やらかしの122
「メーム、ギルドカードを出せ。」
「あぁ、わかった兄者。」メームはギルドカードを取り出す。
「送金を頼む。」俺はギルドの受付の獣人に言う。
「はい、金額をどうぞ。」
「8200Gだ。」
「はい?」
「8200Gだ。」
「は、はい、わかりました。」
俺は、俺のカードとメームのカードを渡す。
「お待たせしました。」受付の獣人がカードを返してくる。
「メーム、確認しろ。」俺はメームにカードを渡す。
「解った、兄者。」
「確認した、兄者。」
「よし、華厳の店に戻るぞ。」
「解った兄者。」俺達はそこを潜った。
「食った~。」
「すげえ、美味かった。」
「もう食えない。」
「至高だった。」
「おい、お前ら、俺の分は?」
「ないぞ。」
「自分で注文しろ。」
「ひでえな。」
「ははは、お前らの分は今回だけ俺が払ってやるよ。」
「まじで?」
「ケイジさん、マジ最高!」
「さて、ムーニャ。」
「はいにゃ。」
「ミノタウルスを捌いてくれ。」
「はいにゃ。」
「え? ムーニャがやるのかよ?」
「何言ってるんだ、ムーニャはプロだぞ。」俺はメームに言う。
「メーム、疑うならミスしちゃうにゃ。」ムーニャが笑いながら言う。
「止めてくれ、マジで頼む。」メームは本気でムーニャに言う。
「冗談にゃ、まったく、誰を射止めようとしてるにゃ?」
「ベカスカの、ギルドの受付嬢のポリンさんだ。」
「ん? なんか聞き覚えがあるような?」俺が思う。
「あたしに、悪態ついた女にゃ。」ミーニャが言う。
「あぁ、あの、え? メームと歳の差がないか?」
「メームが12歳、あの女は17歳、姉さん女房にゃ。」
「それって?」
「短ければ、3年にゃ。」
「そうか。」
「あたし達獣人は、その日その日を充実して生きてるにゃ。」
「あぁ。」
「あたしたちの1年は、普通の人の5年分にゃ。」
「あぁ、そうだな。」俺は肯定する。
「メーム、爆散しろ。」
「骨は拾ってやるぞ。」メームの仲間が囃し立てる。
「メーム、ミノタウルスの皮にゃ。」ムーニャがそれをメームに渡す。
「おぉ、行ってくる。」メームがベカスカの道具屋に走る。
「これで、最高の皮の鎧を作ってくれ。」
「おぉ、ミノタウルスですか、皮鎧なら70Gで承ります。」
「あぁ、決済してくれ。」
「はい、喜んで。」
「お渡しは、3日後です。」
「解った。」
*************
そして3日後。
「こちらが、ミノタウルスの皮鎧です。」道具屋がそれを渡してくる。
「ありがとう。」メームがそれを持ってベカスカのギルドに行く。
「あの、ポリンさんを。」ベカスカのギルドの受付で、メームがその人を呼ぶ。
「あら、メーム君、どうしたの?」
「これを。」メームがミノタウルスの皮鎧をポリンさんに渡す。
「まぁ、これを私に?」
「あぁ、それで、頼みが「ありがとう、メーム君、これで、あの人がダンジョンをクリアできるわ。」
「へ?」
「お礼は、50Gで良いかしら?」
「え?」
「これで、私達結婚できるわ。」ポリンが嬉しそうに言う。
「はい、それで良いです。」メームが下を向きながら言う。
「おぅ。」
「これは、マジでつらい。」
「事故案件だな。」
「メームドンマイ。」メームのチームが暗い顔をして言う。
この後、暫くメームはふさぎ込んだ。
「ミーニャ、良い人はいないのか?」
「メームしだいにゃ、獣人のネットワークは狭いから、出会いは難しいにゃ。」
「はぁ、俺にはどうにもできないか。」
「そうにゃ。」
「人族では無理か?」
「獣人の寿命を考えたら無理にゃ。」
