やらかしの113
「え~っと、華厳。」
「はい、ケイジ様。」
「何故、厨房に聖女がいるんだ?」
「私は聖女ではありません、聖職を離れ、今は一般人です。」
「と、言う事です。」
「はぁ、そうなのか?」
「誓って。」
「聖女って、簡単に辞められるのか?」
「私にその力がないと認められたので。」
「うん?」
「ソアの噴火で、私は身体を欠損した方を救えませんでした。」
「いや、でも、お前はそこにいた者たちを救っていたよな。」
「いえ、ケイジ様のお力で救われました。」
「いや、俺は何もしていないぞ。」
「ふふ、奥ゆかしい。」
「え~っと、そう言えば、ポーターはどうした?」
「はい、ポーターはソアで私を噴石から庇い殉職しました。」
「あ~。」
「オルドナ、ポセ「ケイジ様、私は只のエルガイムです。」
「聖女の称号、オルドナ・ポセイダルは今の私では名乗れません。」
「え? そうなの?」
「はい。」そう言いながら笑うエルガイムはとても儚く見えた。
「お~い、注文良いか?」
「はい承り。」エルガイムはその客の所に行き、注文を取る。
「あれだけを見ていると、普通に一般人だな。」
「にゃ、朝夕は孤児院を手伝って、お昼と夜の忙しい時間はこの店を手伝っているにゃ。」
「そうなのか?」
「はいにゃ。」
「う~む。」
「孤児たちも、聖女様に懐いてるにゃ。」
「だが、何故此処なんだ?」
「主様がいるからにゃ。」
「俺?」
「それ以外考えられないにゃ。」
「そうかなぁ?」
ムーニャはそう言うが、元聖女を観察すると、どうなんだろうと言う行動をしている。
朝早くに起き、孤児院の周りを掃除し、その後、孤児や職員たちの朝食を作り、孤児院の畑を見て回り、必要なところに肥料を撒いていく。
また、鶏舎や牧場の動物に、餌を与え、各個体の状態を確認し、病気などが解ったら、魔法で治療する。
そして、それらがすべて終わると、華厳の店に行き、店全体を拭き掃除する。
その後で、店の窯に火を入れ、調理の準備をして孤児院に戻り、孤児たちと朝食をとる。
午前中は、孤児たちに読み書きそろばんを教え、昼になると華厳の店に行き給仕をする。
ランチ時間が終わったら、また孤児院に行き、孤児たちの服を作ったり、孤児たちと一緒に畑仕事や、動物の世話ををする。
そして、夕方になると、また華厳の店で給仕をする。
店が閉まったら、調理器具を洗浄して、次の日の朝ごはんの仕込みをして、入浴後に精霊様に祈りを捧げて就寝する。
「なに、その完璧超人?」
「それが、元聖女様の一日の行動にゃ。」
「ムーニャ。」
「はいにゃ。」
「嫁が一人増える未来しか、思いつかない。」
「主様、ムーニャも同じ気持ちにゃ。」
「はぁ。」俺は大きなため息をつく。
ぐいぐい来た聖女は、嫌いだった。
しかし、今の素の聖女、いや元聖女は、俺の心に響く。
(いや、エルガイムは違う気持ちで行動しているかもしれない。)そう思った俺は、ストレートにエルガイムに聞く事にした。
「エルガイムは、俺の為にそう言う行動をしているのか?」
「精霊様に身を捧げた者は、この程度の事は常識です。」そう言いながらもエルガイムは頬を赤くして横を見ながら言う。
「あっそうなんだ。」俺は、釈然としないがそう答えた。
(解らん。)
「主様、なんか御免にゃ。」
「いいよ、エルガイムにはここは修行の場所になるんだろう。」
今日も、エルガイムはヤミノツウの孤児院と華厳の店で奮闘している。
「何か、エルガイムの視線をあちらこちらで感じるが、きっと気のせいだ。」俺はそうまとめる。
