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7話

 

 このタイプの美女に『ヘドカス年増』は完全な死亡フラグだろ。自業自得としか言いようがない。そして姉弟喧嘩はよそでやってほしい。本当に切実にそう思う。

 

 「あのときもこうやってヴァイデンちゃんの人形を、私が片づけてあげていたところだったかしら。ショックだったわ、まさかかわいい弟にそんなふうに思われていたなんてね……」

 

 なるほど、当時も自分の眷属を姉上に殺され、感情が高ぶってつい暴言を吐いてしまったのだろう。気持ちはわからないでもないが、やはり命知らずとしか言いようがない。

 

 「反省しています、姉上! あのときはつい、心にもないことを言ってしまいました! どうかお許しを……!」

 

 「もう気にしなくていいのよ。家族なんだからいつまでも恨んだりなんかしないわ。でも、そうね……もしあなたが本当に反省していると言うのなら、約束して? もうこういう低俗なお人形遊びはしないって」

 

 「あ、姉上……」

 

 まずい。これはどうあがいても俺やクーデルカは捨てられる流れだ。生かして逃がしてくれるなんて甘い幻想はとてもではないが持てやしない。それはクーデルカも同じく感じていたようで、四つん這いで身をかがめながらこっそり移動し始めていた。

 

 このゴタゴタの隙に逃げ出す気か。よし俺も便乗しよう。俺たちは猫の目をかわすネズミのように部屋の出口目指して匍匐前進する。だが、さすがに気づかれないわけはなかったらしい。ばっちり、姉上様と目があってしまった。

 

 「じっとしていなさい」

 

 その一言で動けなくなった。ちくしょう所詮、俺は下級アンデッド。この状況で逃走を図る度胸はない。クーデルカも同じく動きを止めた。それを確認した姉上は、再びヴァイデンの方へ向き直る。

 

 「さあ言いなさい。『私は幼女しか愛せない異常性癖者です。シエドレネ家創始以来最大の恥です。しかし、今このときをもって改心し、金輪際幼女を性的な目で見ることを止めると誓います。そして姉上はとても美しく、年増ではありません』こう言うのです」

 

 土下座状態で床に伏すヴァイデンに対し、ロリコン禁止令を言い渡す姉上。最初から趨勢は決している。ヴァイデンは宣誓するしかない。

 

 「わ、『私は幼女しか愛せない異常性癖者です』……」

 

 「うんうん」

 

 「『シエドレネ家創始以来最大の恥です』」

 

 「そうだね」

 

 姉上は満足げにうなずいている。ヴァイデンはぷるぷる震えながらみっともなく復唱を続ける、かに見えた。

 

 「『しかし、今この胸に宿る志は我が血肉にして、ゆるぎない信念の証』」

 

 「うん……?」

 

 「『故に、姉上に申し上げる』」

 

 「何を言っているの? ちゃんと言われた通りに……」

 

 姉上の言葉はそこでさえぎられた。突然、無数の鎖がどこからともなく噴出し、立ち尽くす彼女の体をぐるぐる巻きに拘束してしまったのだ。

 

 「『くたばれ、ヘドクソゲロカス年増熟女』」

 

 ヴァイデンは土下座して恐怖に震えていたわけではなかった。爪を隠して反撃の機を見計らっていたのだ。よく見れば、ヴァイデンを中心として床の上に魔法陣のような模様が描かれている。暗がりの中、黒い線で描かれたそれは非常に見にくい。鎖はその陣につながっている。おそらく、これはヴァイデンの魔法なのだろう。

 

 「貴様ァ!」

 

 ディートリヒが怒り、ヴァイデンに突進する。しかし、ヴァイデンが軽く手を振るっただけで弾かれるように吹っ飛んだ。壁に叩きつけられたディートリヒの体には何本もの黒い杭が突き刺さっていた。はりつけ状態で壁に縫いとめられている。

 

 「ディートリヒ、待機していなさい」

 

 「しかしイライザ様!」

 

 ディートリヒは死んではいないようだ。だが、ヴァイデンは腐っても姉上と同格の吸血鬼。一眷属であるディートリヒが戦うには荷の重すぎる相手と見える。

 

 「いったいこれはどういうことかしら、ヴァイデンちゃん」

 

 「どういうこと? わからないのかい、姉上。僕はあなたのしつこさを誰よりも知っている。いずれはこの場所も見つかるだろうと思っていたさ。こんなに早く来るとは思わなかったが……対策の一つや二つ、既に講じている。あなたはまんまと罠の中に飛び込んできてくれたというわけさ」

 

 ヴァイデンが自信満々に言うだけあり、鎖の拘束は強固なようだ。姉上は身動きが取れずにいる。しかし、ヴァイデンも余裕ぶってないでさっさととどめを刺すべきだ。姉上の表情は捕らわれてなお、微塵も曇りを見せずほほ笑んだまま。嫌な予感がしてならない。

 

 「姉上、いつもあなたは僕を子ども扱いする。あれをしなさい、これをしなさい、それをしてはダメ……親以上に口うるさく指図してきたよね」

 

 「それは一重にあなたのためを思って」

 

 「黙れ! 白々しい! お前が大切に思っているのはシエドレネ家の威光だけだ! 僕の崇高な趣味を何度も何度も何度も何度も何度も何度も邪魔しやがって……! もうたくさんだこのゲロ女! いや、便器にこびりついて取れないクソッカス年増! 全く熟女という存在はこれだから度し難い! やはり穢れなき幼女こそ至高! ビバ! ロリータ!」

 

 名誉のために言っておくが、姉上は見た目20歳くらいの若く美しい女性である。そんな妙齢の美女さんは、ヴァイデンの暴言を聞くにつれてより一層笑顔を強めていく。笑顔を強めるとか日本語としておかしい気もするが、そうとしか言いようがない。もうかなり強くなっている。お前のロリータ談義なんてどうでもいいからさっさと殺してくれヴァイデン!

 

 「良く回る口ね。あなたのおいたも今回ばかりは度が過ぎるわよ」

 

 「黙れと言ったぞクソ熟女。この状況でも相変わらず、その薄気味悪い笑顔を崩さないか。だが、これを見てもまだ余裕を持っていられるかな?」

 

 そう言ってヴァイデンは小瓶を取り出す。小瓶は薄らと光り輝いていた。白い液体が中に入っている。なんだか、見ているだけで背筋が寒くなってきた。これは“よくないもの”だと、俺の本能が騒いでいる。

 

 それを見た姉上の反応にも変化があった。表情が消える。吸血鬼真祖でさえ警戒を表すほどのブツであるらしい。

 


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