やらかしの121
「さて、宿題の答え合わせだ。」俺はそう言いながら、そこにいた者達を見る。
「申し訳ありません、再現できませんでした。」華厳が項垂れる。
「解らなかった~。」ナギモが言う。
「ケイジ様が作る物とは別の物にしかならない。」リョウが言う。
「ケイジ様、新しい料理を教えてくださると聞いて来たのですが?」カリナの家の料理長が言う。
「私も、そのように聞いております。」ローリの家の料理長も言う。
「あぁ、今からデミグラスソースの作り方を教える、結構面倒くさいからそのつもりでな。」
「大丈夫です。」エスが言う。
「ははは、まずブイヨンを作る。」
「ブイヨン?」
「見て覚えろ。」そう言いながら俺はそれを用意する。
ランナー鶏のガラ、大蒜一片、生姜、セロ、タマネ。
「これを普通なら、2刻煮る。」
「え?」
「今から魔法で短縮する。」俺はそう言いながらクイックの魔法を唱える。
「クイック32倍。」俺が魔法を唱える。
3薄でそれが出来る。
「これがブイヨンだ。」俺はそれをみんなの前に出す。
「本来なら、2刻煮込むものだ、魔法が使えるなら今の様にクイックで短縮できる、魔法が使えなければ2刻煮る事。」
「成程。」
「解りました。」
「このブイヨンは、デミグラスソースを煮込むときに、差し水代わりに使うんだ。」
「おぉ。」
「さて、デミグラスソースを作っていくぞ。」
「おぉ、あれの作り方が。」
「ぐふふ、ケイジ様は本当にお優しい。」
「まず、バハローのロース800gとすね肉300gをフライパンで炒める。」俺はコンロの一つで肉を炒める。
「タマネ2個とニンジ2本もざく切りにして炒める。」二個目のコンロで同時に炒める。
「ぐふふ。」
「別の鍋にお湯を沸かす。」俺は3個目のコンロに水を入れた鍋をセットする。
「肉を炒め終わったら、鍋に入れる。」俺はフライパンから鍋に肉を入れる。
そして、肉を炒めていたコンロに別の鍋を用意してお湯を沸かす。
「炒めたタマネとニンジをそこに入れて煮る。」
「肉は6刻、野菜は2刻煮る、水が減ったら差し水をするように。」
「はい。」
「クイックを使えば一瞬だ。」
「おぉ。」
「あんまり早くすると鍋が焦げ付くから、注意な。」
「はい。」
「鍋が沸騰すると水が蒸発するから、ブイヨンを足すんだ。」
「成程。」
「そして、トマツの皮と種を取ったものをみじん切りにして炒める。」
「トマツ?」
「あ~、そう言う事か。」リョウが言う。
「焦げたら終わりだぞ。」そう言いながら俺はトマツを炒め水分を飛ばす。
トマツの水分が飛んだら、野菜を煮込んだ物を全部入れて少し煮たら、全部をすりつぶす。
俺はそう言いながら、それを風魔法ですりつぶす。
「風魔法が使えなければ、すり鉢で地道にやること。」
「はいにゃ。」
「すりつぶしたら、またフライパンを弱火にかけて3刻ほど煮る。」
「にゃ。」
「で、ブッタ50gを鍋で溶かし、同じ量のバク粉を炒めて狸色にする。」俺はそれを行う。
「焦げたら終わりだ。」俺はそう言いながらフライパンを振る。
「たまに火から離して、焦がさないように、丁寧に。」
*************
「この位の色になったら出来上がり。」
「で、肉を煮込んでいた鍋の中身をこして、肉はシチューで食べる。」
「茶色くなったバク粉にこの煮汁を少し入れて、だまにならないようによく混ぜる。」
「もう一回。」俺は煮汁をもう一度入れて、更にゆっくりと溶かし込む。
「最後に、三つを全部合わせる。」そう言いながら、一番大きい鍋に入れる。
「そして、塩胡椒で味を調える。」
「おぉ、完成ですか?」
「いや、これを弱火でコトコトと、三日ほど煮込むんだ。」
「気が遠くなりそうです。」
「美味いものを食べるためだ。」
「御意。」
「で、これが三日煮込んだ物だ。」俺は虚無の部屋から取り出す。
「味の違いを試してみろ。」
「では、私から。」華厳が小皿にそれを取り口にする。
「今出来上がった物でも十分美味しいですが。」
「まぁ、こっちも味見してみろ。」
「はい。」華厳はそれも小皿に入れ口にする。
「なんと、味に深みとコクが。」
「流石だな、華厳。」
「もったいないお言葉。」
