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やらかしの1

俺は、もうすぐ定年まじかのうだつの上がらない男だ。

要領よく仕事をしてきたつもりであったが、何故か、社長の弟の、工場長にに嫌われている。

 この会社は、S県K市のK工業団地にあるTと言う化学工場で、俺は事務の課長をしていたが、社長の弟である工場長から、パワハラを受け、ストレスから膵炎を患って一線を退かされた。

 この工場長のパワハラは、それは陰湿な物であった。

 俺に対しては、部下の失敗の責任だと言って、個室に呼び出され、いきなりこう言われた。

「なんで呼ばれたかわかるか?」

「部下の失敗の件だと思います。」

「解ってるじゃないか。」

「一言いっても良いですか?」

「なんだ?」

「部下と言っても、営業部から出向している課長で、私と同等の立場であると思うのですが。」

「だから?」

「それがやらかした失敗で、私が叱責されるのはおかしいと思うのですが?」

「俺はお前が嫌いなんだよ。」

「はぁ?」

「そんな俺が、お前の上司なんだ。」

「・・・。」

「立場を分かれよ。」

「・・・すみませんでした。」

「すみませんでしたぁ?」

「土下座だろぉ、謝るなら。」


******


 俺だけじゃない。この工場長には何人もパワハラを受けている。

 ある人は、それは間違ってますと意見しただけで、部長の立場でありながら、製造次長付部長と言う訳の分からない閑職に落とされた。

 またある者は、酒の席で、大学の先輩である工場長に、「よろしく頼みます先輩。」と言って肩をたたいたら、その場で激怒され、こう言われた。

「お前に待っているのは、新宿でホームレスをするか、この会社で一生奴隷になるかだけだ。」

 そいつは、酷い部署に転属させられたよ。

それだけではない。

 この工場長は、ある人間を徹底的に否定して、人格崩壊を起こさせた。

そうかと思うと、自分に対する忠誠心を異常に求める。

前任の工場長と、今の自分で、どれだけ工場が良くなったかを、全管理職に文書で提出させるという、くそ馬鹿だ。

この工場長を見ていると、誰かを思い出す。

あぁ、北の国の金何とかと同じだな。

自分の気にくわない人間を粛清するって奴だ。



ふと、思い出した。

何故俺が嫌われているのか。

この会社に転職したばかりの頃、その当時の常務に可愛がられていて、親族の工場長より良い扱いを受けてたなぁ。

其れを妬んでいたと聞いたことがある。

「うわぁ、けつの穴が小さい。」こんな奴の下で働く俺、不幸だ。

 

 だが、定年を控えて、鬱積が爆発した。

 いつものように説教を受けた後、階段で、俺の前を工場長が下りている。

 俺は、迷わず工場長の背中を蹴った。

 つもりだった。

「へ?」

 俺の蹴りは空を蹴った。

 それだけなら良かったが、俺はそのまま階段から空間に躍り出てしまった。

「マジか?」それが最後に考えた事だった。

 俺はスローモーションで地面に叩きつけられた。




*******



 

おっと、俺は我に返った。

「おい、何やってるんだ。しっかりしろ。」

 目の前にいる男が俺に言う。

「あ、あぁ。」と答えるがいまいち状況が判らない。

(俺は、何をしているんだ?)

 周りを見ると、俺に声をかけた男と数人で、馬車を取り囲んでいる。

 

(何だこの状況?)

「おい、何をしてるんだ?」俺は目の前の男に言う。

「あぁ?寝ぼけてるのか、この馬車の積み荷と、娘を奪うんだろうが。」目の前の男が言う。


「はぁ?」

「おい。ボケてる場合じゃねえぞ。護衛が出てきた。」目の前の男は剣を抜きながら言う。

 馬車の方を見ると、屈強そうな男が3人、馬車から出てきた。


「う~ん、なんか悪い事をしている気がするんだが。」

「ふざけてるのか?気を抜いているとやられるぞ。」そう言いながら、男は馬車に向かって走り出した。

(やっぱり、違う気がするな。)そう思いながら馬車の方を見ると、馬車の窓から女の子の顔が見えた。

 歳の頃なら17歳位か、物凄く俺好みだ。

 俺は、前の男を追って、男に聞く。

「なぁ、娘を攫ってどうするんだ?」

「はぁ?」男が言う。

「俺らで弄んでから、奴隷商人に売るに決まってるだろうが。」

「そっか。」俺はそう言うと、男の足を蹴りつける。

「ぐわぁ、何をしやがる!」倒れ込んで男が言う。

「悪いなぁ。俺そう言うの嫌いなんだわ。」

「な、貴様、何処から現れた?」と言う男の首に手刀を落として意識を狩る。

「いや、さっきからいたよ。」

 目の前の男は、そのまま静かになった。


 すぐ横にいた男の仲間が、俺の行動に気付き、俺に切りかかってきた。

「お前、何者だ?」

 俺はその男の剣を、手の甲で払うと、先程と同じように男の首に手刀を当てて意識を狩る。

 男は白目をむいて倒れていった。

 

