やらかしの101
「おぉ、我が明友、ケイジ。」
(くそ、いきなりハードルを上げやがった。)俺が思う。
今、俺達は、ヤゴナ城の謁見の間で、国王前婚を執り行うために、その場に並んでいた。
周りには、貴族の面々が並んでいる。
よく見ると、ドレースさんや、ゴーショウノさんの顔も見える。
「さて、ケイジよ。」バランが言う。
「俺の前で、国王前婚をする対価はなんだ?」
「あぁ、マスターボアの皮と肉だ。」
「おぉぉ。」周りにいた者が声を上げる。
「マスターボア?」
「数十年前に、献上された?」
「伝説級の?」
「ありえん、普通の人間が。」
「おぉ、では、その場にそれを示せ。」バランが言う。
茶番だなぁ。
そう思いながら、俺はその場にグレートマスターボアの皮と肉を出す。
そこにいた鑑定士が、俺を見てわなわなと震える。
「その皮はなんの皮だ?」バランがその男に問う。
「グ。」
「?」
「グレートマスターボアの毛皮です。」鑑定士が叫ぶ。
「はぁ?」
「グレートマスターボア?」
「数百年前に、勇者様に討伐された?」
「え? 伝説の?」
「そして、その肉です。」鑑定士が腰を抜かしながら言う。
「へぇ~、そうだったんだ。」俺は普通に答える。
「ケイジ、やりやがったな。」バランが言うが、
「何のことだか?」俺はとぼける。
「俺は、侯爵を望む。」俺は声高らかに宣言する。
「ふふふ、ケイジ。」
「おぉ、なんだ、バラン。」
「な、国王様を呼び捨てか。」バランの傍にいた者が言う。
「おいおい、万死に値する行為だろう?」ほかの男も言う。
「お前、卑怯だろう?」バランが言う。
「え~、何で」
「あのなぁ、グレートマスターボアの献上は、ぶっとんでいるんだ。」
「え~、バランもそういうの好きだろう?」
「いや、それを食うのが楽しみだ、いやそうじゃない、これをどうやって収めるんだ?」
「お前の人徳で納めろよ。」
「ケイジ~、お前は。」
「てへぺろ。」
「ごほん、皆の者、落ち着け。」バランの一声で周りにいる者達が落ち着く。
「ここにいる、ケイジが、我にグレートマスターボアを献上した。」
「おぉ。」
「凄い事だ。」
「それを狩れることがもはや伝説では?」
「かの者は、侯爵の爵位を希望している。」
「おぉ、なんと慎ましい。」
「バラン様は、その通りにお受けするのか?」
「ケイジ。」
「おぅ。」
「我は、汝に、我の地位をもって、爵位を与える。」
「謹んで、お受けいたします。」俺は首を垂れる。
「ケイジに公爵の爵位を与える。」
「ちょ、バラン、コウの字が違うぞ。」
「ケイジも望んでいたではないか、『コウシャク』を。」
「バラン、謀ったなぁ。」
「くははは、何のことだか?」
「さらに、ケイジにはヤミノツウの領主を命じる、領地を見事に治めてみよ。」
これだけの貴族の前で宣誓されたら、逆らえない。
「ちぃ、謹んでお受けいたします。」
「で、だ、お前のミドルネームに『バラン』を使ってよい。」
「はぁ?」
「なんと、国王が自らお名前を与えるとは。」
「おぉぉ、かの者はいったい?」
「お前は、我と同列だと言う事だ。」
「なんだそれ?」
「つまり、お前は今から、『ケイジ・バラン・デユック・タダノ』だ。」
「面倒くさい。」
「続けるぞ。」
「あぁ。」
「では、ケイジ、我に貢ぎ物を献上しろ。」
(この野郎、いっそこの場で滅してやろうか。)俺が思う。
「あ~、ケイジの貢ぎ物、楽しみだな~。」バランは、俺をけん制して言う。
「国王への献上品を出させていただきます。」俺は苦々しい顔で言う。
俺は、虚無の部屋から机を取り出し、その上に皿を並べる。
「おぉ、今どこから?」周りの貴族が騒ぐ。
俺は一つずつ料理の説明をする。
「まず、ミノタウルスのネギタン塩。」
「ミノタウルス?」貴族たちが騒ぐ。