*************
「モブー。」そう言いながら一人の女が孤児院を訪ねてきた。
「おぉ、パメラ!」モブはそう言いながらその女を抱きしめる。
俺は、その女を思い出す。
あの日、モブと一緒にベカスカの孤児院を襲撃した女。
俺の口添えで、ベカスカの孤児院で働いていたんだが。
「昨日、卒院した孤児がいたから、仕事を譲ってきた。」
「あぁ、じゃぁ、俺と一緒にこの孤児院を「あたし~、色々出来ないから、娼婦になる。」
「え?」
「あたしじゃ、孤児院の経理とか出来ないし~。」
「いや、俺の奥さんになってくれないか?」モブがパメラの両肩を持って言う。
「でも~、あたし、馬鹿だし。」
「俺が、全部面倒見る。」
「え~、どうしようかな~。」
「お前は、娼婦になりたいのかよ?」
「いろんな人とそう言う事をするのは興味あるし~。」
「俺だけじゃ駄目か?」モブはパメラを抱きしめて言う。
「それって、あたしだけを愛してくれるって事?」
「あぁ、お前だけを愛す!」
「ん~、良いよ。」
なし崩しに、モブの結婚が決まった。
「ついでに、ウィンとムラノも結婚式をするか。」
「え~? ついでですかぁ~?」
「じゃ、止めとくか?」
「いえ、お願いします。」
「じゃぁ、エスと同じく、料理の味見だな。」
「はい。」
「よし、俺はちょっと出かけてくるぞ。」
「主様、どちらに?」
「バランに会ってくる。」
「行ってらっしゃいにゃ。」
「おぉ。」
「紫炎。」
「はい。」バランの城へ窓が開く。
俺はそこを潜った。
「バラン、今良いか?」
「おぉ、ケイジ、勿論だ。」バランは執務室で作業をしながら言う。
「ケイジ様、お久しぶりです。」ボルカもその横で俺に礼を取る。
「で、どうした?」
「あぁ、ウィンが結婚するから、王国に店を出したい。」
「おぉ、そうか、ボルカ。」
「はい、判りました、誰か、管理局長を呼んで来てください。」
「は!」一人の門番が部屋を出ていく。
「ケイジ様の料理を、王国の人間も味わう事が出来るのですね。」
「城でも、それが食えるんだろう?」
「グラタンと言う料理は、好みの味でした。」ボルカはその味を思い出したのか、うっとりとしながら言う。
「そうか、あぁ、料理長に『ドリア』も教えておけばよかったな。」
「なんだケイジ、まだ隠し事があるのか?」
「人聞きが悪いな、バラン、グラタンのマカロニをライシーに変えるだけだ。」
「おぉ、ケイジ様、それを料理長に教えても?」
「良いぞ、ボルカ。」
「ありがとうございます!」
「お呼びでしょうか?」恰幅の良い人間の男が部屋に入って来る。
「あぁ、其処にいるケイジの弟子が、王国で店を開きたいそうだ。」
「はい。」
「良い物件を知っていたら、紹介してやってくれ。」
「居抜き物件があれば、それが良いな。」俺が補足する。
「おぉ、国王前婚の、判りました、すぐに手配いたします。」その男はそう言うと部屋を出て言った。
「え? 俺はここで待って居れば良いのか?」
「はい、ケイジ様、あの男は優秀ですから、半刻もすれば答えを持ってきます。」
「んじゃ、待たせてもらうか、サラン。」
「はい、マスター。」
「茶を煎れてくれ、人数分な。」
「茶葉は何を?」
「バランとボルカは、いつもどんな茶を飲んでいるんだ?」
「知らん。」
「ケイジ様、紅茶かと。」
「おいおい、自分が飲んでいるものを知らないのかよ。」
「喉の渇きが解消されれば、それで良い。」
「だそうです。」
「ボルカもか~。」
「申し訳ございません。」