「成程、トマツが必要だったんだ、あとバク粉。」リョウがうんうんと頷いている。
(リョウはあっという間に再現しそうだな。)
「これは、店をやりながらだときつそうです。」
「エス、24時間煮込めとは言っていない、今は同時にやったが、どれか一つずつ作って、あとから混ぜても良いんだぞ。」
「あぁ、そうですね。」
「店をやりながらでも、煮込むことは可能だろう?」
「解りました。」
「あぁ、カリナの処の料理長。」
「はい、何でしょう?」
「くれぐれも、強火にするなよ。」
「ははは、肝に銘じます。」
「セリナ様、いやお義母さんには、ちゃんと教えましたと言っておくからな。」
「なっ。」
「俺が作った物も、提供しておくから、そのつもりでな。」そう言いながら料理長の肩を叩く。
「わ、判りました。」
「さ~て、今日はここまでだ、あとは流れ解散な。」
「はいにゃ。」
「さて、エル、エヌ、エムは理解したか?」
「え~っと、多分。」
「えへへ。」
「うん。」
「イロハ達は?」
「あはは。」
「ちゃんとメモしました。」
「え? 後で見せて。」
「あたしも。」
「おいおい。」
「サクラやナギモ達はどうだ?」
「ん、完璧。」
「だ、大丈夫っす。」
「た、多分?」
「だよね。」
「美味しかった。」
「サクラ以外は特訓だな。」俺はそう考えた。
*************
「兄者、マシクフのダンジョンに連れて行ってくれないか?」
「おぉ、メーム、別にいいが。」
「マジか、じゃぁ、俺達のパーティーメンバーとして同行してほしい。」
「良いぞ、いつだ?」
「早い方が良いな。」
「んじゃ、明日にするか?」
「え? いや、それで良い、兄者宜しく頼む。」
「で、俺は、俺の力を封印した方が良いのかな?」
「え?」
「俺の力があると、かなり深い階層までフリーパスだぞ。」
「じゃぁ、それは無しで。」
「良いぞ、で、俺は何処まで力を貸せばいいんだ?」
「俺達が死にそうになったら助けてほしい。」
「どう言う風の吹き回しだ?」
「俺、結婚したい娘がいるんだ。」
「ほぉ。」
「そいつの望みが、ミノタウルスの皮で作った装備だって。」
「うんうん、青春だな。」
「茶化すなよ、兄者。」
「メーム、俺にそれを提供してくれと言わなかった事を評価するよ。」
「兄者。」
「よし、良く寝ておけよ、明日早朝に出発する。」
「はい。」
「良い返事だ。」
*************
翌日早朝に、マシクフのダンジョンまで虚無の窓を潜った。
「さて、ここがマシクフのダンジョンだ。」
「おぉ。」
「任せて。」
「緊張する。」
「結婚のために。」
「ははは、メーム、頑張れ。」
「流石に、この時間なら潜ってる奴はいないよな。」
いつもなら、数組いる順番待ちの冒険者はいなかった。
「おぉ。マシクフのダンジョンに素で潜るのは初めてだ。」そう言いながら俺は入り口を潜る。
「さぁ、メーム早速お客さんだ。」一階層のドアを潜りながら俺が言う。
「おぉ、皆行くぞ。」メームがそう言いながら敵に向かって駆けていく。
「「「おぅ!」」」他のメンバーもそれに続く。
「ゴブリン4匹なら楽勝だな。」俺は後ろで見ている。
「とりゃ!」メームが最後の敵にとどめを刺す。
「おぉ、流石だな。」
「これくらいならな、なぁみんな。」
「おう。」
「余裕。」
「ははは、頼もしいな、先に進むぞ。」
「解った、兄者。」
一階層はサクサク攻略できた。
「ふむ、普通に攻略すると、結構時間がかかるんだな。」
「兄者が普通じゃないんだと思うけど。」
「ははは、その通りだな。」そう言いながら2階層に降りる。
「普通なら、この階層でミノタウルスが出るぞ。」
「え? こんな浅い階層で?」
「攻略しても、ミノタウルスが残るかどうかは運しだいだけどな。」
「むぅ、では、奥に進む。」メームがそう言いながら進もうとする。
「おっと。」俺はそんなメームの腕をつかむ。
「兄者?」
「罠だ。」
「え?」
メームの前の床が崩れる。
「落とし穴?」
「危なかったな。」
「兄者、ありがとう、みんな、気を付けろ。」
「いや、どぅ見ても、メームが気を付ける処だろう。」
「そうだ、そうだ!」
「う、五月蠅いな。」
ワイワイ言いながら、攻略は進む。
