42話 「オーク村へ行こう」
人間の血は意外とイケる。
味は自体は魔物のものとそれほど変わりはないが、臭みが少なくて飲みやすい。というより、魔物の血がまず過ぎるものと思われる。腹の膨れ方も人間の血に軍配があがる。
老人と若者では、若い方が飲みやすく感じる。血の風味にも人によって色々違いがあるらしい。まあ、どっちにしてもまずいことには変わりないので、腹が減ったとき以外は飲みたいものではない。
妖怪爺と伏兵を何とか倒した翌日、行軍再開。下流を目指して進むことしばし、俺はとある魔物の集団と遭遇した。
「ブヒッ! ニンゲンの女ブヒ!」
「捕まえて孕ませるブヒ!」
喋る魔物である。豚と人間をかけあわせたような気持ち悪い見た目をしている。頭は豚、体は人間に近い。体格がよく、肥え太った腹は前垂れのようだ。脂肪だけではなく筋肉も相応についており、相撲取りに近い身体をしていた。服は着ていない。
エロゲに出てきそうなオークがエロゲにありそうな台詞を喋りながら近づいてくる。数は三匹いた。これは魔物なのだろうか。それとも亜人? そこらへんの定義はわからない。
幼女の姿をしている俺を犯そうとしてくるあたり、ヴァイデンのお仲間らしい。この世界のロリコン率おかしくね? さっき戦った伏兵の男も死に際は気持ちの悪い笑みを浮かべていたが『ぐへへ、幼女に吸血されるのサイコー!』とか考えてたんじゃないだろうな。
「待てブヒ! ……フガッフガフガ……こいつ、生きた人間の臭いがしないブヒ。アンデッドブヒ」
「アンデッドは孕ませられないブヒ。ヤッたら病気になるブヒ。肉も食えないし、襲う価値ないブヒ」
「紛らわしいブヒ! 期待して損したブヒ!」
三匹のオークたちは俺を無視して通り過ぎようとする。
「おう待てやこら」
露骨な強姦路線はもちろん拒否するが、こうも完全スルーされるとそれはそれで腹が立つ。これが乙女心というやつですか。
「なんかついてくるブヒ……」
「アンデッドは頭が悪いブヒ。敵意は感じないし、とりあえず動くものに反応しているだけだろブヒ」
「ザッケンナコラ! スッゾコラ! スッゾコラ!」
「まともな言葉も喋れないみたいブヒ」
「哀れブヒねぇ」
「このまま村までついて来られたら面倒ブヒ。殺しとくブヒ」
好き勝手な言い様に、思わず傲慢剣へと手をかける。
「や、やめるブヒ!」
だがそのとき、一匹のオークが俺をかばうように両手を拡げて仲間を制止した。三人組の中で、このオークだけは会話に参加していなかった。オークでも意外に良いヤツはいるのか。
「こ、このメスは、おれのものにするブヒ! おれの性処理ペットとして毎日ご奉仕させるブヒ!」
キュン……❤(心筋梗塞)
「アンデッドだってさっき言ったブヒ? 病気になってチ○コが腐るブヒ」
「それでもいいブヒ!」
「言い切りやがったブヒ……とんでもねえ変態ブヒ」
「もう勝手にしろブヒ」
変態オークに見染められた俺は、オークの村まで連れていかれることに決まったようだ。とりあえず、このままついて行ってみようと思う。完全な興味本位だ。村というからには何か面白い物資があるかもしれない。無論、強奪する気満々である。人を性奴隷扱いするような豚どもに慈悲などない。
「ブヒヒヒ……む、村に帰ったらたっぷり可愛がってやるブヒ」
「触らないでくださいっ」
変態オークが伸ばしてきた手を冷笑とともにはたき落とす。
「そんな態度をしていられるのも今のうちブヒ。おれ無しじゃいられないカラダにしてやるブヒ。ブヒヒヒ」
今すぐ微塵切りにしてやりたい気持ちをこらえつつ、俺はオーク三人組の後をついて行った。
* * *
森の中にはオークたちが利用している獣道があるようで、迷うことなく歩いて行く。道中、話しかけて情報を集めたところ、このあたりは森の外縁部にほど近い場所にあるらしく、人間の集落も近くにあるようだ。
このオークたちはもともと、森のもう少し奥の方で生活していたらしいが、最近になって若い勢力の一部が分裂し、この近くに新しい村を作ったらしい。数が増えたオークはこのように、勢力を分裂させながら生息域を拡大していくようだ。
ちなみに、繁殖方法はエロゲでおなじみの異種交配である。オークにも雌は存在するが数が少なく、もっぱら他種族の女に子供を産ませて増えるらしい。オークと人間との間にできた子供は例外なくオークとなる。安心と信頼のエロゲ設定だ。
こいつらの会話の内容は8割近くが猥談で占められていた。性欲の権化である。なんでも、ついさっき人間の集落から若い女をさらって来たとか。食用の人間も捕えたらしく、今夜は盛大に宴を開くらしい。ちなみに猥談以外の残り2割の会話は食べ物に関する話である。
「人間の子供をたくさん狩ったブヒ。人間の子供は肉が柔らかくて美味いブヒ! 想像しただけでヨダレが止まらないブヒィ」
「でも、子供を産めるメスを一人しか捕まえられなかったのは残念ブヒ。今回はおれら、種付けの順番は回ってこないブヒ……」
「お、おれはこのアンデッドを手に入れたから勝ち組ブヒ! 最高の夜になりそうだブヒッ!」
「確かに見た目だけは上物だブヒ。アンデッドでなければ……おれにもちょっとだけ味見させるブヒ」
「ダメブヒ! これはおれの!」
会話の内容は最悪極まりないが、俺が性の対象として見られている部分を除けば、さして気にはならなかった。人間の子供が捕まって食べられそうになっていると聞いても「へー、あっそう」としか思わない。
オークの立場から言えば人間を食べることは、俺たちが豚肉や牛肉を食べるのと変わらない感覚なのだろう。他種族を犯して子供を孕ませるのも、オークという種が持つ繁殖方法である。良いも悪いもない。
俺が、そこに善悪の違いを感じなくなったのは、既に人間という立場にいないからだろう。




