やらかしの132
「ケイジ様、ドラゴンのお肉が食べたい!」バドラが俺の手を掴んで言う。
「俺は、もう食べないぞ。」
「あたしが食べたいの。」
「ん~、前の肉はバランにくれてやったから、もうないな。」
「え~、食べたい!」
「紫炎?」
「霊峰ジフの8合目に、ドラゴンの生態がいます。」
「なんだそれ、ジフの守り神とか言われているんじゃね~の?」
「いえ、完全な個体種で、何の影響も受けていません。」
「まじかぁ。」
「紫炎、どこからが近い?」
「カオズシです。」
「ほぉ。」
「カオズシから、83Kmです。」
「3跳躍か?」
「はい。」
「紫炎、カオズシのギルド前に。」
「はい。」俺はそこを潜った。
************
「何でいるんだ、バドラ。」
「ドラゴンのお肉の為?」
「いや、邪魔だ、帰れ。」俺はまだ開いている、虚無の窓を指さす。
「やだ!」
「おい。」
「一緒に行く。」
「お前はドラゴンの攻撃を防げるのか?」
「やったことない。」
「帰れ。」
「やだ!」
「ぐふふ、良いじゃないですか、ご主人様。」
「な、ダンサまで。」
「ぐふふ、自分の身が危なかったら、虚無の窓で逃げます。」
「はぁ、ダンサ、面白がってるよな。」
「ぐふふ、その通りです。」
「良い度胸をしているじゃないか。」
「ぐふふ、この程度はご主人様の嫁の範ちゅうかと。」
「ちっ。」
「連れていかないからな、来たければ来ても良いぞ。」俺はそう言いながら、霊峰ジフに跳んだ。
「酷~い。」バドラが言うが。
「ぐふふ、ついてこいと言う事ですね。」ダンサが俺の存在をトレースする。
「ぐふふ、そこに行けばいいのですね。」そう言いながらダンサは空間を開く。
「ぐふふ、見つけました。」
「ダンサ様、私も一緒に。」バドラが言う。
「ぐふふ、喜んで。」
「8合目まで跳んだが、どこにいるんだ?」
(すぐ目の前です。)
「え?」
その瞬間に感じた。
そこにいた存在を。
「我に害する者。」頭の中に響く。
「何をしに来た?」
「お前のお肉を狩りに来た。」
「は?」
「我の肉を狩るとは?」
「その通りの意味。」
「お前は?」
「嫁に頼まれて、ドラゴンのお肉を狩りに来た。」
「な?」
「お前は、我を狩れるのか?」
「前に、見極めのドラゴンとかいう奴を屠った。」
「あぁ、あのウザい奴か。」
「あぁ、そうだった。」
「え~と。」
「何だ?」
「お前は我を狩れると言う事か?」
「その答えは、イエスだ。」
「ほぉ。」暴風が現れる。
「ぐふふ、これは。」
「私の防御壁でも駄目そうです。」
「ぐふふ、虚無の部屋で待ちましょう。」
「解ったぁ。」二人の存在が消えた。
「邪魔が消えたから、本気で行けるな。」俺は腰の刀を抜いてドラゴンに対峙する。
「げぇ、その刀は!」
「あ?」
「精霊王ホルン様が自ら封じられた刀。」
「ああ、そうらしいな。」
「それを持っている貴様は、何者だ?」
「あぁ、俺はケイジだ、宜しくな。」
「いや、ちょっと待ってくれ。」
「うん?」
「降参する。」
「あぁ、それなら良かった。」
「「え?」
「苦しまないように、首を撥ねてやるよ。」
「いやいや、待ってください。」
「何を?」
「首を撥ねられたら、流石に死にます。」
「あぁ、そうだよね。」
「尻尾の肉で勘弁してくれませんか?」
「尻尾?」
「我らは、尻尾を自切出来ます。」
「はあ、トカゲが、自分の身を守るためにやるあれ?」
「はい。」
「そんなの、ドラゴンに必要なのか?」
「いや~、必要かと言われても。」
「それ、大丈夫なのか?」
「一週間もすれば、元どうりになります。」
「そうか、んじゃ、対価はどうしよう?」
「いえいえ、要りません、この命が対価です。」
「そう言う訳にも行かないだろう、何か欲しいものは無いのか?」
「それなら、酒が飲みたいですな。」
「そうか。」そう言いながら、俺は虚無の部屋を覗く。
「む、足りないな、ちょっと待っててくれ。」
「はい。」
「紫炎、ワシカの酒屋の前に。」
「はい。」
「邪魔するぜぃ。」
「邪魔するなら、何だケイジさんか。」
「ちっ。」
「またスピリか、それなら「いや、今回は酒の樽が欲しい。」
「酒?」
「あぁ。」
「幾つほしい?」
「買えるだけ、全部。」
「酒には等級があるぞ。」
「一番いい奴と、2番目に良い奴、銘柄は全部で。」
「一番いい奴が、20樽ある、200Gだ。」
