やらかしの102
国王前婚から数日後、屋敷が完成したと報告を受けた。
ベカスカの孤児院の裏手に、孤児院用の畑のスペースを残し、その奥には門があり、その周りは石の壁で覆われていた。
門を潜ると、自分達用の畑があり、その畑には、カリーの材料のスパイスの野草が植わっている。
カリーのスパイスの野草は探してみたら、簡単に見つかった。
普通に生えているが、臭いがきついので誰も採らないらしい。
しかも、それ自体が生命力が強いらしく、他の畑を侵食する勢いで育った。
最終的には、すべてのスパイスの野草が、それぞれの領域を守るように、共存する形になった。
つまり、畑がカリーの原料と同じになった。
ガランが涙目になる事実が発覚した。
言わないけどな。
この畑を維持すれば、カリーは普通に作れると言う事だ。
屋敷の完成を受け、やっと、ヤゴナの王城泊まりから抜け出せる。
いや、完成まで、ヤゴナの城に泊めさせてもらっていた。
対価に、ヤゴナ城の料理人に、バハローの内臓の処理を教える事になった。
それはムーニャに、全面的に任せたので問題ない。
バランの過剰な接待が、うざかっただけだ。
接待と言っても、酒や、あての提供は俺だ。
バランが好むあて(つまみ)を無尽蔵に提供し、およそ、考えうるだけの酒を提供した。
「おぉ、堪能したぞ。」
「それは何より。」
「以降は好きにするがよい。」バランがそう言うと俺は、嫁を虚無の部屋に入れて、新居に潜った。
「無駄に疲れた。」俺は虚無の窓の前で言う。
「お疲れ様です。」紫炎の声がする。
「おぉ、ありがとうな。」そう言いながら、嫁さん達を虚無の部屋から出す。
「うわぁ、大きいにゃ。」ムーニャが新居を見て声を上げる。
「ほほほ、領主にふさわしい家ですね。」ヒドラも口元を緩ませる。
「早速探検するにゃ。」ミーニャが玄関に向かい走っていく。
「あの、ケイジ様、私の名前は、ローリ・イータ・バラン・ドレース・デユック・タダノでよろしいのですか?」
「あぁロリ、其れで良いんじゃないか。」
「国王様のお名前を、お使いしても良いのでしょうか?」
「いや、バランが良いって言ったよな。」
「ケイジ様と国王様は、本当に仲がよろしいのですね。」
「あぁ、バランが俺を明友と言っている限り、俺はあいつを滅しない。」
「ふふ、ケイジ様は本当に凄いお方なのですね。」ロリが俺の顔に手を当てて言う。
「私、ケイジ様のお嫁さんにして頂いて本当に良かったです。」そう言って家のほうに歩いていく。
「さぁ、今日はご馳走を作るか。」そう言いながら俺も家に向かう。
「手伝うにゃ。」
「頑張ります。」
「ほほほ。」
「ケイジ兄さま、お手伝いします。」
「あぁ、ハク、ミドリ、エン。」
「「「な~に?」」」
「この屋敷の門に、結界を張ってくれないか?」
「どんな?」ハクが聞いてくる。
「俺や、お前達を含めてこの家に住む者に、悪意を持って入って来る者や、騙そうとして来る者を排除するように。」
「うん、僕だけで大丈夫、ハクが胸を張って言う。」
「頼んだ。」
「ハクが疲れたら、僕が変わるよ。」
「僕もやるよ。」エンもミドリも言ってくれる。
「んじゃ、宜しく頼むな。」
「「「うん。」」」
**********
そして、家が落ち着いて、俺は新メニューを作ることにする。
「ぐふふ、ご主人様、何をお作りに?」ダンサの問いに答える。
「うどんとスパケッティとマカロニだ。」
「ぐふふ、ご主人様はもはや神ですね。」ダンサが身もだえする。
「いや、良いから手伝え。」
「ぐふふ、仰せのままに。」
「あぁ、その前に港町に行ってくる。」
「ぐふふ、お供します。」
「紫炎。」
「はい。」紫炎が、港町に虚無の窓を繋いでくれたので、俺達はそこを潜る。