「サラン、番茶を。」
「はい、マスター。」
「どうぞ。」サランが番茶を全員の前に置く。
「これは?」
「嗅いだことのない匂いです。」
「あぁ、庶民が飲むお茶だからな。」俺はそう言いながら茶を啜る。
「庶民のお茶?」
「でも、香しい香りです。」
「あぁ、茶菓子を忘れていた。」そう言いながら虚無の部屋から干し芋を取り出す。
これは、ヤミノツウの孤児院で栽培している、『サツマ』を収穫後に冬を越させて、蒸し、切ったものを天日干ししたものだ。
『ヤミノツウの孤児院干し芋』と言うブランドも確立している、俺の会心の作だ。
「おぉ、これは美味いな。」
「素朴な甘さが後を引きます。」バランとボルカが干し芋を貪り食う。
「ふふふ、そうだろう、そうだろう。」俺はほくそ笑む。
俺が、ヤミノツウの孤児院で推奨した作物ベスト3。
ライシー、サツマ、ダンシャ。
「ふははは、飢饉の時に、ライシーは駄目でも、サツマとダンシャがあれば乗り越えられるぞ。」
「ケイジ、誰に向かって言ってるんだ?」
「誰だろうな?」俺はコッソリ自問する。
「お待たせしました、候補店が見つかりました。」先程の男が部屋に入って来る。
門番の制止も無しか、自由だなこの王国。
「よし、許す、その場所を説明せよ。」
「ははぁ、その場所は王城より南に20000ハバナガの所で、つい最近店主が急死した店です。」
「何それ、縁起悪。」
「店主は、寿命で死んだそうです。」
「寿命なら、良いか。」
「その店を見せてくれないか?」
「はい、仰せのままに。」
俺は、この国でビップ待遇なのか?
「ケイジ、気に入らなければ他を探すぞ。」
「あぁ、バランありがとうな。」
「くはは、我への礼は、肉で良いぞ。」
「あぁ、バランの食に対する欲求だけだな。」俺は理解する。
その店は、理想通りの店だった。
工業地帯の真ん中で、カウンター席が10、テーブル席が6。
「これなら、店の回転率も上がるな。」
「昼は、ランチと弁当。」
「その間はカリーやパスタや焼き飯。」
「夜は、酒とおつまみ各種。」
「王城でも食べられない料理が並ぶな。」俺は悪い顔をする。
きっと、バランやボルカも常連になるだろう。
「ウィンとその婿さんも安泰だな。」
「いくらだ?」俺が言う。
「はい、居抜き物件なので2500Gです。」
「んじゃ、決済宜しく。」俺はカードを出す。
「終わりました、また何かご用命があれば宜しくお願い致します。」その男が俺に礼をする。
よし、ウィンの店確保。
「喜んでくれると良いな。」俺はそう思いながら奥さんのいる処に潜る。
*************
「さて、試食だな。」俺が言う。
「はい、頑張りました。」ウィンが言う。
「よし、おにぎりとサンドウィッチはオッケーだ。」
「はい。」ウィンがほっとしたのを見て、俺はおにぎりを手に取る。
「え?」
「ふむ、成型は大丈夫だな。」そう言いながら俺はそれを口に入れる。
ほのかな塩味、海苔も焼かれて良い香りだ。
「具は、ワカメの佃煮か、工夫したな。」
「合格だ、頑張ったなウィン。」
「ありがとうございます。」ウィンが言う。
「では、その他だな。」
「まず、パオだ、華厳どうだ?」
「はい、合格点かと。」
「うん、俺もそう思う。」
「次に、シャオマは?」
「これも問題ありません。」
「うん。」
「チャーシューは?」
「完璧です。」
「うん。」
「煮卵は?」
「問題ありません。」
「うん。」
「で、ラメーンだが。」
「素晴らしい。」
「あぁ、これは完璧だ。」
