33話
エントリーナンバー6『暴食剣バンマリ』
なんだか回を追うごとにひどい魔剣が登場している気がする。傲慢剣、強欲剣あたりが全盛期だったぞ。お前ら同格の剣じゃないのか。俺は過度の期待をしてはいけないということを学んだ。どうせこの暴食剣もろくな剣じゃないに違いない。そういうふうに思っていた方が、実際にろくでもない剣だったとき『やっぱりね!』と納得しやすいだろう。というわけで、暴食剣を呼び出してみた。
「えーーーーーっ!? なにこれぇ!?」
見た目は剣だ。おそらく、百人に見せて百人が剣と答えるだろう。長さは30センチくらい。短いが、形は剣だ。そう、形だけなら。
剣は剣でも、「オモチャの」という言葉を頭につけて呼ばねばなるまい。武器というには程遠い、観光地の土産物屋で売ってそうなしょぼさ。プラスチックのように軽い材質で、当然のように刃はなく、全体的に丸っこいデザインでお子様でも安心して遊べる作りになっている。
「これは剣ですか?」シリーズ第四弾である。七本のうち実に四本がシリーズ入りしてしまったという衝撃の事実。その中でもこの剣は群を抜いてひどいと言わざるを得ない。なぜなら、力を全く感じないのだ。嫉妬剣のときと同じく、ステータスが強化された様子が全くない。
これだけ見た目に難があるということは、その欠点を上回るすごいスキルを持っているのか。ヴァイデン式スキル発動法を試してみるが、うんともすんとも言わない。つみです。
ほんとにどうすりゃいいんだこれ。ただの武器として使うことすらできない。いや、そう言えば他の魔剣は、繊細そうな外見に見えてもかなりの耐久度を持っていた。この暴食剣もこう見えて頑丈にできているのだろうか。ちょっと力を入れてみる。
ポキッ
「おっ…………(絶句)」
先っぽが折れた。ぷるぷると手が震える。力は込めていなかった。ほんとにちょっと確認するだけのつもりだったのだ。そのわずかな負荷でポッキリいってしまった。もしこれが真剣を相手に打ち合いでもしようものなら、ガラスのように砕かれているところだろう。
大事な魔剣が折れてしまうという異常事態を前にして、パニックを通り越し逆に冷静になった。一体これは何の材質でできているのか。ガラスではない。質感や光沢はプラスチックに似ているが、それよりも脆い。それになんだか触っている手がべたべたする。何か薬品でも塗ってあるのか? 毒か? 臭いを嗅いでみる。
「甘い匂いがするぞ」
この質感、重さ、色、光沢、匂い……もしやと思い、俺は折れた剣の欠片を一舐めする。ぺろっ。
「あまっ……うんまっ!?」
舌の上でとろけるミルクのハーモニー。これは間違いない。キャンディだ。暴食剣の正体とは、飴細工で作られた剣だった。
「うみゃみゃみゃみゃ! うみゃーーーー!」
そして俺のペロペロは止まらなかった。なんという美味さ。毒に対する警戒心なんて最初の一舐めで吹き飛んでいた。ミルク風味の素朴な味わいでありながら、その香りは奥深い。まるで包み込まれるような安心感。舐めずにはいられない!
いや、もう舐めるだけでは我慢できなかった。欠片を口の中に放り込む。もきゅもきゅと口の中で転がし楽しむ。もきゅもきゅころころがりがりぼりぼり……ごくん!
「のんじゃった……」
飴玉は絶対噛まずに溶けきるまで舐め続ける派としてあるまじき暴挙。しかし、衝動を抑えきれなかった。そもそも、いくら飴細工だからと言って魔剣を食べて大丈夫だったのか。毒キノコを食べてから毒を心配し始めるようなヤッチャッタ感が否めない。
すると、俺の体調に変化が現れた。幸いなことに良い変化だ。力がみなぎってくる。これは他の魔剣と同じ、ステータスが強化される感覚である。
暴食剣の使用法は、剣を食べることだったのだ。直接摂取した影響か知らないが、感じ取れる力の量が凄まじい。憤怒剣に匹敵するのではないだろうか。にも関わらず、特に体に負担を感じない。むしろ、絶好調なのだ。ものすごい活力が湧き起こってくる。モンスターエナジーを4、5本一気飲みしたかのような(したことはない)。
「お、おおおお!? 指が!」
さらに嬉しい効果が現れた。嫉妬剣に消滅させられた指が再生し始めたのだ。そう、まだ治っていなかったのだ。いつまで経っても治る気配がなかった指の怪我に内心では肝を冷やしていたところだったため、この回復効果はありがたい。みるみるうちに指は元通りになった。
暴食剣、これを魔剣と呼んでいいのかわからないが、その力は確かだった。変わり種の回復系アイテムである。【再生強化】のスキルを持つ俺にとっては能力が重複する部分もあるが、弱点である聖属性攻撃で消滅させられた部分の回復が可能であることがわかったのは大きい。
最大の欠点は、食べたら剣が“減る”ということ。既に俺の暴食剣は先っぽが欠けた無残な姿となっている。消耗品かよ。暴食剣なのに、お前が食べられてどうするんだ!
