やらかしの147
この時期に喰いたくなるものがある。
「紫炎、港町に。」
「はい。」
「この時間なら、競りも終わって、店に魚が並んでいる頃だろうな。」俺は目の前の店に入る。
お目当ての物は、すぐに見つかった。
「おやじさん、これはいくらだ?」
「一皿5匹で50Bだ。」
「何皿ある?」
「10皿だ。」
「全部買う。」俺は500Bをそこに置く。
「毎度!」
「紫炎!」
「はい。」そこにあった物が一瞬で消える。
「他の店も覗くか。」そう言いながら、他の店にあった物も買い占める。
「あぁ、八百屋にも行かないとな。」そう言いながら、いつもの店に行く。
「ダイコ、有るか?」
「あぁ、売るほどあるよ。」
「10本くれ。」
「100Bだよ。」
「あぁ。」俺は100Bをカウンターに置き、ダイコを仕舞う。
「おっ。」俺はそれを見つけた。
「これは、カボス。」
「それは、南の方で採れるカーボだよ。」
「全部買っても良いか?」
「あまり売れないから、良いよ。」
「いくらだ?」
「100Bで良いよ。」
「買った。」俺はカウンターに100Bを置いた。
「毎度。」
「ちょっと待て、其れは柚子か?」
「え? ユーズだよ。」
「全部貰う。」
「これも100Bで良いよ。」
「あぁ。」俺は100Bを置く。
「ははは、今日はこれを喰いまくる。」そう言いながらヤミノツウの孤児院に潜る。
「主様、お帰りにゃ。」ムーニャが出迎えてくれる。
「おぉ、ムーニャ、今日は秋刀魚祭りだ。」
「サンマって何にゃ?」
「これだ。」俺は虚無の部屋から秋刀魚を取り出して、ムーニャに見せる。
「見た事無いお魚だにゃ。」
「あれぇ?」
(ケイジ様、流通が整っていないので、内陸には出回りません。)
「あぁ、そういう。」
「ムーニャ。」
「はいにゃ?」
「この魚は美味いぞぉ。」
「にゃ?」
「油が乗って、ダイコおろしに、醤をかけて食うと、白飯が何倍でも行けるぞ。」
「にゃぁ、暴力的な言葉にゃ。」
「ミーニャも呼んでやれ、あぁ、メームやニャニャ、ミーニャの子供達もな。」
「はいにゃ。」
「わはは、ケイジ、我への納品か?」
「おぉ、バランも食うか?」
「わはは、我の城では、一匹5Gで買っている高級魚だから、勿論食うぞ。」
「え?」
「ん?」
「5G?」
「おぉ、我でもめったに食えん。」
「あ~、バラン。」
「何だ?」
「一匹10Bで、200匹買ってきた。」
「え?」
「うん。」
「くそぉ、あの出入りの魚屋は縛り首だ!」
「いやいや、俺みたいに、中の時間が止まったマジックバックを持っていないと、ヤゴナまで新鮮なまま届けられないだろう。」
「その手間賃だよ。」
「うむむむ。」
「ムーニャ。」
「はいにゃ!」
「秋刀魚の準備を手伝ってくれ。」
「はいにゃ!」
「と言っても、店の裏で水洗いして、良く拭いて、塩を振るだけなんだがな。」
「え? それだけにゃ?」
「いや、ダイコおろしを作る、と~っても辛い作業は、ショウマに頼もう。」
「俺っすか? いや、はい承り。」ユーゴとビーアに水を開けられたからだろう、前向きだ。
「イロハ達は、これを洗って、横半分に切ってこれに入れてくれ。」俺はカボスを取り出し、入れるためのボールも取り出した。
「はい、承り。」
俺とムーニャは、裏に行き、秋刀魚を取り出すと俺が水魔法で秋刀魚を洗い、付いている鱗を落とす。
ムーニャは、洗い終わった秋刀魚を布で丁寧に拭いて、皿に並べていく。
「ぐふふ、振り塩をして、包丁を入れても良いですか?」
「おぉ、ダンサ、頼む。」
「ぐふふ、どのような切り方で?」
「オーソドックスに、×だ。」
「ぐふふ、承りました。」
ムーニャが、興味深そうに、ダンサの手元を見ている。
ダンサは、秋刀魚に包丁で×の切れ目を入れ、両面に振り塩をする。
「何で切るにゃ?」
「火の通りが早くなるのと、皮を美味しく食べるためだ。」
「成程にゃ。」
半刻で、200匹を処理し終えた。
「さて、焼くか。」俺はそこにコンロを取り出す。