「全部買う。」
「2番目に良い奴は、40樽で同じく200Gだ。」
「全部買う、決済して、いや、スピリの樽も10樽追加で。」
「全部で440Gだ。」
「決済ヨロ!」俺はギルドカードを渡す。
「あいよ。」
「確かに。」おやじがカードを返してくる。
「モノは何処にある?」
「あぁ、倉庫だ。」おやじさんが裏ドアを出ていく。
「解った。」俺はそれに続いた。
「此処から、此処迄と、向こうの壁際全部だ。」おやじさんが言う。
「紫炎。」
「はい。」そこにあった物が一瞬で消える。
「何度見ても凄い魔法だな。」
「ははは。」
「毎度ありがとうな、また珍しい酒を仕入れておくよ。」
「それなら、ラガーのように泡が出る酒を探しておいてくれ。」
「泡が出る酒?」
「それと、泡が出るワイン(葡萄酒)。」
「泡が出る葡萄酒?」
「頼んだぜ、おやじさん。」
「あぁ。」
「紫炎、バドラの所に。」
「はい。」
「バドラ。」俺は虚無の窓を潜って言う。
「ひえ? 何処から?」
「ぐふふ、いつものことです。」
「ムーニャ、リョウ。」
「はいにゃ。」
「なーに?」
「ちょっと手伝ってくれ。」
「はいにゃ。」
「良いよ。」
「紫炎、ドラゴンの所に。」
「はい。」
「にゃ? ドラゴンって聞こえたにゃ。」
「私にも聞こえた。」
「バドラ達も来い。」
「お肉?」
「ぐふふ。」
俺達は、そこを潜った。
************
「おぉ、戻ったか。」ドラゴンが俺を見て言う。
「みにゃぁ~、ムーニャは美味しくないにゃ~。」
「ケイジ様、私を生贄にするつもり?」
「落ち着け、此処にいるドラゴンは何もしない。」
「本当にゃ?」
「あぁ、小さき猫の子よ、我はお前を害しないぞ。」
「本当にゃ?」
「あぁ、其処のケイジ殿に敗北したからな。」
「戦ってもいないじゃないか。」
「戦ったら、負ける未来しか想像できなかった。」
「それは、正しいが。」
「教えてくれ、もし、我がケイジ殿に挑んだらどのように死んだ?」
「面倒くさいのは嫌いだから、『ラグラビ』の呪文で抑え込んで、この刀で首をスパッとな。」
「ラグラビ?」
「あぁ、あれは駄目だ、全く動けなかった。」バドラが思い出して言う。
「それは、我をも地に落とすのか?」
「体験してみるか?」
「是非に。」
「ラグラビ!」その途端に、そこにいたドラゴンが地に落ちる。
「ぬごおおおおおおお。」
「で、こういう風に近寄って、此の剣で首をスパッと。」俺はそこに行き、剣を抜きドラゴンの首に充てる。
「こ、声も出ないのか。」念話が頭に響く。
「うわぁ、びっくりして、てがすべって、くびをきっちゃいそうだ。」俺が棒読みで言う。
「止めてくれ、主人!」念話が響く。
俺はグラビを解く。
「今、我は死んだ。」
「生きてるよ。」
「いや、今までの我は此処で死んだ、これ以降は主人のために生きよう。」
「はぁ? 別に要らないぞ。」
「何を言う主人、我は貴方に心から下る。」
「え~?」
「ほほほ、ケイジ様、その者に名をお与えください。」
「な、ヒドラ?」
「ほほほ、私がラドーンからヒドラに昇華したのは、ケイジ様から名を与えて頂いたからです。」
「それとこれとは。」
「ほほほ、関係大ありです。」
「主人、貴方が名をくれなければ、我はあと数刻で消える。」
「ほほほ、その者がご主人様を、主と認めてしまったため、名を与えないと数刻後には消えてしまいます。」
「なんだそれ。」
「ほほほ、それがご主人様に下った証。」
「はぁ。」
「ドラゴン、お前は何ドラゴンだ?」
「我は、全てのドラゴンを支配する最古のドラゴンだ。」
「赤とか、青とか、緑とかそう言うんじゃないんだ。」
「主人?」
「つまり、ドラゴンのマスターか?」
「いや、そう言う訳では。」
「う~ん、ドラゴンのマスター?」
「それの総称?」
「全てのドラゴンを統べる者。」
「キングギ〇ラ」
「却下です。」
「あれ~?」
「バハム。」
「おぉ、バハム。」
「ふふふ、良い名前です。」
「俺の世界の、ゲームに出てきたドラゴンの名前からもらった。」
「我は、バハム、主人の剣となろう。」
「で、何であたしが呼ばれたにゃ?」
「そう。」ムーニャとリョウが言う。
「あぁ、バハムと飲むから、アテを作ってくれ。」そう言いながら、コンロを2台セットすると、網を乗せ、バハローや金鶏の肉を取り出す。
