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4話

 

 「僕は【スキル鑑定】を持ってないからこれ以上のことはわからない。色々試して見せてよ」

 

 ヴァイデンいわく、通常のアイテムボックスならこの黒い箱の中に品物を放りこむことで収納できるらしい。試しに、近くにあった本を入れてみる。箱というか、黒い立方体なのでどこから入れればいいか悩んだが、とりあえず、適当に突っ込んでみる。

 

 ズブブ……

 

 本が箱の中に沈み込んでいく。抵抗感は全くない。どうやらこの箱に実体はないようだ。触っても手がすりぬけてしまう。本を全部中に収めたところで手を放した。

 

 ボトッ

 

 本は床に落ちた。収納できなかったようだ。なぜだ。

 

 「弾かれたみたいだね。アイテムボックスには個人の能力に応じて収納限界というものがある。許容量を越える物を入れようとしたり、中身の総重量が限界を越えるとそれ以上収納できないんだ」

 

 基本的に、箱の大きさ以上の物は入れられない。俺の【受領箱】の大きさはだいたい50センチ四方くらいだろうか。余裕で本くらい入るはずだ。まだ他の物は中に入れていないので収納限界を越えてもいないはず。

 

 「ん?」

 

 箱の面の一つに文字が浮かび上がっていることに気づいた。さっきまでこんなものはなかった。

 

 ――――

 登録外アイテムは収納できません

 ――――

 

 登録外? なんのこっちゃ。入れたい物を指定してからじゃないと収納できないのか? 何のために必要な機能なのかわからないが、とにかくその登録とやらをしてみよう。俺は床に落ちた本を手に取り、もう一度箱の中へと突っ込む。

 

 さて、ここからどうやれば登録できるのか。スキルを発動したときと同じ要領でやってみる。頭の中で、この本を登録したいと考えながら……

 

 「えい!」

 

 ボトッ

 

 ――――

 登録外アイテムは収納できません

 登録外アイテムは収納できません

 ――――

 

 だめだった。わけがわからん。表示されている文字列がログみたいに増えている。

 

 「うまくいかいようだねえ。まあ、未知のスキルには使い方がわからないなんてことはよくある話だ。どうせ大したスキルじゃないだろうから落ち込むことはないよ」

 

 大したことないとかハッキリ言うな! むしろその慰めの言葉に落ち込むわ!

 

 「そんなことより、だいぶ話し込んでしまったね。そろそろ本題に入ろうか。僕も我慢できそうにない」

 

 そう言って、ヴァイデンはマントを脱いで椅子にかける。上着も脱ぎ始めた。引きしまった上半身の裸体がさらされる。細身に見えて脱いだらすごい感じの筋肉だ。そして、当然の流れと言わんばかりにズボンも脱ぎだす。

 

 「ちょっと待て!?」

 

 スッポンポンになった細マッチョ吸血鬼真祖。最悪なことに、その股間の吸血鬼くんが処女の血を吸わせろと主張するかのように戦闘態勢へと移行していた。その威風堂々たる変態的行動に、俺の口は開いたままふさがらない。

 

 「さぁて、それじゃあご奉仕してもらおうかな」

 

 「うおおおおお!? やめろこっちくんな! 無理に決まってんだろこの変態!」

 

 「おいおい、ご主人様に向かってなんて口のきき方をするんだ。どうやら君にはまず、我が眷属としてふさわしい心構えから教え込む必要があるらしい」

 

 これまでの会話の中で、その節々にこの変態の片鱗は見てとれた。美少女の死体を回収して復活させたり、俺のステータスの状態が「隷属」になっていたり、奴の適性に「幼女愛好」なんてものがあったり……薄々、こういう展開になるのではないかと危惧はしていた。

 

 だが、それと同時に現実逃避もしていた。脳が考えることを拒否していたと言ってもいい。どう考えても打開策なんて思い浮かばない。もしかしたら異世界転移チート能力で切り抜けられるかと思ったが、それも望み薄だ。

 

 ヴァイデンがゆっくりとこちらへ近づいてくる。俺は壁際まで追い詰められてしまった。

 

 「君みたいに意図せず自我を持って生まれてしまう眷属というのは、ごく稀に存在する。君は自分のことを上等な存在だと思っているのかもしれないね。だが、僕からしてみれば逆だ。失敗作さ。ただの愛玩人形に意思なんていらないよね?」

 

 そう言ってヴァイデンが片手を振りかざした。その手からしずくが落ちるように黒い闇がこぼれ、ボトボトと床の上に広がる。その闇はうごめきながら一塊に集まり、やがて人型の姿を取り始めた。

 

 「ギギ……ギ……」

 

 「吸血鬼……!」

 

 生まれたのはおぞましい化物だった。かろうじて人の形をしているだけの、人とはかけ離れたモンスター。逃げ場のない壁際に追い詰められているとわかっていても、なお逃げ出したいという思いに駆られるほど気味が悪い。ヴァイデンはこんな化物をいとも容易く作り出せるのか。

 

 「吸血鬼? これが? 馬鹿を言っちゃいけない」

 

 ヴァイデンはゆっくりを片脚を上げた。床の上でうごめき、起き上がろうとしている化物の頭にその足を置き、思い切り踏みつぶした。

 

 「ギッ……!?」

 

 グシャ!

 

 「これが吸血鬼だと!? これは屍人グールだ! 眷属ですらないただのゴミカスアンデッド! うんこだ! こんな低俗な存在と吸血鬼を同列に語るな!」

 

 さっきまでの穏やかだった気性は何だったのかと思うほど、彼の様子は豹変している。せっかく作り出した屍人グールも、踏みつぶされて動かなくなっていた。これでは何のために作ったのかわからない。

 

 「今、なんで殺したのか疑問に思っただろう? もちろん、君に教えるためさ。この屍人グールはアンデッドの中でも最下級、ゾンビやスケルトンと大差ない魔物だ。一方、君の種族は吸血屍人レッドグール。この違いがわかるかい? ちなみにわからないという回答は無しだ。さあ答えて」

 

 「……きゅ、吸血……眷属か、どうか、の違い……?」

 

 「その通り。僕の眷属であるか、否か。それだけでしかない。それ以外に違いなんてほとんどない。屍人がアンデッドうんこだとすれば、吸血屍人はそれにちょっと毛が生えた程度のアンデッドうんこさ。吸血鬼の権能をお情けでつけてやっただけのギリギリ吸血鬼。それが君だ」

 

 そう言ってヴァイデンは、ぴくりとも動かなくなった屍人を蹴り飛ばす。俺のすぐ近くの壁に盛大にぶつかり、異臭のする体液を撒き散らした。

 

 「こうやって手慰みに殺すくらいのこと、なんとも思わない。それは君に対しても例外ではないよ。理解できたかい。自分の立場が。僕の命令に逆らうことの愚かさが」

 

 


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