やらかしの128
「私は何をしているの?」
(精霊様に対するご奉仕。)
「では、何故此処にいるの?」
(精霊様に愛されたお方がいるから。)
「それだけが理由なの?」
「はぁ。」孤児院の周りを掃除しながら、私は自分の世界に入っていたみたいです。
「ふぅ。」ため息をつきながら、いつもの行動をする。
(本当に、何で私は此処にいるんでしょう?)
「おはようございます、聖女様。」孤児が私に声をかける。
「私は、聖女ではありません、只のエルガイムです。」
「申し訳ありません、エルガイム様。」その孤児が頭を下げて自分の作業に戻っていく。
(この問答も何回目でしょう、私は自ら聖女の座を辞したのに。)
*************
あの、ソアでの惨劇。
目の前で、消えていく命。
私が、救おうとしても、私の手から流れ落ちる命。
本来は、欠損部位が元に戻るヒール。
でも、私は、血止めしかできなかった。
でも、ケイジ様がそこに現れた瞬間、それ以降、命は落ちなかった。
いえ、本当に終わりそうになった人も、身体を欠損した人も、何もなかったように戻った(・・・)。
「あぁ、良かったな。」そう言いながら、ケイジ様は全員を一瞬でギルドまで転送した。
(あぁ、私は何故、ケイジ様を疑ってしまったんだろう?)
*************
「あ~、労咳は、結核菌が体内で繁殖しておこる病気だ。」
「はい、その通りです。」
「だから、ラキュアで病原菌を死滅した。」
「ラキュア?」ポーターが言う。
「あぁ、ラキュアだ。」ケイジ様が言う。
「キュアの上位呪文はマキュアです。」私が言う。
「あ? 中級呪文だぞ、それ。」ケイジ様が言う。
「いや、伝説にはありますが。」ポーターが言う。
「俺は、使える。」私達は黙る。
「そして、ライフで欠損部分を修復した。」
「それも伝説の魔法です。」
「え? そうなの?」
「はい、その呪文を行使した事例がありません。」
「俺、何回も使ってるぞ。」
「なんと?」
「そして、ラディで全員の体力を回復した。」
「え? マディではなく?」私はわなわなと震えながら言う。
「だって、マディじゃ一人しか全快にできないじゃないか。」ケイジ様が言う。
「え、ラ? 言い伝えにある、最上級の?」ポーターが狼狽える。
「その後、クリーンでこの辺りを消毒したから、二次感染もしないだろう?」
「え? 法術で浄化するのではなく、魔法でですか?」
「え? あぁ。」
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(何故、私はケイジ様を疑ったんだろう。)
(今なら解る。)
(ケイジ様は、精霊様の御使いだ。)
(ラキュアも、ライフも、ラディもケイジ様なら普通に使えるだろう。)
(私は、何を迷っていたんだろう。)心の中に火が灯った。
エルガイムが暴走した。
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「私は、ケイジ様の子を産みます。」
「はい?」
(エルガイム様の求婚、確認しました。)
(あ~、呪縛的なあれか?)
(肯定します。)
(断ったら?)
(いつもの様に、この方の婚姻適正が喪失し、その後の人生は堕ちるだけです。)
(おい、設定が酷くなっていないか?)
