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5話

 

 「男に犯されるなんてありえねえだろ……!」

 

 そもそも体が女になってしまったことにさえ、まだ心の整理がついていないというのに、ヴァイデンの言葉は到底受け止めることのできないものだった。

 

 その一方で、俺の生殺与奪が奴に握られていることも確かだ。死ぬくらいなら従わざるを得ないのではないかという気持ちと、生理的嫌悪感がせめぎ合い、硬直したまま何も言えなくなる。

 

 しかし、そんな葛藤を塗りつぶすかのように、突如として意思の天秤が傾いていく。『逆らってはならない』という命令が脳を侵食し、俺の自由意思を奪っていく。

 

 (まさか、“隷属”の効果か!?)

 

 選択の余地すら与えられないのか。まるで自分が自分でなくなっていくような感覚に強烈な寒気を覚えた。

 

 「その反応……え、もしかして君、あれかい? 女の子同士でするのが趣味なのかい? そう言えば、ずっと男みたいな口調でしゃべってたね。なるほど……」

 

 「いや、そういう問題では」

 

 「いいんだ! 皆まで言わなくていい。僕はそういう性癖にも理解ある男だ。そういうことなら……」

 

 俺のことを勝手に同性愛者だと勘違いしたヴァイデンは、なぜか俺から離れて元の椅子に座りなおした。まあ、体は女で心は男なので、今の俺は同性愛者というか性同一性障害と言われても否定できないが……

 

 コロコロと変わるヴァイデンの態度に困惑してしまう。彼は机の上に置かれたベルを鳴らした。ほどなくしてドアがノックされ、一人の少女が入室する。

 

 「失礼いたします」

 

 「クーデルカ。そこの新しいお人形を可愛がってあげなさい」

 

 「かしこまりました」

 

 入って来たのは幼い少女だ。メイド服らしきものを着ているが、髪の両サイドで主張する見事な縦ロールのせいか、むしろ世話をやかれる高貴な立場であるようにも見える。雰囲気がちぐはぐで、そこはかとなくジャパニーズメイドテイストだった。

 

 何より一番の問題は、その見た目の年齢かもしれない。美少女なのは間違いない。将来はきっと誰もが目を留めるほどの美しさを咲かせることだろう。しかし、現在の彼女はどう見ても小学生くらいにしか見えない。

 

 異世界の常識を知らないので何とも言えないが、このくらいの子がメイドをしていることは普通なのだろうか。いや、きっとヴァイデンロリコンの趣味だ。

 

 「失礼します」

 

 そんなことを考えていると、クーデルカと呼ばれた少女がすすすっと音も立てず近づいてきた。そのまま流れるような動作で俺の体は抱え上げられてしまった。お姫様だっこの形で。

 

 「へっ!? な、なにを!?」

 

 「ベッドへお連れしますね」

 

 ロリメイドとは思えないほど妖艶な笑みを至近距離から返され、隠しきれないほどの動揺が走る。あれよあれよという間にベッドの上に優しく下ろされてしまった。

 

 「だいじょうぶ、安心してください。すぐに気持ち良くして差し上げます」

 

 「大丈夫じゃねえ!?」

 

 さっきとは違った意味で貞操の危機だ。だっこされたときに気づいたが、俺の体の大きさも実はクーデルカと大差ない。つまり、俺も彼女とそう変わらない年齢層なのではないか。俺もまたヴァイデンに見染められた容姿をしている以上、その可能性は高い。

 

 そんな二人の幼女がベッドの上で密着状態、これからとても口頭では説明できないようなコトが始まろうとしている。そのすぐそばではヴァイデンが全裸で椅子に腰かけ、頬杖をしながらこちらをガン見している。その股間の吸血鬼くんも元気そうだ。どんな状況だ。

 

 俺の心臓はバクバクとうるさいほど脈打っている。前世の俺はこんな幼女に興奮するような特殊性癖は持っていなかった……はずだ。だが、そんな常識的感覚を度外視してしまうほど、クーデルカの纏う気配が艶めかしいのだ。まるで魅了の魔法でも使われているかのように目が離せなくなってしまう。ほんとに使われているんじゃないか、コレ。

 

 せめてもの抵抗とばかりに体を丸めて身を固くするが、クーデルカはこちらを上回る力でこじ開けようとしてきた。

 

 「それとも……無理やり、乱暴にされる方がお好きですか?」

 

 「ひいいいいっ!?」

 

 確か俺のステータスは筋力値2だったはず。常人の2倍の力があるのだ。しかし、クーデルカの前には抵抗にもならない。それほどの力の差を感じた。ヴァイデンの元で働くメイドであるのだから、見た目は少女でも俺と同じように人外であってなんら不思議ではない。

 

 絶体絶命のピンチ再来。いや、絶命はしないが俺の精神は今にも悶え死にそうだ。だが、ヴァイデンに襲われそうになったときとは違って、別にこれはこれでこのまま流れに身を任せてしまってもいいんじゃない? という思いも少しあった。許せ理性よ、俺も健全なオトコノコなのだ……!

 

 仕方ない。そう、これはもはや仕方のないこと。俺は(ほんのちょっとの期待を込めた)覚悟を決め、ぎゅっと目を閉じて体の力を抜く。

 

 バタン!

 

 そのとき、大きな物音がした。何事かとそちらを見れば、部屋のドアが開いている。ドアの外に立っているのは、クーデルカと同じようなメイド服姿の少女だった。

 

 「ノックも無しに何事だい?」

 

 「あ……あ……」

 

 何か様子がおかしい。虚ろな目をして一歩、二歩と、部屋に中に入ってくる。

 

 「これは……マズイ!?」

 

 初めてヴァイデンが焦りを見せた。彼がとっさに手をかざし、その前方に盾のような闇の障壁ができる。それと同時に、不審なメイドの体が急激に膨張した。一瞬で風船のように膨れ上がり、爆発する。

 


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