「しまった、バク粉の店の前にすればよかったか。」
「ぐふふ、ご主人様とデート出来るのですから、ダンサは幸せです。」そう言いながら、ダンサが腕を絡めてくる。
俺は、ダンサの顔をまじまじと見る。
「ぐふふ、何でしょう?」
「お前、本当に綺麗な顔をしてるよな。」俺は、普段思っている事を口にする。
「ぐふふふふ、ぐうっふふふう。」ダンサが身もだえする。
「な、ダンサが壊れた?」
「だ、旦那様~。」
「なんだ?」
「ここで押し倒しても?」
「おあずけ!」
「ぐふふ、放置、ぐふふ。」更に身をくねらすダンサ。
埒が明かないと思った俺は、ダンサにデコピンを入れる。
「てぃ!」
「ぐふふ、この刺激が癖になります!」
「戻ってきたか、行くぞ。」俺がぶっきら棒に言う。
「ぐふふ、正気に戻りました。」
(おぉ、それは判るんだ。)
「まず、おでん種だ。」
「おでん種?」
「邪魔するぜ~。」
「おぉ、ケイジさん、お久しぶりだ。」
「ちっ。」
「どうだ?」
「あぁ、売れ行きが凄いぜ、特に今みたいな寒い時期は良く売れる。」
「それは良かった。」
「で今回は?」店主が期待を込めた目で俺を見る。
「で、今あるのはこれだけか?」俺は店の中を見て言う。
「あぁ、昼までに殆ど売れちまうな。」
「そうか。」
そこにあったのは、さつま揚げ、ちくわ、はんぺん、揚げボールが少し。
そして、ごぼう巻き、イカ巻き、爆弾、つみれ、枝豆巻き、チーズ巻き。
「あぁ、それ全部買う。」
「ケイジさん、新ネタはないのか?」
「新ネタか~。」
「ぐふふ、中にパオやシャオマを入れるのはどうですか?」
「おぉ、ルズイやヤミノツウで流行ってるアレか。」
「あぁ、それは良いかも。」俺が言う。
「売れる予感しかしない、全部持って行ってくれ。」
「あぁ。」
「紫炎。」
「はい。」
「ぐふふ、お役に立てたようですね。」
「想定の範囲だ。」俺は冷たく言う。
「ぐふふ、その冷たさが癖になります。」
「あぁ、醤や噌の店にも行かないとな。」俺はその店に入る。
「いらっしゃいませ~、何かご入用で?」
「全種類10杓子分くれ。」
「はい~、しばらくお待ちを。」
「それから、ソースも全種類10本ずつ買う。」俺は、そこにあった物を合計30本、会計の台に置いた。
「はい、前と同じ決済で?」
「あぁ、宜しく。」
俺はカードで決済する。
「さて、望みのバク粉はあるかな?」
「ぐふふ、どうでしょう。」
俺達はバク粉を扱う店に行く。
「邪魔するぜぇ。」
「いらっしゃいませぇ。」
「ちっ。」
「バク粉を買いに来た。」
「はい、どのような。」
「前に聞いた、水に溶かして焼いて食べるものとバゲ用以外のものは有るか?」
「はい、こちらに。」
「おぉ、前は気が付かなかったが、他にもいろいろ種類があるんだな。」
「これは?」俺はそのうちの一つに気付き店員に聞く。
「はい、塩と水でこねて、薄く延ばして茹でたものでおかずを巻いて食べます。」
「その現物有るか?」
「はい、そちらに。」と言いながら、店員は指さす。
「うん?」俺は、その方向を見て固まる。
「おいおい、これは。」
「ぐふふ、まさにその物ですね。」
そこにあったのは、所謂ラザニアだった。
「なぁ、これで麺を作ったりしていないか?」
「いえ、その形の物しか作りません。」
「ははは、それ50カップ分くれ。」
「はい、判りました。」
「あ、ラメーンを作るのはどれがいいんだ?」
「ラメーンは、バゲ用の物に水で溶かして焼くものを混ぜて作るようなので、それ用のものは有りません。」
「そうか。」
「はい。」
「あと、こっちにあるのは?」
「それは、ライバクと言って、実を煮て食べます。」
(ライ麦か。)
(正解です。)
「では、それも5カップ、粉にしてくれ。」
「え?」
「使い道があるんだ。」
