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38話

 

 「どこでそんな物を拾ってきたかは知らんが、その剣の力はお前さんの手に余る」

 

 「だからおとなしく渡せってか?」

 

 どいつもこいつも言うことは同じだ。この魔剣が欲しいのだ。確かに、この爺の方が俺よりもよほどうまくこの剣を使いこなせることだろう。悔しさに、強く奥歯を噛みしめる。

 

 「いらん」

 

 だが、爺から帰ってきた言葉は俺の予想とは外れていた。一瞬、何のことを言っているのかわからなかった。この男は魔剣を要らないと言ったのだ。

 

 「じゃあ何で俺を襲った?」

 

 アンデッドだから倒す。害獣を駆除するように、脅威を排除する。人間にとって、アンデッドとはそういう対象なのだろうか。

 

 「お前さんにはわかるまい……わかるまいよ」

 

 男が剣を構える。空けていたもう片方の手にも剣を取り、二刀を携えた。切っ先が、月の光を受けて鈍く光る。

 

 「だが、どうあっても殺さねばならん」

 

 殺意を感じる。冷たく、重く、沈んだ殺意。波立たず、静かにたちこめるような威圧感だった。その言葉に込められた決意は固い。生半可な覚悟で剣を向けてはいないのだと、見るだけでわかるような気迫。

 

 「はぐらかすな……! お前の目的は何だ。この剣が欲しいんじゃないのか!?」

 

 何がこの男をそこまで突き動かしているというのか。いっそ魔剣が目当てだと言われた方が気分が安らぐというものだ。何を考えているのかわからない。気味の悪い得体の知れなさ。

 

 「くどい。その剣は、剣士のための剣ではない。そんなものに頼っている限り、剣の上達はない。まさに子供が振り回して遊ぶにはちょうどよい棒きれよ」

 

 ぴくりと、俺の眉が上がる。今のは聞き捨てならない言葉だ。魔剣に興味がないばかりか、否定するような口ぶりだった。

 

 「おい、取り消せよ。俺が未熟なのは認めるが、俺にだって誇りがある。この剣を馬鹿にすることだけは許さねえ」

 

 この剣は俺の相棒だ。いや、俺を俺たらしめる根拠そのものだ。だからだろうか、自分でも不思議なくらい腹が立っていた。俺自身をこきおろされるより、魔剣の力を否定されたことが我慢ならない。

 

 「魔剣に心を蝕まれたか。それは剣士の誇りではない。力に溺れた、ただの執着。何度でも言おう。そんな棒きれを欲しいとは思わん」

 

 「取り消せッッ!」

 

 『早討ち』を撃つ。爺はその剣撃の雨を難なく凌いでいく。二刀流となり、手数を増したことで先ほどよりも優雅に攻撃をいなしているように見える。まるで歯牙にもかけていないように見えないこともない。

 

 だが、果たして本当にそうだろうか。確かにこの男は傲慢剣を凌いではいるが、防いでいる間は足が鈍る。少しずつ距離を詰めて来るが、その速度は一進一退。最初はその気迫に飲まれてまるで敵わない強敵のように見えたが、傲慢剣が全く通用していないわけではない。

 

 俺が転んで体勢を崩したときも、無理に踏み込もうとはせず、まずは投擲で様子を見ようとしていた。それだけ傲慢剣を警戒しているということだ。この男は、言うほど俺の魔剣を軽視していない。

 

 いら立ったことで萎縮していた視野が少し広がった。今になって思えば、この男はペラペラと余計なことを喋りすぎたと思う。どちらかと言えば、こういう戦士は無駄口を叩かず、ただ戦いの中で己の実力を示すタイプではなかろうか。

 

 こちらの冷静な思考を乱す思惑があったのだろう。そういう姑息な手を使う程度には敵も手をこまねいている。身体能力が俺よりも劣ると奴が言っていた通りなら、当然スタミナも劣るはず。こちらはほとんど疲労せず無数の斬撃を放ち続けることができるが、向こうはそれを避けつつ防ぎつつ接近していかなければならないという大変な消耗を迫られる。持久戦に持ち込めば、先に力尽きるのは奴だ。

 

 だが、決着はなるべく早めにつけたいところだ。悠長に構えていていい相手ではない。この男の殺意と決意は本物だ。俺を殺すことを目的として戦っている。それだけは疑いようがない。どんな滅茶苦茶な行動に出るかわからなかった。

 

 そして、何よりも俺はこの爺を、持久戦なんて生易しい方法で倒す気はなかった。傲慢剣は良くも悪くも手加減ができない。当たり所が悪ければ、あっさり殺してしまうだろう。そんな終わり方は面白くない。

 

 より残酷に、より盤石に。俺の剣の使い方を教えてやろう。

 

 「『魔剣交換エクスチェンジ』」

 

 『早討ち』で爺を足止めしているうちに、受領箱を発動した。クーデルカと戦っていたときに比べれば遥かに余裕をもって交換を終える。

 

 「どうやら傲慢剣はお気に召さなかったらしいな。なら、この剣はあんたのお眼鏡にかなうか?」

 

 『早討ち』の弾幕はなくなった。しかし、爺は近づいて来ずに様子を見ている。いきなり別の魔剣を取りだされれば警戒もするだろう。特にこの魔剣は、見た目からして異様である。

 

 「『聖弦結界』」

 

 呼び出した剣は、『嫉妬剣セファル』。引きずるようにして剣を握る俺の足元には、青白い光の線で描かれたサークルが現れていた。

 


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