「おぉ、どこぞの領主前婚で振舞われたと聞いたが、その料理を提供したのが目の前にいる男なのか?」
「おぉ、この間の焼肉は美味かった。」バランが良い顔で言う。
「な、国王と食事?」
「あいつは何者なんだ?」周りの貴族が騒がしい。
「しかし、ネギタン塩とはなんだ?」バランが言う。
「ミノタウルスの舌を焼いて、塩コショウで味をつけネギを乗っけたものだ。」俺が説明する。
「舌?そのようなものが食えるのか?」バランが俺に問う。
「まぁ、食ってみろよ。 おい、ボルカ、バランに持っていってやれ。」
「おぉ、あいつ死んだな。」周りの貴族が言う。
ボルカは俺に近づいてくる。
「ほれ。」俺はボルカの前に皿を突き出す。
「私も食べても良いか?」
「バランが許すなら、良いんじゃないか」
「心得た。」ボルカは皿を持ってバランの所に行く。
「おい、何であいつ何も言われないんだ?」
「国王も宰相も呼び捨てなのに。」
「あぁ、乗っているネギごと食えよ。」俺が言う。
「どれ?」バランはフォークで肉を刺し口に入れ、咀嚼して固まった。
ボルカも同じように固まっている。
そして、目を閉じてゆっくりと咀嚼するバラン。
そして、俺を見て大声を上げる。
「ケイジ、貴様!」
「あぁ、やっぱりあいつ死んだな。」
「こんなに旨いもの、隠していやがったな?」
「今食わせてやったじゃないか。」俺はにやにやして言う。
「くそ~。」そう言いながら、何回も口に運ぶ。
「もう無くなった!」
「次は、ミノタウルスのステーキだ。」
「ステーキ?」
「ミノタウルスのロースに近いもも肉に、塩コショウで味をつけ、焼いたものにブッタを乗せた料理だ。」
「味付けは、さっきの奴と同じか?」
「まぁ、これも食ってみろ、ナイフとフォークで切ってな、あぁ、中が赤いが、火は通っているから安心してたべろ。」
ボルカが、先程と同じように持っていこうとするが、バランが机の前までやってきた。
「どうやるのだ?」バランが俺に聞いてくる。
「こうだ。」俺はナイフとフォークを持ち、実演する。
「ふむ。」バランはそれを見て、真似をして切るとそれを口に入れた。
「ふぉ。」バランは夢中で咀嚼する。
「酒の香りがする。」
「あぁ、ブランデーをかけてフランベしたからな。」
「ふらん、何だそれ?」
「料理法の一種だ。」
「これは美味い。」ボルカもバランの横でぱくついている。
「あぁ、私達も早く食べたい。」ダンナーさんが言う。
「まったくですな、ダンナー殿。」ドレースさんも言う。
「ほほほ。」
俺の料理を知っている者は、すでによだれを垂らしている。
「次は、ミノタウルスのホルモン焼きだ。」
「ほるもんとは?」バランが聞く。
「内臓だ。」
「そんなものが食えるのか?」
「美味しいのににゃ。」後ろでムーニャが呟く。
「まぁ、良いから食ってみろ、文句はそれからだ。」
「むぅ。」バランは、味噌で味付けされたそれをフォークで刺して口に入れる。
途端に口の中に広がる脂のうま味。
噛むほどに、それが口の中に広がる。
「これは。」ボルカも何度も口に入れる。
「で、これだろう。」俺はジョッキを2個取り出し、冷たく冷やしたラガーを注ぐ。
それを二人の前に置いてやると、二人は手に取ってジョッキをあおる。
「ぷはー、美味い。」
「次は、グレートマスターボアのトンカツだ。」
「とんかつ?」
「グレートマスターボアのロース肉に衣をつけて油で揚げたものだ。」
「なんだそれ?」
「食えばわかる。」
俺は、切ってあるカツにソースをかける。
バランは、真ん中のカツにフォークを差し、口に入れる。
「ふぉう。」
俺も味見をしたが、一口で意識を持っていかれるほどの味だった。
特に、脂身がやばかった。
「お前、グレートマスターボアを何頭獲った?」
「秘密だ。」
「バラン様、その方がよろしいかと。」
「むぅ。」
「で、次は、マスターコカトリスの照り焼き黒酢風だ。」