 俺は、馬車の方を見る。

 3人いた護衛は2人に減っている。

 襲っている盗賊達も、リーダーらしい男と、手下2人になっていた。 

 幸い、俺がやった事には気が付いていないようだ。


(う~ん。どうしたもんか。)と考えていると、 突然、俺の頭の中に「魔法」が流れ込んできた。

(な、何だこれ?)

(やっと繋がりました。サポートいたします。)

(は?誰?)

(私は、この世界でのあなたをサポートする者です。)

(はぁ、サポート?)

(取り合えず、呪縛系のパラライズを唱えることを推奨いたします。)

 

 ふと見ると、護衛は一人になっていた。

 しかも結構な深手を負っている。


「げははは、これでしまいだぁ。」下品な笑い声をあげながら、盗賊のリーダーが護衛の男に一撃を加えようとしていた。

「パラライズ!」俺は呪文を唱える。

「うぉ、何だ?」盗賊のリーダーが、刀を上段に構えたまま動かず言う。


「あのさ、このまま帰る気はあるかい?」俺は盗賊のリーダーの前に出て言う。


「ふざけるな、お宝を目の前にしてそんなことが出来るかぁ。」

 パラライズをしてても口だけは動くようだ。

「後ろの二人も同じ意見かな?」

 同じように動けない二人も口々に騒ぐ。


(後ろの方の生命が終わりそうです。助けるならライフを唱えることを推奨いたします。)

