない。」
「吸血姫やサキュバスを従え。」
「あぁ、そうだな。」
「精霊種を複数嫁にしている!」
「うん、俺だ。」
「まじで、やばい人だ!」
「いや、そんな事無いぞ。」
「握手してください。」女冒険者が俺の前に来て言う。
「手を洗うなら良いぞ。」俺はその女の手を握る。
「きゃぁう、妊娠しそう。」
「新しい反応だが、絶対にないからな。」
「あたしも良い?」
「あぁ。」
「あぁ、下っ腹が突っ張る。」
「気のせいだ!」
「俺も良いですか?」
「あぁ。」
「この手であの子に触れたら、俺の彼女になってくれるかな?」
「知らんがな!」
全員に握手するまで、騒動は続いた。
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俺は孤児院に戻り、宣言する。
「明日以降冒険者ギルドに弁当を配達する。」
「「「「はい。」」」
「だが、準備が間に合わないから、助っ人を呼ぶ事にする。」
「ムーニャ、リョウ、イロハ。」俺は虚無の窓越しに声をかける。
「はいにゃ。」
「ん!」
「はーい。」
「今大丈夫なら、手伝ってくれ。」
「はいにゃ。」
「ん!」
「はーい。」