「おいおい、さっきから、ミノタウルスだの、グレートマスターボアだの言っていたが、今度はマスターコカトリスだと、本当にあの男は何者なんだ?」
「ぜひ、お近づきにならなければ。」
「貴公、抜け駆けは許さんぞ。」
「ケイジ、マスター級は駄目だと言ったろう。」
「な~に、祝いの席だ、くくく。」俺は悪い顔で笑う。
「食わないなら、良いぞ。」
「食べるに決まっているだろう!」そして、口に入れ固まるバランとボルカ。
「最後は、マスターコカトリスの蒸し鶏だ、今回は辛し醤で食べる。」
「これは、肉のうまみが判るな。」
「本当ですな。」
「以上が国王に献上するものです。」俺が形ばかりの礼をする。
バランは、国王の席に戻ると俺に向かい言う。
「ケイジ、大儀であった、国王前婚の開始だ!」
国王前婚が始まった。
俺はバランの前で、嫁たちを俺の嫁にする事を宣誓し、バランが了承する。
そして、宴会が始まる。
俺は50人前の各料理を机の上に並べていく。
ダンナー家とドレース家がダッシュで料理に向かった。
幾人もの貴族が、俺に近づこうとするが、俺がバランやボルガとため口で話しているのに気づき、遠巻きに見ているだけだった。
因みに、俺の料理を食った貴族どもは、ほぼ全員が今後それを食べられない事を知り愕然としていた。
ダンナーさん一家と、ドレースさん一家だけは、俺を見てにやにやしていた。
「そういえば、私達は親せきと言う事になりましたな。」
「おぉ、家も近い事ですし、今後ともよろしくお願いいたしますぞ。」ダンナーさんとドレースさんが固く握手をしていた。
「ケイジ様、おめでとうございます。」
「おぉ、ガランありがとう。」
「今、料理を食べさせていただきましたが、どれも素晴らしい。」
「戻れなくならないようにな。」
「はい。」
「しかし、知らない顔の魔王が多数いるな。」
「えぇ、皆バラン様の派閥の者です。」
「ほぉ、国王前婚の余興に良いな。」
「え?」
「試しをな。」
「あれを?」バランがあきれ顔で言う。
「ははは、余興ですか、あれが。」ボルガが苦笑いする。
「バラン、お前の派閥の奴に、俺の試しを受けるように言ってくれ。」
「え? お前、我の派閥の部下を根こそぎ奪うつもりか?」
「まさか、只の余興だ。」
「余興か、う~ん、まぁ良いか、ボルカ。」
「御意。」
「さて、皆の者、此度の新郎、ケイジが余興を行う、これを見て、ケイジがどの様な男かを知れ。」バランが声高らかに言う。
「試しとは?」第30位の天王ルエカミがバランに問う。
「全力で、ケイジを殴れ。」
「え? 殺せと?」
「いや、まぁ、やってみろ。」
「ただの人間ですよね?」
「大丈夫だ、治してもらえる。」
「はぁ? 治す?」
「おぉ、俺は防御しないから、全力で良いぞ。」
「ふむ、先程からバラン様とボルカ様を呼び捨てにしている事から、かのお方たちが認める存在だとは思いますが、我々をなめていますね。」
「ん? 別になめてはいないぞ。」
「では、全力で行かせてもらいましょう。」
「あぁ、どうぞ。」
「ぐぎゃぁあぁぁ。」いつもの様に、天王ルエカミの肘までが砕ける。
「ヒール。」
「え? あれ?」天王ルエカミが呆ける。
「次。」俺が言う。
「では、次は俺だな。」次の魔王が俺の前に来る。
「俺は、29位心理王ゴイダだ。」
「おぉ、俺はケイジだ、宜しくな。」
「無駄に思えるが、行かせてもらう。」
「おぉ、存分に。」
「ぐわぁぁぁ。」同じように、肘までが砕ける。
「ヒール。」
「あぁ、素晴らしい。」心理王ゴイダが恍惚の表情を浮かべる。
「では、次は俺か、俺は26位、古王サイガンと言う。」
「おぉ、俺は「ケイジ様、我の主になるお方だな。」
「いや、それは、いや、お前に任せる。」俺が言う。
「では、行きます。」サイガンが俺を殴る。