例えばRPGで、HPMPを全回復する貴重なポーションをゲットしたとする。世の中にはこういった貴重品をザコ戦でもピンチになったら躊躇なく投入する人間と、裏ボス戦で苦戦しても絶対に使わずアイテム欄の肥やしにする人間の二種類がいる。俺は後者である。つまり、俺はすごく後悔していた。しょっぱなからガッツリ食い過ぎだ。
「はっ!? そうだよ、別に悩む必要なんてない。俺にはこれがあった!」
テッテレッテッテテーテーテー! 強欲剣アルバト~!(ドラえもん風)
すぐに『コピー』の力で暴食剣を複製する。先っぽが欠けた魔剣が二本に増える。くそ、食べる前に増やせばよかった。まあ多少形は崩れたが、効能に違いはあるまい。問題解決である。
ステータス強化:A
攻撃性:E
防御性:E
特殊性:S
精密性:E
射程距離:E
攻撃速度:E
ペナルティ:A
デザイン:E
* * *
エントリーナンバー7『怠惰剣ザウルヴァ』
最後の魔剣である。が、その前に俺は無視できない問題に直面していた。窮地に立たされていた。
ぐぎゅるるるるるるる……
「はら、へった……」
壮絶な空腹に襲われた俺は地面に倒れ伏していた。シャクトリ虫のように尻を突き上げた体勢のまま動けなくなっている。
暴食剣の副作用であることは明白だった。ステータスの強化は一時的なものであり、それが終わりに近づくとともに飢えと渇きがじわじわと体を蝕み始めた。今では身動きすらとれないほど憔悴している。
空腹はなんとか我慢できるが、喉の渇きは深刻だった。体中の水分が蒸発してしまったのではないかと疑うほど辛い。すぐそばに川があるのだが、なんとなく近づきたくなかった。そんなことを言っている場合かと思うが、それでもなんとなく近づけないのだ。
実はこの川に対する忌避感はこれまでの路程でも感じていた。これも吸血鬼の弱点の一つ。ヴァイデンは『流水に触れると溶ける』と言っていた。溶けるとは、体が溶けるという意味だろうか。流水でなければいいので、最悪そこらへんの水たまりで水分補給はできるが、文字通り泥水をすする行為である。逆に言えばそれをしようか悩むほどに追い詰められていると言える。
吸血鬼は寝食不要の種族であるが、その特性を打ち破るほど暴食剣の副作用は大きかった。ある意味で、もっともらしい代償である。デメリットの評価はDかEに落さなければならない。
何か食べたい。そして手元にある食料は一つ。暴食剣バンマリだ。あの甘美な味わいをむさぼり尽くしたいという耐えがたい欲求に駆られる。強欲剣でコピーすればいくらでも増やせるので量的に問題はなかった。
だが、それで飢えと渇きが満たされるわけではない。むしろ悪化の一途をたどるだろう。それでも構わないと訴える欲望と、それを抑えようとする理性がせめぎ合っていた。
と言うわけで、新たな魔剣の検証をしている余裕などない。怠惰剣ザウルヴァについては次回に見送らなければならないだろう。しかし、コンテストを開いた最後のシメとして優勝者の発表だけはしておきたい。各魔剣の評価に点数をつけさせてもらう。
Aは5点、Bは4点、Cは3点、Dは2点、Eは1点として採点した結果……
1位:傲慢剣(35点)
2位:強欲剣(33点)
3位:憤怒剣(24点)
4位:暴食剣(19点)
5位:色欲剣(15点)
6位:嫉妬剣(12点)
7位:怠惰剣(未測定)
第一回俺的最強魔剣コンテスト、優勝は安定の傲慢剣さんです。ぱちぱちぱち、ぱち……
「うっ」
ぐぎゅるうううぅ……
もうダメだ。なんか食べないとひもじくて死ぬ。俺は優勝者の傲慢剣さんを杖代わりにして何とか立ちあがり、亡者のような足取りで森をさまよったのであった。
エナジードリンクの多量摂取は非常に危険なので、やめましょう。




