やらかしの143
「ほほほ、今回はくんせいなる物をご教授頂けるとか?」
「はい、セリナ様(お義母さん)その通りです。」
「何でも、食べ物を煙で燻すとか?」
「はい、その通りです。」
「そんなものが美味しいのですか?」
「お口にしてから、文句を言ってください。」俺は燻製の乗った皿がある机の前に案内して言う。
「お飲み物は、そちらにいる者に、お申し付けください。」
「ほほほ、解りました、では、早速。」
「これは、チーズですか?」セリナ様はそう言いながら、チーズの燻製に楊枝を刺して口に入れる。
「はうぅ。」
「ブドウのお酒、白い方をください。」
「はい、喜んで。」
(おぉ、ワインまで用意するようになったのか、ますます何の店か解らんな。)
「これは、何という、こっちは卵ですか?」そう言いながらセリナ様がそれを口に入れる。
「おふぅ。」
「お待たせしました、白葡萄酒です。」店員がそれをそこに置く。
「貸しなさい。」セリナ様がそれを引っ手繰るように飲む。
「違います、卵にはラガーです。」葡萄酒を飲んだセリナ様が叫ぶ。
「は、はい、承り~。」店員が店の奥に走っていく。
「そして、この薄い肉は? オークですか?」
「はい、それを燻製した後で、薄く切ってフライパンで焼いたものです。さっと焼いた物と、カリカリにしたものの食感をお楽しみください。」
「これは、ラガーです!」
「はい、受け賜わり!」
セリナさんの前に、ラガーのジョッキが置かれる。
それをセリナさんが手に持ち、一気に煽る。
「ぷは~。」
「ははは、お気に召していただけたようで。」
「ほほほ、ケイジ様。」
「はい?」
「なんで、小出しにするのですか?」
「はい?」
「全部いっぺんに出して下されば!」
「料理長がパンクしますよ。」
「あぁ、そうですわね。」セリナ様が、鼻息を荒くして納得する。
「あぁ、こんな物も如何ですか?」俺はベーコンエッグを差し出す。
ベーコンをフライパンで焼き、その油で卵を半熟にしたものだ。
「そして、これに乗せてお食べ下さい。」俺は、食パンをオーブンで両面きつね色に焼き、ブッタを塗ったトーストを取り出す。
「ほほほ、何という破壊力。」セリナ様が破顔する。
「朝食に、紅茶と食べると良いと思いますよ。」
「明日から、朝食はこれにしましょう!」
「ははは、料理長、がんば!」
「う~む、煙で燻すだけで、これほど味が変化するとは。」
「流石は、ケイジ君だと言う事ですな。」ダンナー様と、ドレース様(お義父さん二人)もそれを食べて満足そうにしている。
「これだけで、保存性が上がるのですか?」ガランが俺に聞く。
「あぁ。」
「これは、我が領民にも広げなければ。」ガランとザードもそれを食べて頷いている。
ガランの奥さんも、食べ進めては、ラガーを飲んでいる。
「何の木でも良いわけじゃないですよ、燻製に適した木がありますから。」俺は各木のチップを出しながら言う。
「今使っているのは、此処では違う名前かもしれませんが。サクラです。」
「おぉ、サクラだな。」
(あれ? 有るの? いや、そう言えばサクラが好きな花だって言っていたか。)
「それ以外は、リンゴ、クルミ、ナラ、ブナが燻製に適しています。」
「ふむ、リコ、クラミ、ナーラ、ブナーと言う事か?」
「木材屋で、其の木を見つけて、チップにした物を用意したので、必要な分だけ持って行って下さい。」俺は用意した樽の中に、各木材のチップを入れてそこに出す。
「食材毎に、チップとの相性がありますからね、各自、ご自分で見つけてください。」
「おぉ、ケイジ君、感謝するよ。」ダンナーさんが俺の手を取る。
「ほほほ、次を期待していますよ。」セリナ様が良い顔で言う。
「すべて自己責任ですからね。」俺は良い笑顔で宣言する。
「わははは、ケイジ、うちの料理長達にも指南頼むぞ。」
「おぉ、バラン、指南も何も、全部教えたんだがな。」
「そうなのか、明日の朝飯が楽しみだ。」
「おいおい、少しは労わってやれよ。」
「そう言うのは、ボルカに任せているからな。」
「はぁ、ボルカが可哀そうだ。」
「ぐふふ、リアルケイ×バラ、ぐふふ。」
うん、ダンサが楽しそうだ。
「ボルカにも持って言ってやれよ。」
「あぁ、前回の土産は、嬉しそうに晩酌の当てにしていたぞ。」
「そうか、気に入っていただけたようだ。」
「我も、気に入ったぞ。」
「そうか、良かったな。」
「おぉ。」そう言いながらバランは、薫玉をつまみにラガーを煽る。
「わははは、美味いぞ!」
「良かったな。」俺はそう言いながら、部屋の隅で燻製を食べている孤児たちの所に行った。
