表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
129/203

やらかしの128

「私は何をしているの?」


(精霊様に対するご奉仕。)


「では、何故此処にいるの?」


(精霊様に愛されたお方がいるから。)


「それだけが理由なの?」


「はぁ。」孤児院の周りを掃除しながら、私は自分の世界に入っていたみたいです。

「ふぅ。」ため息をつきながら、いつもの行動をする。


(本当に、何で私は此処にいるんでしょう?)


「おはようございます、聖女様。」孤児が私に声をかける。

「私は、聖女ではありません、只のエルガイムです。」


「申し訳ありません、エルガイム様。」その孤児が頭を下げて自分の作業に戻っていく。


(この問答も何回目でしょう、私は自ら聖女の座を辞したのに。)


*************


あの、ソアでの惨劇。

 目の前で、消えていく命。

 私が、救おうとしても、私の手から流れ落ちる命。

 本来は、欠損部位が元に戻るヒール。

 でも、私は、血止めしかできなかった。


 でも、ケイジ様がそこに現れた瞬間、それ以降、命は落ちなかった。

 いえ、本当に終わりそうになった人も、身体を欠損した人も、何もなかったように戻った(・・・)。


「あぁ、良かったな。」そう言いながら、ケイジ様は全員を一瞬でギルドまで転送した。


(あぁ、私は何故、ケイジ様を疑ってしまったんだろう?)


*************


「あ~、労咳は、結核菌が体内で繁殖しておこる病気だ。」

「はい、その通りです。」


「だから、ラキュアで病原菌を死滅した。」

「ラキュア?」ポーターが言う。

「あぁ、ラキュアだ。」ケイジ様が言う。


「キュアの上位呪文はマキュアです。」私が言う。

「あ? 中級呪文だぞ、それ。」ケイジ様が言う。

「いや、伝説にはありますが。」ポーターが言う。


「俺は、使える。」私達は黙る。


「そして、ライフで欠損部分を修復した。」

「それも伝説の魔法です。」

「え? そうなの?」


「はい、その呪文を行使した事例がありません。」

「俺、何回も使ってるぞ。」


「なんと?」

「そして、ラディで全員の体力を回復した。」


「え? マディではなく?」私はわなわなと震えながら言う。


「だって、マディじゃ一人しか全快にできないじゃないか。」ケイジ様が言う。

「え、ラ? 言い伝えにある、最上級の?」ポーターが狼狽える。


「その後、クリーンでこの辺りを消毒したから、二次感染もしないだろう?」


「え? 法術で浄化するのではなく、魔法でですか?」

「え? あぁ。」


*************


(何故、私はケイジ様を疑ったんだろう。)


(今なら解る。)

(ケイジ様は、精霊様の御使いだ。)

(ラキュアも、ライフも、ラディもケイジ様なら普通に使えるだろう。)


(私は、何を迷っていたんだろう。)心の中に火が灯った。

エルガイムが暴走した。


*************


「私は、ケイジ様の子を産みます。」

「はい?」


(エルガイム様の求婚、確認しました。)

(あ~、呪縛的なあれか?)

(肯定します。)

(断ったら?)

(いつもの様に、この方の婚姻適正が喪失し、その後の人生は堕ちるだけです。)

(おい、設定が酷くなっていないか?)


「お~、元聖女様が潔い。」エヌが言う。

「私達も見習うべき?」エルが言う。

「むぅ、惰性だと思われるのは嫌だな。」エムが言う。

 3人は、この世界の女性が結婚を望んだら、その相手が鬼畜でない限り成就する事を知らない。

 3人はこれ以降も悩むのであった。


*************


 結局、ケイジはエルガイムを受け入れた。

 その後、エルガイムはアトールと名付けられる男の子と、オージェと名付けられる女の子を産む。

 そして、エルガイムは、一人目を産んだ時に『マ系』の呪文が、二人目の時には『ラ系』の呪文が頭に浮かび上がった。

 それは、エルガイムが本当の聖女になった証だった。


 その後、オージェが12歳になったのを見計らい、エルガイムが、二人を各地の巡礼に連れまわした。

 勿論、その地の人々を救済するためだ。


 エルガイムたちは毎日虚無の窓を潜って昨日いた場所に行き、目的地まで歩いて施しを行う。

施しが終わったら、次の町に向かい、途中で陽が傾いたら、ケイジの家に帰ったていたのは当然の秘密だ。

 

