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44話 「獣人(ケモ含有率60%)」

 

 別に全滅させる必要はなかったのだけど、ついやってしまった。結局最後まで俺は放置されたままだった。オークはそれほど頭のいい魔物(亜人?)ではないようだ。大人げないことをしてしまった。めんごめんご。

 

 「どうしようかね、これ」

 

 そこらじゅうに肉片が飛び散り、トマト祭り状態と化したオークの村。無論、掃除する気はない。きっと森の動物たちが綺麗に食べてくれるだろう。そう考えれば彼らの死も無駄ではない。こうして命は巡るのだ。と、俺は自分の犯行を無理やり正当化する。

 

 オークの村には一応、家らしきものはあった。ただその作りは竪穴式住居のような見た目で、文明度の低さがうかがえる。とりあえず、近くにあった家に入ってみた。

 

 「おじゃましまーす」

 

 まず俺を出迎えてくれたのは異臭だ。踏み固められた土床の上に、黒ずんだ何かが転がっている。近づくと、ハエが一斉に飛び立ち、家の中をうるさく飛び回る。黒ずんだ何かは人間の子供のように見えた。性別は女の子。それも幼児と思われる。海産物が腐ったような臭いのする粘液にまみれ、股は裂かれてその部分だけ徹底的に破壊されたような形跡が残っている。

 

 「おじゃましましたー」

 

 家の外に出る。何かお宝的なものがあるのではないかと期待していたが、どうも望み薄だ。完全な寄り道だったかもしれない。まあ、この地域の亜人の生態について知れたので良しとしよう。

 

 「あっ、しまった」

 

 そう言えばオークは人間の里がこの近くにあると言っていた。森を抜けた先にあるらしい。そこまでの道筋を案内させるオークを残しておけばよかった。

 

 ――んー、んー!――

 

 「ん?」

 

 立ち止まって、これからどうしようか考えていると、何かの物音が聞こえた気がした。耳を澄ますとオークの家の一つから、誰かの声らしき音が聞こえる。生き残りがいたのか。これはちょうどよかった。

 

 干し草の暖簾を掻き分けて家の中を覗くと、そこには毛むくじゃらの犬っぽい人がいた。

 

 「……」

 

 「……」

 

 犬っぽい人は、目を点にして俺を見つめている。たぶん俺も同じような目をしていることだろう。目の前の人物は、どうみても普通の人間ではない。

 

 一言で表すなら獣人だ。体形は人間に近いが、全身がもふもふの毛に覆われていた。胸に二つの膨らみがあるので、たぶん女性? 手足は肉球のついた獣寄りの形をしている。足は土踏まずの部分が長く、立ちあがるとつま先立ちするような格好になるのかもしれない。犬や猫でよく見られる脚のつくりだ。お尻のあたりには大きなシッポがついている。

 

 頭部には、人間と同じように長い頭髪がある。髪の色は黒で、体毛は黒に近い灰色だった。顔のつくりも人間に似ているが、鼻先が少しとんがっている。ただ鼻が高いのではなく、動物に似た鼻口部マズルがあるのだ。そしてもちろん、頭には本物の犬耳がついている。

 

 これはメスケモですね……ケモレベルが高すぎる。そんな奇をてらった設定で攻めてこなくても、普通に犬耳と犬シッポをつけただけの美少女でよかったのに。でもまあ、見た感じ美人さんである。ちょっと俺の感性では判断しづらいが、ケモ美女だと思われる。特殊な性癖を持った人たちなら喜ぶかもしれない。

 

 この世界の獣人はこんな感じなのだろうか。それとも人狼? コボルト? 魔物なのかどうかもわからない。言葉は通じるのだろうか。

 

 「あー、えーっと……大丈夫?」

 

 ケモ美女は手足や身体を鎖で拘束されていた。この金属製の鎖は、オークの技術レベルでは到底作製できなさそうなので、おそらく人里で手に入れたものだろう。口には轡を噛ませられていた。こちらは金属製ではなく、植物の蔓のようなものである。獣人なら噛みちぎれそうな感じがしないでもない。だが現に話もできない状態なので、とりあえず轡を外してあげた。

 

 「げほっ、ごほっ、こほっ……」

 

 ケモ美女は激しく咳き込む。よく観察すると、轡からひどい臭いがした。蔓の表面に小さなコブがいくつもあり、これが潰れると強烈な刺激臭が発生するようだ。なるほど、力づくで噛みちぎられなかったわけだ。オークの知恵である。

 

 「あなたはいったい……?」

 

 普通に言葉を話せるようだ。綺麗な女性の声である。まあ、豚人間オークも話せたんだから不思議ではない。

 

 それより質問に何と答えようか。これまでも懸念していたことであるが、俺の今の容姿は武装メイド褐色幼女。あまたの属性を携えたこの見た目をどう説明すればよいものか。

 

 「あ、俺? 冒険者」

 

 最終的に、説明は全部放棄して、「冒険者」の一言でまとめることにした。細かい設定を作ってもどうせボロが出る。だったら最初から「こういうスタイルの冒険者です」ということにすればいい。他に何かを聞かれても「個人情報なので教えられない」と突っぱねれば問題ない。変に相手に取り入って違和感を隠そうとするから困るのだ。

 

 違和感ごと俺の個性ということにしてしまう、名付けて『俺スタイル作戦』である。

 

 旅人ということにしても良かったのだが、冒険者の方がより破天荒なイメージがある。このメイド姿も装備の一環なのだと主張するなら、冒険者と名乗った方がいいだろう。この世界の冒険者がどんなんか知らんが。

 

 「……」

 

 作戦が功を奏したのか、ケモ美女は俺の素性に関してそれ以上ツッコんだ質問はしてこなかった。すごく色々聞きたそうな顔はしてたけど。

 



よくわからなかった人は「メスケモ」で検索しよう!

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