28話 「第一回俺的最強魔剣コンテスト」
問題は一応の解決を見せたが、一件落着と呼ぶには程遠い。無事に切り抜けられはしたが、後味の悪い結末となった。その残業課題とでも言うべき悩みの種は、今もまだ引きずっていた。
「えっ、エン様! お疲れではありませんか? 肩などお揉みいたしましょうか!?」
俺の気を重くさせている原因の一つがコレ。ベルタの存在だ。
あの戦いの中でベルタは何かの障害となるような存在ではなかった。オリジナル俺とコピー俺とクーデルカの三人が主なファクターであり、ベルタは蚊帳の外にいたと言っていい。だが、無警戒に放置していい相手でもなかった。何かの間違いで彼女に魔剣が渡れば厄介どころの話ではない。そのため、監視は怠らなかった。
「で、でしたら、余興に一つ歌でも歌いましょうか! エン様を讃える歌など……」
「何もしなくていい」
ベルタを生かしておく気はなかった。俺の魔剣に関する情報を持たせたまま逃がす気もなかった。戦闘が一段落すれば、頃合いを見て殺すつもりだった。まさかクーデルカの反逆を見せつけられた後で、その部下であるベルタを信用できるはずもない。そしてそんな俺の思惑を、彼女も予想できたのだろう。
必死に地面に頭をこすりつけ、助命を嘆願してきた。その姿が少し前の俺と重なったのだ。ディートリヒに命乞いをしたときの俺もベルタと同じだった。そして俺は、あのときのディートリヒと同じ眼をしていたのだろうか。
そう思うと、殺すことに躊躇を覚えた。結局、俺はベルタを殺せなかった。クーデルカは殺した。オリジナルも殺した。そうしなければ自分の身が危険だった。その判断に後悔はない。
だが、ベルタはどうだ。ここで殺しておかなければならないほど危険な存在か。少なくとも今のところ俺に対して反抗的な態度は見てとれない。気がかりがあるとすれば魔剣の情報を知っているという点だけだ。もしこの先、俺の魔剣が周囲に露見したとき、俺はその情報を知る人間を全員殺そうと思うのだろうか。
魔剣のことはいつまでも隠し通せることではないと思う。いつか誰かに知られるはずだ。その情報に関わる全ての人間を殺し尽くす覚悟ないのなら、ここで短絡的にベルタの命を奪うことはあまりに傲慢すぎる……
『だからどうした。殺した方が楽だ』と、心の中で誰かが言う。そして、それに反対する自分もいる。その不一致がたまらなく不快だった。
「……ここでお別れだ」
「エン様?」
「俺は一人で行く。お前も、どこへなりと行っていい」
俺はベルタを殺せない。かと言って、信用もできない。そばに置いておけば、またクーデルカのときのように心を許してしまうかもしれない。そうなってから裏切られるのは、辛い。だったら、早いうちに別れた方がいい。情報漏洩が起きるリスクなんて、早いか遅いかの差でしかない。
「クーデルカさ……あの女のことでしたらエン様が気に病むことはございません! エン様に逆らうなど、殺されて当然の女です。昔からあいつは種族の差がどうだのと、くだらないことにこだわる奴でした……その点、私めの忠義は始めから揺らぐことなくエン様に向いております! 決してエン様を裏切るようなことは……」
「黙れ。おべっかは、もううんざりだ。ここで俺たちは解散する。決定事項だ」
「ひぅっ!?」
いら立ちが募る。ベルタに対してと言うよりも、自分に対して向けられた感情なのかもしれない。これ以上、彼女と一緒にいれば、きっと俺は殺してしまう。何かの拍子にタガが外れるかのように、傲慢剣を抜き放つ。その姿が容易に想像できた。殺せないと言いつつ、あっさりと翻意する。刃の上を歩き渡るように不安定な精神状態だった。
「いいから行け!」
怒鳴られて身をすくめたベルタは、ぽろぽろと涙を流しながら俺の元を離れて行く。その後ろ姿はさながら捨てられたペットのようだった。最後にこちらへ一礼して、森の奥へと消えて行く。彼女の涙は果たして本心の表れか、それとも俺を欺くための演技なのか。疑心暗鬼となった俺にはわからなかった。
* * *
「第一回! 俺的最強魔剣コンテスト、開☆催! わーわーどんどんぱふぱふー!」
人生は切り替えが肝心だ。いつまでもくよくよしていては駄目だ。せっかく一人になったのだから、これでもう誰に気兼ねすることなく魔剣の能力を確認できる。ここは一つ、七つの魔剣の強さをランキング形式で検証していくことにしようではないか。
「……はぁ~……」
やっぱ無理。そんな急にテンションあがらねーわ。でもま、魔剣の能力の検証は必要なことだし、そこはちゃんとやっていきたいと思います。
* * *
エントリナンバー1『傲慢剣パロマイティ』
これは正直、もう説明することはあまりない。その能力は『早討ち』と『決闘化』。使用に際して特にこれと言ったペナルティもなく、攻撃性能も高い。切れ味と速度は文句なし。逆に速すぎてコントロールが効かないくらいだ。
また、『決闘化』は敵の精神に直接干渉する得難い能力だ。戦闘開始時に敵に口上を述べさせることで先制が可能。そして、不意打ちや遠距離からの狙撃なども未然に防ぐことができる。そういう意味で、攻防共に優れた魔剣と言えるだろう。
魔剣を評価するにあたり、わかりやすいようにパラメータも作ってみた。A~Eの五段階評価で、評価基準は次の通りだ。
ステータス強化:装備することで強化される筋力などのステータス能力値。
攻撃性:攻撃に向いた能力であるか。
防御性:防御に向いた能力であるか。
特殊性:攻撃や防御以外に活用できる能力であるか。
精密性:攻撃のコントロールのしやすさ。
射程距離:攻撃の射程や範囲の広さ。
攻撃速度:攻撃を実行してから敵に届くまでの速さ。
ペナルティ:使用に際する代償。評価が高いほど代償は少ないものとする。
デザイン:見た目のカッコよさ。とりまわしやすさ。
これに傲慢剣を当てはめると、
ステータス強化:B
攻撃性:B
防御性:C
特殊性:B
精密性:E
射程距離:A
攻撃速度:A
ペナルティ:A
デザイン:B
こんな感じか。もはや俺の相棒と呼ぶにふさわしい地位にあると言っていい愛剣である。おっと、コンテスト一番手にして早くも優勝候補が出てしまったか。