「やりました。」ウィンが喜ぶ。
「これが基本だ、さらに上を目指せ。」
「はい。」
「んで、次のメニューはどうかな。」
「ぐふふ、では提供してください。」
「ナポリタンです。」ダンサの前にナポリタンが置かれる。
「ぐふふ、合格です。」ダンサは一口食べて言う。
「エスに負けていないです。」
「次は、グラタンだな。」
「はい。」そう言いながら、ウィンは俺の前にグラタンを出す。
「どれ?」俺はそれを口にする。
「うんうん、良いだろう。」
「ありがとうございます。」
「さて、カレーだ。」
「はい。」ウィンは緊張しながら、俺の前にカレーを出す。
俺は、そのカレーをスプーンで口に入れる。
「ウィン。」
「はい。」ウィンが息をのむ。
「美味い。」
「ありがとうございます。」ウィンはその場でガッツポーズをする。
「ルーの具合が良いな。」
「はい、研究しました。」
「にゃー、チャーハンも美味しいにゃ。」
「唐揚げとオークカツも合格ですね。」カリナが言う。
「もつ煮も良い具合です。」アヤが言う。
「ウィン。」
「はい。」
「よく頑張った、卒業だ。」
「つぅ。」
「華厳。」
「はい、ケイジ様。」
「今回も貸し切りにしてくれ。」
「はい、解りました。」
「あと、出来る料理を全員分、俺の支払いでな。」
「はい。」
俺は、店の中央に行くと二人を呼ぶ。
「ウィン、ムラノ。」
「「はい。」」二人は俺の前に来る。
「お前たちの結婚を認める。」俺は二人に宣言する。
「「はい。」」ウィンとムラノは笑いながらキスをする。
「おめでとうにゃ!」ムーニャが叫ぶ。
「おぉ、おめでとう!」
「幸せになれよ。」
「くそ~、俺もいつかは。」
「エムは俺の物だ。」
「な、貴様、俺のエムに色目を使うな。」
「お前ら、エムは皆の物だ。」
「お前ら、静かにしろ。」俺が言うと静かになる。
「ついでにモブとパメラも結婚を認める。」
周りの反応はいまいちだ。
だが、こいつらは二人の時間に浸っている。
(勝手にしろ。)俺は思う。
「さあ、料理を食って二人を祝福してくれ。」俺はその場の雰囲気を無視して言う。
「おぉ、ケイジ様、解ったぜ。」
「がははは、めでたいなぁ。」
「くっそー、ムラノのくせに。」
「俺もウィンを狙ってたのになぁ。」
「諦めろ。」
*************
「こいつらのギルドカードを作ってくれ。」俺はベカスカのギルドにウィンとムラノを連れてきて受付のお姉さんに言う。
「はい、ではこれにお名前をお書きください。」受付の獣人が動物の皮のような物を出してきた。
ウィンとムラノはそれに名前を書く。
二人が名前を書くと皮がカードになる。
「そのカードを銜えて下さい。」受付の獣人が言う。
ウィンとムラノはカードを銜える。
カードが発光して黄色に変わる。
「Eランクで登録しました。」受付のお姉さんが言う。
「んじゃ、振り込み頼む。」俺はそう言いながらカードを受付のお姉さんに渡す。
「はい。」
「50Gで。」
「はい。」
「終わりました、ご確認ください。」
「あぁ、ウィン、確認してくれ。」
「え?」
「額に当てて、照会って言えば見えるぞ。」
「はい。」ウィンが「照会」と呟く。
カード所有者:ウィン
ギルドランク:E
ギルド預金:50G
「ケイジ様?」
「俺からのご祝儀だ。」
「ありがとうございます。」
「王国の店の収支は未知数だ、頑張れよ。」
「はい、頑張ります。」
「うん。」ウィンとムラノは翌日、そこに潜った。
2話続けて、同じような終わり方だ。。 ちょっと反省><