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49話

 

 「暇だ」

 

 今度こそやることナッシング。ブレンダと苦労少年は、ハワードの看病やら亡くなった子供たちの弔いやら、普段の仕事やら、色々と忙しそうだ。服の調達もすぐにはできないと思われる。しばらく待つ必要があるだろう。

 

 だが、俺もこの村に長居するわけにはいかない。追手がかかる身である。早めに旅の準備を整えなければ。目的地であるザリガニナントカ帝国への道を聞いて、どれくらいの旅程になるか調べて、地図とかコンパスとかあったら手に入れて……

 

 やることいっぱいあるじゃん!

 

 「まあいいや」

 

 ここまでかなりの強行軍で森を歩いてきたのだ。人間だったなら、とうの昔に疲労でぶっ倒れていただろう。数々の強敵(一部自業自得)との激闘もあった。ここらで一休みするくらいの猶予はあるだろう。

 

 我ながら慢心していると思わないでもないが、仕方がない。だって傲慢剣の所有者だもの。

 

 現在時刻は昼。吸血鬼にはきつい時間帯だ。孤児院の中は聖なる気というか、嫌な感じのする空気が流れているので、外に出た。しかし、外は外で直射日光の嵐。日陰を求めるナメクジのように俺はさまよい、近くにあった納屋にたどりついた。

 

 さて、暇人は暇人なりに時間を有効活用しよう。俺は【受領箱】を発動する。取り出したのは「怠惰剣ザウルヴァ」だ。この剣だけはこれまでちゃんと調べていなかった。この機に能力をしっかりと検証しておこう。

 

 「……出たな、『これは剣ですかシリーズ』第5弾」

 

 現れたブツは、どうみても剣ではない。淡い青色をした綺麗な杖である。T字型の持ちやすい握り手もついており、どこからどうみても杖である。このシリーズも第5弾ともなれば、さすがに俺も耐性がついたのか驚かなくなった。

 

 「いや、これもしかして」

 

 ふと、気になって杖を調べてみる。するとカチッと音がして柄が上にスライドした。支柱の中から刀身が現れる。なるほど、仕込杖か。見た目は杖だが、その内部に剣が隠された暗器の一種である。時代劇、座頭市で見たことがある。訂正します。これは剣です。疑ってごめんなさい。

 

 「うっ」

 

 だが、俺はすぐに刀身を元にもどした。剣を抜いた直後、すごい疲労感に襲われたのだ。なんだか体中の元気が吸い取られてしまったかのようである。剣を鞘に収めると症状は緩和したものの、体のだるさは残り続けている。

 

 やる気がなくなり、無気力になっていく。これがこの魔剣の代償か。何もしてないのに疲れた気がしてならない。まぶたが重くなる。眠くなってきた。

 

 吸血鬼になってからというもの、眠気自体を感じたことはない。目をつぶって休んでおけば何となく眠ったような感覚になる。それでも半覚醒状態と言うか、周囲で何か異変が起きるとすぐに目が覚める。

 

 だが、今感じている眠気はそれとは明確に異なる。脳が休息を欲している。本当に眠い。納屋の固い木の壁に背中を預けたまま、寝心地の悪さも気にならず、俺の意識はまどろみの中へ落ちていく。

 

 「おねーちゃん、何してるの?」

 

 だが、そこで声がかかった。目が覚める。納屋の入り口からこちらを覗き込むようにして、二人の小さな人影が見えた。朝食のときに見た孤児たちだ。俺は眠気まなこをぐしぐしと擦る。自己紹介は済ませた記憶はあるが、二人の名前は思い出せなかった。

 

 「えっと、確か……チビとノッポか」

 

 「チビじゃねえ!」

 

 名前が思い出せないので、第一印象でつけたあだ名で呼ぶ。あと、デブがいればバランスが取れた三人組になりそう。デブの欠食孤児はいないだろうけど。

 

 チビとノッポは改めて自分の名前を名乗るが、覚える気はなかった。人の名前を覚えるのは苦手だ。ブレンダたちの名前を覚えられただけでも俺としては頑張った方である。ブレンダとハワードと、あとピー、ピー……あ、忘れちゃった。苦労少年の名前は何だったか。確か、ピーナッツバターみたいな語感だった気がする。

 

 「おねーちゃん、ち○こが見えてるよ?」

 

 チビが指摘してくる。M字開脚状態で壁に寄り掛かっているので、前からは丸見えだろう。今思い出したが、さらにノーパンである。このミニスカメイド服に周囲の視線から恥部を守り切る貞操防御力などあるはずもなく、乙女の秘密大解放状態となっている。

 

 「これはな、ち○こじゃなくて、ま○こだ」

 

 「えー、なにそれー! ま○こだって! ま○こま○こ!」

 

 だが、俺も性認識ゼロの小学生にあそこを見られたからといって動揺はしない。チビは下品な言葉を連呼して大爆笑している。完全に小学生男子のノリだ。まったく、これだからお下品なガキんちょはぁ……俺の上品さを見習ってほしいね。

 

 もう一人の孤児、ノッポについては若干顔を赤くさせて視線をそらしていた。こっちは少し知識があるらしい。なんか気まずくなったので、脚を閉じる。怠惰剣を杖代わりにして立ちあがった。いや、杖代わりというか、杖そのものなんだけど。

 

 納屋の外に出ると二人の孤児も後をついてきた。朝食のときにスープをあげたときから、彼らの俺に対する好感度はマックスになっている。やはり他人の警戒心を解くには物で釣るのが一番だ。だが、別に子供に懐かれても嬉しくない。

 

 「はあ、だるい……」

 

 まあ、危害を加えて来るような敵でもあるまいし、好きにさせておくか。

 


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