 アトールもオージェもケイジとエルガイムの資質を受け継ぎ、のちに『ラ系』の魔法を使えるようになり、「聖人様」、「聖女様」と呼ばれるようになるが、それは別の場所で語ろう。


*************


「エル、今日も救いに行くのか?」

「はい、ケイジ様、たまにはご一緒にいかがですか?」エルガイムが俺に微笑む。

「う~ん、今日は特にやることもないから、付き合おうか。」俺はそう言いながら立ち上がる。

「あぁ、嬉しい。」そう言いながらエルガイムが俺の手を抱きしめる。


「お母様、いちゃつくのは夜にして下さい。」

「お父様も、少しは自重してくださいませ。」オージェとアトールに叱られてしまった。


「お前達、ケイジ様とじゃれつくのは母の趣味です。」

「おいおい。」


「お母様。」

「残念です。」


「まぁ、色々置いておいて、出かけようか。」

「はい、お父様。」

「今日は、廃れた村の救済です。」


「よし、紫炎。」

「はい。」その村に近い道に繋がった。

 俺達はそこを潜った。


*************


「これは?」

「間に合わなかったようです。」エルガイムがつらそうに言う。

「そこにあった村は、死んでいた。」

「酷い。」


 魔物に襲われたわけではない、疫病が蔓延して滅んでいた。


「これは、数か月以上前に滅んだのだな。」

「その様です。」

(菌が死滅していません。)


「村全体を消毒する。」

「解りました。」


「村全体を覆う。」

「はい、では、私がクリーンを唱えます。」

「任せた。」

「はい。」


「エリア!」村全体を囲う魔法を唱える。

「クリーン!」エルガイムが後を追って唱える。

 そのあたり一帯の、菌が撲滅された。

(ケイジ様お一人でも出来る行為です。)

(解ってるよ。)


「流石です、お母様。」

「お父様もです。」


「ははは、この程度はな。」

「次の村に向かいましょう。」

「はい、」


*************


「おぉ、あなた、この村には入らない方が良い。」

 その村の門番が、俺達に言う。

「うん、何でだ?」

「村人のほとんどが、疫病を患っている。」

「あぁ、まだ、生きているんだな?」

「あぁ隣の村は、この病で全滅したらしい。」

「良かった。」エルガイムがポツリと言う。


「何が良かったんだ?」エルガイムの言葉に、門番が詰め寄る。

「助けられる。」俺はそう言って、門番とエルガイムの間に割り込む。


「何を言って?」

「間に合ったな。」俺の言葉に

「はい、ケイジ様。」エルガイムが極上の笑顔で答える。


「よし、ラキュア!」俺が村全体を対象とした上級魔法を唱える。

 村人たちの身体から、菌が消えたはずだ。

 

