やらかしの134
「放してください。」
「ねぇねぇ、少しだけ付き合ってよ。」
「嫌です。」
「放さないと、死にますよ。」
「またまたぁ。」
「あれ、ケイジさんの嫁さんだよな。」
「そうだな。」
「あいつ、死んだな。」
「あぁ。」
「一寸だけで良いからさぁ。」
「だから、嫌だって言っているんです。」
「おい、お前、忠告してやるよ、今すぐその娘を解放した方が良いぞ。」
「あぁ、俺様を誰だと思っているんだ?」
「いや、知らないな。」
「俺様は、べワカタキのBランク、冒険者のスゲェザコ様とは俺のことだぁ。」
「あぁ、今日死ぬ奴の名前を覚える気はないよ。」
「マジで、最後のチャンスだと思うぞ。」
「だははは、俺にはカッター様が付いているからな、多少のことはカッター様がもみ消してくれるんだ。」
「ほぉ、それは面白い話だ。」
「誰だ?」
「あぁ、俺は、ケイジだ宜しくな。」
「ケイジ兄さま。」
「で、お前は、俺の嫁の手を持ってどうしようと言うんだ?」
「はぁ? お前の嫁?」
「そうだ。」
「なら、俺に寄越せ、それで勘弁してやるよ。」
「何をだ?」
「あ?」
「何を勘弁してくれるんだ?」
「あぁ、お前が生きることを、ぐぼはぁ!」
「おっと、すまないな、余りにもムカついたから、腹に一発入れちまった。」そう言いながら、アヤを俺の後ろに導く。
「今回は、初犯だからな、見逃してやるよ。」
「うぐぐ、何を。」
「お前の命だ。」
「なぁ。 ぐはぁ!」
「おっと、思わず蹴っちまった。」
「これに懲りたら、ヤミノツウ(この町)では、大人しくしていろよ。」
「ケイジ兄さま、聞こえてないですね。」
その男は、白目をむいて沈んでいた。
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「ねぇねぇ、彼女、俺と遊ぼうよ。」
「はぁ、お断りするにゃ。」
「そうい言わないで、気持ちよくしてあげるよぉ。」
「ムーニャは人妻にゃ、あっちに行かないと怖~い人が出てくるにゃ。」
「大丈夫だよ、俺、べワカタキのBランクだから。」
「おいおい、あいつ、又ケイジさんの嫁にちょっかい出してるよ。」
「今度こそ死んだかな?」
「ケイジさんしだいだな。」
「しつこいにゃ、この手を放すにゃ!」
「な~に、僕にはべワカタキのギルマスの後ろ盾があるから、大丈夫さ。」
「また、お前か?」
「げ、貴様、この前は良くもやってくれたな。」
「性懲りもなく、俺の嫁に手を出すのか。」
「はぁ? この獣人が?」
「あぁ。」
「人間が、獣人の嫁を貰うなんて、聞いた事も無い。」
「主様、助けて。」
「ふぐぅぅぅぅ。」その男の身体がくの字に折れる。
「おっと、ムーニャの声に反応して、強めに行っちまった。」
「内臓がいってると思うから、早めに治療した方が良いぞ。」
「主様、聞こえていないにゃ。」
「まぁ、この場に放置だな。」
「はいにゃ。」
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「そこの綺麗な、お姉さん、俺と良い事しない?」
「はぁ? するわけないでしょう。」
「あれ? あいつ又やってるよ。」
「またケイジさんの嫁さん、しかもケイジさんの一番のお気に入りの人だ。」
「今回は、駄目だな。」
「うん、あり得ないな。」
「そう言わず~、俺は金を持ってるから、贅沢させてあげられるよ。」
「安く見られたものですね、貴方は、私が『エーラ・イーノ・マッチーデ・バラン・デユーク・タダノ』と知って、此の狼藉を働いているのですか?」
「大丈夫、僕の後ろ盾は、べワカタキのギルマス、カッターさんだ。」
「はぁ、だそうです、ケイジ様。」
「仏の顔も3度までと言う諺を知っているか?」
「何のことだ?」
「モノを知らない奴が、間違っていても、2回までは許されるって事だ。」
「はぁ?」
「ギルティ。」
「なぁ、俺には、べワカタキのギルマスのカッター様が付いているんだぞ。」
「あぁ、それが本当なら、カッターも一緒に滅ぼそう。」
「え?」
「紫炎。」
「はい。」そこにいた男が消えた。
「ケイジ様、怖かった。」
「あぁ、すまなかったな、イーノ。」
「いいえ、信じておりました。」
「あぁ。」俺はイーノを抱きしめ、頤を持ち上げて口付けする。
「ふわぁ。」
「少し出かけてくる。」
「はい、行っていらっしゃいませ。」
「紫炎、べワカタキへ。」
「はい。」
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「身分を証明する物は?」門番の冒険者が言う。
「あぁ。」俺はカードを取り出す。
「おぉ、貴方があの、どうぞお通り下さい。」門番がカードを返してきて言う。