「美味しくないか?」
「いえ、ケイジ様、こんな物を食べられる喜びで一杯です。」
「こんな物か?」
「いえ、決して、不味いとかではなくて、こんなに美味しいものをです。」
「ははは、幼児に気を使わせるとか、無いわ。」
「ケイジ様、酷いです、私を幼児扱いしないでください。」
「はぁ?」
「これでも、私はアッキーノ男爵の忘れ形見、フローラと申します。」
「アッキーノは、国賊扱いだぞ、その系統をばらして良いのか?」
「あ?」
「自分から、国賊の身内だとばらして良いのか?」
「こほん、今のは聞かなかった事に。」
「あぁ。」
「で、フローラは、それが美味かったって事で良いか?」
「えぇ、肯定します。」
「そうか、存分に食ってくれ、じゃぁな。」俺は自宅に帰ろうとする。
「ちょっとお待ちなさい。」
「はぁ?」俺は振り返る。
「責任を取ってください。」
「何の?」
「私の知らない味でした。」
「あぁ、そう言うの間に合っているから、自己責任で完結してください。」俺はそう言いながら会場を後にした。
(イーノと同じ反応だよ。)
「ぐふふ、知らない味を提供する事は、この世界の女性にとって最早、暴力ですよ。」
「そんなに?」
「ぐふふ、はい。」
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「ユノンが来てほしいそうです。」虚無の窓の前でアイリーンが嫌そうに言う。
「はぁ、またか、前回ので懲りていないのか?」
「ぐふふ強敵ですね。」
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「さて、ユノンの反応は?」そう言いながら、マヌタのギルドに入る。
「てへへへへへ、ケイジ様、お待ちしておりました。」ユノンが、俺を見つけて、奥の部屋から飛び出してくる。
「おぉ。」
「てへへへ、心に来ました!」
「何がだ?」
「てへへへ、オタクの世界は奥が深い!」
「はぁ?」
「引きこもりの、太った男性が、延々とバラン様とボルガ様のBLを延々と布教する姿に心打たれました。」
「おぉ。」(ダンサ、なんちゅうものを?)
「何Gお布施を払えば、リアルバラ×ボルが見られるのですか?」
「ダンサ?」
「ぐふふ、ケイジ様に添い遂げ、ご奉仕を重ねなければ見られません、私でも2度だけです。」
「おぉ、そのような。」
「違うから!」
「え? ケイジ様?」
「ぐふふ、ハーレム計画に横やりが。」
ズビシ!
とりあえず、ダンサのでこに、デコピンを入れる。
「ぐふふ、心地よい痛み!」吹き飛ばされたダンサが、其処でのたうっている。
「普通に合わせてやるよ。」俺は虚無の窓を開き、バランの所に潜る。
勿論、ユノンも一緒にだ。
「おぉ、ケイジ、どうしたんだ?」
「ケイジ様、この度はどのような?」バランとボルガが俺に挨拶をしてくるが、俺は無視してユノンを前に出す。
「へ?」ユノンが狼狽える。
「此処にいる、ユノンが、お前達の執務を見たいそうだ。」
「あぁ、許す、我の仕事を存分に見よ。」
「バラン様のお許しが出たので、其処で私達の仕事を見る許可を与えましょう。」
「へえ?」
「おぉ、バランとボルガに許可をもらえたぞ、心行くまで見て行けよ。」そう言いながら、俺は虚無の窓を潜る。
「へぇ~?」取り残されたユノンが、どうなったかは知らない。
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「いや、ケイジ、お荷物を置いて行くな!」バランが虚無の窓もどきを潜ってきて俺に言う。
「あぁ、悪かったな。」
「あぁ、酷かった、我にもっとボルガとイチャイチャしろだの、其処でボルガを抑え込めだの、訳の分からぬことをわめいておった。」
「ははは。」
「ケイジ、訳が分からん。」
「男と男のからみ、いや、付き合い方を見たい女子もいるって事だ。」
「うん、解らん。」
「俺にも解らん。」
「そうか。」
「まぁ、飲め!」俺はバランにコップをわたし、ラガーを注ぐ。
「おぉ、頂こう。」バランはそれを受ける。
「あては、何が良いかな?」俺は虚無の部屋を覗く。
「我は、薫玉が食いたいぞ。」
「あぁ。」俺はそれを取り出す。
「其れだけで良いのか?」
「あと、塩辛とドラゴンのお肉を。」
「塩辛は、出してやるが、ドラゴンのお肉は自分で調理しろよ。」そう言いながら、塩辛と、ドラゴン肉(バハムの尻尾)をそこに出す。
「我は、料理などできんぞ。」
「ぐふふ、おこぼれを頂けるなら私が。」
「おぉ、ダンサ殿、お願いする。」
「ぐふふ、喜んで。」