「もぉ、ケイジ様。」エルガイムが頬を膨らませながら、俺の袖を取る。

「え?」

「ケイジ様だけが治療したら、私の存在価値がありません。」

「あぁ、悪い。」


「まったく、ライフ!」エルガイムが、呪文を唱える。

村人たちの身体も、回復しただろう。


「俺達もやろうぜ。」

「うん。」


「「クリーン!」」アトールとオージェも呪文を唱える。

 残念だが、彼らの魔法の範囲は、まだ半径10m程しか効果がない。


「クリーン!」俺はこっそり、村全体に魔法をかけた。



 暫くすると、村の中心にあった大きな家から、村長らしき男が出てきた。

 衰弱した体力が戻っていないのか、よたよたと近づいてくる。


「ラディ!」俺が呪文を唱えると、エルガイムがしまったって顔をして俺を見る。


「ラキュア、ライフ、ラディ、クリーンが疫病対策のセットだろう?」俺が言う。

「はい、失念していました。」

「お父様、流石です。」

「お父様、素敵。」


「アトールと、オージェも覚えておくと良い。」

「でも、俺達はその呪文は使えないよ。」

「そのうちに、使えるようになるさ。」


「うん。」

「解った~。」


「この村をお救い頂き、ありがとうございます。」村長が俺達に頭を下げる。


「間に合って良かったな。」俺が言う。

「この近辺で、発生した疫病は、何処の村から発生したんだ?」

「はい、ここから歩いて半日ほどの所にある村だと思います。」


「なぜ、そう思う?」

「その村から仕入れた、黒鼠の肉を食べた者が発症して、広がったからです。」


「うわぁ、ペストか。」

「ケイジ様、ペストとは?」

「あぁ、此の疫病の名だよ。」

「初めて聞きました。」

「いや、此処では何と言われているか知らないけどな。」


「黒鼠が原因ですか?」

「あぁ、鼠を媒介とした疫病だ。」


「だが、原因が特定できて良かった、あの村の周りにあるのは、ここと他には?」


「その村から、この村とは反対側にありますが?」

「エルガイム?」

「はい、通ってきましたが、特別変わったことは。」


「村長、この村はもう安心だから心配するな。」


「はい。」


「んじゃ、俺達はその村に言ってくる。」

「お待ちください!」

「ん?」


「この村をお救い下さった方の御名前を教えてください。」


「あぁ、聖女エルガイムとゆかいな仲間たちだ。」

「聖女様?」


「あぁ、そうだ。 紫炎。」

「はい。」その村に窓が開く。


 俺達は、そこを潜った。


「聖女様!」村長と、門番はその場で平伏した。


*************


「此処か?」俺はその村の門の前で言う。

(特別変わったことは有りません。)


(例の鼠肉は?)

(この村では、鼠肉は食べないようです。)

(おぉ、それは僥倖。)


 俺は、ベカスカのアイリーンに虚無の窓を繋げた。

「アイリーン。」


「はい、ケイジ様。」アイリーンが嬉しそうに答える。

「◇◇◇◇◇村の鼠肉を食べないように告知しろ。」

「それは、どのような?」

「食べると、疫病に感染して、周りの者達も感染して死ぬ。」

「な、解りました。」

「感染者が出たら、俺に連絡しろ。」

「はい、解りました。」

「モーマや、他のギルドにも通達を頼むぞ。」

「喜んで。」



「よし、旅を続けよう。」さっきの村に虚無の窓を繋げて言う。

「はい、ケイジ様。」


「解りました、お父様。」

「早速行きましょう、お父様。」


 俺達は、次の村に向かった。


*************


「さて、ここはどんな具合だろうか?」


「お父様、私が先行して調べてきます。」

「あぁ、アトール、任せた。」

「はい。」嬉しそうにしながら、アトールが走る。

「むぅ、お父様、今度はオージェにご依頼ください。」オージェが口を尖らせて言う。

「あぁ、オージェ、次は任せるよ。」俺がそう言うと、オージェが笑顔になる。

「絶対ですよ、お父様。」

「ははは、勿論だ。」


「ケイジ様、親ばかですね。」エルガイムが言う。


「ははは、お前もだろう。」

「ふふふ、否定しません。」

「俺達の子供たちは、順調に育っているよな。」

「はい。」


「あぁ、愛しているよ、エルガイム。」

「私もです。」


「お父様、お母様、そう言う行為は、夜のお布団の中でやってください。」

「おや、オージェ、これは只の愛情表現だよ。」

「そうですよ、オージェ、貴女も加わっても良いのですよ。」

「はぇ?」

「さぁ、おいで。」

「何も心配しなくて、大丈夫ですよ。」

「お父様、お母様。」オージェが俺達に抱き着く。


「ははは、オージェは可愛いなぁ。」

「本当です。」

「お父様、お母様~。」

「よしよし。」

「私も、ケイジ様も、貴女のことが大好きですよ。」


「はい~。」


「お父様、お母様、オージェだけズルいです!」

「おぉ、アトールも来なさい。」

「はい。」


 こいつら、只のバ家族じゃね?



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