「あぁ、ありがとう。」
「さて、ギルドは何処だ?」
「このまま真っ直ぐ進んだ、正面です。」
「解った。」俺はそこに真っ直ぐ向かった。
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「カロン、カロン。」ドアに付けられた、ベルが軽やかな音を立てる。
ギルドにいる者達が、俺に目を向けて、興味無さそうに目を逸らす。
俺は、カウンターに向かうと、ギルドカードを出して言う。
「ギルマスに用がある。」
「はい、お待ちください。」カウンターにいた獣人は、カードを見た途端に、二階に向かい駆けだした。
暫くすると、聞きなれた声が下りて来た。
「がははは、俺に会いたいと言うのは誰だ?」
「俺だ。」
「なぁ、ケイジか、久しぶりだな。」
「あぁ。」
「此処に来たと言う事は、俺を許してくれると言う事か?」カッターが凄く良い笑顔で言う。
「いや。」
「え?」
俺はスゲェザコ(馬鹿)を虚無の部屋から取り出し、カッターの前に放り投げる。
「なぁ?」
「う、あぁ、カッター様、こいつに罰を。」
「お前、なんてことを。」
「カッター。」
「何だケイジ。」
「ほぉ、まだ呼び捨てか。」
「いや、その。」
「そこにいる奴は、事もあろうに、ヤミノツウで俺の嫁を3度も口説きやがった。」
「え?」
「しかも、お前が後ろ盾にいるから、何をしても良いと言いやがった。」
「何を?」
「カッター様、こいつに罰を与えてください。」ザコが吠える。
「だってさ。」
「いや、ケイジ、様、俺が知らない事だ。」
「へぇ~。」
「カッター様、いつもヤミノツウのケイジは、俺の下僕だって言ってたじゃないですか。」
「ちょ、お前黙っていろ。」
「ケイジなんか、俺の一言でどうにでもなるって言ってましたよね。」
「マジで、お前黙れ!」
「カッター。」
「はひぃ!」
「マジで、面白い事になってるな。」
「なぁ、ガはは、照れるぜ。」
「ヤミノツウの出入り禁止だけじゃ、駄目だったようだな。」
「いや、反省している、本当だ。」
「そこにいる、ザコのレベルは、せいぜいDランクの下位だ。」
「なぁ、俺はBランクだ。」
「そうなのか、カッター。」
「あぁ、俺がBランクを与えた。」
「そうか。」
「あぁ。」
「おい、そこのお前、Bランクならこれを防いで見せろ。」そう言いながらBランクなら対抗できる魔法を発動する。
「マポイゾ!」毒魔法の中級魔法。
当然、Bランクなら対処可能だ。
「ぐがぁぁぁぁ。」全然防げてない。
「ヒール。」
「はぁ、アイリーン、こいつは屠っても良いか?」虚無の窓越しに見ていたアイリーンに聞く。
「全く問題ありません。」
「ケイジ様ぁ、モーマも許可します。」同じくモーマも許可をくれる。
「と、言う事だ。」
「いや、待ってくれ、ケイジ、様」
「はぁ。」
「俺達は、マブだろう?」
「全然違う。」
「嘘だろう!」
「そう思っていたのは、お前だけだ。」
「なぁ?」
「紫炎、虚無の部屋に。」
「はい。」カッターとザコの身体が消える。
「マシクフのダンジョンに。」
「はい。」
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「ちょうど誰も、入っていないようだな。」
「はい。」
「紫炎、20階まで繋げるか?」
「はい。」
「繋いでくれ。」
「はい。」
俺は、そこにカッターとザコを放り出す。
「うぁ、此処は?」
「マシクフのダンジョンの20階層だ。」
「え?」
「二人で頑張れば、出てこれるんじゃね?」
「な!」
「あぁ、悪いけど、武器は没収な、自分の能力だけで出てこれたら、色々不問にしてやるよ。」
「いや、ケイジ、ケイジ様、待ってくれ。」
「なんだ、カッター?」
「冗談だよな?」
「そう思うのか?」
「あぁ、俺達はマブだよな?」
「そう思っているのはお前だけだ。」
「なぁ?」
「じゃぁな、本当のお別れだ。」俺が言う。
「待ってくれ、ケイジ!」
「俺の名を呼ぶな、不愉快だ!」
「な!」
「え?カッター様、嘘ですよね?」
「がははは、もう駄目だ。」
「何を言ってるんですか、カッター様が大丈夫だって言っていたからついて行ったのに。」
「ケイジに見捨てられた。」
「そんな。」
「あぁ、ザコ。」
「はい?」
「そんな奴に騙された、お前が馬鹿だ。」
「な!」
「紫炎。」
「はい。」俺はそこを潜る。
二人以外の存在が消えた。
「ぐぎゃぁぁぁ。」直ぐ傍で魔物の声が響く。
「がははは、ザコ。」
「なんですか?」
「悪かったなぁ。」
「ふざけるなぁ!」
「がはは、もう遅い。」
「あんたを信じた俺が馬鹿だったぁ!」
「がはは、悪か
「死にたくな
二人の気配は、一瞬で消えた。