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43話

 

 オークの村に到着した。宴が開かれるというだけあり、村の中央では大きな篝火が焚かれている。オーク三人組は見張りらしきオークと話している。

 

 「ん? そのメスは何だブヒ? また人里から捕まえてきたブヒ?」

 

 「いや、これはアンデッドブヒ。そこで拾ったブヒ」

 

 一悶着あったが、あっさりと村の中に通された。肉が焼ける香ばしい臭いが充満しているが、食欲はそそられない。たき火のそばで焼かれている肉は人の形をしていた。タヌキのように棒に吊るされて下からあぶられている。体格は小さく、子供と思われる。

 

 その横では、調理前の下ごしらえでもしているのか、オークが人間の死体から内臓を引き抜いて選り分けていた。木の実を石鉢ですり潰して作った調味料らしきものを肉に擦り込んでいるオークもいる。

 

 オークにも食文化があるらしい。別にそれを否定する気はないが、やはり食欲はわかない。血は飲むけど、こういう形がグロいのはちょっとね……これも食わず嫌いと言うのだろうか。

 

 だいたい吸血だって好きでやっているわけではない。俺の中で食事と言ったら、思い浮かぶのは人間だった頃に普通に食べていたごはんだ。カレーとかラーメンとか好きだった気がする。やべ、思い出したら食べたくなってきた。贅沢は言わないから、あったい米と味噌汁がほしい。

 

 「はあっ、はあっ! お、おれもう我慢できないブヒ! こっちに来いブヒ! たっぷり可愛がってやるブヒ!」

 

 「触らないでくださいっ」

 

 そしてこの発情豚もいい加減うっとうしくなってきた。オークは服を着ていないので、勃起したアレが、垂れ下がった腹肉が揺れ動くたびにチラチラ見えている。コルクスクリューみたいな形してるけど、どうなってんだアレ。

 

 もうそろそろ片をつけるか。オークたちは俺に全く脅威を感じていないようだ。どうやら嗅覚は良くても、魔剣の魔力を察知する能力は低いらしい。武装解除の要求もない。見た目通りの幼い少女としか認識されていないと思われる。

 

 ただ、この余裕の反応が、果たして本当に油断しているだけなのかと疑問に思うところもあった。もしや、こちらの強さを見抜いた上で、対処可能と判断して鷹揚に振舞っているのではないか。深読みしすぎな気もするが、昨日の剣士の件もある。

 

 「抵抗する気ブヒ? それもいいブヒ。活きのいいメスをいたぶりながら犯すのも最高ブヒ!」

 

 「普通にキモい」

 

 ほぼ無意識に、反射的に傲慢剣を使ってしまった。勢い余って三発も。一撃目で目の前のオークの身体が二分割、二撃目で四分割、そして三撃目で後ろにいた関係ないオークが両脚を切断され絶叫をあげた。

 

 「何事ブヒ!?」

 

 「殺されてるブヒ!」

 

 「敵襲うううう!!」

 

 切り刻まれた仲間の死体を見て、オークたちに動揺が走る。しかし、彼らもまたこの森を生きる野性的な種族。うろたえることなく、すぐに警戒態勢へと入る。

 

 「魔法による攻撃かブヒ!?」

 

 「どこからか狙われてるブヒ!」

 

 「さっさと犯人を見つけろブヒ!」

 

 そして、どうやらこいつら、俺がやったことに気づいていない。村の外の茂みの方など、てんで見当違いの方向に注意している。確かに俺はほとんど動作することなく攻撃を終えたが、真っ先に怪しまれてもおかしくない村の部外者だ。疑われる余地すらないほど弱く見えるのか。どんだけ俺のことを侮っているんだという話だ。

 

 まあちょうどいいので、隙をこれでもかとさらすオークたちを遠慮なく切り刻んだ。村の外周に警戒を向ける無防備な背中に横薙ぎの斬撃を叩きこむ。まとめて薙ぎ払われたオークたちの上半身が宙を舞った。

 

 「くそおおお! どこに隠れてるブヒイイイ!」

 

 「臭いが全然しないブヒ!?」

 

 ええええ!? まだ気づかないのか。敵襲=村の外からの攻撃という先入観があるのだろう。斬撃の範囲が大きすぎてどこから飛んで来ているのか特定しづらいのも一因だ。俺の立場から見るとただのアホだが。正体不明の攻撃により瞬く間に多数のオークが死亡し、さすがの戦士たちにも右往左往する者が現れはじめる。

 

 「しずまれブヒイイイ!!」

 

 そのとき、村の奥から一匹のオークが怒声を上げながらやってきた。それまで狼狽していたオークたちが、一斉に動きを止め、声の主の方へと向き直る。

 

 「おさ! 何者かが村に攻撃を……」

 

 「そんなことは見ればわかるブヒ!」

 

 そのオークはひときわ体格が大きく、体のあちこちに古傷が見てとれる。なるほど、長と呼ばれるだけあって一番強そうだ。他のオークは衣服も武器も持っていないが、このオークだけ頭に草の冠をかぶっていた。綺麗な白い花が織り込まれたキュートな冠は、オークの醜悪豚面と最高にミスマッチしている。

 

 「おい、そこの人間……いや、アンデッドは何だブヒ? そいつが怪しいブヒ」

 

 長オークが俺の方へ向けて当然の疑問をぶつけてきた。周囲のオークたちが一斉に俺へと目を向ける。

 

 「え、俺? 何もやってないよ? ほんとだよ?」

 

 無垢な子供を装って首をかしげながら返答する。だが、さすがに無理があったのか、疑いの眼差しは消えない。そこで、俺は適当な方向を指さして叫んだ。

 

 「あっ! あそこに人間の魔法使いが!」

 

 「「「なに!?」」」

 

 注意が逸れたところで攻撃再開。紙吹雪のように血潮が舞う。

 

 「おのれニンゲンんんん!! 全員、おれに続けブヒイイ!!」

 

 「「ぶひー!!」」

 

 俺が指さした方へと突撃を仕掛ける長オーク。その後を追うように他のオークたちが走り出す。俺はその後ろから斬撃を放つ。

 

 「あ、今度はあっちに人間が!!」

 

 「「「どこブヒィ!?」」」

 

 たき火を斬撃の風圧で消し去る。オークは視覚よりも嗅覚に頼って周囲の状況を認識しているようだが、それでもいきなり光源が消えれば多少は動揺する。その隙に後ろから斬撃を放つ。

 

 「長がやられたブヒ!?」

 

 「ならば次はおれが長ブヒ!」

 

 「何言ってるブヒ!? おれが長ブヒ!」

 

 長オークが子分もろとも巻き込まれて肉塊と化した。そしてなぜか始まる次の長の座争奪戦。喧嘩し始めたオークの後ろから斬撃を放つ。

 

 こうして、オークの村に阿鼻叫喚の悲鳴が響き渡り、そしてすぐに静かな夜へと戻っていくのであった。

 



ステータスの「反応力」の項目に「技巧や戦闘センス」なども数値として反映されると表記していましたが、その部分を変更しました。反応力は、単純に反応の速さだけを表した数値とします。この数値が上昇したからと言って、戦い方そのものが上手くなるわけではありません。

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