「魔石を入れて起動!」
ブオォ~ンと言う音と共に、コンロが温まっていく。
「まず網を乗せて、油を網に塗る。」
「ケイジ様、何でですか?」
「あぁ、油を塗っておけば、魚が網にくっつかないんだ。」
「くっつく?」
「あぁ。」
刺身で食べられる鮮度の物だ、少しの寝かせで良いだろう。
俺は、秋刀魚をコンロに乗せる。
「ジュワ~。」秋刀魚から油がコンロに落ち煙が上がる。
「ははは、脂がのっているな。」
「ぐふふ、美味しそうです。」
ムーニャをはじめ、孤児たちはノーリアクションだ。
食べた事がないから、しょうがないな。
(俺はそう思いながら秋刀魚を焼いて行く。)
「さて、焼けたぞ、ダイコおろしは出来ているか?」
「ぜはー、ぜはー、ボール2個分は。」ショウマが言う。
「さて、最初はバランに献上だな。」
「我にか?」
「あぁ、秋刀魚の暴力を感じろ。」俺はそう言うと、焼けた秋刀魚を皿に置き、ダイコおろしを絞って添え、カボスを乗せた。
「醤をダイコおろしと秋刀魚にかけて、ダイコおろしを身と一緒に食べてみろ。」
「初めての食べ方だぞ。」
「あぁ、カボスも搾ってな。」
「此の柑橘か?」
「あぁ、おい、バランに熱燗だ!」
「はい、承り。」
「ふふふ、我に自ら食材に変化を与えさせるのは、ケイジだけだ。」
「お前、今まで秋刀魚をどうやって食っていたんだよ?」
「磨り潰して、団子にした物をスープで煮込んでだな。」
「秋刀魚のつみれ汁か。 いや、それはそれで美味いんだけどな。」
「直接焼いた秋刀魚は初めて食う。」
「ははは、まぁ、耐えろ。」
「何を耐えるんだ?」
「秋刀魚の美味さ。」
我は、出された秋刀魚の塩焼きに、醤をかけたダイコおろしを乗せ、カボスなる物を絞った物を箸で口に入れた。
途端に広がる、秋刀魚の油の美味さ、その後からカボスとダイコの味が口の中をリセットする。
我は、ケイジの用意した熱燗を流し込む。
すべてがリセットされた。
いや、秋刀魚を喰いたいと思う心だけが残った。
我は、もう一度秋刀魚を食べる。
そして、熱燗を口にする。
至福だ。
「あ~、内臓が苦旨い味なんだが、初心者には無理かな?」
「内臓も食えるのか?」
「あぁ、飲み込んだ鱗や、寄生虫が邪魔だが、大人の味だぞ。」
「なんと、我に対する挑戦だな!」我は、腹部の内臓を口に入れる。
「苦みが凄い、だが深みがある。」
「気に入った。」
「おぉ、バランは食通なのだな。」ケイジが笑顔で言う。
「ケイジ、もう一匹くれないか?」
「あぁ、今焼いているから、少し待て。」
「ふふふ、我に少し待てと言い放つ我の明友。」
「人間のくせに、我を軽く滅する力の持ち主。」
「ふふふ、心地よい。」
「主、これ美味い。」
「兄者、至福だ。」
「メームと結婚してよかったにゃ。」
「にゃぁ、これは反則にゃ。」
「何これ、美味い!」
「ライシーに合う!」
「あぁ、お子様たちは、小骨に気を付けろよ。」
孤児たちも、秋刀魚の美味さを体験したようだ。
俺が買った、秋刀魚200匹は一晩で消えた。
「け、ケイジ様、これは、ライシーにも、熱燗にも合う味です。」
「あぁ。」
「ケイジ様、売らせて下さい。」
「仕入れはどうするんだ?」
「ケイジ様が。」
「却下だな。」
「ケイジ様が、店先で秋刀魚を焼いていたのを見て、あれは何だ? 是非食べたいと反響が凄いのです。」
「ふ~ん。」
「華厳、自分で仕入れルートを探せ。」
「御意!」
そう言いながら、俺は次の日に港町で秋刀魚を買いあさった。
「秋刀魚のかば焼き、秋刀魚の甘辛揚げ、秋刀魚の生姜煮、秋刀魚の山椒煮、秋刀魚南蛮漬け。」
「主様が、呪文を唱えてますにゃ。」
「ぐふふ、秋刀魚料理の種類です。」
「想像できないにゃ、きっと美味しいにゃ。」
「ぐふふ、美味しいでしょうね。」
「ダンサ様、これが飯テロですか?」
「ぐふふ、どこでそんな言葉を?」
「ケイジ様が、以前に言っていましたにゃ。」
「ぐふふ、当たらずとも遠からずですね。」
「にゃ?」
「ぐふふ、ぐふふ。」