やらかしの148
「そう言えば、ボルガの息子はどうなったんだ?」
「ほほほ、半月ほど前に一人前にいたしました。」扇で口元を隠しながらヒドラが言う。
「ほぉ、あれから3か月も経っていないが?」
「ほほほ、優秀な者でしたので。」
「それは凄いな。」
「ほほほ。」
「では、検分に行こうか?」
「ほほほ、願っても無い事です。」
「ダヨトは何処が近い?」
「ヤゴナです。」紫炎が答える。
「バランの王城か。」
「はい。」
「そこからの距離は?」
「37Kmです。」
「2、いや、1跳躍?」
「はい。」
「んじゃ、ヤゴナへ。」
「はい。」
「え~っと、どの方向だ?」
「右に30度です。」
「此の位?」
「はい。」
「んじゃ。」俺は跳ぶ。
「わははは!」
俺はダヨトの門の前に着地する。
門の前に並んでいた者たちが驚愕するが、「あっ、あの人はケイジさんだ。」と言う誰かの言葉でそこにいた全員が納得した。
「やらかしのケイジさんだ。」
(なんだそれ?)
俺は、大人しく列の最後尾に並ぶ。
俺の番になる。
「え~っと、身分を証明する物は?」門番が言う。
「俺のこの顔だ。」俺は、いつぞやバランがやった事を試してみる。
「はい、ケイジ様、どうぞお通り下さい。」
「え?」
「はい?」
「其れで良いの?」
「はい、ケイジ様であることは確認できましたので。」
「え~。」
「え~っと、俺が連れている者達は?」
「ケイジ様の従属者で、認識しています。」
「あっそう。」
俺は、不本意ながら門を潜る。
「ほほほ、流石はケイジ様ですね。」
「其れで済んじゃうの?」
「ほほほ、その様ですね。」
「さて、どの店が美味いんだ?」
「ほほほ、検分とは?」
「誰が、ボルゲを検分すると言った?」
「ほほほ、言っていませんね。」ヒドラが口元を扇子で隠す。
「ダヨトはヤゴナに近いので、ヤゴナとほとんど変わらないですよ。」
「なんだ、そうなのか。」
「おいおい、兄ちゃん聞き捨てならねーな。」
「ん?」
「ダヨトの手羽先はヤゴナ以上だぜ。」
「おぉ、そうなのか?」
「この先に店があるから、行ってみろよ。」
「おぉ、ありがとうな。」
「な~に、良いって事よ。」
早速その店に行ってみることにした。
「ほぉ、結構行列しているな。」
「ほほほ、その様ですね。」
俺は、大人しくその行列に並んだ。
「ふ~ん、回転は良いみたいだな。」
直ぐに、俺の番になった。
店に入ると、お勧めを3人分に、ラガーも3個頼んだ。
何気なく、店を見まわしていたら、それが目に入った。
「ヤゴナ本店直伝の味、手羽元をご堪能下さい。」
「何だそれ? ヤゴナと同じ味じゃねーか。」
その後、がっかりしながら家に帰った。
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家に帰ると直ぐに、虚無の窓からアイリーンが俺に言う。
「ザード様から、緊急依頼が入っています。」
「緊急依頼?」
「町が、ゴブリンの軍団に襲われているそうです。」
「何だそれ、受けた、紫炎!」
「はい。」ザードの町に虚無の窓がつながる。
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「うぉ!」虚無の窓を潜った俺が見たものは、町を幾重にも囲むゴブリンの群れだった。
町は、門を閉じ、塀をよじ登って侵入するゴブリンを、兵士や冒険者が一匹ずつ倒していた。
「ザードは何処にいる?」俺は近くの兵士に尋ねる。
「え? あなたは?」
「あぁ、俺はケイジだ、宜しくな、ザードから依頼を受けて来た。」
「え? 何処から?」町の全ての門は、固く閉ざされている。
「ああ、俺の魔法だ。」
「そうですか、ザード様は、前線で指揮をとられています。」
「そうか、ありがとう。」
「いえ。」兵士は、塀に向かって歩いて行った。
「とりあえず、俺に敵意を向けさせれば良いか?」
「はい。」
「とりあえず、ザードを探そうか。」俺は、襲撃が多そうな方に向かって走る。
