22話
今、俺の目の前には一人の少女がいる。やんちゃそうに少し上がった目じりが、小麦色の肌と相まって快活な性格をしているように思える。しかし、青い色の髪がそこに落ちつきを与えていた。光の加減で濃淡を描く髪色が、動きと静かさ、相反する印象を調和させている。
美人ではあるが、それ以上に一度見たら自然と顔を覚えてしまう少女、と言った感想が浮かんだ。まだ幼いが、その印象のせいでちょっと大人びて見える。
まあ、何よりも目を引くのはその服装だろう。ゴスロリなのかメイドなのかわからない、MEIDO服としか呼びようのない服を着ていた。まるでアニメから飛び出してきたかのような外国人美幼女メイド、コスプレ会場などに現れれば話題騒然となること間違いなしだ。
そう、つまり俺の目の前には俺がいた。
「増えたな……」
「増えてしまったな……」
強欲剣アルバト。その限度を知らないコピー能力は人のコピーさえ実現した。その場の勢いとノリで作ってしまったが、これからどうしよう。ちなみに、コピーで生み出した物は強欲剣を装備から外して受領箱の中にしまってもなくならない。
「これスペック的にはどうなの? 俺たち、それぞれが【受領箱】を使えるの?」
試してみたところ、どちらも問題なく受領箱を発動できた。どちらも魔剣を七本(+さっきコピーで作った一本)を所持している。何でもありだな。ちょっとは自重してくれ。
「まあ待てオリジナルの俺。そんなに悩む必要はない。コピーの俺はお前を優先して動く」
「つまり、俺の命令を聞くってことか? 主従関係みたいに」
「それは違うな。俺はお前の意識共有体なんだ。お前の価値観が俺の価値観となる。身体は異なるが、どちらも“本物”。お前の考えるところは俺の考えるところでもあるということだ」
「よくわからん」
「要するに、忍者の『分身の術』だとでも思えばいい。生み出された分身が術者に逆らったりはしないだろ?」
なるほど。であれば、こいつはありえないほど優れた能力だ。単純に戦力二倍である。だったら俺をコピーしまくって、最強の俺軍団を作ることも可能である。すごい。
「……おい、やめとけ。さっきは分身の術なんて言ったが、コピーされた俺は術を解除すれば消し去れるような簡単な存在じゃない。このコピー能力は、増やすことはできるが減らすことはできないんだ。そんなにポンポンコピーを作ったら処分に困るだろ」
確かにそれもそうか。要らなくなったから帰っていいよ、なんてことはできないのだ。存在を消そうと思ったら殺すしかない。俺だってコピーとは言え、俺自身を抹殺したいとは思えない。安易に増やすのは止めよう。
「とにかく、俺が二人に増えた。これなら良い作戦を練れそうだ」
クーデルカの真意を問う作戦。その骨組みは、コピー俺を使うことで実現できるかもしれない。俺たちは二人で協議し、作戦を立案していく。
* * *
「こちらオリジナル俺。現在、待機中……」
別に無線を持っているわけではないので完全な独り言である。時刻は深夜。俺は今、森の中に潜伏し、クーデルカたちから見つからない離れた場所から追跡している。
作戦は現在、以下の通りに進行している。
まず、オリジナル俺とコピー俺は別行動を取る。コピー俺はクーデルカたちと合流、何事もなかったかのように装って、夜を待つ。
夜になったらいつもの予定通り、森脱出に向けて旅を再開する。その後を、オリジナル俺は見つからないように隠れながら追跡する。
ここで厄介なのがクーデルカの索敵魔法だ。目視で確認するよりも遥かに広い範囲をカバーしている。バレずに後をつけるのは難しい。
だが、この魔法には弱点もある。集中力を高めてよく観察すれば、この索敵魔法の範囲というのは何となくわかるのだ。俺の強化された反能力のおかげかクーデルカの魔法の腕が未熟なおかげか、とにかく索敵範囲の外から彼女の位置を特定することが可能である。
俺は慎重に追跡しながら耳を澄ます。虫や鳥の声がたまに聞こえるだけの静かな森に、溶け込むように気配を隠す。
メキメキ……ドシィン……
クーデルカたちがいる方向から、物音が聞こえた。木が切り倒される音が連続して二回響く。コピー俺に指示していた作戦決行の合図だ。俺はしばらくの間をおいてから、潜伏を止めてクーデルカの索敵範囲へ自ら入って行く。
コピー俺に事前に出していた指示の内容はこうだ。夜になっていつも通り旅を再開した後、頃合いを見計らって木を二本斬り倒す。それを合図にして俺が彼女たちへゆっくり接近する。
クーデルカの索敵魔法は範囲内に入って来た動く気配を捉えるだけなので、何が近づいてきているのかまではわからない。接近してくる俺を魔物か何かだと思って、コピー俺に報告するだろう。
コピー俺はそこでクーデルカに話を切り出す。「どうだ、この魔剣を装備してみないか?」と。接近してくる魔物相手に試し斬りをしてみろ、と言って傲慢剣を貸し出すのだ。
剣を受け取ったクーデルカの反応で全てが決する。果たしてあの子は、剣を持っても俺への忠誠を失わずにいられるのか、それとも……