「ん。ライフ。」

 後ろにいた護衛にライフを唱えると、傷が一瞬で治り、顔に生気が戻っていく。


「がはぁ。」護衛の男は、口の中にあった血を吐き出すと立ち上がった。

「盗賊共の仲間かと思っていたが、違うようだな。」

「おいおい、俺をこんな下衆どもと一緒にするのはやめてくれ。」


「そいつはすまなかった。で、お前はこいつらをどうするつもりだ?」

 俺はふと考えて、護衛の男に言う。

「なぁ、こいつら懸賞首か?」

 護衛の男は、盗賊たちを一瞥すると「あぁ、そうだ。」と答える。


「そっか、じゃあ捕らえて突き出すか。」

「おい、いや、待ってください。」盗賊のリーダーが話す。

「なんだよ。」

「おま、いや、貴方はさぞ名のあるお方なのでしょう。」

「いや、違うよ。」

「改心して、下僕になりますから許していただけませんか?」

 手下2人もうんうんと頷いている。


「はぁ?」

 俺が護衛の男を見ると、いやいやと首を振っている。


「改心?」

「「「はい。」」」

「証明するものは?」

「この縛りを解いていただければ、お見せ出来ます。」

「ほぉ。」


「いやいや、ありえないだろう。」護衛の男が言う。

「解放。」俺は3人のパラライズを解く。


「な!」護衛の男が驚愕しながら剣を抜く。



「げははは、馬鹿め!」

「甘い奴!」

「間抜けめ!」

盗賊たちは、汚い言葉を吐きながら俺に飛び掛かってきた。


(オート拘束を使用します。)という言葉と共に「重力」が盗賊たちに圧し掛かる。

「ぐばぁ」

「げはぁ。」

「ぎゅばば。」


「お前達、クモの糸を手放したなぁ。」俺はそう言うと、3人の首に優しく手刀を落とす。

 盗賊たちは完全に沈黙した。


「さて、終わったが。こいつらはどうすれば良い?」

「町まで連れて行くのも面倒だから、この場で首を切る。」護衛の男が言う。

「え?裁判とかしないの?」

「裁判とは何だ?」

「罪の認定?とか罰の重さを決める場かな?」

「こいつらは今迄も罪を重ねている。そして今回は現行犯だ。」

「いや、でも。」

「俺は、領主様より、犯罪者に対する決定権を与えられている。」

「はぁ、なら俺は何も言わないよ。」

「では、私の権限で刑を執行する。」護衛の男はそう言うと、意識のない盗賊たちの首を無表情で切っていく。

「うっぷ。」その光景を見て、俺は口の中にすっぱいものが込み上げてくる。


「よし、これで全部だな。」

「う~ん、無表情で良くできるな。」

「あ?これも俺の任務だからな。」

「そういうものなのか。」


「で、こいつらの屍はどうするんだ?」

「うむ、俺の仲間もそうだが、此処に放置すれば明日の朝には綺麗になっているだろう。」


「うん?弔いとかはしないのか?」

「弔い?何の事だ?死ねばその魂は浄化され、輪廻の流れに乗る。肉体は魂の入れ物に過ぎないのだから、魂が離れれば役目は終わりだろう?」

「あぁ、そういう宗教なのか。」

「宗教とは何だ?」

「信仰する神はいないのか?」

「神?」

(あ~この世界は偶像信仰とかないのか。)

「精霊様の事か?」

「精霊?」

「あぁ、この世は其々の属性の精霊様が守っておられる。」

「精霊ねぇ。」


「しかしお前、その若さで見事な腕だな、傭兵か?」

「いや、違うよ、俺はあと少しで60歳だし、職業は会社員だよ。」

「60歳?とてもそうは見えないぞ。お前、エルフと同じ長命種か?」

「いや、普通の人間だよ。ってエルフとかいるのか?」

「何を言っているんだ、この世にはエルフはもとより、獣人や、魔族も一緒に暮らしているではないか。」

「何そのファンタジーな世界。」

「ファンタ?何を言っているのだお前?」

「まぁ良い、そう言えば怪我を治してもらった礼も言っていなかったな。」

「俺は「ベワカタキ」で冒険者ギルドのマスターをやっている、オーヤ・カッターだ。カッターと呼んでくれ。」

「あぁ、よろしく、カッター。」

「で、お前の事は何と呼べば良い?」

「え?俺?俺は、俺は~。」

「?」

「俺は誰だ?」

(あなたは、あちらの世界で「只野圭司」と呼ばれた個体でした。)

「え?そう言えば、さっきからお前誰だよ。」

「え?オーヤ・カッターと名乗っただろう。」

「え?いや違う、あんたじゃなくて、俺に答えるお前だよ。」

「おい、さっきから何を言っているんだ?」

(私はあなたをサポートする者です。)

「俺をサポート?」

(はい、我が主が、貴方の魂をこちらの世界に呼び、その器に入れました。)

「魂?器?」

(はい、あちらの世界では、貴方は死亡しています。)

「え?俺死んでるの?」

「なに?お前ゾンビか?」

「いや違うから、ちょっと待て、こんがらがる。」

「カッター。」

「なんだ。」

「今から少し独り言を言うけど、放っておいてくれないか?」

「え?う、うむ、判った。」


「で、俺は向こうの世界で死んだ、その魂があんたの上司に呼ばれて、今の俺の身体に放り込まれたという認識で良いか?」

(おおむね間違っていません。)

「お前の声は、俺にしか聞こえないのか?」

(そうです。)

「すると、今の俺は、一人芝居を続ける痛い奴と思われているのか?」

(否定しません。)

「マジか。」

「ん?じゃぁ、今の俺は何歳だ?」

(その個体の年齢は19歳です。)