「そうか。」
一応、ベカスカだけじゃなく、シハリク、ゴカ、べワカタキで獣人の婚礼を申し込んだ。
数名の獣人が、応募してきた。
メームのお眼鏡にかなう獣人がいれば良いな。
俺は、そう思った。
*************
「あたし、3回は生みます。」
「あたしは、旦那さんより長く生きます。」
「私は、旦那様を見取ります。」
数人の獣人の女性が色々アピールする。」
「何だろう、凄く重いと感じるのは俺だけかな?」
「メーム?」
「あぁ、兄者、大丈夫だ。」
その中でひときわ儚く見える獣人の少女がいた。
「私は、身体が弱いので、一回だけは必ず生みます。」
何だろう、凄く庇護欲を掻き立てられる。
メームもそれを感じたようだ。
「私は、一回産んだら、その子と多分命をひき替えます。」その少女が言う。
(ケイジ様、彼女はジステンパーに感染しています。)
(おぉぅ、そう言う事か。)
「兄者、俺はこの人と結婚したい!」
「ちょっと待て、メーム。」
「兄者?」
「貴女、病気じゃないですか?」
「いえ、もともと身体が弱くて。」
「ほぉ、今から貴女に魔法をかけて良いですか?」
「魔法?」
「はい、病気が治る魔法です。」
「はい、別に良いですけど。」
「では。」
「ラキュア!」
「はぅ!」
「続いて、ライフ!」
「あぅ!」
「マディ!」
「うおぉぉ。」
「なんだこれ、身体が軽いぜ。」
「貴女は、ジステンパ―と言う病気だったんです。」
「なはは、そうだったのか、今なら4回ぐらい子を産んでやれるぜ。」その娘が言う。
(おい、俺の庇護欲を返せ。)
メームも引き攣った顔をしている。
*************
「あ~、今回はご縁がなかったと言う事で。」
俺は、魚料理をそこに取り出しながら言う。
「おぉ、魚だ。」
「にゃ、魚!」
「うふふ、魚。」
今回の参加者は、猫獣人だったので、魚料理を堪能して帰っていった。
メーム、次に期待しような。
ただ、メームのパーティの人間達は、何故か安心した顔をしていた。
なんだ、メームの仲間はツンデレか。
*************
「ケイジ、頼みがある。」バランが虚無の窓もどきから現れて、俺の肩を抱く。
「なんだ、バラン。」
「ぐふふ、ぐふふ、リアルバラ×ケイ。」ダンサが悶えるが無視する
「盗賊を討伐してほしい。」
「はぁ?
「いや、ヤゴナの周りの街道沿いに、盗賊が出るんだ。」
「ふむ、やっても良いが、ギルドに依頼を出せ。」
「え~、ギルドに依頼を出したら、報酬が発生するだろう?」
「おい、俺も当然報酬をもらうぞ。」
「え?」
「そうだな、俺個人への依頼なら、ギルドの3倍を請求するぞ。
「ギルドに依頼を出してくる。」そう言いながら、バランがギルドに消える。
*************
「で、何だって?」俺は、俺の家の応接室でバランと対峙した。
「うむ、実はな、このところ我が「ヤゴナ」を中心にした街道沿いで、盗賊の被害が相次いでいるのだ。」
「原因は?」
「解らん。」
「と、言う事で良いか、ボルガ。」
「げぇ。」バランが狼狽える。
「いえいえ、ちゃんと調査しておりますよ、バラン様。」ボルガが、虚無の窓を潜ってくる。
ボルガは、バランの横に腰かけると、バランの肩を抱いて言う。
「現状はご報告しましたよねぇ。」
「あぁ。」
「ぐふふ、ぐふふ、リアルボルバラ、か、カスリーを呼ばないと。」
ダンサがラバハキアの店に虚無の窓を開いているが、無視しよう。
「何でしょう、ダンサ様?」
「ぐふふ、至極の光景のお裾分けです。」
