やらかしの146
「ケイジ様、バンテゴのヤジカ親方から、採取依頼が入っています。」虚無の窓からアイリーンが言う。
「おぉ、受けるぞ。」
「詳細は、ヤジカ親方に聞いてください。」
「解った。」
「紫炎、ヤジカ親方の店の前に。」
「はい。」
「採取依頼か、オカタのダンジョンを周回すれば良いかな?」
「1回で良いと思う。」ハクが傍に来て言う。
「そうか?」
「うん。」
「一緒に行くか?」
「ううん、今回は、行かない。」
「え?」
「この家を守る者がいなくなるから。」
「あぁ。」
「エンとミドリを連れて行ってあげて。」
「解った。」
「じゃぁ、次は僕が残るよ。」ミドリが手を上げる。
「その次は、僕が残る!」エンも手を上げる。
「じゃぁ、行ってくる。」俺は、ミドリとエンを虚無の部屋に入れ、紫炎にヤジカ親方の店の前に繋いで貰った。
「いってらっしゃい。」ハクが笑顔で送り出してくれた。
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「邪魔するぜぃ。」そう言いながら、親方の工房に入っていく。
「邪魔するなら来るな、って、ケイジ様か。」
(う~ん、微妙だ。)
「俺に依頼を出したんだろう?」
「あぁ、コンロやオーブン、それに冷蔵庫とバネ秤、ミートミンサーと麺打ち機も注文が止まらねえ。」
「それは良かったな。」
「あぁ、良かったんだが、原料が足らないんだよ。」
「あぁ、そう言う事か。」
「鉄とミスリル、ヒヒイロカネを持っているなら全部買う。」
「良いよ、俺が今持っている物を出すよ。」
「ありがてえ。」
鉄1270重 1270G
ミスリル610重 18300G
ヒヒイロカネ35重 105000Gを出す。
「おぉ、ありがたい! 決済するからカードを貸してくれ。」
「あぁ。」俺は、ヤジカ親方にカードを渡す。
「確認してくれ。」親方がカードを返してくる。
「あぁ、信用している。」俺は確認せず、カードをしまう。
「かぁ、男前だな、ケイジ様。」
(いや、日本円で12億4千万を即金で支払える親方の方が男前だよ。)俺が思う。
「ははは、奥さんに宜しくな。」そう言いながら、ウイスキーの瓶を10本カウンターに置く。
「おぉ、言っておくぜ。」ヤジカ親方は、そう言いながらウイスキーの瓶の蓋を開けてラッパ飲みする。
「紫炎、オカタのダンジョン前に。」
「はい。」俺はそこを潜る。
「おぉ、また消えた、ケイジ様は本当に凄い御業を持っているんだなぁ。」ヤジカ親方が感嘆する。
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「順番はどうだ?」ダンジョンの前にいたドワーフの女性のギルド職員に聞く。
「最近、入る冒険者が減っていて、今日は貴方が3人目です。」
「ほぉ?」
「因みに、前に入った2組は帰って来ません。」
「え?」
「最深部迄攻略されたから、簡単なダンジョンだと思っているんですね。」
「入場制限をかけろよ。」
「冒険者の命は、自己責任ですから。」
「あぁ。」
「でもせめて、階層ごとに入れるランクを決めろよ。」
「あぁ、ギルマスに進言しておきます。」
「俺がそう言ったと言って良いぞ。」
「え?」
「俺は、ベカスカAランク、ケイジだ。」
「あぁ、貴方が?」
「此処のダンジョンを踏破したのは俺だ。」
「ギルドに、各階の情報を渡しているから、入れるランクを決めろ。とギルマスに言っておいてくれ。」
「はい、判りました。」
「このダンジョンの、ドロップ品が納品されなくて、ドワーフ達が困っているからな。」
「はい。」
「頼んだぞ。」そう言いながら、ギルド職員の肩に手を置いて、ニカっと笑う。
「はひぃ。」ギルド職員の顔が真っ赤になる。
「おい、大丈夫か?」そう言いながら、その職員のおでこに手を当てる。
「はふぅ。」ギルド職員がその場で意識を失った。
「ありゃ、相当疲れていたんだな。」俺はそう言いながら日陰に連れて行って、濡れたタオルを額に乗せる。
「4人だから、400Bを置いておけばいいか。」そう言いながら、カウンターに400Bを置いてダンジョンに入る。
1階前の安全地帯で、俺が言う。
「9階までを、虚無の部屋に。」
「はい。」
「魔石239、上魔石55、特上魔石6、鉄1320重、ミスリル690重、アダマンタイト120重、ヒヒイロカネ37重、オリハルコン11重、虚無の部屋に。」
「んじゃ、青龍に会いに行こうか。」
「うん。」
「楽しみ。」ミドリとエンが楽しそうに言う。
俺は、10階層迄、ただ歩いた。
「ダンジョンをただ歩いて降りるのは詰まらないな。」
「いちいち戦わなくて良いんじゃない?」ミドリが言う。
「ミドリ、そもそも戦わない。」
「え?」
「俺が持っている刀が、俺に敵意を向ける者を一瞬で滅してくれるから。」
「は?」
「お前達が生き残ったのは、レベルが少しだけ高かったからだ。」
「ねぇ、僕のレベル解る?」ミドリが言う、
「レベル87.。」
「え?」
「エンは88か?」
「その通りだよ。
「前に来た時は、レベル70以下の者を討伐したから、運が良かったな。」
「はぁ?」
「今は、レベル90以下が討伐対象らしいぞ。」
「ねぇ、死刑宣告にしか、聞こえないんだけど。」
「俺に敵対しなければ、問題ないぞ。」
「はぁ?」
「え? 俺に今後敵対するって事か?」
「いや。いや、無いですわ。」エンが言う。
「まぁ、青龍と飲もうか。」俺はそう言いながら、ダンジョンの最奥に進む。
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「また来てくれたのかい?」
「あぁ、飲もう!」
「ははは、嬉しいよ。」
「ほれ、温かい酒だ。」俺は青龍に徳利を突き出す。
「ありがとう。」青龍はそれを受けて口にする。
「あぁ、美味しいなぁ。」
「僕もそれが良い。」
「僕も。」
「あぁ、ミドリとエンにも熱燗だな。」俺はそこに熱燗の徳利を取り出す。
「あはは、エン、どうぞ。」
「おっとっと。」
「ミドリにご返杯。」
「おっとっと。」
「ぷはー、美味しい。」
「サランに奉納を。」
「ありがとう、マスター。」
「つまみも、有るぞ。」俺はいつもの通り、俺特製のアテをそこに出した。
「うん、美味しい。」
宴は数刻続いた。
「じゃぁ、また来る。」
「うん、待っているよ。」青龍が悲しそうに言う。
「そんな顔をするなよ。」
「でも、エンやミドリが羨ましい。」
「はぁ、考えておくよ。」
「え? ケイジ様?」
「期待はするなよ。」
「うん。」青龍は何故か期待に満ちた顔で、ケイジたちを見送った。