「へ?」俺は腰の剣を抜くと、その刀身に自分の顔を映す。

「誰だよ。」

 そこには、男の俺でもうっとりとする二枚目が映っていた。


「あー、カッター。」

「お、独り言は終わったか?」

「あぁ、俺はケイジと言うらしい。」

「らしいって、なぁ、さっきから変だと思っていたが、お前、誰かと話してるのか?」

「あぁ、信じてくれないかもしれないが、俺をサポートするって言ってる奴と話してるよ。」

「なに?本当か?」

「良いよ、信じてくれなくても。」

「お前、精霊様の加護を貰っているのか。」

「へ?精霊?加護?」

「精霊様の加護を持っている者は、時折独り言を言っていると聞いたが、成程そう言う事だったのか。」

「?」

「お前、いや、ケイジと言ったか、俺は英雄と話をしていたんだな。」

「いやいや、俺は英雄じゃないよ。」

「何を言う、古来より精霊の加護を持った者は、幾度となくこの世に現れ、その度に世界を救って来たんだぞ。」

「いや、救って来たんだぞって言われてもなぁ。俺一般人だし。」

「何を言う、一般人が俺の酷い怪我を一瞬で直せるわけがないだろう。」

「いや、言われた通りにしただけだし。」

「がははは、流石は精霊様の加護を持つ者だ!」そう言いながらカッターは俺の肩をバンバンと叩く。

「いや、痛いからやめてくれ。」


 俺たちがそんな言い合いをしていると、馬車から先ほど見た娘と、その両親たちが下りてきた。


「この度は、私達を守っていただき、ありがとうございます。」恰幅の良い男が言う。

「本当に、感謝してもしきれません。」たぶん奥さんなのだろう、ベールで顔を隠したご婦人が頭を下げる。

「あの、あの、守っていただきありがとうございました。」先程馬車の窓から顔を出していた少女が頭を下げる。

(おぉ、やっぱり俺好みの顔してるよ。)と心で思いながら、「何、人として当然の事をしたまでですよ。」と格好つける。


「いや、いや、本当に良く守っていただいた。」

「無事に「ベカスカ」に着いた暁には、我が家に招待させていただきます。」恰幅の良い男が言う。

「ありがたい申し出ですが、今は先を急ぎましょう。」カッターが言う。

「ケイジ、そう言う訳だ、ベカスカまで一緒に護衛をしてくれ。報酬は弾む。」

「え?あ、あぁ良いよ。」

「では、馬車にお戻りください。出発いたします。」


 そして、馬車はカッターが操舵し、俺は馬車の上で四方を警戒しながらベカスカを目指した。


 道中、俺はサポートする者に話をする。

「なぁ、俺の魂はこの世界の誰か、つまり今の俺に入ったんだよな。」

(そうです。)

「なら、そいつの魂は?」

(輪廻に向かいました。)

「こいつの関係者はどうなる?」

(あなたがその個体に入った瞬間に、その個体の記憶を無くしました。)

「あぁ、だから最初の奴らの反応が変だったんだ。」

「俺、本当はさっきの盗賊の仲間だったんだろう?」

(はい。)

「ふ~ん。」

「そう言えば、俺に魔法が流れ込んできたけど、この世界には魔法が存在するのか?」

(あります。)

「ふ~ん、まぁ、カッターが治癒魔法に驚いてなかったからそうだとは思ったけど。」

(貴方には、この世界のありとあらゆる行為が許可されています。)

「え?何それ?」

「死者の再生(蘇り)とかもできるの?」

(可能です。)

「うわぁ、じゃあ、カッターの仲間助けられたじゃん。」

(手遅れです。既に動物たちにより埋葬が終わっています。)

「あー、それは残念。」

(おや、意外と淡白なのですね。)

「いや、知ってる奴でもないし、終わった事だし。」

(ふふふ。)

「なんだ?」

(面白い方ですね。)

「いや、パワハラで精神ねじ曲がってるんだよ、俺。」

(そういうものですか?)

「そういうものです。」

(ふふふ、おっと、もう着くようです。)


 馬車はベカスカに着いたようだ。

「ふぅ、腰が痛いぜ。」俺は腰をさすりながら馬車を下りる。

「おぅ、ケイジお疲れ。」

「いや、襲撃もなかったから疲れてないが。」

「がはは、流石だな!」そう言いながらカッターは俺の肩を叩く。

「いや、痛いからやめろ!」

「とりあえず、護衛はここまでだ。」

 馬車は業者の男が引き継いだのか、町の中に進んでいった。

「んじゃ、ケイジはギルドまで同行願おうか。」

「おぉ、解った。」

「なに、あそこに見えるのがギルドだ。」

「おぉ、意外と近いんだな。」

 