「お~、元聖女様が潔い。」エヌが言う。
「私達も見習うべき?」エルが言う。
「むぅ、惰性だと思われるのは嫌だな。」エムが言う。
3人は、この世界の女性が結婚を望んだら、その相手が鬼畜でない限り成就する事を知らない。
3人はこれ以降も悩むのであった。
*************
結局、ケイジはエルガイムを受け入れた。
その後、エルガイムはアトールと名付けられる男の子と、オージェと名付けられる女の子を産む。
そして、エルガイムは、一人目を産んだ時に『マ系』の呪文が、二人目の時には『ラ系』の呪文が頭に浮かび上がった。
それは、エルガイムが本当の聖女になった証だった。
その後、オージェが12歳になったのを見計らい、エルガイムが、二人を各地の巡礼に連れまわした。
勿論、その地の人々を救済するためだ。
エルガイムたちは毎日虚無の窓を潜って昨日いた場所に行き、目的地まで歩いて施しを行う。
施しが終わったら、次の町に向かい、途中で陽が傾いたら、ケイジの家に帰ったていたのは当然の秘密だ。
アトールもオージェもケイジとエルガイムの資質を受け継ぎ、のちに『ラ系』の魔法を使えるようになり、「聖人様」、「聖女様」と呼ばれるようになるが、それは別の場所で語ろう。
*************
「エル、今日も救いに行くのか?」
「はい、ケイジ様、たまにはご一緒にいかがですか?」エルガイムが俺に微笑む。
「う~ん、今日は特にやることもないから、付き合おうか。」俺はそう言いながら立ち上がる。
「あぁ、嬉しい。」そう言いながらエルガイムが俺の手を抱きしめる。
「お母様、いちゃつくのは夜にして下さい。」
「お父様も、少しは自重してくださいませ。」オージェとアトールに叱られてしまった。
「お前達、ケイジ様とじゃれつくのは母の趣味です。」
「おいおい。」
「お母様。」
「残念です。」
「まぁ、色々置いておいて、出かけようか。」
「はい、お父様。」
「今日は、廃れた村の救済です。」
「よし、紫炎。」
「はい。」その村に近い道に繋がった。
俺達はそこを潜った。
*************
「これは?」
「間に合わなかったようです。」エルガイムがつらそうに言う。
「そこにあった村は、死んでいた。」
「酷い。」
魔物に襲われたわけではない、疫病が蔓延して滅んでいた。
「これは、数か月以上前に滅んだのだな。」
「その様です。」
(菌が死滅していません。)
「村全体を消毒する。」
「解りました。」
「村全体を覆う。」
「はい、では、私がクリーンを唱えます。」
「任せた。」
「はい。」
「エリア!」村全体を囲う魔法を唱える。
「クリーン!」エルガイムが後を追って唱える。
そのあたり一帯の、菌が撲滅された。
(ケイジ様お一人でも出来る行為です。)
(解ってるよ。)
「流石です、お母様。」
「お父様もです。」
「ははは、この程度はな。」
「次の村に向かいましょう。」
「はい、」
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「おぉ、あなた、この村には入らない方が良い。」
その村の門番が、俺達に言う。
「うん、何でだ?」
「村人のほとんどが、疫病を患っている。」
「あぁ、まだ、生きているんだな?」
「あぁ隣の村は、この病で全滅したらしい。」
「良かった。」エルガイムがポツリと言う。
「何が良かったんだ?」エルガイムの言葉に、門番が詰め寄る。
「助けられる。」俺はそう言って、門番とエルガイムの間に割り込む。
「何を言って?」
「間に合ったな。」俺の言葉に
「はい、ケイジ様。」エルガイムが極上の笑顔で答える。
「よし、ラキュア!」俺が村全体を対象とした上級魔法を唱える。
村人たちの身体から、菌が消えたはずだ。
「もぉ、ケイジ様。」エルガイムが頬を膨らませながら、俺の袖を取る。
「え?」
「ケイジ様だけが治療したら、私の存在価値がありません。」
「あぁ、悪い。」
「まったく、ライフ!」エルガイムが、呪文を唱える。
村人たちの身体も、回復しただろう。
「俺達もやろうぜ。」
「うん。」
「「クリーン!」」アトールとオージェも呪文を唱える。
残念だが、彼らの魔法の範囲は、まだ半径10m程しか効果がない。
「クリーン!」俺はこっそり、村全体に魔法をかけた。