「あぁ、成程にゃ。」
「ん、了解。」
「あの大きさだからな、丸焼に近い大きさで焼いてやってくれ。」
「解ったにゃ。」
「ん。」
「さて、バハム。」
「ん?」
「酒だ。」俺は樽を取り出す。
「おぉ。」バハムがそれを手に取る。
「はは、樽がコップだな。」
「一番いい酒は、20樽しかないからな。」
「解った主人。」
「で、お前達は?」俺はテーブルを出しながら言う。
「あたし、強いの。」バドラが言う。
「え?」
「強いの。」
「お前、酒飲めるのか?」
「ぐふふ、飲んでいる所を見たことないですね。」
「ほほほ、私もです。」
「飲めるもん!」
「バドラ、悪酔いはマジできついから、止めとけ。」
「いや、強いの!」
「はぁ、んじゃ、此処に置くぞ。」俺はドワーフ用に買ってある、スピリの瓶を取り出す。
「酒精が80以上だからな、俺でもよお飲まん。」
「わーい。」バドラはその瓶を持つと、ラッパ飲みしてその場に倒れた。
「だと思ったよ。」俺は、バドラをそのまま虚無の部屋に入れる。
「で、お前らは?」
「ぐふふ、いつもの奴で。」
「ほほほ、それで良いです。」
「マスター、私は冷酒だ。」
「はいはい。」俺はダンサの前にレモンハイ、ヒドラの前にウイスキーのロック、サランの前に桝酒を置く。
ムーニャとリョウは、良く冷えたミカンジュースだ。
「んじゃ、乾杯!」俺は自分用にラガーを取り出して手を上げる。
「「「「「「「乾杯!」」」」」」にゃ!」
ごきゅ、ごきゅ、ごきゅ、ぷは~!
「やっぱりラガーはのど越しだな。」そう言いながら2杯目を用意する。
「主人、美味い酒だ。」
「良かったな。」
「お肉が焼けたにゃ。」ムーニャがコンロの前で言う。
「おぉ、バハム、食って良いぞ。」
「な、そこには一個しかないではないか。」
「あぁ、お前の為の肉だ。」
「なんと。」
「ちゃんと、味を付けたにゃ!」
「では。」バハムがそれを摘まんで口に入れる。
「ははは、焼き鳥を摘まんで口に入れるようだな。」
「美味い!」バハムが叫ぶ。
「良かったな、ムーニャ、どんどん焼いてやってくれ。」
「はいにゃ!」
「こっちも焼けたよ~。」リョウが言う。
「ぐふふ、待ってました。」
「ほほほ、この皿にのせてください。」
「私に奉納を。」
皿を持った3人が、リョウの所に行く。
「ん!」リョウは、焼けた肉や野菜を、三人の皿に乗せていく。
「サランさんに奉納を!」
「ありがとうございます。」
「次の肉が焼けたにゃ!」
「バハム!」
「ありがたき幸せ。」
「ぐふふ、おかわりを。」
「ほほほ、私にも。」
「マスター、私にも下さい。」
俺は、それぞれの前に飲み物を出してやった。
************
「ぐふふ、もう飲めません。」
「ほほほ、流石にこれ以上は。」
「マスター、この辺で自重しておく。」
サランは、まだまだ飲めそうだ。
「主人、堪能した。」バハムが赤い顔で言う。
「ドラゴンでも、酒の酔うんだな。」
「主人、初めてだ、こんな感覚。」
「そうか。」
「ムーニャとリョウもご苦労だったな。」
「いっぱいつまみ食い出来たにゃ。」
「うん。」
「主人、今から自切するよ。」
「あぁ、頼む。」
「ふん!」ドラゴンの尻尾が落ちる。
「おぉ、根元からか、8重ぐらいありそうだな。」俺はそれを虚無の部屋に入れる。
「ヒール!」俺が唱える。
「え? 治ってる?」
「痛そうだったからな。」
「んじゃ、もう一回、ふん!」尻尾が落ちる。
「おい、もう良いぞ、ヒール!」
「ふん!」
「もう良いから、ヒール!」
「ふん!」
「もうやめろ! ヒール!」
「ふん!」
「やめろぉ。 ヒール!」
************
「気が済んだか?」
「やり切った!」バハムが良い顔で答える。
結局、20本の尻尾を虚無の部屋に入れた。
「ちょっと待て。」
「なに?」
「何で、人型になっているんだ?」
「名を貰ったから?」
そこには、女子高生の制服を着た女の子がいた。
「お前、バハム?」
「はい、主人!」そう言いながら女の子が抱き着く。
「なんで?」
「名前を貰ったから?」
「はぁ、頼む、自重しろ。」
「わかったぁ。」
「本当に判っているのか?」
「何が?」
「駄目だ、絶対駄目だ。」
「ぐふふ、成るように成れですか。」
「ダンサ、うまい具合に場をまとめようとするな。」
「さて、何のことやら。」
「ダンサ~。」
「ぐふふ。」