「え、どのような、ぐはぁ!」カスリーはそれを見ると、持参した紙にはぁはぁ言いながら何かを描いている。
「ぐふふ、ケイジ様、マジで神!」
「ごほん、説明してくれ、ボルガ。」
「はいケイジ様、この所、ヤゴナ界隈で盗賊被害が相次いでいるのです。」
「ほぉ。」
「その原因なのですが、キザカオかダヨトの領主が我々に敵対したようなのです。」
「敵対?」
「はい。」
「何故敵対だと?」
「狙われるのが、我々の関係する者達だけなのです。」
「ふむ、狙われるような目印でも付いているのか?」
「王国旗を掲げています。」
「成程。」
「王国旗を掲げるのは、関所などで時間を取られないようにする為だったのですが。」
「良い目印だったと。」
「はい。」
「護衛を付けたらどうだ?」
「それが、護衛を付けると、盗賊が現れないのです。」
「毎回、護衛を付ければ良いじゃないか。」
「台数が多いので、料金がかかり過ぎてしまいます。」
「ふむ。」
「護衛を付ける、付けないはどう決めて、どのように伝達するんだ?」
「私が判断し、直系の部下に指示します。」
「その後、何人ぐらいに伝わる?」
「2~3人です。」
「どいつかが、内通者だな。」
「なんと?」
「それ以外ないだろう。」
「迂闊でした。」
「仕方ない、受けてやるよ。」俺はそう言いながらボルカの肩を抱く。
「ぐふふふ!」
「むふふふ!」
「ケイジ様、あちらの御婦人方は大丈夫なのでしょうか?」
「あぁ、気にしなくて良いぞ、満喫しているようだ。」
「はぁ?」
「バラン。」
「なんだ?」
「討伐許可をくれ。」
「何のだ?」
「一揆の首謀者だ。」
「おぉ、許す、好きにやれ。」
「よし、言質取ったぞ。」
「おぉ、任せた。」
「ボルカ。」
「はい、ケイジ様。」
「ダミーの馬車を用意しろ、荷物は高級な織物と言う事で。」
「解りました。」
「で、直系の部下だけに、『護衛はいる。』と伝えろ。」
「はい。」
「出発は、明日ココノツだ。」
「はい。」
「さて、ギルドに行って依頼を受けるか。」
俺はそう言いながらヤゴナのギルドに行く。
ギルドに入った俺を見る目はいつも通りだ。
サランも指輪に入っているから、俺を一瞥して、つまらなそうに眼をそらす。
「盗賊討伐のクエストを受ける。」俺は受付カウンターに行って言う。
「はい?」受付のお姉さんが挙動不審になる。
「もう一回言うのか?」俺は目の前の娘に問う。
「いえ、盗賊討伐と聞こえたのですが?」その娘が俺に聞き返す。
「あぁ、ちゃんと聞こえていたか、その通りだ。」俺が言う。
「ちょ、ちょっとお待ちください。」そう言いながら受付のお姉さんがギルドの奥に走っていく。」
「あぁ、ギルマス案件か。」俺がそう思っていると、むさいおっさんが奥の部屋から出てくる。」
「国王案件の盗賊討伐を受けてくれるのか?」ギルマスが俺に言う。
「さっきから、そう言ってる。」
「俺が見ている状態でも討伐できるのか?」
「あんたが、そこに居れば可能だ。」
「よし、良いだろう。」
「あぁ、良かった。」
「お前の名前は?」
「あぁ、ケイジだ、宜しくな。」
「あぁ、俺は此処のギルマスの、カイス・クジチイだ。」
「変わった名前だな。」
「あぁ、ドワーフ語で見定める者と言う。」
「ふ~ん。」
「で、どうするんだ?」
「明日ココノツに、王城からダミーの馬車を出す。」
「ほぉ。」
「これに引っかかったら、それでお終いだが。」
「違ったら?」
「あと数回、同じ事をする。」
「解った、明日ココノツだな。」
「あぁ。」
「必ず参上しよう!」ギルマスが宣言する。