*************
「さて、ここが2階層のボス部屋だ。」
「うん兄者。」メームがごくりと喉を鳴らす。
「準備は良いか?」
「おぉ。」
「一応、氷魔法が弱点だぞ。」俺がアドバイスする。
「え?」
「そうなの?」
「初めて聞いた。」
「おや、あいつらは情報を売らなかったんだな。」俺は前に会った冒険者を思い出しながら言う。
「氷魔法を使える奴はいるか?」
「俺、フローズなら出来る。」
「それを10回唱えられるか?」
「多分?」
「じゃぁ、心臓の処に重ね掛けしてみろ。」
「はい。」
「出たぞ。」
「ぶもおぉぉぉぉ!」ミノタウルスが斧を振り回す。
「レベル100だからな、当たったら死ぬぞ。」
「ふ、フローズ!」
「もう一回だ!」
「フローズ!」胸の所が凍り付いた。
「よし、効いてるぞ!」
「フローズ!」更に凍り付き、ミノタウルスの動きが遅くなった。
「よし、もう少しだ。」
「フローズ!」
「もう一度。」
「フローズ!」
「ぶもぉ・・」ミノタウルスは一声泣いて仰向けに倒れた。
「やった!」一人が歓声を揚げる。
「まだだ!」俺は手でそれを制す。
「え?」
「ぶもお!」ミノタウルスが力任せに斧を振った。
だが、斧は誰にも当たらず、それを境にミノタウルスが静かになった。
「ふむ、残ったな。」俺はそう言うと、虚無の部屋から愛刀を取り出す。
「「「「「ぎやぁぁぁぁぁ。」」」」」」あたりに響く絶叫。
「うわ、何だ?」
「この刀の力で、残っていた魔物が死んだんだ。」そう言いながら、ミノタウルスの舌を切り取る。
頭の部分が魔石に変わった。
「後上半身もいらないっと。」腰の上あたりを切断すると、上半身も魔石に変わった。
「さて、どうやって持って帰る?」
「これを担いで持って帰るのか~。」
「今回だけは、俺が持って帰るが、次はマジックバックを用意しろよ。」
「すまない、兄者。」
「何か目印を付けろ。」
「じゃぁ、この手ぬぐいを。」メームが手ぬぐいをミノタウロスの足に巻く。
「さて、まだ先に行くか?」
「いや、MPが切れそうだから、戻ろう。」
「んじゃ、歩いて戻るぞ。」
「はい。」
そして、一階への階段を上ったとき。
「「「「「ぎゃぁぁあぁぁ」」」」」
「うわぁ、なんだ。」
「さっきと同じだ。」
「本当に、只の蹂躙だ。」誰かが言う。
出口を出ると、6名のパーティがいた。
「こんにちは、首尾は?」
「へへへ、ミノタウルスを1頭。」メームが胸を張って言う。
「おぉ、それは凄いな。」
「あなた達も、頑張って。」
「よ~し、俺達も行くぞ。」
「「「おう。」」」そのパーティはダンジョンに潜っていく。
「さぁ。帰るぞ。」俺は虚無の窓を潜る。
メームたちもそれに続いた。
華厳の店に戻った俺は、戦利品をそこに出した。
屑魔石28個、魔石7個、上魔石2個、バハロー1頭、ミノタウルス1頭。
「え? こんなに?」
「いつの間に?」
「バハローは200G、ミノタウルスは身が8000Gで、皮が50G、蹄が35Gになるぞ。」
「まじかぁ。」
「一人当たり1657Gだって。」
「今までで最高の実入りだな。」
「魔石の分が入ってないぞ。」
「いったい幾らになるのかな?」
「魔石は2~4Gで、上魔石は1000G以上だろう。」
「うわぁ、俺達金持ちだな。」
「身を持ち崩すなよ。」
「大丈夫だ兄者。」
「皮は、俺が貰って良いか?」
「あぁ、そういう約束だったから別にいいぞ。」
「すまない。」
「な~に、告って玉砕すれば良いさ。」
「酷いな。」
「あははは。」
「バハローとミノタウルスの肉は、自分たちで食うも良し、売るのも良し、売るのなら俺が買ってやるよ。」
「どうする?」
「う~ん、俺は食いたい。」
「俺もだ。」
「なぁ、売っちゃって、ここで食えばよくないか?」そいつはメニューを見ながら言う。
「あぁ、有りだな。」
「じゃぁ、売ります。」
「よし、決まりだな、メーム来い。」俺はベカスカのギルドに繋げる。
「解った、兄者。」
「じゃぁ、お前らは飯でも食いながら、少し待っててくれ。」
「わかった~。」
「注文良いですか?」
「はい、承り。」
「ミノタウルスのすき焼きを4人前。」
「はい、承り。」
(戻れなくなっても、自己責任だ。)俺とメームは虚無の窓を潜った。