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24話

 

 けたたましい金属音が絶え間なく鳴り響く。無数の火花が空中に乱れ飛ぶ。常軌を逸した戦いだった。

 

 一瞬のうちに数え切れないほどの斬撃が双方から発射され、ぶつかりあって相殺されていく。弾かれた剣閃が跳ね返り、あらぬ場所を縦横無尽に斬りつけていく。その余波だけで森の一角が更地となった。

 

 落ちた木の葉は地に着く前に塵と化した。斬られた木々は地に倒れ伏す前に木端となった。漂う塵は空中に留まることも許されず、旋風に吹き散らされた。決闘にふさわしい会場を作り上げようとでもしているかのごとく、俺たちを中心とした一円が何もかも切り刻まれていく。

 

 俺たちはその場から一歩も動かなかった。動けなかった。余計な動作の一つが死に直結する。ただ剣撃を放つことだけに集中する。

 

 そして唐突に始まった斬り合いは、唐突に終わった。示し合わせたように俺たちは剣を収め、嵐が消えうせる。このままでは埒が明かないと互いが気づいた。魔剣の威力は同じ、強化されたステータスも同じである。素のステータスも大差ないだろう。

 

 違いがあるとすればスキルの差か。クーデルカは魔法を使えるが、陣を描く暇など与える気はない。つまり、俺たちは全くの互角だった。

 

 「どうですか? 自分の魔剣と戦ってみる気分は? 今は私の魔剣ですが」

 

 「それは俺の魔剣だ。返してもらうぞ」

 

 「あははは! 返せですって? いつまで私を眷属扱いしているんですか? あなたの命令に従う義務はもうありませんよね。いえ、そんなものは最初からありません」

 

 「初めからこの魔剣を奪うことが目的だったのか」

 

 「当たり前じゃないですか。媚を売って褒めそやしていたのも全部そのためです。本当はもっと時間がかかると思っていました。それが、たった数日で心を許してもらえるとは……チョロすぎますね? やっぱりレズだから女の子に優しくされるとコロッと落ちちゃうんですね」

 

 わかりやすい挑発だ。しかし、頭に血がのぼる。こちらの冷静さを失わせようという魂胆はわかるが、それでも憤りを抑えられない。

 

 「ずいぶん余裕そうだな、ええ? 俺たちの実力は互角。だが、俺にはまだ切り札が残されている。お前に勝ち目はない」

 

 「切り札って、向こうでまごまごしているもう一人のあなたのことですか? あれが何の役に立つと?」

 

 「虚勢を張るのはやめろ。向こうの俺も実力自体は変わらない。結局、お前は二人の俺と戦わざるを得ないんだ」

 

 向こうがコピーであることを、ここで言う必要はない。俺との戦いで疲弊した直後も連戦が続くと思わせておけばプレッシャーになる。

 

 「やはり下等なアンデッドは脳みそまで腐敗しきっているようですね……私とあなたが互角? 切り札を持っている? 盛大な勘違いをされているようですから教えておきます」

 

 いきなりクーデルカが戦闘態勢に入る。剣の柄を握るだけのわずかな挙動だが、こちらも不意打ちを想定して待ち構えていた。すぐに応戦する。

 

 さっきと同じ、焼き増しのような光景が繰り広げられる。壮絶な斬り合い。だが、無意味だ。体力を消耗することはないが、かと言って戦況がどちらかに傾くわけでもない。我武者羅に攻撃し続ければ突破できるとでも――

 

 「ぐっ……!」

 

 クーデルカの斬撃が剣の結界を抜けた。俺の足元をかすめ、小さな傷痕を残す。傷は再生強化のスキルによってすぐにふさがった。ただの切り傷だ。この程度は問題ない。

 

 問題は、どうして敵の斬撃がこちらまで届いたのかということだ。一瞬のうちに無数の斬撃を放つ妙技『早討ち』。その圧倒的な手数は面となって立ちはだかり、鉄壁の守りとなる。現に、さっきまで一切の攻撃を通さずに全て受け止めていたはずだ。

 

 偶然、攻撃が抜けたのだろうか。いかに『早討ち』といえども、物理攻撃の弾幕である以上、その守りには穴がある。わずかな剣撃の隙間を縫って、たまたま攻撃が届いたか。

 

 しかし、その予想は間違いだとすぐに気づかされる。二発目の剣撃がこちらに届いた。わき腹の横を風斬音がかすめていく。かろうじて被弾はしなかったが、守りを突破されたことに変わりはない。

 

 何が起きている。もはや焦りを抑えきれなかった。気合を入れ直して『早討ち』を放つが、こちらの攻撃はクーデルカに届かない。そうしているうちに三発目。首に刃が差し込まれた。血が噴き出す。

 

 「が……ッ!?」

 

 動揺する。俺の研ぎ澄まされた反応力が、1秒後の自分を予見する。首を半ばまで斬られたことで手が鈍り、『早討ち』の結界が緩む。その隙を駆け抜けるようにクーデルカの剣撃が襲いかかってくる。いかに再生強化があれど、一度体勢を崩されれば反撃不可能なほど身体を切り刻まれてしまう。その先に待っているのは死だけだ。

 

 「お、あああああああ!!」

 

 首の傷を無視して剣を握ることにのみ集中する。寸でのところで最悪の予見は外れた。俺はまだ生きている。しかし、それが九死に一生、綱渡りにも等しい偶然の上に拾った命であることを理解した。超速度の剣技であるがゆえに、それによって与えられる死もまた一瞬。

 

 「理解できましたか、この魔剣の真価が」

 

 「なにをした……!」

 

 「簡単なことです。あなたよりも私が、この魔剣をうまく扱える。ただそれだけのこと」

 

 はぐらかされているのかと思った。だが、言われて気づく。研ぎ澄まされた感覚が、俺とクーデルカのわずかな違いを嗅ぎ分けた。奴は何も特別なことをしているわけではない。俺と同じ条件の上で魔剣を扱い、そしてよりよく“使いこなしている”。

 

 コントロールの違いなのだ。俺は自分の放つ斬撃がどこに飛んでいるのか把握できていない。ただ手数のみで、でたらめに弾幕を張っているだけ。それに対してクーデルカは、ある程度斬撃のコントロールができている。無論、全ての斬撃を正確に把握しているわけではないが、少なくとも俺よりはコントロールがいいのだ。

 

 なぜさっき魔剣を手にしたばかりのクーデルカが俺よりもうまく扱えるのか。納得がいかなかった。

 


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