「それなら、判りました。」
「ぐふふ、ご主人様?」
「俺、ライ麦パンも好きなんだ。」
「ぐふふ、成程。」
「全部で、3G600Bです。」
「決済頼む。」俺はカードを渡す。
「決済完了いたしました、ありがとうございました。」店員がカードを返してくる。
「あぁ、また来るから、宜しく頼む。」
「はい、喜んで。」
「ついでに、ブッタも買っていくか。」
「ぐふふ、ご主人様の買い物は男前ですね。」
「誉めても何も出さないぞ。」
「ぐふふ、ぐふふ、流石です。」
「?」
俺は、隣の店に入る。
「いらっしゃいませ。」
「あぁ、いつもの物を頼む。」
「はい。」
「ぐふふ、私の分も頼んで良いですか?」
「あぁ、良いぞ。」
「ぐふふ、ありがとうございます。」
「おいくつ必要ですか?」
「ダンサ?」
「はい、5塊もあれば。」
「25塊くれ。」
「はい~、1000Bですぅ~。」
「ここに置くぞ。」
「ありがとうございました。」
「では、ベカスカの華厳の店に。」
「はい。」
俺達はそこを潜った。
**********
「今回も、前回と同じメンツで良いか?」
「主様、バラン様とガラン様にもお声をかけた方が良いと思うにゃ。」
「ん? バランはともかく、ガランには俺の料理の技は提供していないぞ。」
「だからにゃ、華厳様の店にガラン様の料理人が毎日入り浸って、味を盗もうとして、陥落してボロボロになってるにゃ。」
「へぇ~。」
「主様は鬼にゃ?」
「いや、対価を払えば教えるよ、味を盗もうとしている奴にどんな配慮をしろと?」
「あ、そう言えば、その通りにゃ。」
「ムーニャは優しいなぁ、そう思うんなら声をかけてやれよ、100Gで良いって。」
「主様は・・・いや、あの味の対価なら納得にゃ。」ムーニャはうんうんとうなずく。
「ちょっと出かけてくる。」
「紫炎、ワシカの酒屋の前に。」
「はい。」
「邪魔するぜぃ。」
「邪魔するなら帰、なんだケイジさんか。」
「ちっ。」
「またいつもの奴か?」
「あぁ。」
「10Gだ。」
「あぁ、決済してくれ。」
「あいよ。」
「物は倉庫か?」
「あぁ、勝手に持って行ってくれ。」
「解った。」俺は倉庫から目的の物を紫炎に虚無の部屋に納めさせた。
「ヤジカ親方の工房前に。」
「はい。」
「がはは、ケイジ様、おかげさまで儲かっているぜ。」ヤジカ親方が俺を出迎える。
「作ってほしい物が有る。」
「ん、どんなものだ?」
「ちょっと秘密にしたいから、個室は無いか?」
「あぁ、そう言う事なら、こっちに来てくれ。」親方は奥の部屋に通してくれた.
「で、秘密にしたいっていうのは何だ?」
「あぁ、これだ。」俺はそう言いながら、クリエイトで作った麺打ち機と、マカロニ製造機をそこに出す。
「なんだこれ?」
「こっちは、こねた小麦を麺にする機械だ、刃の大きさを変えると色々な麺が出来る機械だ。」
「むぅ。」
「こっちは、同じようにこねた小麦を成型するものだ。」
「どっちも、俺には想像もつかねえ。」
「とりあえず、同じものを10個作ってくれないか?」
「あぁ、それは良いが、材料は?」
「あぁ、ミスリル30重で足りる?」
「はぁ? 何だそれ、いや、ケイジ様、30Gで請け負うぞ。」
「あぁ、良かった、決済して。」カードを差し出してくる。
そして、いつものウイスキーとスピリの樽が置かれる。
「がはは、ケイジ様は俺らの心を鷲掴みにするなぁ。」
「頼んだぞ。」ケイジが言う。
「がはは、俺達はあんたの頼みを最優先にするよ。」ヤジカ親方がそのすべてを持って、それを作ることを誓う。
「納期は明日で。」
「な?」
「宜しく。」そう言いながらケイジ様が消える。
「おぉぉ、バジカとコーゲを呼び出して、緊急で作らなければな。」ヤジカは心に誓った。