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46話

 

 ブレンダが迷いなく森を進んでいく。向かう場所はこの森の外、外縁部にある人里だ。彼女たちはそこで暮らしているらしい。そもそもなんでオークの村にいたのか、道すがら聞き出した。

 

 彼女らは人里で孤児院を営んでいるという。ハワードがそこの院長先生だ。今回、オークの襲撃を受けたのがまさにその孤児院で、多くの子供がさらわれてしまった。その中にブレンダもいたのだ。そして誘拐された子供たちを助けるべくハワードが単身、オークの後を追って村に潜入しようとするも失敗。今に至るというわけだ。

 

 ブレンダはオークの繁殖相手として傷つけられることなく捕えられていたが、誘拐された子供はすべて食料にされるため殺されてしまった。ハワードは適当に痛めつけられて捕えられていたが、殺されていてもおかしくなかった。子供たちの調理が終われば次はハワードの番だったのかもしれない。

 

 オークが死んでいた件に関しては、群れが内部抗争で荒れていたところに俺が介入し、漁夫の利を得る形で殲滅したのだと勝手に推測された。どうやら俺の容姿からして、やはりあまり強くは見えないらしい。だが、それでもある程度の実力を持つ者として扱われてはいるようだ。

 

 「君の持つ剣……魔法が得意ではない私でもわかるくらいに魔力を感じる。強力な魔法が込められた品だろう。そしてその年齢でありながらあの場所で平然としていた胆力。君は何者なんだ?」

 

 「ボウケンシャデス」

 

 「……すまない。君は私たちの命の恩人だ。不快にさせるようなことは聞きたくない。だが、一つだけ尋ねたい。君はもしや、ヒューマンではないのは?」

 

 ここで素直にアンデッドと答えるわけにはいかない。だがやはり、幼女の冒険者というのは人間の枠組みの中で考えるには無理があるのだろう。幼い見た目をした別の種族ではないかと疑われているのかもしれない。

 

 「もちろん、答えたくなければそれで構わない。ただ、ここにいるワーウルフのブレンダを見てもらえばわかるように、私たちの孤児院は他種族を迫害するようなことは絶対にしない。それだけ伝えたかったんだ」

 

 話を聞くと、この国は宗教的にヒューマン至上主義を教義として掲げており、他種族は人として認められていないそうだ。オークはともかく、ブレンダのような話のわかる獣人でも魔物と同じ扱いで、見つかれば討伐されるレベルの迫害を受けているという。

 

 俺は普通の人と接するような感覚でブレンダと話しているが、それはこの国の人間の感性から言えば異常なのだ。それも種族を疑われる一因になったと思われる。

 

 こういう常識レベルの質問を根掘り葉掘りしたので、彼らは俺の素性をさらに疑わしく思っているだろうが、向こうから俺に何かを聞いてくることはなかった。色々と察してくれているようだ。まあ、敵だとは思われていないだろう。

 

 森を歩いているうちに、最初は口数の多かったハワードが喋らなくなっていった。徐々に容体が悪化している。元気なように見えたのは、ブレンダを心配させないために気を張っていたからのようだ。今では取り繕う余力も失われている。

 

 「先生、後少しですから、がんばって……!」

 

 すでにハワードは返事もままならない状態だ。ブレンダは背中の怪我人に負担をかけない範囲で急いでいた。どさくさにまぎれてシッポをモフらせてくれるような雰囲気ではない。残念だ。とにかく孤児院まで帰ってハワードを安静にさせるまでは気が抜けない状況である。

 

 一応、治す手立てがないわけではない。『暴食剣バンマリ』を使えば、すぐに治せる可能性は高い。

 

 しかし、俺はそこまでしてやる気はなかった。まだ会って1時間かそこらしか経っていない間柄である。そんな奴らに大事な魔剣を恵んでやるほど、俺はお人よしではない。たとえそれが無限に増やせる回復手段であろうと関係ない。これは俺の魔剣だ。俺だけの魔剣だ。

 

 彼らが悪い奴らではないことはなんとなくわかるが、それとこれとは話が違うのだ。

 

 * * *

 

 うっすらと東の夜空がぼやけ始めた頃、俺たちは森を抜けた。ここ数日、森と川しか見て来なかった俺は歓喜の雄たけびをあげたくなったが、怪我人がすぐそばにいるので止めておく。

 

 ただ、森を抜けたと言っても、木々の密度が薄くなっただけで周りの景色が劇的に変わったわけではなかった。それでも歩きやすさが段違いだ。木の根やら石やら枯れ葉やらが足元を埋め尽くす森の中がいかに歩きにくかったのかがわかる。

 

 そして目的地である人里が見えた。緩やかな盆地に作られた小さな村だ。村の周りは切り拓かれて畑が広がっている。素朴な木造の家屋が十数軒集まっただけの寒村だが、オーク村に比べれば遥かにマシな文明度だ。

 

 この巨大な森の外縁部にはいくつかの開拓村があり、ここもその一つだという。畑の開墾は大変で、魔物の襲撃もたまに受けるし、ここに暮らすのも楽ではないようだ。しかし、新たな土地と森の資源を手に入れるため、開拓者や派遣された領民がやってくるらしい。

 

 今はまだ人が活動する時間帯には早い。村の入り口付近には見張りがいるようだが、警備はザルだ。魔物対策と思われる木の柵を飛び越えて、俺たちは村の中へ入ることができた。こんなんだからオークにも簡単に侵入されるんだろうけど。

 


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