暫くすると、村の中心にあった大きな家から、村長らしき男が出てきた。
衰弱した体力が戻っていないのか、よたよたと近づいてくる。
「ラディ!」俺が呪文を唱えると、エルガイムがしまったって顔をして俺を見る。
「ラキュア、ライフ、ラディ、クリーンが疫病対策のセットだろう?」俺が言う。
「はい、失念していました。」
「お父様、流石です。」
「お父様、素敵。」
「アトールと、オージェも覚えておくと良い。」
「でも、俺達はその呪文は使えないよ。」
「そのうちに、使えるようになるさ。」
「うん。」
「解った~。」
「この村をお救い頂き、ありがとうございます。」村長が俺達に頭を下げる。
「間に合って良かったな。」俺が言う。
「この近辺で、発生した疫病は、何処の村から発生したんだ?」
「はい、ここから歩いて半日ほどの所にある村だと思います。」
「なぜ、そう思う?」
「その村から仕入れた、黒鼠の肉を食べた者が発症して、広がったからです。」
「うわぁ、ペストか。」
「ケイジ様、ペストとは?」
「あぁ、此の疫病の名だよ。」
「初めて聞きました。」
「いや、此処では何と言われているか知らないけどな。」
「黒鼠が原因ですか?」
「あぁ、鼠を媒介とした疫病だ。」
「だが、原因が特定できて良かった、あの村の周りにあるのは、ここと他には?」
「その村から、この村とは反対側にありますが?」
「エルガイム?」
「はい、通ってきましたが、特別変わったことは。」
「村長、この村はもう安心だから心配するな。」
「はい。」
「んじゃ、俺達はその村に言ってくる。」
「お待ちください!」
「ん?」
「この村をお救い下さった方の御名前を教えてください。」
「あぁ、聖女エルガイムとゆかいな仲間たちだ。」
「聖女様?」
「あぁ、そうだ。 紫炎。」
「はい。」その村に窓が開く。
俺達は、そこを潜った。
「聖女様!」村長と、門番はその場で平伏した。
*************
「此処か?」俺はその村の門の前で言う。
(特別変わったことは有りません。)
(例の鼠肉は?)
(この村では、鼠肉は食べないようです。)
(おぉ、それは僥倖。)
俺は、ベカスカのアイリーンに虚無の窓を繋げた。
「アイリーン。」
「はい、ケイジ様。」アイリーンが嬉しそうに答える。
「◇◇◇◇◇村の鼠肉を食べないように告知しろ。」
「それは、どのような?」
「食べると、疫病に感染して、周りの者達も感染して死ぬ。」
「な、解りました。」
「感染者が出たら、俺に連絡しろ。」
「はい、解りました。」
「モーマや、他のギルドにも通達を頼むぞ。」
「喜んで。」
「よし、旅を続けよう。」さっきの村に虚無の窓を繋げて言う。
「はい、ケイジ様。」
「解りました、お父様。」
「早速行きましょう、お父様。」
俺達は、次の村に向かった。
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「さて、ここはどんな具合だろうか?」
「お父様、私が先行して調べてきます。」
「あぁ、アトール、任せた。」
「はい。」嬉しそうにしながら、アトールが走る。
「むぅ、お父様、今度はオージェにご依頼ください。」オージェが口を尖らせて言う。
「あぁ、オージェ、次は任せるよ。」俺がそう言うと、オージェが笑顔になる。
「絶対ですよ、お父様。」
「ははは、勿論だ。」
「ケイジ様、親ばかですね。」エルガイムが言う。
「ははは、お前もだろう。」
「ふふふ、否定しません。」
「俺達の子供たちは、順調に育っているよな。」
「はい。」
「あぁ、愛しているよ、エルガイム。」
「私もです。」
「お父様、お母様、そう言う行為は、夜のお布団の中でやってください。」
「おや、オージェ、これは只の愛情表現だよ。」
「そうですよ、オージェ、貴女も加わっても良いのですよ。」
「はぇ?」
「さぁ、おいで。」
「何も心配しなくて、大丈夫ですよ。」
「お父様、お母様。」オージェが俺達に抱き着く。
「ははは、オージェは可愛いなぁ。」
「本当です。」
「お父様、お母様~。」
「よしよし。」
「私も、ケイジ様も、貴女のことが大好きですよ。」
「はい~。」
「お父様、お母様、オージェだけズルいです!」
「おぉ、アトールも来なさい。」
「はい。」
こいつら、只のバ家族じゃね?