 レンガ造りの3階建ての建物が目の前にそびえ立っていた。

「立派な建物だな。」

「がはは、この町の力の象徴だからな。」カッターが言う。


 その扉に入ると、活気あふれる声が聞こえてきた。

「いいねぇ、この雰囲気。」

「取り合えず受付に行くぞ。」

「あぁ。」

 俺とカッタはー奥のカウンターに行く。

「カッター様、おかえりなさいませ。」受付カウンターにいた獣人の女性(?)が言う。

「今回の依頼の結果だ。」カッターがカードを差し出して言う。

「はい、承りました。」獣人の女性はカードを端末らしいものに翳して言う。

「メンバー二人のロスト、盗賊8人の討伐、護衛依頼の達成を確認しました。」

「あれ?もう一人の方に報酬発生とありますが。」

「あぁ、此処にいるケイジが今回のクエストに同行してくれた。」

「すみません、ケイジ様はギルド登録が無いようなので、今登録をして頂けませんか?」

「ケイジ、登録して良いか?」

「あぁ、問題ない。」

「では、こちらにお名前をお書きください。」

 受付の獣人が動物の皮のような物を出してきた。

 俺はそこにカタカナで書く。「ケイジ」

 瞬間その皮は光を放ち、先程カッターが提出したようなカードに変形する。

「ケイジ様、そのカードを銜えて下さい。」

「あぁ。」俺がそのカードを口に銜えると、カードが発光して色が変わる。

 カードは金色になっていた。

「おぉ。マジか。」カッターが驚愕する。

「え?。初めての登録ですよね、き、金色?」獣人も驚いている。

「何か問題があったか?」俺が口にすると。

「がはは、流石は精霊の加護持ちだよなぁ。」と言いながらカッターが肩を叩く。

「いや、痛いから!」

「あ、失礼しました。ケイジ様。A級での登録完了しました。」

「いえ、どうも。」俺はそう言いながらカードを受け取る。

「なぁカッター、これどう使えばいいんだ?」

「大概の店や宿なら、このカードをその店の端末に翳せば支払いが出来る。」

(何それ、俺が生きていた世界と変わらないじゃん。)

「勿論、身分証明にも使える。」

「多分、今回の報酬が振り込まれているはずだから、残高を確認してくれ。」

「どうやって?」

「額に当てて、照会って言えば見えるぞ。」

「んーやってみるわ。」

 俺はカードを額に当てて「照会。」と言う。

「おー、何か見える。」

   

 カード所有者:ケイジ

 ギルドランク:A

 ギルド預金:450G

 

「ギルド預金450?」

「おぉ、あいつらには5百Gの懸賞金が掛かっていたからな。」

「あいつらを屠ったのはカッターだろ。」

「8人中5人を行動不能にしたのはケイジだろう、当然の報酬だよ。」

「それと、今回の護衛任務は百Gだったから折半だ。」

「う~ん、それ高いのか安いのかようわからん。」

「そうだな、この町なら宿は一泊1Gだ。」

「1Gが最低通貨なのか?」

「いや、1Gは1000Bだ。」

「GとかBって何だ?」

「Gはギルドマネー、Bはビットマネーだな。」

「ビットマネー・・・」

「何だ?」

「いや、何でもない。」

(仮想通貨って事じゃないよな。)


「あの、ケイジ様。カッター様が精霊の加護持ちと仰っていましたが、本当ですか?」

 その言葉に、周りにいた人間が反応する。

「え?精霊の加護持ち?」

「え?伝説じゃなかったのか?」

「いや、登録していきなりAランクだぞ。本物じゃないか?」

「なんか大ごとになってないか?」

「がはは、英雄様は大変だな!」そう言いながらカッターは肩を叩く。

「マジで痛いから!」

「握手してください!」受付の獣人が手を差し出してくる


「へ?あぁ、良いよ」そう言いながら獣人の手を握る。

「うわぁ、感激です!英雄様に握手して頂きました。あたし、もうこの手を洗いません。」

「え?いや、汚いから洗おうよ。」

「あ、あの、俺も握手良いですか?」

「え?あぁ。」

「やったぁ、俺ももう手を洗わないぞ!」

「いや、だから、洗おうよ。」

 俺はそこにいた全員から握手を求められ、それに答えた。

(どこのアイドルだよ。)俺はぐったりしながら思う。


「何の騒ぎですか?」

奥の扉を開けて銀髪のエルフの女性が出て来た。

「おぉ、このベカスカのギルドマスターだ。」カッターがそう言うと、エルフの前に出て言う。

「久しぶりだな、俺だよ。」

「おや、カッターですか。この騒ぎは一体?」

「精霊の加護持ちが現れた。」

「え?精霊の加護持ちですか?」

「あぁ、こいつがそうだ。」と言いながら俺の身体をエルフの前に押し出す。

「初めまして、私はケイジと言う者です。以後お見知りおきを。」

「初めまして、ケイジ様、私はベカスカのギルドマスター、アイリーンと申します。」

「精霊の加護持ちを見るのは120年ぶりです。」銀髪のエルフが言う。

「私の前にもいたんですか?」

「えぇ、そのお方は当時の魔神を討伐して、英雄王になられました。」

「うわぁ。」

「なにか?」

「いや、なんでも。」

(凄くハードル上がったな。)


こちらもよしなに。

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