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「壁を乗り越えたゴブリンだけを打ちなさい、力は温存するように、長丁場になりますよ。」ザードが、町の人間を鼓舞しながら戦っていた。
「ザード。」
「おぉ、ケイジ様。」
「どんな具合なんだ?」
「町の周りを、数千匹のゴブリンが取り囲んでいます。」
「あまりの数に、打って出る訳にもいかず、防戦一方です。」
「原因は解らないんだよな。」
「はい。」
「とりあえず、ゴブリンを殲滅するから、魔石の回収をよろしくな。」
「え?」ザードが狼狽える。
俺は、壁の上に跳ぶと、ゴブリンに向かって言う。
「今から、お前らを殲滅する!」
『ぐぎゃぁ、たかが人間が?』
『ぎゃははは、俺、あいつ犯す、犯して食う。』
『ゴブリンにもホモがいるのか?』
「ケイジ様、ホモとは?」
「あぁ、ザード、忘れろ。」
「はい。」
「ツンドラ!」俺の魔法で、その辺りが凍り付き、数十匹のゴブリンが死んだ。
『ぐぎゃぁ、あいつが魔法で仲間を殺した!』
『仲間を殺す、許さない!』
『あいつ殺す!』
俺は、ゴブリンの前に飛び降りて、再び魔法を使う。
「ウインドカッター!」多方向に風の刃を飛ばす。
一度に数百匹のゴブリンが死ぬ。
『あいつだ。』
『あそこにいる奴が、仲間を殺した!』
『許せない!』
『あいつを殺せ!』そう思ったゴブリンがその場で息絶える。
『どうした? あぁ、死んでいる、あいつが何かした!』
『あいつを許さない!』そう言ったゴブリンもその場で死ぬ。
「ははは、お前達の仲間を殺しているのは俺だ!」俺が声を上げる。
『許さない!』
『仲間の敵!』
『殺す!』
俺に敵対したゴブリンがばたばたと死んでいく。
『あの男のせいで、仲間が死んでいく!』
『許さない、仲間の仇!』そう言いながら、ゴブリンは皆こと切れていく。
俺は、町を囲った塀沿いに歩いて行く。
『ぐぎゃぁ。』
『へぎゃぁ。』
『ぶぎゃぁ。』
ゴブリンが、俺に敵意を向けて、自滅していく。
俺が、町を一周すると、ほぼ全てのゴブリンが横たわっていた。
「ん?」俺は、其の存在に気付いた。
町から少し離れた場所にいる集団。
「ん~?」俺は、その集団を鑑定する。
「数100匹のゴブリン、ゴブリンチャンプ、ゴブリンロード、そして、ゴブリンエンペラーがいます。」紫炎の声がする。
「ふ~ん。」俺は、その方向に向かい歩いて行く。
『ぎゃぁぁ。』
『ぶはぁぁ。』
『うぎゃぁぁ。』
俺が歩く方向に、断末魔が響く。
『そこで止まれ!』俺を止める声がする。
「あ? 俺を止める奴は誰だ?」
『皇帝様の御前である、平伏せ。』
「あぁ、俺に敵対するって事だな。」
『違う、皇帝様には全ての者がひれ伏す、お前も速やかに平伏せ。』
「お前、何だ?」俺が威圧を込めて言う。
俺の威圧に耐え切れないゴブリンがバタバタと倒れていく。
『私は、ゴブリンチャンプ、皇帝の剣だ。』
「あぁ、ご苦労さん、俺はケイジだ、覚えなくて良いぞ。」
『え?』
「直ぐに死んじゃうからな。」
『何を?』
「チャンプもロードも関係ない、お前らは俺が滅ぼす。」俺が挑発する。
『何を? はぐぁ!』ゴブリンチャンプがその場でこと切れる。
『貴様、皇帝に、ぐはぁ!』ゴブリンロードもそこで死ぬ。
『私は、ここで死ぬのか?』ゴブリンエンペラーが言う。
「あぁ。」
『何故だ?』
「人間の町を襲ったから?」
『私は、鬼の王に言われた通りに、この町を襲っただけなんだが。』
「お前の意思がない事が減点だ、そしてお前の部下だけに襲わせたことで、アウト!」
『もともと、我の生には興味が無い、滅せよ。』
「解った、どうやって死にたい?」
『え?』
「火で死にたいか、水で死にたいか、風で死にたいか。土で死にたいか。雷で死にたいか、身体を爆散して死にたいか?」
『どうせなら、私を扇動した鬼の王と一緒に業火に焼かれて死ぬのが相応しい。』
「解った。」
『おぉ。』
「その、鬼の王は何処にいる?」
『此処から、西に行った、ウオザと言う温泉地にいます。』
「ウオザ?」
(此処から西に89Kmの所です。)
(えっと、2跳躍?)
(はい。)
俺は、ゴブリンエンペラーを虚無の部屋に仕舞い、ウオザに跳んだ。