「ひぎゃぁぁぁ。」
「ヒール。」
「おぉ。」
「次は?」
「俺か。17位の創成王イザナだ。」
「いつでも良いぞ。」
「やる意味が無いな。」
「いや、余興だ、来い。」
「はぁ、負ける戦に挑むのか。」そう言いながらイザナが俺を殴る。
「だぁぁあぁ。」
「ヒール。」
「あぁ、貴方に心底敗北を感じるよ。」
「最後は俺だが、今更感万歳なんだが。」
「いや、余興だ、余興。」俺が言う。
「余興で、俺達魔王の腕を砕いて、元に戻すのか?」
「いや、魔王の平定をしなければならないらしいから?」
「何で疑問形?」
「ん~、判らん。」
「俺は、13位火焔竜マグマだ、殴ればいいんだな?」
「あぁ。」
「うがあああああ!」
「ヒール。」
「おぉ、貴方に対して、服従する気持ちが生まれました。」マグマが俺の靴に額を当てて言う。
「あぁ、一切干渉しないから、今まで通り普通にやってくれれば良いぞ。」
「はい、仰せのままに。」
「おいおい、数人の魔王の攻撃を受けて、魔王の方が腕を無くし、それを治していたぞ。」
「やばい、私はお暇させて頂こう。」
「私もだ。」
貴族の何人かが、城から出ていくが、俺には関係ないな。
バランの派閥は、全員俺に下った。
だが一応、バランに従うよう言っておいた。
面倒くさい、それが理由だ。
国王前婚も終盤になった。
「俺に服従か友好を示した以外の魔王残りは、後二人か。」
「おぉ、流石はケイジだな。」バランが言う。
「あぁ、後はタガイニにいる、ヒドラの配下、第23位高層キトと、第2位妖精王ホルンだけだな。」
「え?」バランが挙動不審になる。
「妖精王ホルン?」
「あぁ。」
「ケイジ、既に従えているではないか。」
「へ?」
「お前の持っている刀が妖精王ホルンだ。」
「はぁ?」
「気付かなかったのか?」
「まったく。」
「あぁ、ダンジョンの魔物や、俺に敵対する者を滅してたのはそう言う事か。」
「あぁ、そう言う事だろうな。」
「成程。」
それを理解した俺は、国王前婚を楽しむ事にした。
だが、そのタイミングで、バランからクレームが入った。
「グレートマスターボアは勘弁してくれ。」バランが俺の肩に手を置いて言う。
「なんでだ?」
「いや、そんなものを献上されたら、ヤミノツウ程度の領地じゃ本来収まらないんだよ。」
「そうですな、本来ならヤミノツウを含めたギチトの県、いや、県を複数集めたクホウト地方の地方主が相場です。」ボルカも渋い顔をして言う。
「それが、今回ヤミノツウの領主だからなぁ。」
「次から、どうすれば良いんだか。」
「国王前婚は、数十年ぶりなんだろう、気にしなくていいんじゃないか。」
「あぁ、それもそうか。」バランがミノタウルスのもつ焼きを頬張りながら言う。
「しかし、内臓がこれほど旨いとはな。」
「まったくです。」
「バハローや、マスターバハローもそれなりの味だぞ。」
「ほぉ。」
「城の料理人に指導してくれないか?」
「対価次第で請け負うぞ。」
「ちっ、俺ら明友だよな。」
「それとこれとは別だ。」
「ちっ。」
「ケイジ様、貴方は今後、面倒くさそうですよ。」ボルガが言う。
「バラン、俺に殺人許可書をくれ。」
「なんだそれ。」
「邪魔な奴は、全部潰す。」
「いや、俺が釘を刺すから、それで我慢しろ。」
「解った、秘密裏に消す。」
「おいおい、まぁ良いか。」
「よし、言質捕ったぞ。」
「おい。」
「貴族が、何人か、いや数十人消えるかもなぁ。」
「ケイジ様、お手柔らかに。」
「バランの説得次第だな。」
「やばい、本気で説得しなければ。」
「あぁ、それが良いだろう。」俺が黒く笑う。
晴れて、14人の嫁さんが、俺の嫁さんとして認知された。
「俺、身体もつかな?」
「わははは、ケイジ、励めよ!」バランが俺の背中を叩く。
「あぁ、腎虚にならないように励むよ。」
宴は深夜まで続いた。